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12 犬

「あ。見てくださいお嬢様あれ」


 帰り道、俺の目に飛び込んできたのは段ボールの中に入った捨て犬だった。

 段ボールにはご丁寧にも「拾ってください」なんて言葉が。

 俺が犬かわいい……なんて思いながらその段ボールの前にしゃがみこみ、中に居た犬を覗き込むとお嬢様は後ろで盛大なため息をついた。



「和泉、早く帰るわよ」

「これ、なんて犬種ですかね」

「犬」

「お嬢様日本語通じてますか?」


 チワワだとか、柴犬だとか、そういうことを聞いているんだけど。

 お嬢様は相変わらず俺から数歩離れた所で、立ったまま腕を組んで俺を見ている。

 子犬の頭を撫でると、子犬は目を閉じた。犬ってこういうの逃げるんだと思ってたが。人慣れしている犬だからなのか?そんな風に疑問に思いつつも子犬と戯れているとお嬢様が俺の名前を呼んだ。



「和泉。あんたドリーから聞いてないの? 私、犬が嫌いなの」

「どうしてですか?」

「……昔ママの飼ってた犬に噛まれてそこから嫌い」


 お嬢様はぷいと俺から顔を背けそう言った。

 お嬢様の事だからもっとバカっぽい理由かと思っていたら案外普通の理由だった。

 そんな事よりも、千秋お嬢様はお母さんの事をママと呼ぶんだな。なんて変な所に感心。



 箱の中から子犬を抱き上げる。そう言えば、家で飼っていたモコは元気にしているだろうか。

 もふもふとした犬の柔らかさに、和んでいた時、お嬢様が「さっさと帰るわよ!」と大きな声をだした。



「こいつ、蓮見家で飼いましょうよ」

「無理よ」

「多分捨てられたんですよ、可哀想じゃないですか」


 お嬢様は少し考えていたようだったが、相変わらずそっぽを向いたまま「無理よ」と呟いた。

 俺の腕の中で目を細める子犬。可愛い。俺が「いいじゃないですか」と言えばお嬢様はむすっとした表情で俺を見る。



「あのね、和泉。そんな気軽に犬なんて新しく飼える訳ないでしょ。お金だってかかるし……拾ったからにはいろいろと責任問題もあるし」

「気軽に人の事おまじないBOOKで呼び出した人が言うセリフですかそれ」

「その件に関してはノーコメントで」


 お嬢様は未だ俺から距離を置いて遠巻きに俺を見ている。

 俺は自分の腕の中でわふわふと息を吐く犬の頭を撫でていた。可愛い。



「お嬢様、三村君も犬が好きって言ってましたよ」


 ごめん、嘘です。

 それでも俺のでっちあげ作戦にお嬢様は、まんまと引っかかり「本当に?」と眉を寄せながら俺の横にしゃがみこんで犬を覗きこんだ。



「……恋愛は共通点から、っていうものね」


 お嬢様はおそるおそる指を子犬に近づける。なんか噛まれそうで怖いんだけど。

 子犬は目の前に出された指をぺろりと舐めた。その瞬間お嬢様が「ひい!」と言って硬直した。



「いいい、和泉」

「何ですか」

「……この子、噛まないのね」


 お嬢様はもう一度指を近づけながらそう言う。

 ああ、そうですね。なんて返事をすればお嬢様は俺をちらと見た後にまたいつものドヤ顔をかました。



「思ってたより可愛いじゃない。……飼いましょうか。三村君に近づくきっかけにもなりそうだし」

「じゃあ名前決めないと」

「……そうね、モジ子はどうかしら」

「ダサ」

「じゃあトドウフケン」

「お嬢様ほんと頭大丈夫ですか?」


 俺の心配も虚しく、お嬢様には「トドウフケン」という響きがしっくりきたらしく「今日からお前はトドウフケンよ!」と声を上げた。

 多分今頃この犬は「夢に見たんとちゃう」と困惑している所だろう。

 まぁでも蓮見家は金持ちだし、ネーミングは最悪だとしても最高の環境がお前を待っているだろうから安心しろ。



「ドリーに連絡を入れておくわ。とりあえず、餌とかを用意しないといけないわね……」

「コンビニで売ってないですかね」


 お嬢様が携帯を開いた時、「ペロー、ペロー」と犬の名前を呼ぶ声がした。

 小さな小学生くらいの女の子が半泣きになりながら犬の名前を呼んでいる。……俺には心当たりしかなかった。



「あの、もしかしてペロってこいつ?」


 その女の子を引き留め、お嬢様の腕の中に居る子犬を指さすとその女の子は「ペロ!」とぱぁっと表情を明るくさせた。

 こいつ、捨て犬じゃなくてただ迷っていただけなのか。トドウフケン改めペロはその女の子の顔を見るなり元気よくワンワンと吠えた。



「ペロを見つけてくれてありがとう!」

「……バイバイ、トドウフケン……」

「……え? 都道府県?」


 お嬢様は、少し悲し気にトドウフケンとの別れを告げる。

 その女の子は「都道府県って?」と首をひねりながらも深々とお辞儀をして「本当にありがとう」とにこりと笑うとペロと一緒に家に帰っていった。





 ちなみにこの日からというもの、お嬢様は犬育成ゲームにはまっている。

 なんとなしにそのゲームの様子を除くと、トドウフケン(都道府県)をはじめとするハケン(派遣)シケン(試験)等、~ケンと全て犬たちの名前は統一されていた。

 そんな所にお嬢様のネーミングセンスの悪さを垣間見る。



 そしてどうにもそのゲームは「お手」や「お座り」といったように子犬に躾をする事ができるらしい。

 マイクに向かって「チンチン!チンチン!」と連呼し、なかなかその技を覚えない犬にお嬢様はぷちんときたようだ。



「いいからさっさと『チンチン』ぐらい覚えなさいよ!」


 そんなお嬢様の大声を聞いて部屋に慌ててやって来た夢丘さん。



「お嬢様、和泉さんになんて事を……」


 そう言いながら夢丘さんはお嬢様の部屋に転がり込んできたが、ゲーム機に向かって「チンチン!」と叫んでいるお嬢様を見て何故か俺に「すみません」と謝った。

 ごめんなさい、こんなアホなお嬢様で。という事だろう。


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