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無様にもがいたその先で(2)

「で、なんでフィンがここにいるんだよ」

「それは僕も聞きたいな、ゴート」


 ソーサリーの一階でトカゲと青年が向き合う。


「ゴートは私から声をかけたんです。ノルテ湖までの道案内は彼が適任でしょう。

 そしてフィンさんは申し出があったため召集させてもらいました。ということで先発隊はこの三人で行ってもらいます。

 本来ならもっと人数を増やしたいところですが、万一に備えてこれ以上の戦力の流出は避けたいという事で三人での編成になります」


 一触即発の二人をシルビィが宥めすかす。


「ん? 三人って誰だ?」

「僕とゴートと……」


 一人一人指で確認していく。そしてその指はシルビィに向けられて止まった。


「はい、私。の部下です」


 同時に彼女の横に、漆黒のローブで頭まで覆った人物が湧いて出た。

 湧いて出たというのは比喩ではない。何もないところから、突然現れたのだ。


「うおっ」

「うわっ」

「ミルカスフィ・テーレムだ」


 その人物は驚く二人を笑いもせず、顔を隠した状態でそう名乗った。


「ど、どこから出てきやがった」

「ずっとここにいたぞ、お前たちが気づかなかっただけだ」


 中性的な声が不機嫌そうに呟く。


「このローブには認識阻害の魔法が付与されています。ですから貴方たちは気づかなかったんです」


 シルビィが補足の説明を入れた。


「それでは今回の目的と大まかな内容についてお話します。

 まず今回の一番の目的は触手型魔物ペンタクルの規模、様子の調査です。ですから敵情を把握して帰還、これが最重要事項になります。

 全滅し相手の状態がわからず、追加で人員を送るというのが最悪のケースです。

 ですから最悪の事態を避けるためにゴート、貴方は戦闘に参加せず、偵察が済んだら速やかに帰ってきてください。これは命令です。私情を挟むことが無いよう」


 あくまでも冷徹にシルビィが言う。ゴートは細長い舌で器用に舌打ちしながらも了解と返した。


「また今回は新型兵器の試運転も目的の一つです。これは二人に担当してもらいます」


 黒い布で包まれたものが二つ、台の上にに置いてあった。


「これが対魔特化剣スレイヤー試作型プロトタイプです」


 シルビィが布を剥いだ。

 現れたのは、全長がフィンの背丈の三分の二ほどの両刃の大剣。柄と刀身だけというシンプルな見た目に色も鈍い灰色と、いかにも試作機らしい。

 ただその外見でも一つだけ目を引くものがあった。


「おいシルビィ、この刀身の真ん中に入ってるラインってなんだ?」


 それは鈍色の刀身を等分するように入った、淡く紫紺に光る一本の線。


「これってもしかして……」

「はい、魔導石です。そしてその魔導石には魔法の回路だけを保存してあります。これが対魔たる所以になります。」

「回路だけ?」

「詳しい説明は道中、テーレムから聞いてください。今は一刻も早く向かうべきです」


 剣が渡される。ずっしりとした重さにフィンは慌てて力を入れた。

 フィンはそれを背中に回し、布で縛って背負う。見ればテーレムも同じように背中にくくりつけていた。


「そんじゃ行くか。ノルテ湖までは早くても三日はかかるからな。シルビィの言う通り早く出るに越したことはねぇ」


 ゴートも野営などの荷物が入った布袋を担ぐ。


「ご武運を」


 シルビィはそう言って深く腰を折り三人を見送った。


*****


 フィンはエイファに自分が先発隊に加わったことを言っていない。色々と面倒なことを避けるためにもフィンは黙って出てきた。

 ――まぁ少しの間一緒に冒険したくらいの仲だし、向こうもこっちも特に困ることはないでしょ。


 三人は会話をすることもなく黙々と森の中を歩いていく。絡まったできた根の壁を越え、枝から枝に伸びる根の橋を渡り、余計な体力を使わないように魔物との戦闘は極力避ける。

 先頭を行くゴートはなるべく歩きやすい場所を選んで進む。その後ろにはフィンとテーレムがぴったりとついていた。


「おいフィン」

「なに?」


 顔は前に向けたまま。


「俺はお前が触手型ペンタクルと戦うなんて認めねぇからな」

「別に認めなくてもいいよ。ゴートの許可は必要じゃないんだし」


 フィンの声音はそれほど冷たいものではなかった。


「けっ、そうだな。そんじゃここらで少し休憩するか。

 これなら日没までに森を抜けられるだろうからな」


 歩みを止めたゴートはそう言うと、ドカッと腰を下ろして袋の中を漁る。


「ほれフィン、水だ。おい! テーレムっつったか、お前も水飲むか?」


 必要ない、とテーレムが樹の幹に寄りかかって小さく言った。

 ゴートは鼻を鳴らす。


「それよりテーレムさん、この試作型プロトタイプの使い方なんだけど」

「その魔導石には魔法が保存されているが魔力が入っていない。これがシルビィの言っていた回路の意味だ。

 そして回路はあるが魔力が無いそれは、常に『餓え』ている状態にある。だからそれを使っている間は常に魔力を吸われ続ける。

 裏返せば、魔力の消費量に目を瞑れば連続で高火力の魔法が使えるという訳だ。また、これを魔物の体内にある魔導石に突き刺せば、『飢え』ている魔導石が魔力を吸い尽くし魔物は絶命する」


 一方的に滔々と説明したテーレムにフィンは気圧され、わかったと返事するのが精一杯だった。


 陽がとっぷりと暮れる頃、三人はようやく森を抜けた。森の先には赤茶け、ひび割れた大地が果てしなく広がっている。


「今日はここで野営するか」


 ゴートはそう言うと、森で拾ってきた枝気を組んでそれに魔導石で火をつけた。パチパチと木が燃える音がし、焚火があがる。

 

「明日はこの乾いた場所を延々行くことになる。触手型ペンタクルが移動してりゃ最悪出くわすかもしれねぇから覚悟しとけ」


 火を囲むようにして三人は腰を下ろした。


「ほら、不味くても食わないよりはましだ」


 ゴートは袋から取り出した携行食を二人に放る。それは高エネルギーで持ち運びに優れた食べ物。

 ――僕これあまり好きじゃないんだよなぁ……。なんだか土を食べてるみたいで。

 そう思いながらもフィンはしっかりと食べる。口の中の水分が持って行かれているのだろう、しきりに口をもごもごと動かしていた。


「ゴート、水ちょうだい」

「駄目だ。水は貴重なんだから我慢しろ」


 太陽は隠れ、辺りには夜の帳が降りる。深い藍色の夜空には星々が絢爛に輝いていた。

 焚火を囲い、土のような携行食を齧りながら、夜空を見上げる。フィンはこの状況を懐かしく感じていた。

 ――無計画なリルカのせいで仕方なく野営することも珍しくなかったし、逆にそれが当たり前のようになっていた。二人で火を囲んで冗談を言い合ったり、見張り番のリルカが寝てしまって魔物に襲われるという事もあった。

 そう思いながら、フィンは呑み込む。携行食と共に、フィンの腹の底には冷たいものが落ちた。

今回もお読みくださりありがとうございます。


今回は佳境の入り口の、その手前ぐらいのつもりで書きました。


だんだんと盛り上げていけたらなと思います。


それでは次回もよろしくお願いします。

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