序章
今、俺はどう言う状況の中に居るのかが理解出来ない。
名前は高月神威17歳
理解出来るのはただ、真っ白な空間に俺…
そしてバスローブを羽織った全く知らない羽の生えたおっさんだ。
「なんか、アレだよね。突然バスローブを羽織ったおっさんと2人きりになって訳分かんねぇよって気持ちはよく分かるよ、うん。とりあえず率直に言うとじゃな、君は死んだのだよ」
なんかおっさんにいきなり死んだって言われたが、悲しい事にそれは事実だった。
生前の俺はスマホ片手に普段全く縁のない女の子とのチャットを楽しむがあまり、赤信号にも関わらず渡ってしまい車に跳ねられたのだ。
しかもダンプカー。
「あぁー…スマホ片手に人生棒に振っちゃったよなぁ俺…女の子1人に生命使い果たしちゃったよ…ほんと…」
マジで不覚だった。しかし四つん這いで後悔しても何も始まらない。こう見えて俺はポジティブであった。目の前の得体の知れないおっさんを見るまでは…。
「んー神威君…君がした事は仕方ないじゃろ…
今更後悔しても生き返る訳でも無いんじゃし」
「はは…バスローブさんは後悔で生きてそうに見えるけど…」
「誰がバスローブさんじゃい、わしゃこう見えても神じゃぞ神?」
あー…どんどん訳が分からない。
ついにバスローブを羽織ったオヤジは自らを神だと述べ始めた。
「まぁ良い…さて、ワシがこうしてお前さんと話してるのには理由がある。分かるな?」
「天国か地獄に行くか決めるのか…」
このバスローブ神を見た瞬間から俺の地獄は始まってた気がするが。
「天国も地獄もありゃせんわぃ、生命と言うもんは元々循環しておる。死んだら生まれ変わり、また死んだら生まれ変わる、それが世界の法則じゃよ。」
オヤジは座り込み、どこからか片手にワイングラスを持ちながら語り始めた。
「マジかぁ…じゃあ生まれ変わるとしたら次は何になるんだ俺は、ミジンコか?」
「いや、お前さんには前とは別の世界に行ってもらう。」
「!?」
別の世界…異世界ってやつだろうか。
それなら是非行ってみたい。
「いやなぁ?ワシこう見えても神じゃからもう1つの世界も作ってるワケよ。まぁ…本当に作るだけで後は何も手を加えたりしてないがの。」
「無責任な神だな…それで、俺が行く世界って?」
「ヴァロニアと言う世界じゃ。そこは電気も車も無く、おまけに魔物もおるという…年頃のお前さんにはピッタリな世界じゃろ?」
「いやいやいやいや、それならそこで生き返っても魔物に殺されるよね!?餓死もするよね!?」
「安心せぃ、ちゃんと神様ボーナスを与えてやるわぃ」
神様ボーナス、ちょっと気になる。
「ほいっとな」
オヤジが指を軽く捻ると俺の身体が光に包まれた。
「今お前さんには魔力、身体能力、そしてあちらの世界の言語を吹き込んだ。これで魔物にやられて死ぬなんて事は無かろう、多分。」
「何それ滅茶苦茶不安なんだけど…」
だが確かに前とは何か身体の感覚が違う気がする。
「まぁ良いわぃ、細かく説明するのも面倒じゃしとっとと飛ばすかの」
そう言うとオヤジは立ち上がった。
すると身体の光は更に強くなる。
「とりあえず前の世界で怠けてた分、向こうで立派に過ごすんじゃぞー」
「ちょ、まっていきなりす…」
ビュン
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ドサッ
「いでぇ!!!!」
突然景色が変わった、あと尻もちもついた。
あのオヤジは本当に神だったんだろうか…
しかしそれよりも。
「なんだ…ここ」
辺りは緑が沢山の大草原、森もある川もある青空もある、そして少し先には大きな城下街が見える。
「すっげー…本当にファンタジーじゃん…」
とてもあのオヤジが作った世界とは思いたくもない、綺麗で美しい世界だ。
神威は暫く景色を堪能して、行動に移る事にする。
「とりあえずどうするか、格好は死んだ時のままか…」
死んだ時は通学中だった為、制服だった。
幸いにも血とかはついてない。
暫く考えると近くで悲鳴が聞こえた。
「いやぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
「何だ?森の中かっ!!」
急いで悲鳴の聞こえた森の中に駆け込むと、一際大きい大樹の下で1人の少女が何かに襲われようとしていた。
「ゲヘヘへへ…ミれバミるホどカワイいツラジゃネェか」
「アンタらゴブリンに褒められても嬉しくないわよぉ!!!!」
襲われようとしている娘は中々可愛かった。
俺もあのゴブリンなら同じ事してたかもしれない、いやしないけど多分。
「とりあえず武器…武器…」
素手で戦える程自信はまだ無い、何か棒があればと探すが戦闘に使えそうな棒がそう易々と転がっている訳が…あった。
「よし、なかなか硬くていいやつだ」
これなら勝てるだろうと急いで棒を手に取り神威はゴブリンへ襲い掛かる。
「うおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!」
ドッ!!!!!!
「ウブぉぁぁあ!!!???」
瞬間、とても鈍い音と悲鳴が同時に響いた。
悲鳴が途中で疑問形になりかかっていたのは後ろからの不意打ちで驚いたからだろうか?
ゴブリンは倒れ、次第に亡骸は消滅した。
「ふぅー緊張したぁ…。 君、怪我は無い?」
「怪我は無いわ、危ない所助かったわ、ありがとう」
近くで見ると少女はますます可愛かった。
身長は140〜145cmくらいだろうか、とても小柄で色白で、髪はロングの雪色と瞳の色は透き通る海色だった。
「良かった、ところでこんな所で何してたの?
あんなのがいるんじゃ女の子1人で来るような場所じゃない気がするけど…」
「あら、私これでもメイジなのよ?
魔法の練習に魔物を乱獲してたら杖を壊されちゃってね…」
「んー、あんまりウィッチとかってよく分からないけど、要するに魔法が使えなくなって襲われてたって事か」
「そういう事。ねぇ、良かったら王都まで一緒に来てくれないかしら?」
「王都?んー…」
この展開は全国の男子9割は断りきれないと言う女の子からのお約束展開だと一瞬で察した。
しかしどうだろう、易々と受け入れる軽い男で居て良いのだろうか…。 残り1割の断れる人間になれば男として成長出来るのではないだろうか…。
「宜しくお願いします!!!」
無理に決まっていた。
魔物に襲われていた魔法少女を放っておける訳が無い、男として安全な所まで守らなくては。
なんて、ただの言い訳だ。
本当は可愛い女の子からは離れ難いだけなのだ。
「よろしくっ!…そう言えば自己紹介がまだだったわね。 」