13 独り
「あれ、桜庭さんってバスケ部なんですか」
授業と授業の間の休み時間、前の席の桜庭さんの鞄からお嬢様と同じジャージがチラっと見えていたのを見てぽろりとそう言ってしまった。
桜庭さんは後ろの席である俺と目線を合わせる為に、横向きに座った後にこりと笑って「そうですよ」と言った。
「あ、じゃあお嬢様と一緒なんですね」
俺がそう言うと、桜庭さんは困ったように笑いながら「そうなんです」と言った。
お嬢様は桜庭さんの事を敵対視しているけれど、上手くやっているのだろうか。
「恵谷くんは、千秋ちゃんととても仲良しなんですね」
桜庭さんが、少し悲し気に視線を落としながらそう言った。
お嬢様とは仲が良いというより、単なる下僕なだけなんだけれど……。
「羨ましいなぁ」
桜庭さんがぽつり、とそう零す。
羨ましい!? どこが!? 夜中まで人生ゲームにつき合わされたりするのに!?
「はぁ!?」と俺が言えば桜庭さんは苦笑した。
「羨ましいです。恵谷くんが」
もう一度そう言う桜庭さん。
桜庭さんと違ってお嬢様はぼっちだし、クラスの人気ものでもないし。別に仲良くて彼女が得をするとは思えないのだが。
その時、桜庭さんが中等部の頃までお嬢様と仲が良かった。と言っていた話を思い出した。本当にお嬢様と桜庭さんの間に何があったというのだろう。
*
「あわわわわわわ」
お嬢様はどんどん銀行に奪われていくお札を見てそう声を上げる。
人生ゲームを初めたばかりの時、お嬢様は弁護士としてバリバリ給料を貰っていた。サーラリーマンである俺の事を鼻で笑えるくらいに。
ところが今となれば、子供はポンポコ生まれるわ。フリーターになるわ。でかなりの火の車人生を味わっていらっしゃった。流石です。
「い、いいい、和泉? そろそろ手加減してくれないかしら……」
俺がカラカラとルーレットを回しているとお嬢様がそう言った。
いや、人生ゲームで手加減と言われましても。正直人生ゲームなんか個人戦だし。
俺じゃなくて、自分のルーレット運の無さを呪うべきであるのに。なにか不正でもたくらんでいるのか、おまじないBOOKをぺらぺらめくるお嬢様。
「あ、ラッキー。俺二万貰えるみたいです」
俺が自分の駒を動かした後にそう言えば、お嬢様が俺をぎちっと睨んだあとにばっと二万円を俺に放り投げるようにして手渡した。荒い銀行ですこと……。
お嬢様は、カラカラとルーレットを回した後、事故を起こし慰謝料を五万払わなければいけなくなった時「もうやってられないわ!」とぷいとボードから顔を背けてしまった。
「私の人生ハードモード過ぎでしょう! やってて楽しくないわこんなの!」
お嬢様が金を勝手に片づけはじめる。
人生ゲームはお嬢様が人生の世知辛さに負け終了という形に。
俺も車から人の形をした棒などを引き抜きながら片付けていく。
「ああ、そういえばお嬢様。桜庭さんもバスケ部なんですね」
「……そうよ? どうして?」
「いや、今日たまたまその話を桜庭さんとしてて」
「……ふーん」
「お嬢様と仲良くて羨ましいって」
はは、と笑いながらそう言ったのにお嬢様はお札を数える手をぴたりと止めて俺を見た。
……あ、そう言えばお嬢様。桜庭さんと話すなって言ってたな。やばい。怒られるかも。なんて思って内心焦っていたのに、お嬢様は何も言わなかった。
「あ、そのお口チャックのおまじないやめてくださいね」
お嬢様、前に俺が桜庭さんと話していた時おまじないBOOKで脅してきていたし。
お嬢様はその言葉に「ああ、」とだけ答えると、やけに意味ありげな表情で俺を見た。
「お嬢様、桜庭さんと中等部の頃まで仲良かったんですよね?」
続けて「どうして仲悪くなったんですか」と聞こうとした時、目を大きく開いたお嬢様がばっと俺を見た。
「どこで聞いたの」
「えっと、桜庭さんから……」
「和泉、あの子と話さないで」
お嬢様はそう言った。
あの時と同じ言葉。お嬢様はおまじないBOOKで脅してきていないのに何故か今回の方が重みを感じた。
お嬢様の「絶対に話して欲しくない」という感情が、お嬢様の声色から感じ取れる。
「……えっと、どうしてですか」
「どうして? そんな事別にどうだっていいでしょ。私が話してほしくないから。それだけよ」
お嬢様は俺から目を離し、お札をまた片付ける作業に戻る。
お嬢様は一体俺に何を隠しているんだろう?そんな風に考えていた時、お嬢様が俺を見て「あんたに私は救えない」とだけ自嘲交じりに呟いた。




