かくも残酷な真実は唐突に(2)
「説明してください……魔力兵器ってなんですか? エイファがそれだって言うんですか?」
「魔力兵器とは、人為的に造りだした『器』に魔力を大量に蓄えた魔導石を埋め込むことで造られた生体兵器です。ソーサリーではこれを対魔物の最終兵器として位置づけ、開発されました。
通常の兵器以上の魔法火力が期待でき、魔力の暴走・枯渇が起こっても切り捨てればいい。また、戦闘の経験によって蓄積されたデータで自ずと強くなっていきます」
これならばエイファが異常なまでに強いのも、好奇心が旺盛なのも、魔法の扱いに長けているのもすべて説明がつく。シルビィは一拍置いて続ける。
「ただ魔法の過剰な行使による転化が唯一の欠点ですね」
つまりはエイファにも転化の兆しがあるという事です」
「エイファも転化……」
「あはは、そうみたいね」
その言葉でフィンはエイファを見つめる。視線の先には引きつった笑いを浮かべる少女がいた。
「エイファの背中の痣、それが大きくなるにつれて転化が迫ってる事を示しています。エイファ、少し背中を見せてください」
「わかった……」
そう言ってエイファはゆっくりと後ろを向き、背中を露わにする。
「そんな……」
「前回見たときはほんの小さな痣でした」
エイファの白磁のような背中。しかしそれは半分だけ。左半分は赤と青が入り混じった痣が侵食していた。片方が健康的な白であるが故、痣の痛々しさがより際立っているように思える。
「はっきり言ってこの広がり方は異常です。そして痣は加速度的に広がっていきます。このまま行けば一週間後には転化するでしょう」
「そっかぁ……一週間かぁ……」
エイファは服を直しながら向き直る。彼女は普段の日常の続きが突然断ち切られ、残された命は一週間だと唐突に告げられたのだ。
足掻こうとしても無理な話だった。
「ねぇシルビィ、なんで私はこんなに早いの?」
「理由は単純です。貴方が恋をしたからですよ」
「恋?」
「えぇ、恋をすることで心臓の拍動数は増加します。貴方たちにとってそれは寿命を縮めるのに等しいのです」
「そっか……それなら仕方ないわね」
エイファは明るく言う。
「こんなことになるなら恋なんてしなければ良かったとか、そんなことは思わない。むしろして良かったと思ってるわ。だって……楽しかったもの」
エイファは茫然自失としたフィンを真っ直ぐに見据えて言う。
「フィンと一緒に冒険して、フィンの隣で戦って、その度に恥ずかしいくらい胸が高鳴って、どうやったら振り向いてくれるか頭を悩ませて……」
「エイファ……」
「まぁ前例もありましたから、ある程度予想は出来ましたが」
「…………」
と、エイファは急に押し黙る。
「魔力兵器はテーレムが初代、リルカが二代目、そしてエイファが三代目に当たります」
「……え? テーレム? リルカ?」
いきなり出てきた名前にフィンは困惑する。
「端的に言うと、テーレムもリルカも魔力兵器だったという事です」
――『私はミルカスフィ・テーレム。リルカ、エイファと同じ生まれの死に損ないだ』
――『お前には辛いかもしれないが、無理してでも呑み込むことだ』
――『リルカを殺してくれてありがとう』
フィンの脳裏にテーレムの言葉が浮かぶ。
「嘘だ……リルカが兵器……」
「やっぱり……ねぇシルビィ、私が寝てる間に何かしたの?」
一方でエイファはどこか得心したように言いシルビィに尋ねる。
「ちょっと弄っただけですよ。具体的に言えばテーレムに蓄積されたデータをエイファに移しました。それに伴い、テーレムの記憶、感情、戦闘経験などは貴方に取り込まれました」
「つまり、テーレムは死んだのね?」
「はい。本来なら触手型との戦いで死亡するはずでしたが、それが狂ったので内部データを取り出して処分しました」
「そう……」
夢の中で感じたテーレムの悲しみ。その訳がわかったエイファは自分の胸にそっと手を当てる。そこはトクントクンと一定のリズムを刻んでいた。
「フィン……大丈夫?」
床に崩れて唖然としているフィンにエイファが声をかける。辛いのはエイファも同じだろうに、フィンが心配されるとはなんとも情けない話である。
「あぁごめん……」
フィンは何とか立ち上がるが瞳には覇気がない。
「リルカはテーレムには無い感情を設定し、偽の記憶を植え付け自由に行動させました。時期を見て回収する筈でしたが、まさか恋に落ち、その結果として転化の時期が早まることは想定外でした」
シルビィはこめかみを抑えてそう言う。
「ですから今度はそのようなことが無いようにフィンさんとエイファにはコンビを組んでもらったのです」
「そうだったのね……」
「……シルビィさん、リルカは最後まで自分が平気だという事は知らなかったんですよね?」
「えぇそのはずです。転化にしても自分の身に何が起こったのかを理解する余裕はなかったと思います」
「そうですか……」
――ならまだ良かったのかもしれないな……。なによりリルカがたとえ兵器でも彼女は彼女だ。
そう思えてフィンは少し気が楽になった。
「ねぇフィン、私の事、嫌いになった?」
悪戯を咎められ、それを笑顔で誤魔化すような顔をしてエイファはフィンに尋ねる。軽い口調で言おうとしたのだろうが、その声は少し上ずっていた。拒絶されないか恐れているのだろう、毛布を握る小さな手は震えていた。
「そんなことはない。エイファはエイファだし、僕のエイファに対する気持ちも変わらない」
「そう……良かった……」
心の底から安堵したようにエイファは息を吐きながら言った。
「えぇそうよ。私の気持ちは変わらない。だから私は貴方を助けるために戦う」
そして自分に言い聞かせるようにして決意を示す。
「そうと決まりましたら早速準備しましょう。改良を重ねた対魔特化剣も渡します」
そこからは早かった。シルビィの一声で装備が部屋に運ばれ、エイファはそれに身を包む。太腿までのタイトなインナーの上に機動力を阻害しない防具を着ける。
そして愛用の長剣を腰に差し、灰色の鈍剣を背に担いだ。
「もともとは魔力兵器の装備としての対魔特化剣ですし、一度使ったことがあるなら扱いには困らないでしょう」
「じゃぁなんでフィンに使わせようとしたのよ」
「死にたそうにしていたので。親切心ですよ親切心」
キロリと睨むエイファにシルビィはそんなことを言ってのける。
「帰ったら懲らしめてやるから覚えておきなさいよ」
「楽しみにしてますね。それではご武運を」
シルビィがエイファに一礼をした。
「エイファ……」
「なに心配そうな顔してるのよ。私なら大丈夫だから。
だから……待っててね」
エイファはフィンに抱き着き、胸に顔を埋めてそう言った。するとフィンも無言でエイファを抱きしめる。身長差でエイファの体が少し浮く。
「ちょ、ちょっと……」
「…………」
――この少女はたった一人で挑もうとしている。なのに僕は指を咥えて見ていることしかできないのか……。エイファは僕のために戦うと言った。僕を守るために兵器になることを選んだ。それは彼女の本心なのか? 彼女が本当に願ったことなのか?
頭の中にいろんなものが渦巻き、自然と腕に力がこもる。
「フィン……ぐるしい……」
「ご、ごめん……」
エイファの呻くような声にハッとしてフィンは腕を解く。解放されたエイファは顔を赤くし、肩で息をしていた。
「なによ急に。びっくりしたじゃない……。でも、悪くなかったから許してあげる」
エイファは怒った素振りを見せながらも顔が緩むのは止められないでいる。心臓はバクバクいってることだろう。
「そろそろ行かなきゃ。それじゃあね」
それを隠すようにしてエイファはそそくさと部屋を出ていく。部屋にはシルビィとフィンだけが残った。
「シルビィさん」
「なんですか?」
「僕は今、貴方を殴りそうな自分を必死で抑えています」
「あら、優しいんですね。どうかそのままでお願いします」
「シルビィさん」
「なんでしょう?」
「僕には何もできないんですか?」
「そうでしょうね。今回貴方が役に立つことはないでしょう。貴方は碌な魔法が使えませんし、刃は当たりませんもの」
「刃が当たれば?」
「万一当たっても有効打になるとは考えにくいですね。肥大化した筋肉に刃が負けるかもしれませんし」
「なるほどわかりました。それでは失礼します」
そうとだけ言ってフィンは部屋を出る。
――僕にできることは……。
*****
少女は一人、草原を駆ける。
――私は兵器。人じゃない。
そう思うたびに彼女はひどく傷つく。想いを寄せる相手に嫌われなかったのが唯一の救いだろう。
――今はまだ『私』があるけれど、帰ったらソーサリーに良いように使われるんだろうなぁ……。
本格的に兵器として利用されるならば自我など必要あるまい。戦闘に不必要だと思われる記憶も消去されるだろう。命が擦り切れるほど使われ、最終的には使い捨てられる。しかし兵器にならないなら死あるのみ。
――何よこれ……どっちにしたって結果は同じじゃない。
少女の視界に漆黒の獅子が現れる。獅子は獣型の大群を率いてこちらに近づいてきていた。エイファは止まり対魔特化剣を構える。
「ふざけんじゃないわよお!」
号砲に変わる魔法を叫びと共に発射した。
今回も読んでいただきありがとうございます。
もっと上手く書けた気がしてなりません……後々改稿するかもしれません。
それでは次回もよろしくお願いします。




