表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/30

20 蓮見千秋

 

(*蓮見千秋)


 努力は報われるものだと思っていたのはあの日まで。

 努力しても意味がないと分かったのはあの日から。




「あんたに私は救えない」


 小さな声でそう呟くと、和泉は「はぁ?」と眉を寄せた。

 そして意味が分からない。と言った表情で私を見る。



 そうよ、和泉に私は救えないの。私はどうしようもない人間だから。なんて思いながら私は目を伏せた。








 *

 桜庭ララはとても良い友人だった。




 私立高校随一のお金持ちという事もあってか、中等部に入学したての時遠巻きに見られていた私に唯一普通に話しかけてくれたのが桜庭ララだった。

 桜庭ララとはとても気があって、私は共通点を見つける度に「この子と友達になれて良かった」と心の底から思ったものだ。


 一緒に居て、楽しかった。

 私は桜庭ララの事が好きだった。




 しかし、高等部に入ってから事件は起きる。

 転入生として三村君がやってきたのだ。


 私と桜庭ララは似ていた。

 私も桜庭ララも三村君の事を好きになった。



 三村君は、桜庭ララの事を好きになった。


 別にここまでは良かったのだ。

 青春時代、誰もが味わうちょっと悲しい失恋で済むのだから。


 桜庭ララは何度も私に申し訳なさそうな顔をしたけど、そんな顔をしなくていいのに。と心の底から思っていた。本当に、そんなだらしない顔ばっかりしてたら私が奪っちゃうわよ。なんて冗談まで言えたくらいだった。あの日までは。




 ある日、私は道端で「ふた☆プリおまじないBOOK」と書かれた本を拾う。

 そして、それをパラパラと読んで知ってしまったのだ。



 この世界が乙女ゲームの世界で。

 あの子はメインヒロインで。

 私はお邪魔キャラの悪役令嬢であるという事を。






 その日から、私はこの世界の全てが憎くなった。なにもかもが許せなかった。


 私は、どう頑張っても幸せになれない女の子だった。誰が決めたのか分からない運命のせいで。許せなかった。憎かった。


 私の怒りは、この世界を作った人に向けられるべきものだったけど、この世界の創造主なんか私には分からない。

 私の怒りの矛先は、何の迷いも無く桜庭ララに向かった。



「あ、千秋ちゃんおはよう!」


 いつものように、桜庭ララが私を見てぱぁっと表情を明るくさせた後に私に手を振ってこっちまで駆けてくる。

 いつもなら「おはようララちゃん」と言ってひらひら手を振るのだけれど。私はどうにもそんな気持ちになれなくて黙って桜庭ララがこっちにやってくるのをぼんやりと見ていた。



「千秋ちゃん、今日の宿題はやった?」


 桜庭ララはそう言う。

 私は俯いたままなにも答えなかった。

 桜庭ララは焦ったように「どうしたの?」と不安げに私を覗きこんだ後、肩に手をやる。


 その時、三村君がたまたま近くを通って「はよ、ララ。蓮見」と柔らかな笑みで言った。

 桜庭ララはぱっと視線をそちらにやり「おはよう」と言う。私は何も返さず、校舎に向かって歩いていく三村君の背中をただ見る。


 ララ、って呼ばれてるのいいな。

 私も「千秋」って呼ばれたいのに。



「千秋ちゃん、体調悪い? 大丈夫?」

「……いいわよね、いいわよねあんたは」


 俯きがちだった顔をばっと上げれば、桜庭ララはひどく困惑していた。

 私は泣いていたらしい。桜庭ララは「千秋ちゃん?」と私の名前を消えそうな声で呼ぶ。



「あんたなんか、あんたなんか大キッライ!」


 私の口はそう言ってしまっていた。

 勿論、昨日まで普通に仲良くしていた相手から急にそう怒鳴られたのである。桜庭ララは酷く困惑した表情で私の事を見た。当たり前か。でもその時の私にとっては、その表情すら腹立たしく思えた。



「よかったわね、あんたはメインヒロインで」


 私と桜庭ララがまともに話した最後の言葉だった。

 何も分からない桜庭ララからすれば意味深過ぎる発言を残して、私はその場を後にした。



 それ以降、何度も桜庭ララは私と話そうと試みてきたけれど私はそれをことごとく無視した。桜庭ララは人気者だったせいで、私が無視するたびに周りからは「蓮見さんって本当に性格悪い」なんてこそこそ言われた。


 元々桜庭ララ以外に友達の居なかった私は、この学校のミスぼっちに選ばれても良いレベルにぼっちを極めていた。


 話かけられても何も聞こえなかったように、頬杖をついてただぼんやりと空を見つめている私。ちらりと桜庭の顔を見ればひどく傷ついたような顔をする。

 なによ、なによその顔。何であんたがそんな悲劇のヒロインみたいな顔するのよ。可哀想なのはどう考えても私の方なのに。


 そう思えば、私はどんどん桜庭ララが憎くなっていった。

 と言うよりも、桜庭ララを憎まないと私は私を保てなかったのかもしれない。



 もし貴方が、自分が幸せになれない女の子だと知ったらどうする。

 もし貴方が、自分が悪役令嬢だとかいう意味不明な立ち位置だったらどうする。



 きっと貴方がとても良い人なら、悪役令嬢にならないいようにと努めるのかもね。

 でも私には無理よ。


 運命に逆らってみせる? そんな事本当に言える?


 私だって、あの自分が悪役令嬢だと知った日にそれを受け入れて素直に自分の立ち位置を理解すればよかったのよ。

 三村君なんか諦めて、違う恋を探そうと。


 だけど私はそれが出来なかった。桜庭ララとこの世界を憎んでしまった。



 今でも思うの。あの時すんなり自分の運命を受け入れておけば良かったのに。と。

 桜庭ララを憎んでしまった事によって、私の悪役のポジションは揺るがないものになってしまった。悪いのは私。そう私なのよ。




 ねぇ和泉。私はバカだから心の中で信じていたのよ。

 努力はいつか報われるものだと。


 でも、私はもう知ってしまっているの。この世界で私の努力は報われるものでないと。

 和泉は私の事、本当はいい人だなんて、そんな事思ってるのかもね。


 でも私、そんなのじゃないわ。私は桜庭ララも、この世界も。そう、全てが憎くてたまらない。




 ほらね、あなたに私は救えないでしょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ