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04 ドヤ顔ナルシスト川柳

 とりあえず、自分も三村君に葉っぱを取ってほしいからと言って木を揺さぶって葉っぱを落としに行きかけたお嬢様を止める。

 どう考えてもそれただの変人ですから、なんて言いながら。



「悔しい……何で三村君は桜庭ばっかり……」

「いや、あの二人がメインだからじゃないですか」


 俺がマジレスすると、お嬢様はどうもそれが気に入らなかったらしく「分かってるわよそんなの!」とこれまたキレ気味に言った。

 お嬢様の怒りなんかつゆ知らず、三村君と桜庭さんは校舎に消えていく。



「和泉、なんとかしなさいよ! あんた私の下僕でしょ!」

「なんとかしろと言われましても」


 出会って数秒。というよりすっと校舎に入っていく二人を見ただけなのに「どうにかしろ」と命令が飛んでくるとは。



「あの子より

  私の方が

   可愛いわ!」

「とりあえずあんたが自分に自信満々なのは分かりましたけど、だれがここで一句詠めと?」


 お嬢様のドヤ顔ナルシスト川柳にため息をつきながら、校舎に足を進める。

 

 この鉄筋コンクリートの校舎は土足のようで、校舎の中に入ればお嬢様が職員室の場所を教えてくれた。俺は転入生であるから初めに担任の先生に挨拶に行かなければいけないようなのだ。

 お嬢様は自分のクラスを告げると「じゃあまた後で」と言って俺に預けていたカバンを奪い取った後に階段を上がっていった。










「恵谷和泉です。よろしくお願いします」


 担任のめがねをかけた女の先生がにこにこ笑いながら、俺が自己紹介をしている横で黒板に名前を書いてくれた。

 教室を見れば、クラスメイトのほぼ全員が興味深々に俺を見ていた。勿論その中には桜庭さんと三村君の姿も。

 ……まぁ窓際の後ろから二番目に座るお嬢様だけは興味なさげに窓から外を見ているけど。



「恵谷君は、お仕事の関係で凄く中途半端な時期だけどこの学園に編入してきたのよね」

「ああ、そうです」


 俺がそう返すと、一番前の活発そうな女の子が「親の仕事じゃなくて?」と首を傾げた。先生はそれに「恵谷くんの仕事の関係よ」と意味深にもほどがある返答を。

 先生のこれ以上は突っ込んで欲しくないオーラに気づいたのか、そこで質問は終わった。



「恵谷くんの席はあそこね。桜庭さんがクラス委員長なので分からない事は彼女に聞いてください」


 そう言って指さされたのは桜庭さんの後ろの席。

 ぱちぱちという拍手に包まれながら、席に付けば前の席の桜庭さんが後ろを振り返ってにこと笑った。



「恵谷くん、よろしくお願いします」

「あ、こちらこそ」

「分からない事があればなんでも聞いてくださいね」


 そう言ってほほ笑む桜庭さん。いい人だなこの人。


 そんな時視線を感じてぱっと後ろを向けばお嬢様がじぃっと俺を睨んでいた。無視無視、見なかったことにしよう。そう思ってHRを進める先生の邪魔にならない程度の声で桜庭さんと話す。



「お仕事の関係って?」

「ああ、その、俺は蓮見家の使用人なんです」


 そう言えば、桜庭さんは「すごぉい」と笑う。

 ……たぶんこの感じからして、この桜庭さん本当にいい人っぽい。お嬢様が勝手に敵対視してるだけで。



 朝のHRも終わったようで、先生が教室を出ていく。

 クラスが急にざわつくのに少し驚くと、桜庭さんが「朝のHRが終わった後は十分休憩なんです」と教えてくれた。



「ちょっと和泉」


 ぱっと顔を上げると、腕を組んだお嬢様が俺の机の隣に立っていた。

 桜庭さんが「蓮見さんおはようございます」と言えばお嬢様は凄く小さな声で「……はよ」と言った。



 そして俺の腕をぐっと引っ張って「こっちに来なさい」と言う。

 桜庭さんに断わりを入れて席を離れれば、桜庭さんの席から少し離れた場所でお嬢様がぴっと俺に人差し指を突き付けてきた。



「あんた、なに楽しそうに話してるのよ」

「……そう言われましても」

「あんたは私の下僕。私のライバルはあんたのライバルでもあるの。分かる? あんたにとって桜庭は恋敵なのよ!!!」


 ……そう言われましても。

 そんな思いが思いっきり表情に出ていたようで、お嬢様は俺を見てちっと舌打ちをした。



「まぁ良いわ。それより今から作戦を実行するわよ」

「……作戦って?」

「SBS(桜庭 ぶっ潰す 作戦)よ!」

「桜庭さんをぶっ潰す前に自分が三村君にアピールすればいいのに」

「……いやよ! 恥ずかしいもの!」

「メインヒロインをぶっ潰そうとしてる方が世間的に恥ずかしいと思うんですけど」


 お嬢様は俺のその言葉に「うるさいわね!」とだけ返した。

 自分がメインヒーローにアピールするのが恥ずかしいから、良い感じのメインヒロインをぶっ潰す。悪役過ぎる思考に少しくらっとした。



「とにかく! 桜庭と話しちゃだめよ!」

「……考えときます」


 お嬢様俺のそんな曖昧な答えに目をかっと開いた。

 そして自分の席に戻り、横にかけていたカバンから「ふた☆プリおまじないBOOK」をこれ見よがしに取り出してくる。うざい。


 自分の席に戻り、ため息交じりに席に座るとまたくると後ろを向いた桜庭さんが「蓮見さんととっても仲良しなんですね」と見当違いにも程がある発言を。

 なんと返そうかな。と後ろをちらと見ればお嬢様が俺に向けて「おくちチャック(物理)のおまじない」とでかでかと書かれたページを見せてきていた。



 ……流石にお口チャック(物理)は嫌だ。にこにこと笑う桜庭さんを見ながらこれから頑張って手話でも覚えようかななんて思っていた。

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