27 惠谷和泉
(*惠谷和泉)
お嬢様は、最近よく泣くようになった。
多分俺には隠しているつもりなのだろうけど、真っ赤な目をしているからバレバレである。
別に俺に隠れて泣かなくてもいいのに。と思う。
お嬢様は、最近なぜか思い出作りをしようとする。
一緒に写真を撮ろう。と言ってきたり、今度の休みにはあそこに行こう。と突然誘って来たりだとか。
その度に俺は「何でそんなにも焦っているのだか」と首をかしげる。
そして、まるで俺がこの世界から居なくなってしまうようなもの言い。
お嬢様と三村君がくっ付くワンチャンが無くなった今、俺はもう元の世界に帰れないというのに。どうしてこの人はこんな悲し気な顔ばかりするのだろう?
そんなよく分からないお嬢様に付き合う日々の中で、少しだけ分かった事がある。
それは、俺が「好きだ」という度にお嬢様は悲しそうな顔をするという事。
何だか俺もここまでくればやけくそというか。
お嬢様がいつあっさり振ってくれるんだろう。なんて思ったりもしている。
お嬢様の性格的に、もし俺の事を好いているならその場で「私も好きいいいい」なんていうタイプである事は分かっている。
お嬢様はずるい。
いつも明確な答え何も返さず、悲し気に俯くだけだ。
その日は、雨が降っていた。
学校からの帰り道に雨にあわなくて良かった。俺もお嬢様も傘を持っていなかったから、雨にあえばビチャ濡れになっていただろう。
俺はお嬢様の部屋のバルコニーに繋がる大きな窓の水滴を見た後に「カーテン閉めときますね」なんて言って、カーテンをさっと閉めた。
お嬢様はベッドの端に腰かけて、膝の上に置いたふた☆プリおまじないBOOKに目線を落としている。
「雨はいやね。もうこんなに寒いんだから雪になっちゃえばいいのに」
「そうですか? 雪だと積もると面倒くさいじゃないですか」
俺がそう言うと、お嬢様は立ったままの俺を少し見上げた後に膝の上にあるふた☆プリおまじないBOOKをぱたんと閉じ、ベッドの上に置いた。
そして「和泉」と俺の名前を呼ぶ。
「私が、あなたをおまじないBOOKで呼び出したのは夏だったわね」
「……ああ、そうでしたっけ」
そんなに時間経ってたかなぁなんて思いながら俺は頭をかく。
そういや、初めはこんな脳みそぶっ飛んだお嬢様に振り回されまくりで一刻も早く元の世界に帰りたい。なんて毎日毎日考えてた。
「時間が経つのって、早いですね」
俺が悪役令嬢の下僕になってそろそろ半年かぁなんて思えば、お嬢様と過ごした日々が蘇ってくる。
一緒に人生ゲームしたり、沼の妖精呼び出そうとしたり、三村弟に絡まれたり……あれ、何かまともな思い出なくね?
「和泉と出会って、はじめて自転車の二人乗りなんてしたの」
「ああ、そうですか……」
お嬢様は、他にもこんな事をはじめてした、だとかあんなのははじめて。だなんて結構どうでもいい初めてエピソードをつらつらと続ける。
俺は、雨音を聞きながら何でこの人こんな事ばっかり言ってるんだ。なんて少し眉を寄せた。
お嬢様はベットからすっと立ち上がり、俺の前に立った。
そして、俺をぐっと見上げた。
「和泉、ネクタイをちょうだい」
「……はぁ?」
また言ってんのそれ?なんて思いながらお嬢様を見る。
お嬢様は俺の返事を聞く間もなく、俺の制服のネクタイをするすると解いて、ベットの上にぽいと投げた。
「なにやってるんですか、返してくださいよ。明日学校行く時困ります」
「困らないわよ」
お嬢様が謎にそう言ってきた。いや、何なのその自信。
俺はお嬢様の事だから「明日からはネクタイ無し登校にするために生徒指導部を買収してやるわ!」なんて言うと思っていた。
それでも、お嬢様が発した言葉は予想外のものだった。
「もう、和泉はあの学校に行く事はないもの」
お嬢様がぽつり、とそう言った。
いや、なにこれ。俺蓮見家にでも監禁されんの?なんて若干震える。
「和泉、あなたは私の下僕よ」
やばい、本気で監禁されるかもしれない。そう思った時、お嬢様がぎゅっと俺のシャツを握る。
俺は、そのシャツを握る手が震えている事に気がついた。
「でもね、それも今日で終わりよ」
「……はい?」
お嬢様は、何も言わない。
ただ、ざああっという雨音だけがやけに耳につく。
「私、あなたの事が好きなの」
お嬢様はそう言った。
願ってもみなかった、両想いの瞬間だというのに
何故かお嬢様はぼろぼろと涙を零すのだ。




