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11 一緒に帰ろう

「お嬢様バスケ部なんですか!?!?」


 俺がそう言うと、お嬢様はカバンに教科書を入れながら「うるさいわね」と眉を寄せる。

 放課後、いつもの通りお嬢様と家に帰ろうとした時お嬢様が突然「今日はバスケ部の練習だから」なんていうカミングアウトをしたのだ。



「最近はちょっと休んでたんだけど。今日からまた水曜日は練習に行くから先に帰ってていいわよ」


 お嬢様はカバンのチャックをじいっと閉めながらそう言った。

 部活のくせに練習週1で良いのか?少なくね?なんて思いながらもお嬢様から解放されるデーが出来る事に心の中で歓喜していた。














 *


 あ、やばい。暇だ。


 今までよくよく考えれば、学校でも家でもお嬢様に生活の大半を持っていかれていたせいで一人の時間なんてなかった。

 何もすることが無くてとりあえず、自分の部屋の天井をぼんやりと見てみる。


 するとそんな時、コンコンと部屋をノックする音が聞こえた。

「和泉さん」と呼ぶこの声は夢丘さんの声だろう。ベッドから起き上がり、ドアを引くと予想通り夢丘さんが立っていた。



「和泉さんのシャツ、乾きましたので」


 いつもの無表情で夢丘さんがそう言う。

 俺は綺麗に畳まれたシャツを夢丘さんから受け取り「ありがとうございます」と言った。



「お嬢様は?」

「今日水曜で……」

「ああ、部活ですか」


 夢丘さんがこれまた何の表情を変える事もなくそう言った。

 これは俺の予想だけれども、千秋お嬢様は俺が下僕ライフに順応するまでは部活に行かなかったのだろう。



「お嬢様、バスケやってるんですね」

「まぁ週一回ですので本当に趣味程度ですけれど」

「お嬢様がいないと、少し暇です」


 俺の生活はお嬢様中心で回っているから。なんて冗談っぽく付足せばやけに真剣な表情で俺の目をじっとみた夢丘さんが口を開いた。



「いつもありがとうございます」


 俺は突然感謝の気持ちを述べられた事に首を傾ける。

 お嬢様がいつもお世話になっています。との事だろうけれど、夢丘さんの方がお嬢様のお世話をよくしているのだから、どう考えても俺が感謝される立場ではないはずだ。



「千秋お嬢様は、和泉さんがここにきてからとても楽しそうです」

「……楽しそうですかアレ?」

「高等部に入ってから、お嬢様はかなり塞ぎ込んでいらしたので……」


 伏目がちに夢丘さんがそう答えた。

 そういえば、前に桜庭さんも「千秋ちゃんと中等部までは仲が良かった」と言っていたな。

 高等部に入ってから、千秋お嬢様に何があったのだろう?


 そんな疑問は俺の表情にばっちり反映されていたらしい。夢丘さんは俺の顔をちらと見た後に「とにかくありがとうございます」とまた俺に礼を言う。



 夢丘さんがそれ以上何も言わない事から、何となく分かってしまった。

 お嬢様にはどうしても突っ込んでほしくない事情があるのだろう。という事に。



「それより和泉さん、よろしければお嬢様を迎えにいっていただけませんか」

「……えーっと、車は……」

「今日は点検ですので」


 少しそう笑いながら夢丘さんがそう言う。

 夢丘さんが何故笑っているのか、というのが分かったのはいつもの運転手さんが玄関で「和泉君が迎えにいってくれるそうで。いってらっしゃい」とにこにこしながら言われた時。


 車の点検なんかしてないじゃねーか!なんて思ったが、夢丘さんが玄関で「いってらっしゃい」とこれまたにこにこ笑うので反論も出来ずに、蓮見家の玄関の前にあるチャリに鍵を刺した。

 ……まぁいいか。どうせお嬢様がいないと暇だし。












 *

 辺りがかなり薄暗くなってきた中、俺は校門の前でお嬢様を待っていた。

 ジャージ姿の生徒たちを何人か見送った後、同じくジャージ姿のお嬢様を見つけた。勿論ぼっちだけど。



「あら、和泉」


 お嬢様は俺の元までたっと駆けてきた後にそう言った。

「夢丘さんに頼まれたので」と俺が言えば、お嬢様はカゴに自分のカバンを乗せた後に車じゃない事に文句を言う。……まぁ文句言ってるくせに笑ってるけど。



「結構暗いんで二人乗りやめてくださいね」

「歩いて帰るのー!? いやよめんどくさい!」

「はいはいシェイプアップシェイプアップ」


 そんな適当な言葉を言いつつ、自転車の立てていたスタンドを戻し車輪が回る度にカラカラと音を立てる自転車を押していく。

 お嬢様は練習がどうだっただの、あそこが疲れただの相変わらずの大げさな動作で話している。



「久々だわ、誰かとこうやって歩いて帰るのは」


 お嬢様がそう言った。

 その横顔が少し嬉し気で俺も何故か笑ってしまう。



「千秋お嬢様はぼっちですもんね」

「うるさいわね」

「まぁこれからも水曜は迎えに来ます」

「……一回帰れば面倒でしょ。どうせなら私の部活が終わるまで待ってなさい」


 相変わらずの命令形。なぜだか嫌な気はしない。

「お嬢様がいなければ暇だったんで」と言えばお嬢様は、しばらくぽかんとした表情で俺を見た後に何故かキレ気味に「あっそう!!」と言う。



 冬も近づいてきていて、陽が落ちればかなり肌寒くなってきた。寒いのは嫌いだし、寒いのか暑いのかよく分からない時期が続けばいいのに。

 そんなどうでも良い事を考えていた時に、お嬢様が俺の肩を叩いた後に空を指さした。



「私があんたに星座を教えてあげるわ」


 今さらお嬢様に言われなくても、中学の理科の時間に習ったけど。

 それでもお嬢様の渾身のドヤ顔を前にそんな事も言えずに、お嬢様がぴっと指さす夜空を見上げた。



「ええとね、あれがデネブ、アルカイダ、ベガ」

「テロ組織混じってますけれど」


 正しくはデネブ、アルタイル、ベガでしょう。本当にこの人のぽんこつっぷりは裏切らない。

 まぁデネブ、アルタイル、ベガって夏の大三角形だからもう秋である今、見れないとは思うんだが。まぁ気にしない事にしよう。



「……綺麗ですね」


 そう言えばお嬢様が「そうね」と笑った。

 そしてお嬢様は先ほどの夢丘さんと同じような表情で「ありがとう、和泉」と何故か俺に感謝の言葉を述べるのだ。

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