第1話 『召喚』僕は巻き込まれなくて良かった者
初めましての方も異世カラを読んでくださっていた方も新作第1話となります。
前作は読みやすく書くなどの配慮が初めての投稿で上手く出来ていなかったと思います。
今回は、他の方の投稿を見習って読みやすいように頑張って見ました。文法?などあまり知識はありませんので、読みにくかったらすみません。
1日1話更新を目安に頑張って行きますのでよろしくお願いします。
「はぁはぁはぁ、後何分だ、今は16:55分イベント配信終了時間まで残り5分か、後少しだ、なんとか間に合ってくれ」
僕は今走っている、何故かって?
それは、今僕が嵌っている携帯ゲーム[ワンコサマナーズ]のイベント限定キャラクター配信の時間が迫っているからだ。
1周年記念の特別なイベントで今日を逃すと来年まで来る事のない一大イベントだ。告知があってから今日まで楽しみに待っていたのだ、絶対に逃したくない。
今日に限って掃除当番という運のなさ、他のクラスメイト達の多くは授業が終わるとすぐにWIFIスポットのあるナクドナルドやムーンバックスに向かって行った。
掃除が終わったのが16:50分、学校から1番近いナクドナルドに走って10分。
僕は全力で走った、残り3分を切った頃にはナクドナルドの目の前の交差点まで到着しており、信号が変わり次第渡ってナクドナルドに飛び込むだけだった。
既に[ワンコサマナーズ]のイベントページは開いてある。間に合う事に僕は安堵した、しかし中々変わらない信号。
タイムリミットが近づいている。
16:58分‥‥
16:59分‥‥
「遅い‥‥いつもこんなに遅かったか?」
変わらないはずの普段通りの信号に段々と苛立ちを覚える。
●赤‥‥→○青
信号が変わった事を確認した僕は猛スピードでナクドナルドへと向かっていく。体育祭でもここまで頑張って走ったことがない気がする。
後少し……ナクドナルドの中にはイベント配信が無事に終わり楽しそうに話している人達が大勢いる。中には知っているクラスメイト達も多く見える。
ナクドナルドの自動ドアを潜った瞬間。
【17:00】……
画面に映るのは[次の配信をお待ちください]という文字のみ。
「くっそー。なんでイベント配信用のWIFIスポットが特定の場所にしかないんだよ、もっと沢山あれば……」
思わず声に出す程悔しかった、僕は楽しそうな人達を見るのが辛くなり走り出した、笑っている人全てが僕を笑っているように見える。渡り終え角を曲がった所で見知ったクラスメイト達を見つけた。
だが、別にクラスメイトだが、友達ではない。僕はそのまま走り過ぎようとした。
しかし、その時クラスメイト達の足元が光始めた。薄っすらとした光が徐々に光を増していく。
「な、なんだこの光は」
「いや、誰か助けて」
「何よ、この光は」
僕は慌てて止まり逃げようとするが突如道いっぱいに広がった光が逃げ場を奪う。僕はそのまま光の中に突っ込んでいく。
「な、なんで広がるんだよおぉぉ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どれくらい時間が経ったのかはわからない。僕は目を覚ます。
「なんだったんだあの光は」
周囲を見渡すと、見かけた5人のクラスメイト達がいた。しかし、違う所が一つ。
「ここは‥‥一体どこなんだ」
魔法陣のようなものが描かれた地面、そして、お城を思わせるような太く無機質な柱のある灰色の煉瓦造の広い部屋。
クラスメイト達も何が起きたかわからず困惑しているようだ。
すると、扉の向こうから純白のドレスに身を包んだ、透き通るような青い瞳を持ち、キューティクルに凹凸がないのかと突っ込みたくなるほど艶やかな金髪の女の子が現れ僕達に話し始めた。
「落ち着いてください。戸惑われるのも無理はありません、ここはレニアス王国。ようこそお越しくださいました。異世界の勇者様方」
[レニアス王国]、[異世界の勇者様方]?
頭の中で何度も復唱する。
「異世界召喚キター」
僕が叫ぶ前に叫んだ奴がいた。
確か、根影陽一だったか?
高校に入学してから同じクラスになったが一度も絡んだ事はない、いつも一人で漫画ばかり読んでいて周囲と絡んでるのは見た事はないおとなしい印象だ。
根影の一言で現実に戻されたクラスメイト達が騒ぎ始めた。当然の事だろう、いきなり知らない世界に連れて来られたのだから。
周囲が騒めく中、クラスではイケメン、優等生として知られる頼れるクラス委員長神王子拓也が前に出た。
「異世界に来た事は理解しました。正直わからない事だらけです。なのでいくつか質問をさせて頂いても良いですか?」
「そうですね、私に答えられる範囲でしたらお答えしたいと思います」
神王子が話し始めた事で、少し騒めきが落ち着き、皆話に耳を傾け始めた。
イケメン、優等生そしてクラス委員長この絶対的な信頼を向けられる主人公属性が成せる技だろう。僕には真似できない。
「まずは、貴女のお名前を伺っても宜しいですか?」
「私の名前はエルア・プル・レニアス、この国の第一王女で御座います」
身なりと話し方からそれなりの身分とは思っていたがまさか王女様自ら応対してくれているとは。随分VIPな待遇だな。
「これは失礼しました。エルア王女様、この世界の礼儀に疎いので無礼が御座いましたらすみません。僕達が召喚された理由と元の世界な帰る方法を教えて貰えますか?」
「この場での礼儀は不要です。少し長くなりますが簡潔に話しをします」
僕達の召喚された理由がわかった。
簡単に言うと近々魔王が復活すると予言があった。そして、国家間の仲が悪く連携して魔王討伐などとても出来るものではない。
そして、この国だけで魔王の脅威に抵抗するのは難しい。そこでこの国を魔族から守る為に古に伝わる勇者召喚の儀式を行った。そして魔王を倒すと元の世界に帰る方法が見つかる。
ーーという事らしい。
僕も多少異世界を描いたファンタジー小説を読んだ事があるのでわかるが、とてもありきたりな展開である。正直本当に帰れるのか期待薄である。
「ふざけないでよ」
「家に帰してよ」
「こんな事していいと思ってるの?誘拐よ?」
戦争になった際の駒にされると聞かされたのだ怒るのは当然だ。
魔王と言われても、実感が湧かないが戦争が怖い事くらいは何となくだが知っている。
要は魔族と殺し合いをしろと言う事なのだから。平和な日本で生活していた高校生に出来る訳がない。
「申し訳御座いません。皆様方を呼んでしまったのはこちらです。戦えない方も戦える方も同じく最大限のサポートをさせて頂きます。無理に戦ってくれとは言いません」
「なあ、王女様俺達は勇者なんだよな?って事はだ、特別な力か何かを持ってたりするんだよな?」
「おい、根影失礼だぞ。そんな言い方」
「そうよ、根影はいつも通り本でも読んでなさいよ。急に調子に乗りすぎよ」
「うっせーよ、こっちの世界に来てまで威張るなよ、俺は今までの俺とは違うんだよ」
「神王子様、いいのです。根影様の言う通り、勇者様方は皆こちらの世界の住民では稀にしか現れないユニークスキルを所持していると言われております」
「ステータスオープン‥‥なんで見れないんだよ、別の設定かよ」
「では、これからステータスの見方をご説明します。手の平に丸を描きステータスオープンと唱えてください。丸は許可を意味します、他者に見せる場合は二重丸を描いてからステータスオープンと唱えてください」
「だっさー、てかうざい」
「自信満々なだけに恥ずかしいわね」
「う、うるさいなお前達。この世界の主人公になるのは僕だぞ!」
主人公と思っている根影は置いておいて僕もステータスを確認して見よう。
手の平に許可を表す丸を描く。
「ステータスオープン」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◼︎名前:彼間 天
レベル:1
総合能力ランク:F
スキル:採取[1] 風魔法[1]
ユニークスキル:WIFI[1]
加護:男神の加護
称号:巻き込まれなくてよかった者
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
総合ランクFこれはどう見ても弱そうだ。
スキルは[採取]と[風魔法]の二つか。
戦う事を考えると風魔法は使えそうだが採取はどうなのだろうか、薬草集めなど勇者に必要はなさそうだ。
ユニークスキルの[WIFI]ってなんだよ。
あのWIFIだよな、異世界用語で何か別の意味があるのだろうか?WIFIの文字に触れてみる。
◼︎WIFI[1]
周囲に電波の届く範囲で接続する事が出来る。
電波レベル[1]
レベル×5m先まで電波を飛ばす事が出来る。
間違いない、これは僕の知ってるWIFIのようだ。異世界で電波を飛ばしてどうするのだろうか。ネタとしか思えない。
称号には、巻き込まれなくてよかった者とある。これは多分あれだろう。
僕以外の5人が勇者で、僕はみんなが召喚される光に巻き込まれなくていいのに入り込んだという事だろう。夢中で走っていたので止まれなかっただけなのだか嫌な称号だ。
勇者ではない僕はどうなるのだろうか?
戦う必要はないと言っていたしゆっくりと魔王が倒されるのを待つのもいいかもしれない。
「確認は終わりましたか?スキルについて説明をさせて頂きたいので順番に私に見えるようにステータスを開いてください」
順番に開いていく。
まずは、神王子からだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◼︎名前:神王子 拓也
レベル:1
総合能力ランク:C
スキル:光魔法[1] 風魔法[1] 剣[1]
ユニークスキル:剣聖
加護:女神の加護
称号:勇者
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「素晴らしいです。レベル1で総合能力ランクが[C]とは。総合能力ランクはFからSまでの7段階、初めから城の鍛えた兵士と同じくらいの力がありますわ。
それに[光魔法]これは古の勇者が使ったと言う魔法で現在使える者はいない上位属性の魔法です。
ユニークスキルの[剣聖]これは、剣を使う時に大幅な補正が掛かるスキル。流石は異世界の勇者様ですわ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ちっ、次は僕の番だ」
根影だ。自信に満ち溢れた表情をしている。良いスキルに恵まれたのだろうか?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◼︎名前:根影 陽一
レベル:1
総合能力ランク:D
スキル:影魔法[1] 危険察知 [1] 隠密[1]
ユニークスキル:闇を知る者
加護:女神の加護
称号:勇者
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「どうだ、言葉も出ないだろう」
「え、ええとすみません。ご説明させて頂きますね。能力ランク[D]これもこの世界の住人が[F]から始まるのでとても高い能力値だと思います。[影魔法]についてはよくわかりませんが魔族で使用していた者がいたと言われていますね」
「なっ魔族だって。影魔法は主人公魔法なはずだ。僕の読んだ漫画にもあったんだ」
「ぷっ、敵と同じスキルとかウケる。一緒に狩られちゃえば?」
そんなはずはないと繰り返しボヤいている。
「続きを話しますね。[危険察知]はとても有用なスキルです。本来は危険に晒された状態を経験しないと覚える事が出来ないと言われています。
[隠密]については、冒険者の方などが森などで狩りをする際に重宝すると言われるスキルですね。自分の存在を限りなく薄くするスキルです。
ユニークスキルの[闇を知る者]についてはすみません、私ではわかりません」
「ぼ、冒険者ギルドキター、やっぱり僕は主人公になれるんだ」
根影の元気が復活したようだ。
「じゃあ次は私ね、お姫様よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
次は学年成績TOPの花実さんだ。
スポーツも万能、そして整った容姿を持つ美少女だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◼︎名前:花実 透華
レベル:1
総合能力ランク:C
スキル:雷魔法[1] 火魔法 [1] 水魔法[1]
聖魔法[1]
ユニークスキル:賢者
加護:女神の加護
称号:勇者
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「最初から能力が[C]の方が二人もいるなんて、それに4属性持ちで、上位スキルである[雷]と[聖]の二つ持ちだなんて。
[雷魔法]は上位属性の中でも火力に特化したスキルで絶大な威力を誇ります。[聖魔法]は癒しの力です。水魔法にも癒しの技がありますが、聖魔法の劣化でしかありません。どこの国でも重宝するとてもレアな魔法です。
ユニークスキルの[賢者]は魔法を使う時に大幅な補正がかかると言われています」
「よくわかったわ。ありがとね、お姫様」
3人の説明が終わった所で考える。
僕って弱すぎない!?総合能力値は最低の[F]、上位魔法も無し。そもそも勇者ではない。イベント配信も逃すし、何故僕ばかり。
「じゃあ次はうちかな」
藤堂さんは、あまり関わった事がないので分からない事のが多いが、金髪の長い髪が特徴的だ。モデルの仕事をしているらしく、花見さんと同じく人気がある。
唯一僕が知るのはギャルという事だ。学校中のギャルの憧れらしい。これは有名な話で藤堂さんを知らない僕ですら知る事実だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◼︎名前:藤堂 里奈
レベル:1
総合能力ランク:D
スキル:神速[1] 魅了[1] 格闘[1]
ユニークスキル:カリスマ
加護:女神の加護
称号:勇者
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「総合能力は[D]ですね。お二人が[C]で低く見えるかも知れませんが、最初からDと言うのはとても高いランクになります。
スキルの[神速]もレアなスキルで極めれば神のごとく速く走れると言われております。[格闘]のスキルは武術に補正がかかります。[魅了]については、人に好かれやすくなると言われております。
ユニークスキルの[カリスマ]は魅了と相性が良く人を惹きつけるスキルですね」
「つ、次いかせてもらいます」
次は新見さんだ。
眼鏡をかけていて、普段から大人しく目立たない子だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◼︎名前:新見 灯
レベル:1
総合能力ランク:D
スキル:風魔法[1] 土魔法[1] 魔力操作[1]
ユニークスキル:予知
加護:女神の加護
称号:勇者
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「[魔力操作]については魔法を使う際にスムーズに使えるようになるスキルです。そして、ユニークスキルの[予知]についてですが、聖国にいる予言の巫女が持っていると言われているスキルですね。
これについては詳しい事は聖国が秘匿してまして、わからないのです、大変貴重なスキルのはずなのは間違いないのですが」
風魔法が被ってしまった。僕の存在意義がさらに薄れていく。次は僕の番だ、どのような反応をされるのだろうか、不安だ。
「貴方が最後ですね。ステータスを見せて頂けますか?」
ーー僕はステータスを開く。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◼︎名前:彼間 天
レベル:1
総合能力ランク:F
スキル:採取[1] 風魔法[1]
ユニークスキル:WIFI[1]
加護:男神の加護
称号:巻き込まれなくてよかった者
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「[F]・・・ランクですか。この世界の人は皆[F]から始まりますのであまりお気になさらないでください。戦えなくとも、最大限のサポートはさせて頂きますので」
どうやら僕は戦力として既に見られていないようだ。
「[採取]については薬草採取などをする際に綺麗に取れたりするので薬師や見習い冒険者に重宝されるスキルです。ユニークスキルの[WIFI]については聞いた事がありません」
「ぷっ、WIFIってウケるんだけど、うちの携帯に電波飛ばしてよ」
「彼間くん、僕達に任せて君はサポートに回ってくれればいい。だから気を落とす事はないよ」
馬鹿にされるのは分かっていた、だからそれは仕方ないと思う。でもクラスメイトに同情はされたくない。神王子は恐らくそんな事は思って言ってる訳ではないだろう、でも、この正義感が今はとても腹立たしい。
しかし、僕は黙っている事しか出来ない。
全部事実なのだから……
「[巻き込まれなくて良かった者]ですか、彼間さんはどうやら、勇者召喚に巻き込まれたようですね。[男神]についても分かりません。この世界は[女神]により造られたと言われておりますので男神が存在するのを聞いた事が御座いません」
「モブ決定パターンだな。というより巻き込まれなくて良かった者ってなんだよ。自分から巻き込まれて弱者とか馬鹿だろ」
「好きで突っ込んだ訳じゃ‥‥」
「ん?なんだって聞こえねーよ」
根影の変わりようにはびっくりしたが、それ以上に僕は弱者と言う事実に何も言い返す事が出来なかった。
「や、やめなよ。彼間くんが可哀想だよ」
「可哀想だってよ。女の子にまで同情されるとはな」
可哀想‥‥
握りしめる拳に力が入る、だが僕では殴る事すら出来ないかも知れない。これ以上恥を晒したくはない。
「貴方もいい加減煩いわよ?」
「ちっ、庇うのかよ」
花実さんは、多分庇ってくれた訳ではない。でも、話が終わった事には感謝だ。
僕以外のみんなは自信に満ちた表情をして見える。強力なスキルを持っていた事がわかったからか最初のように文句を言う事すら忘れている。
それにしても僕以外根影は別として皆んな勇者に相応しい容姿をしている。
*神王子は正義感が強いイケメン。
*花実さんは才色兼備な美少女。
*藤堂さんは人気のギャルモデル。
*新見さんは小柄で巨乳属性を持つ。
僕が勇者でないのも頷ける。仮に勇者だったとしても横に並ぶ勇気はない。
ん?根影?知らないよ。
カチャ
扉を開けローブを羽織った白髪が特徴的な老人が入ってきて、王女様に声をかける。
「エルア様、終わりましたか?」
「ええ、ここに全てメモしてあります」
老人はメモを受け取るとそのまま部屋から出ていった。僕達のステータスが書かれてるメモを何処かに届けるのだろう。
ステータスを見せている時メモをしていたので間違いない。
「では、これから王の間へとご案内したいと思います、付いてきてください。国王との謁見になりますが礼儀は不要と言われているので気になさらないでください」
部屋を出るとガラリと風景が変わった。
赤く高級そうな絨毯の引かれた廊下、飾られてる絵や置物も恐らく高いのだろう。とても煌びやかだ、壊したら大変なのでなるべく真ん中を歩いていく。
王女様が、突然立ち止まった、目の前には大きく豪華な扉。ここが、王の間という事だろう。扉の前には兵士が二人。
二人の兵士が扉を開ける。僕達は王女様に付いて中へと入っていく。
「異世界の勇者様方を連れて参りました」
少し高い位置にある玉座にいるのは、王冠を被り、豪華な羽織をした男性だ。この人がこの国の国王様。
どんな人なのだろう。見た目は40過ぎの偉そうなダンディーな叔父さんだ。こう言うタイプ苦手だ。
「うむ、ご苦労だった。異世界よりお越しの勇者諸君、ようこそ参られた。私がこの国の王、ダリア・プル・レニアスだ。
スキルの事は事前に聞いておる、大変強力なスキルを所持しているようだ。国の為に勇者として活動してくれるならば、最大限の持て成しで迎えさせて頂こう。
戦うのが怖いのであればサポートに回るのも良いだろう。だが、どうかこの国の危機には協力して欲しい。話は以上だ、部屋で休むと良い」
王様の話が終わった。どうやら本当に良い待遇で迎えて貰えるようだ。
僕達は部屋へと案内される。専任のメイドが付くようで、僕の担当になった人は猫耳の獣人のメイドさんだった。実感してなかった訳ではないが、猫耳の生えた人を見て改めて異世界に来た事を実感する。
「よ、よろしくお願いします」
少し歳上の綺麗なお姉さんに緊張する。
日本に居たら確実にみんなが振り返るような顔のお姉さんが猫耳メイドなのだ。
ドキドキしない方がおかしいだろう。
「はい、彼間様よろしくお願いします。では、ご案内致しますので付いてきてください」
僕は案内され、付いていく。
メイドさんが止まった、ここが僕の部屋なのだろう。部屋を開け入るように促される。
中に入るとまず、大きなベッドが目に入った。煌びやかな調度品がバランスよく置かれたとても上品な部屋だ。高級ホテルのスイートルームと言えばわかるだろうか?TVでしか見た事がないが実際泊まったらこんな感じなのだろうか。
「こちらが彼間様のお部屋となります。何かありましたらこちらの鐘をお鳴らしください。お食事は今から2時間後に呼びに参ります。では、ゆっくりとお寛ぎください」
ゆっくりと言われても落ち着かない。
こんな高価そうな物に囲まれた場所に長く居たことがない。
気を紛らわせるため、ステータスを眺める。
ユニークスキルの[WIFI]、もう一度説明を見てみる。
◼︎WIFI[1]
周囲に電波の届く範囲で接続する事が出来る。
電波レベル[1]
レベル×5m先まで電波を飛ばす事が出来る。
説明にある周囲に接続ってどう言う事なのだろうか?レベル×5mという事は、今は5m先まで僕は電波を飛ばせると言う事だろう。
「とりあえず物に試してみるか」
僕は電波よ飛べーっと意識して念じて見る。
日本でしていたらとても痛い事をしていると思う。厨二病と言われてもおかしくない事をしている自覚はある。
だが、ここは異世界気にするよりも、自分を知る事のが大事だ。
自分の脳から脳波が出ているイメージで目の前にあるテーブルに電波を飛ばし続ける。
すると、何だろうか何か違和感を感じたのだ。何かが僕の周囲に漂い張り巡らされている感じだろうか。再度テーブルを見ると机の前にパネルが開かれており、名前や品質、詳細が浮かび上がっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◾︎テーブル
素材:紫檀
品質:上質
詳細:希少な紫檀のみを使い作られた高級なテーブル。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これが接続って事なのか?」
という事は今回僕は物に接続したという事だろう。鑑定のような能力なのかもしれない。
他の椅子やベッドにも試して見るがどうやら心の中で念じるだけで飛ばせているようだ、集中して前に飛ばすイメージで頭の横に手を添えて、「飛べ、飛ぶんだ、ええい!」と念じていたのが恥ずかしくなるくらいにスムーズに電波が飛んでいく。
電波自体は見える訳ではないのだが、何となく把握出来るのだ、これもスキルのおかげだろう。
こうなると試して見たくなるのが人間だろう。物以外にも電波を飛ばしてみたい。
チリン、チリン
鐘を鳴らす。
コンコン
「お呼びでしょうか?」
「うん、この世界について色々聞けたらと思って」
「はい、わたしの知る範囲でしたらお答え致します」
僕は話してる間に電波を飛ばしてみる。
気付かれたらどうするか、飛ばした後に考えたが杞憂だったようだ。メイドさんの前にパネルが開かれているが見えていないようだ。
ーーどれどれ。早速見てみる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◼︎名前:メアリー [20歳]
種族:猫人族
レベル:18
総合能力ランク:D
スキル:裁縫[3] 調理[2] 掃除[3] 格闘[2]
臭覚強化[2] 気配察知[2]
趣味:+
スリーサイズ:+
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
メアリー、なんとも突っ込みどころの多い名前だ。異世界初の猫耳獣人がメアリー。もう少し可愛いイメージの名前を想像していた。
レベルは[18]高いのか低いのかわからない、能力ランクが[D]という事は低いのか?
戦闘スキルとして[格闘]はあるが残りは獣人らしい[臭覚強化]やメイドさんらしいスキルしかない。
自己防衛程度でただのメイドさんという事だろう。僕の知ってる小説でメイドさんが暗殺者だったという展開があったので警戒していたのだが考え過ぎだったようだ。
「あの、質問は」
見る事に集中していて忘れていた。
何を質問しようか。
「メアリーさんはメイドの仕事長いんですか?」
「2年目になります。あれっ、私名前言いました?」
おっと、思わず名前を呼んでしまった。
「え、あ、何を言ってるんですか、最初に教えてくれたじゃないですか」
「そ、そうですか」
危ないところだった。僕が鑑定系のスキルを使えるとバレる所だった。何があるかわからないので自分の情報はなるべく秘密にしておくべきだろう。
しかし、詳細にはさらに続きがあり、プラスマークを押す事で更なる詳細を見る事が出来るようなのだ。
僕は、スリーサイズという文字を見て思わず動揺し名前を呼んでしまった。
べ、別に見たい訳じゃないが、そういうお年頃なのだ。気になるがどうにか踏みとどまった。
真面目な質問もしておこう。
「魔族との戦争について知ってる事はある?」
「そうですね、子供の頃読んだ絵本の話で良ければお話出来ますが、絵本なので本当の事かはわかりません」
「聞かせてもらえる?」
ーーメアリーさんは話始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◾︎タイトル:勇者と魔王と時々自称賢者
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ある村の外れに住むお爺さんとお婆さんがおりました。畑でトマトを育てながら、仲良く暮らしていました。ある日、畑を、見てみると大きなトマトが実っていました。
何だこれは、びっくりしたお爺さんはすぐに「婆さん、婆さん」と呼びに行きました。
お婆さんはトマトを見てびっくり、「お爺さん、今日はこの大きなトマトで鍋でもしましょう」お婆さんの言葉にびっくりするもお爺さんも沢山トマトが食べれる事に嬉しくなり、力を合わせて大きなトマトを収穫した。
収穫したトマトを切ると中から、何という事でしょう。光を纏った人間の子供が出てきたのです。「わぁ」びっくりした、お爺さんとお婆さん。しかし、切り替えの早いお婆さん。
「私達の子供として育てましょう」こうしてトーマと名付けられた子供はすくすくと成長し、成人する頃には、生まれ持った光魔法で魔物を次々と倒し人々からは勇者と呼ばれるようになっていた。
トーマが勇者と呼ばれるようになった頃、魔族の王である魔王が現れ、人々の土地を襲うようになった。そこで国王は勇者に魔王討伐の依頼をする。勇者のお供には、自称賢者のメルルが付いて行く事になった。
二人は旅に出て順調に魔王軍幹部を倒し、ついに魔王の城へと辿り着く。
しかし、魔王の城へと着く直前メルルが女だという事が判明する。家事全般を全て任せており、長い旅を共に過ごした仲間。
不思議な親近感を覚えていたトーマ、魔王の城直前でそれが恋だと気付くのだった。
魔王討伐は命懸け、メルルを連れて行くのを躊躇する勇者トーマ。魔王の城に着いて半年が経過した。二人が来ない事に痺れを切らした魔王は遂に城から姿を現わす。
「現れたな魔王、勇者である、僕が相手だ」
二人の恋路を半年間見ていた魔王は怒りの限界だった。
「半年間も目の前でイチャイチャしやがって、普通攻めてくるだろ」
「そんなのは知らない僕らの勝手だ」
「勇者様お気をつけて」
二人は激しく戦いあった。
勇者は疲弊し、魔王に隙を見せてしまった。
「終わりだ勇者」
「ダメっ」
勇者を庇うメルル。
「メルルーー」
叫ぶ勇者、しかし動かないメルル。
勇者の涙が剣に溢れ落ちる。
ピカーン、眩い光が剣に宿る。
「魔王、覚悟、これが僕達の愛の光だ」
ズバン。
魔王は消滅し、世界は救われた。
しかし、勇者の心は晴れない。
メルルを抱き抱え、半年間過ごしたその地にお墓を作る。そして勇者も一緒に眠ろうと自決を決意する。だが、どういう事だろうか、光が剣を通さない。
「これは、まさか。メルルお前……なのか。僕に死ぬなと言うんだね……幸せになれと」
こうして勇者は街に英雄として帰還する。
そして王女様を妻に貰い幸せに暮らしたとさ。
「グスンっ、グスンっ。これでおしまいです」
なぜ、泣いている。この話に泣き所なんてあっただろうか。そもそも半年も国民ほったらかしでイチャイチャしてた事には追求なし?
メルル死んだのに街に戻ってすぐに王女と結婚って。まあ、物語だから重要な所も纏められてるんだろうな。
「い、良い話だったよ。ありがとう」
「勇者様にもわかりますか?良い話ですよね」
本気で良い話だと思っているようだ。
小さい頃読む絵本ってある意味洗脳教育に近い気がする。
それが良い事だと教わって読み続ければ大人になって子供にも良い事だと教え続けるのだろう。
「あっ、そろそろお食事のお時間ですね。ご案内します」
もう2時間経っていたのか。
メアリーさんに付いて僕は来賓用の食事部屋へと向かう。僕が着く頃には既に、部屋にみんな揃っていた、長いテーブルが置いてあるだけのシンプルな部屋だ。
メアリーさんの案内に従い僕は1番前の空いている席に腰を下ろす。
中央の席と左右一つずつ席が空いているが誰が座るのだろうか?
席に着いて数分後、二人の屈強な兵士と共に国王様と王女様そして、先程一度見かけた老人が部屋の中へと入ってきた。
国王様が中央に座り、僕の横に王女様、そして王女様の向かい側に老人が腰掛けた。
全員が席に座った事を確認すると次々に料理が運ばれてくる。
とても美味しそうな匂いがする。
「では、頂くとしようか。勇者の皆にはこれから苦労をかける、沢山食べると良い、そして一度見かけたかも知れんが宰相である、ダージリンだ」
苦労をかけると言いながらもどこか、偉そうなんだよな……王様だしこんなもんなのかな?この老人ダージリンって名前だけオシャレ過ぎだろ。
「紹介にあった、ダージリン・モルテアナじゃ、よろしく頼む」
警戒しているのか、みんな食べ始めず周りを伺っている。知らない世界に来た事を理解する冷静さは残していたようだ。
「皆様警戒しているのですか?美味しいので食べてみてください」
王女様が気を遣い先に食べ始めた。
すると、状況は何も変わらないにも関わらず、みんな一斉に食べ始める。
僕も遅れて食べ始めたのだが、初めての異世界の料理は美味しかった。警戒していたのが嘘かのように胃袋に吸い込まれていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
メニュー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・緑色の野菜が使われているスープ
・鯛に似た魚の塩焼き
・ふわふわのパン
・甘く脂がとけるステーキ
・リンゴを炒めて冷やした感じのデザート
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
味はほうれん草に似た味がするスープだったのだが、この世界でもほうれん草があるかは不明だ。魚も赤い鯛のような見た目だったが、鯛なのかはわからない。
異世界では大体ふかふかのパンが食べれない事が多いがこの世界のパンはそこそこ美味しい。勿論日本のパンのが美味しいがそこまで見劣りするものではないようだ。
ステーキについては、僕の人生で恐らくNO.1だ。まだ高校生の浅い人生では、ステーキなんてチェーン店でしか食べた事がない。
戦いは怖いが、異世界グルメという楽しみが出来たことで僕も少し浮かれ始めていた。
「んー、お腹いっぱいね、食べ過ぎてしまったわ」
「僕もこんなに沢山食べたのは久しぶりだよ。異世界の食事がこんな美味しいなんて」
「わ、私こんな美味しいの食べた事ないです」
「皆さん喜んで貰えてなによりです」
「まずまずの味だな。異世界グルメの革命は僕の使命だが……後回しで良さそうだな」
「僕達は明日から何をするんですか?」
さすが神王子だ、的確な質問をしてくれる。僕もそれを考えていた所だ。
明日から何をさせられるのか不安だ。
「明日からは戦う為の訓練に入って貰う事になる。自衛も兼ねて城に残る者も参加はしておいた方が良いだろう。勇者は特別だが最初から強い訳ではない、頑張って訓練をして我が国を頼む」
「ええ、そうですね。武術と魔法の適正を見させて頂いてから、得意な方を伸ばしていく事になると思います。訓練場などの場所はメイドにお聞きください」
食事が終わり部屋を出るとメイド達が待機していた。食事中ずっと待っていたのだろうか?
「では、何かあればお呼びください。失礼します」
僕を部屋まで案内し、訓練場の説明をして出ていった。お付きのメイドがいる事にまだ慣れないが悪い気はしない。僕はベッドに横になりこれからの事を考えていた。
まずは、魔法や武術の訓練。僕は能力値も低く大したスキルもないので苦労するだろう。浮かないように努力をしなければならない。
戦闘をしたくない者は城に残れる、だが僕は何をすればいいのだろうか。
出来る事が思い浮かばない。この先に不安を抱えながらも疲れていたからか、そのまま眠ってしまった。
第1話どうでしたでしょうか。ありきたりな召喚ですがありきたりで終わらせるつもりはありません。スキルをどう使うか。2章、3章になるにつれてかなりストーリーが変わっていくかもしれません。(未定)
よろしければ評価の方をよろしくお願いします。