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17 ラブレター

「私ラブレターを書こうと思うの」


 この一言で今日はお嬢様に付き合わされる事なく、素敵な夜を過ごそうなんていう夢は儚く散った。

 お嬢様の部屋でゲームに勤しんでいると急にのゲーム機の電源をプッチンと切ってお嬢様はにこりと笑うのだ。殴りたい、この笑顔。

 そんなお嬢様にイラつきながらも、ベッドにごろごろと転がるお嬢様の方を見た。



「そうですか」

「でも自分で書くのは恥ずかしいから、和泉が書いてくれない?」

「ゴーストライターですよそれ」


 自分の力で書けよ。

 あんたゴーストライターがばれた時、髪を切って謝罪する覚悟は無いだろ。



「全部書けって言ってるんじゃないのよ? ただ少し下書き? というか……プロッコを考えてほしいなって」

「プロッコじゃなくてプロットでしょ」


 かっこつけてドヤ顔でお嬢様は言ってくれたが、あんたが横文字に弱い系人間だという事を忘れないでいてほしい。

 とにもかくにもお嬢様のラブレター作戦を手伝うために俺は机の横の引き出しから適当な紙を出し、お嬢様をこちらに手招いた。

 お嬢様は椅子に座り、机の上に転がっていたペンを取る。

 しばらくは何か考えていたようだが、簡単に考えるのを諦めたようで、にこりと笑って俺を見た。



「さぁ和泉……なんて書こうかしら」


 書き始めようとして一秒で詰まるってどういう事なの。

 お嬢様はペンをクルクルと回しうんうんと唸っている。この人本気でラブレター書く気あるのか。



「単純に『好きです』じゃダメなんですか」

「もっと捻りが欲しいわよね。……四コマ漫画付きとかどうかしら……」

「書けるもんなら書いてみてくださいよ」


 お嬢様は壊滅的に絵が下手な事を俺は知っている。

 そしてこのポンコツ脳で考えられるストーリー。どう考えてもシュールの極みな四コマ漫画が出来るに決まっている。

 まぁ根本的にラブレターに四コマ漫画を書く必要が一つも無いのだが。



「ラブレターなんだから、好きだって伝わればそれでオッケーなんですよ。『好きだ!付き合ってください!』それだけで十分でしょうが」


 お嬢様はその言葉に「ええ」とこぼす。

 そして少し考えたのか、固まった後にペンのキャップを取り、よし。と気合を入れた後に紙に向かった。



「すすすす、すすすうわああああああああああああ!!! こんなの無理よ!!!」

「ちょっと、近所迷惑です」


 お嬢様は急に大声を出した後にペンを恥ずかしさのあまりかブン投げた。

 両手で髪を引っ張り未だに「うわああああ」と言っている。そこまで恥ずかしいか。

 ラブレターに好きだ、と書くだけでこんなに騒いでいてこの人は大丈夫なんだろうか。お嬢様の恋愛未来予想図が不安すぎる。



「和泉! あんたには分からないでしょうね!!」

「分からないですし、分かりたくもありません」


 お嬢様がブン投げたペンを拾いながらそう言う。

 好き、と書くだけで何をそんなに恥ずかしがる必要があるのだろうか。どこぞの号泣議員のごとく「うわあああ」と言っているお嬢様。そろそろ黙って欲しい。



「ほら、お嬢様。好きだって書けばいいだけでしょ。さっさと書きましょうよ」


 お嬢様はそれに黙ってうなずく。何度も何度もお嬢様は発狂しかけたが、その度に俺がお嬢様を押さえなんとかお嬢様はラブレターを書き上げる事ができた。

 まぁその内容は「良い季節になってきましたね」なんていう薄い中身だけなんだけど。この一行を書くのに一時間近く格闘したお嬢様はある意味凄い人だと思う。

 まぁそれに付き合った俺も俺だが。



「千秋お嬢様、これじゃラブレターじゃないですよ。ただ『良い季節ですね』って書いてるだけじゃないですか」

「うるさいわね! ラブレターなんか私には書けないのよ!」


 お嬢様が便箋を出すために引き出しを引いて、ごそごそと中を漁る。

 その時にぱっと昔撮ったのであろう、桜庭さんとのプリクラがこんにちはした。お嬢様がかちりと固まったのを良い事にそれをパッと取り上げると、お嬢様は顔を赤くさせて「返しなさい!はやく!」と言った。


 お嬢様の届かない位置までわざと手をあげて、プリクラを覗くと、そこには中等部の制服を着ている二人の姿が。そして「ズッ友」と書いてあり失笑してしまった。



「ズッ友(笑)」

「うるっさいわね!」


 お嬢様はばっと俺からプリクラを取り上げると、それを引き出しの中にしまった。

 ゴミ箱にでもぶち込むかと思っていたので少し拍子抜けしてしまう。



「……本当に仲良かったんですね」


 そう言ってみれば、前にお嬢様とこの話をした時にお嬢様が言った「あんたに私は救えない」という言葉が脳内で反響した。

 お嬢様は少し俺から目線を外した後、黙り込んでしまう。



「お嬢様、桜庭さんに何か嫌な事でもされたんですか」


 少し笑いながら、冗談っぽくそう言ってみるとお嬢様は俺をちらと見た後に「そういうのじゃなくて」とよく分からない曖昧な返事をする。



「悪いのは私よ」


 お嬢様がそうぽつりと零した。

 その表情がやけに悲し気で、ああほんと突っ込まなきゃよかった。なんて思っていた時、お嬢様は急に俺を見てやれやれと首を振ってドヤ顔をかました後「だって私は悪役令嬢だものね!」と言った。


 ささ、そんな事よりも。とお嬢様は封筒を用意して「良い季節になってきましたね」と書いた手紙を突っ込んだ。いや、まじでそれで渡すつもりかよ……。



「いや、お嬢様それだけじゃ意味不明ですから」

「何で!?」


 そのキレ気味な姿勢は如何なものかと。

 とにかく、お嬢様それ「好き」だって一言も書いてませんからね。と言及すればお嬢様は少し黙った後に「今さらどうしろと?」とこれまたムカつく表情で言ってきた。



「ああ、じゃあもう適当に付けたしとけば良いじゃないですか」

「……どうやって?」


 お嬢様からペンを奪い、お嬢様の手紙の最後に「P.S. I Love You」と付け足しておく。ちょっとクサいかな。なんて思うがまぁ良いか。俺じゃなくてお嬢様のだし。

 頭の中で流れるビートルズの同名の曲に少しうんざりとしながら、お嬢様にその手紙を手渡せば、お嬢様はその手紙の最後の一行をまじまじと見ていた。



「ぴ、ぴーえす? どういう意味?」

「追伸、愛してる。って意味ですよ」


 お嬢様はふうん、と言った後もう一度その行を見て「素敵ね!」と漏らした。



「……ああ、そうですか」

「和泉あなた頭良いのね!」

「いや、別に……そんなに気にいってもらえるとは……」

「普通に『好きです』って書くより、何だか重みがあって凄く素敵よ!」


 お嬢様が本当にきゃっきゃ喜ぶので、何だか自分がとんでもなく天才に思えてくる。この人のヨイショっぷりは半端じゃないなぁ。なんて嬉々としているお嬢様を見ながら思っていた。



 ちなみに、次の日決行されたお嬢様のラブレター作戦は、三村君にラブレターを渡そうとした時ジャストミートでウンコを踏んでしまい、半泣きになりながら俺の元に帰ってきたなんていう、あまりにもひどいオチであった。


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