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21 デート

 

「蓮見、可愛いよな……」

「左様でございますか」


 そうやって目の前にいる三村弟のマジ相談を軽く受け流すと、何故か三村弟は「恵谷ぃ!」と俺の名前を呼んだ。

 今日は水曜日。お嬢様が部活に行っていて唯一お嬢様から解放されるそんな心躍る時間であるはずなのに……そう、最近俺はこの三村弟(と書いてバカと読む)にこの水曜の放課後の時間を取られている。

 まぁ、食堂で毎回カフェオレおごってくれるからまだいいけど。



「お前が羨ましい……俺も恵谷になれたら……そうエタれたら……」

「いろいろ不吉な発言すんのやめろ」


 恵谷になれたら、を略すな。

 三村弟は本気でお嬢様の事を好きらしく、いつもこの水曜の放課後俺にアドバイスを求めてくる。何回言われても俺は「さーしらねー」の一点張りなのに無駄に根性だけはある奴だとは思う。



「俺、蓮見をデートに誘おうと思って」


 ぶ、と飲んでいたカフェオレが変な所に入った。

 いつも三村弟は「あー蓮見可愛いなー」なんて言っているだけであったのに。今日は突然謎の計画を発表しだしたのだ。なにこいついきなり。



「……は……?」

「お前驚き過ぎだろ……」


 三村弟が若干引いた目で俺を見る。うぜぇ。お前だけにはそんな目で見られる筋合いないから。









 *

 その夜、これまたベッドの上に座ってお嬢様のタイマンUNOにつき合わされていた。

 俺は黒いカードを見ながら、ぼんやりと三村弟がお嬢様をデートに誘うと言っていた話を何度も頭の中でリピートさせていた。


 だいたい、あいつお嬢様と大して喋った事もないくせにデートに誘うなんてどういう神経してんだよ。……まぁ俺もお嬢様も大して三村君に話しかけた事ないけど。っていうかむしろ俺、声すらまともに聞いた事ないけど。何者だよ三村君は。



「和泉」


 お嬢様がぱぁっと持っていたUNOのカードをベットに撒き、寝ころんだ。

 何してるんですか。なんて言おうと思ったがお嬢様は座っている俺を見て、眉を下げて笑った。



「今日ね、ビックリニュース聞いちゃった」

「聞いた? 誰から」

「盗み聞き」


 お嬢様はぼっちですもんね。とぷすすと笑いながら付け足すとお嬢様は「うるさいわね」と小さく呟いた。

 そして、俺をとぱっと目を合わせた後に、また笑った。



「あの二人、付き合いはじめたんだって」


 あの二人、というのはきっと聞くまでもなく三村君と桜庭さんの事だろうと思った。

 俺が何も言えずにいると、お嬢様は「なにシケた面してんのよ」といつもの通りキレ気味に言った。



「いや、お嬢様なんというか、その」


 もうちょっと悲しんでもいいのに。そう思っていたけれど上手く口に出せなかった。

 ちなみにこの時の俺は、お嬢様と三村君がくっ付かなければ元の世界に戻れないというおまじないの事をすっかり忘れてしまっている。



「和泉、どうしてあなたそんな顔するのよ」


 鏡なんて持っていなかったから自分の顔がどんな顔だったかはよく分からなかったがお嬢様は俺の顔を見るなり、今にも泣きだしそうな顔をする。



「やめてよ、私泣かないようにしてたのに」


 お嬢様の目から涙がすうっと頬を伝う。

 お嬢様は横になっているから、涙が枕に染みていく。


 俺はお嬢様の見せる涙に何も言えなくなってしまって、すっとお嬢様の涙をぬぐった。



「私頑張ってたのに」

「……はい、お嬢様が頑張ってたのはよく知ってます」

「だめだった、だめだったのよ和泉」

「……お嬢様」

「やっぱり私は幸せになれない女の子なのよ」


 そう言えば、お嬢様の目からぼろぼろと涙が零れ落ちた。

 蓮見千秋は悪役令嬢だから、三村君はやっぱり付き合えないのか。

 この世界は乙女ゲームの世界だから、メインヒロインの桜庭さんとメインヒロインの桜庭さんがくっ付く事は必然なのか。


  ……本当にお嬢様、三村弟の事を好きなった方が良いんじゃないか。そんな風に思ってしまう。まぁお嬢様は好きにならないみたいだけれど。

 俺は何も言えなくなって、ただただ涙を零すお嬢様を横目にお嬢様が先ほどまで読んでいたおまじないBOOKのシナリオ紹介のページを読んでいた。



 あれ、前に見た時はこんなページあったっけ。なんて思いながら。

 そこには、三村君ルート☆とピンクの文字ででかでかと書かれたページと、三村弟ルート☆と書かれたページが。あ、三村弟って公式名称なのか。


 三村君ルートを軽く読み飛ばした後に、三村弟ルートを軽く読んでいく。

 すると、そこには「三村弟は初め蓮見千秋に惚れこんでいたが、ひたむきなヒロインな姿に次第に惹かれていく」という文が。



 俺は、心の中でどこか思っていたのかもしれない。

 お嬢様、もしだめだったらもう三村弟でいいじゃないか(笑)惚れこまれているし(笑)と。


 だけれども、三村弟がお嬢様に惚れているという事も、単なるシナリオの一環でしかないのだ。お嬢様がこれを見たのかどうかは分からないけれど「私は幸せになれない女の子なのよ」と涙交じりに呟いた言葉がただただ胸に残った。



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