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望みと願い

 怒号と共に大地に炎が炸裂した。それを皮切りとして魔物は群れを成しエイファに襲い来る。

 ――はずだった。


「グルァァアア!」


 今にも飛びかかりそうな獣型魔物ベスティアが獅子の咆哮で動きを止め、後ろに引き下がる。そしてそれと入れ替わるように獅子は前に歩み出た。

 強者としての自負か、自分が相手よりも上だという絶対の自信があるのか。


「こっちとしては嬉しいけれど、なんか腹立つわね」


 ともすればそれは舐められていることに等しい。エイファの戦意を燃え上がらせるには十分すぎた。

 エイファは魔力を滾らせ、背負った大剣を構える。獅子は黒毛を逆立て紅の瞳で相手を見据える。


「ふっ!」

「ガルゥ!」


 大剣と鋭爪がぶつかる。初撃はエイファの力負けとなった。


「まだまだ!」


 エイファは剛爪に弾かれた勢いのまま、回りながら剣を横に振るう。しかし獅子はそれを飛び退いて難なく躱した。

 エイファは再び距離を詰めて刺突を繰り出す。獅子はそれに応じるのように前足をもたげ、相手を切り裂くべく爪を振り下ろす。


 ――今!

 エイファは体を横にずらし獅子の懐に入る。すかさず焔槍が放たれた。

 距離を詰める間に準備していた魔法は獅子の腹に直撃するが、獅子は構うことなく爪を地面に叩きつける。砕けた土塊が炸裂し、エイファを襲う。エイファは刀身を盾にしながら後ろに逃げた。


 土煙が風に流され両者の姿が明らかになる。エイファは獅子から目を外すことなく剣を構えている。魔法を至近距離で受けた獅子は腹の肉が爆ぜ抉れているが、すでに肉が再生を始めていた。


 ――まだ足りない……。どこかで隙を作るしかなさそうね。

 必殺の一撃を叩き込むべく頭でプランを練りながら、エイファは再生が終わる前に追撃を仕掛けた。


*****


 ――エイファが兵器かと思えばテーレムもリルカも兵器……。

 あまりにも多くの事が一気に起こってフィンの頭はパンクしそうだった。パンクしそうな頭を抱えながらもフィンは駆け足で冒険者の宿舎に向かっている。


 ――でもシルビィさんは『生体』兵器って言った。という事は生きていることに変わりはない。テーレムみたいに少ないにしろ感情はあるし、痛み苦しみだってあるだろう。なにより意志相通が出来る。

 好きな人、大切な人が人ではなく兵器だったと知ったフィンは動揺こそすれ、嫌悪感を抱くことはなかった。新しい一面を知れて良かったとすら思っているのかもしれない。


 ――けれど今は呑気にしてられない。僕にできることはなんだ。

 表情を険しくしながらフィンは考える。その間にも足は動き、宿舎に入って簡素な自室まで戻ってきた。

 ――おそらくエイファは勝つ。紙一重、ぎりぎりの戦いになるが勝つだろう。

 希望的観測ではない。フィンには確信があった。

 シルビィはエイファにテーレムのデータを移したと言っていた。簡単に言ってしまえばエイファの実力にテーレムの戦闘経験が上乗せされたのだ。勝算は高い。


 ――なら僕が行っても邪魔なだけではないのか。エイファの言う通り、彼女の帰りを待っていた方がいいのではないか。

 そんな考えが不意に浮かぶ。

 フィンは自室に入ると真っ直ぐに引き出しを開け、中にある布袋を掴みとる。ずっしりとした重さが手に伝わり金属の擦れる音がした。そしてすぐにフィンは部屋を出る。

 フィンは宿舎を出て顔馴染の緑鬼族オークが営む薬屋に向かった。


「おうフィン、今日はどうした」

回復薬ポーション魔力回復薬マジック・ポーションを買えるだけ買いたい」


 そう言って硬貨の入った布袋を放り投げる。小太りの緑の店主は驚いた顔をするが、特に理由も聞かず硬貨を勘定してフィンに薬を渡した。

 緑鬼族オークの主人は何か察したのだろう。不躾な質問はせずフィンを送った。

 フィンは受け取った回復薬ポーションを腰のポーチに詰め込みながら早足で歩く。


 しだいによく知った門が見えてきた。

 泣きそうなエイファの顔を思い出す。心配を掛けまいと無理して作った笑顔。隠しきれなかった震える手。一人で戦いになど行きたくないのはもちろん、兵器として利用されることだって嫌なはずだ。

 エイファが強化種を倒しても倒さなくても、兵器として利用されることを受け入れても拒んでも、なんにせよ彼女はもう長く生きられない。

 ――なんだよそれ……。

 あまりにも理不尽な運命にフィンは怒りを覚える。


 行って何ができる。

 ――何もできないかもしれない。

 行っても邪魔になるだけだ。

 ――その通りかもしれない。

 ――けれどそれはエイファを助けない理由にはならない。

 助けられるかもわからないが、フィンは行かなくてはという思いに駆られる。

 ――エイファは嫌がっていた。怖がっていた。そして彼女は僕に生きる理由を与えてくれた。僕が行く理由はそれで十分だ。


「おいフィン。止まれ……って言ったって無理だろうなぁ」


 この国の門番である爬虫類人族のゴートがフィンに声をかける。

 ゴートはフィンを通せんぼをするように立ち塞がって入るが、言葉にも顔にも諦観の念が現れていた。


「シルビィにはフィンを行かせるなって言われてるけど、俺が止めた所でお前が素直に従う訳ねぇしなぁ」

 何があったかは知らねぇが、きっとお前はさっき飛び出してったエイファを追っかけるんだろ?」


 爪で頭を掻きながらゴートは言う。


「あぁでも俺の制止を振り切ってフィンは行っちまった……しょうがねぇ、シルビィに報告するか」


 下手な芝居を打つように白々しくそんな事を口にする。

 フィンはそんなゴートの横を歩いて通り抜けた。


「お前はお前の好きなようにすればいい」


 背中越しに声がかけられる。


「誰かの思惑だとか、上からの命令だとか、そんなもんは知ったこっちゃねぇ」


 仮にもこの国の門番である男がそんなことを言った。


「行って来い」


 とても短い言葉。かつてフィンに戦闘のいろはを叩き込んでくれた師からの言葉。フィンはその言葉にどうしようもなく背中を押された。


「ありがとう」


 フィンも言葉少なに返し、エイファを追って走り出した。


*****


「ウグルゥゥ」

「くっ……」


 エイファと強化種である獅子の視線が交錯する。地面のあちこちは抉れ、熱で溶かされ、戦いの激しさを如実に表していた。

 低く唸る獅子の躰には無数の火傷や切り傷がある。しかし倒れる様子はない。それどころか、その傷がかえって戦意を煽ってしまっていた。

 むしろ消耗しているのはエイファの方だった。幾度となく魔法を放つうちに胸の辺りに疼痛を感じていた。さらには痛みで集中力が掻き乱され、碌に魔法も使えないといった状況だった。


「はぁっ!」


 剣を携えて走り、掛け声と共に振り抜く。辛うじて魔力で身体能力を底上げすることは出来るが、剣戟だけでは獅子には当たりもしない。

 ――やっぱり魔法で動きを封じないと……。


「ガァァ!」


 剣を避けた所で獅子が大きく口を開く。そしてエイファが剣を振り切り、回避が出来ないタイミングで獅子はエイファの細い肩に牙を突き立てた。


「ああああぁぁぁぁっ!」


 頤を上げ、エイファが絶叫する。白い肩には鋭牙が深々と突き刺さっている。エイファは何とか逃れようともがき獅子の顔に蹴りを入れるが、噛み付く力は強まるばかり。獅子はそのまま頭を振ってエイファを地面へと叩きつけた。


「がっ……はぁ……ぐっ……」


 痛みで明滅する視界の中、エイファは爪先で獅子の眼球を思い切り蹴った。


「グァァァアア!」


 獅子はたまらず口を開け、その隙にエイファは後退する。

 悶える獅子から距離を取ったエイファは荒い息を繰り返す。血が溢れる肩口を抑えながら手は動くことを確認する。

 ――筋は切れてない……でも腕が上がらない……。これじゃ剣が振れない。

 魔法も使えず剣も振るえない。

 ――だめだ。一旦逃げるにしても他の獣型ベスティアが追ってくる。

 エイファは自分と獅子を囲んでいる獣型ベスティアを見る。離脱するには、この包囲網を抜けなければならなかった。

 惨憺たる状況にエイファは唇を噛みしめる。片目を潰され怒りに巨躯を震わせる獅子は、今度こそ噛み千切ろうと真っ直ぐに距離を詰めてきた。

 エイファは対魔特化剣スレイヤーを片手で握りしめる。何とか片手で持ち上げようとするが、いまや大剣は引きずることしかできない。


 幾人もの冒険者を喰らってきた口がそこまで迫っている。血塗れた牙がエイファの頭を噛み砕く。――その直前で。


「間に合った……」


 聞きなれた声がエイファの耳朶を打つ。それと同時に戦場に鎌鼬が舞い降りた。

今回も読んでいただきありがとうございます。


物語もクライマックス!


次回もよろしくお願いします。

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