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06 あまりにも単純

「和泉、ご飯食べるわよ」


 そんな声に顔をあげると、財布を持ってむすっとした様子のお嬢様が席に座っている俺を見下げていた。

 お昼休憩のチャイムが鳴りざわざわとうるさくなる教室。

 机を動かす音が教室に響く。お嬢様は教室でご飯を食べないのだろうか。



「教室で食べないんですか?」

「食堂のラーメンが食べたいの」


 お嬢様の癖になかなかチープな舌の持ち主。まぁお嬢様といってもラブホとパチスロのお嬢様なのだからある意味ぴったりなのかもしれないけれど。

 早く。と一言だけ残した後、教室の後ろの扉にお嬢様は向かって歩いて行く。

 俺、金ないけれど大丈夫なんだろうか。……まぁお嬢様財布持ってたし買ってくれるか。なんてヒモ的思考で教室を出て、廊下をすたすた歩いていくお嬢様を追いかける。



 食堂は一階にあるそうなので、お嬢様に続いて階段を下りていく。

 ひんやりとした手すりに手を這わせながら歩いていると俺より三段下に居たお嬢様がちらと振り返った後に「遅い」とだけ言い放った。


 食堂に近づくにつれて人が多くなっていく。

 俺が元に居た世界の高校では、購買部しかなかったので少し不思議な感じだ。



 食堂に付けばお嬢様はすぐに食券販売機の列に並んだ。



「和泉は何を食べるつもりなの」

「……メニュー何あるんですか」

「知らない、普段ラーメンしか食べないし」

「偏食過ぎでしょ」

「しょうがないじゃない、ここのラーメン美味しいのよ」


 食券を買う順番が回ってくるとお嬢様が財布を開いた。そこには数十人の諭吉さんが待機している。なにこの人。

 万札をするすると食券機は吸い込むけど、買われるものは200円のラーメン二つのみ。

 札がばさっと戻ってきた後に、かこんかこんと虚しい音を立てて二枚の食券の小銭が返ってきた。



「……お嬢様いつでもそんな金持ってるんですね」

「困った時にはお金で解決よ!」

「あんたの金にものを言わせる姿勢にはもう尊敬すら覚える」


 カウンターで食券を渡せば、食堂のおばちゃんがさくっと二つラーメンを出してくれた。

 お嬢様と空いている席を見つけそこに座る。

 やはりがやがやとうるさい食堂。お嬢様と向かい合って座れば、これまた「蓮見千秋と二人でラーメン食ってるこいつ何者」と言った風な視線が集まってきた。



「「いただきます」」


 そう言った後、無言でラーメンをすする。

 お嬢様の言ったとおりこのラーメン中々美味しい。でも美味しいです。と言えばお嬢様がまたウザいドヤ顔をかましてきそうなので黙っておいた。



「……お嬢様今までぼっち飯だったんですか?」

「そうよ? 毎日一人でここのラーメン食べてたの」

「メンタル鋼ですね」


 ざっと見るだけでかなりの人がこの食堂を利用している。

 そのほとんどはグループであって、ぼっちの方は見当たらない。



「別に? ラーメン美味しいから特に気にならなかったわ」


 お嬢様のラーメン厨っぷりに若干引いていると、お嬢様の箸がぴたりと止まった。

 そして急に目をかっと見開く。何かあったのか。と思ってお嬢様の視線の先を見ればそこには三村君と桜庭さんの姿が。



「和泉! 私良い事考えたわ!」


 たぶんこの導入からして良い事ではないと思う。



「桜庭に足を引っ掛けて転ばせましょう! 私の足が長いのもアピールできるし一石二鳥だわ!」

「やめてください」


 どや顔でそう言うお嬢様。予想を裏切らない。

 俺に「やめとけ」と言われたのが予想外だったらしい。お嬢様は「どうして?せっかくのアピールチャンスよ?」と首を傾けた。



「三村君とくっ付きたいからって、桜庭さんを陥れるのは違うでしょ」

「そうかしら? 邪魔者はぶっ潰すべきだと思うわ」

「邪魔者をぶっ潰すより、自分が三村君に振り向いてもらえるような努力をして下さいよ。その方が絶対いいですって」

「……確かにね。人の株を下げるより、自分の株を上げる方が良いかもしれないわね。……盲点だったわ……」


 人間として普通の思考を盲点なんて言われて、若干乾いた笑いが出た。本当に大丈夫かこの人。

 お嬢様はうんうんと頷いた後に「分かった!」とやけに嬉しそうに答える。



「……待ってなさいよ桜庭……私がこれからメキメキ自分の株を挙げて絶対三村君と付き合ってみせるんですから」


 ……ちょっと自分に期待し過ぎな気もするけど。にやにやと笑うお嬢様が気味悪くてそれ以上なにも言えない。

 とにかく、お嬢様が「桜庭を潰す」という考えから「自分の株を上げる」と言った方向にシフトチェンジをしてくれたようで良かった。


 そうよ、私の株を上げるのよ。なんてお嬢様はぶつぶつと呟きながら箸を取る。

 しかし、手から滑ってしまったようでからんと遠くに落ちてしまった。



 その時俺は思い知る。

 この世界でお嬢様は悪役のお嬢様。いわゆる「悪役令嬢」であるという事を。



 目の前に広がる光景に俺もお嬢様も目を開いた。


 そこには、お嬢様の落としたお箸によって足を滑らせて転んでしまった桜庭さんが「イテテ……」なんて言いお尻に手を当てながら地面に座っていた。ついでに言っとくとパンチラしてる。

 勿論周りはざわついた。耳を傾ければ「蓮見さんが転ばせた」なんていうこそこそ話が。


 三村君はさっとその場にやってきて「大丈夫か!」と声を掛ける。

 それに桜庭さんが「大丈夫だよ」と笑えば、三村君はてれてれとした表情で「本当にドジだなぁ」と笑う。


 目の前のお嬢様は茫然とそんな様子を見ている。



「ララはドジな所も可愛いね」


 そんな甘々ワードを三村君は桜庭さんに言う。あ、というより桜庭さん下の名前「ララ」なんですね。

 三村君は、もう!とプンスカ怒る桜庭さんの手を引きその後にちゅっと手の甲にキスを落とした。


 周りからは「きゃあ」と言った歓声や「あの二人が本当に羨ましいわ」なんていう羨望の声が。



 そんなバカップル劇場を見た後、お嬢様から俺に出された命令は勿論「今すぐ箸を落としなさい、私も転ぶから」であった。単純過ぎ。


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