70・アウェイ感を望まない。
休日が休日となった為、また投稿させて頂こうと思います。見放さずにいてくださった方々ありがとうございます。
--- 控室にて ---
「いやー、なんか思ってた以上に疲れるなー…この大会。主に気持ちが。」
「ピ?」
「9割9分ポヨが何かしてた状態で俺は心の中でツッコミをしていただけだから、肉体的には疲れてないんだけどさ。」
「ピッ(僕は疲れてません。)」
「元気なのは良い事なんだけどさぁ……もうアーレスも倒したし別に棄権してもいいんじゃない?大会に出た目的は果たした訳だし。それか次のラファエル王子にわざと負けるか?」
「ピ!ピッ!(ダメです!優勝します!)」
ええ……?なんでポヨこんなやる気なの?
「まあ、戦うのはポヨだし、ポヨがやるって言うなら良いんだけどさ……」
観客と王女に応援されているから、ポヨも頑張りたいんだろう。普段他のヤツらが問題だらけだというのを差し引いてもポヨはちゃんとしているからなー…
まあ偶にはポヨの見せ場を作ってあげるとするか。
コンコン
控室のドアがノックされた。係りの人かな?もう出番か?
「失礼します。ケイマさん先の試合ではお疲れ様でした。」
係りの人かと思いきや、控室に入ってきたのはフォクシーだった。
「あれ?フォクシー1人か?」
「ええ、そうなのです。実はフェニさんとレインさんとは会場に入る前に逸れてしまいまして……一通り探しても見つけられなかったので、この際もういいかと1人で観戦しておりました。」
まぁあの2人だと、もういいかってなるよね。しかし……
「ええ…?よりによってあの2人が逸れちゃったの……?」
トラブルの気配しかしない……
「会場付近の屋台通りでアレコレ騒ぎながら歩いていたのですが、フェニさんが『観戦と言えばビールだ!』と、おじさんの様な事を言い出した為、私が屋台で3人分の飲み物を買って戻って来た時、お二人の姿はありませんでした。」
観戦と言えばビールって魔法とか有りの武術大会って野球観戦感覚なの?
「仕方ないので3人分のビールは全て私が飲みましたが。」
「そうか……フォクシー酒強いね。」
「飲み足りてはいませんが多分人並みです。」
「あー……しかしそれは早いとこあいつら探しに行かないとだなー……」
「あのお二人なら多少の荒事や暴漢などは問題無いのでは?」
「いや、発生させちゃう方。荒事とか暴漢が向こうから来る事に対しては心配してない。考えるだけ無駄だよ。」
「ああ……そっちですか……」
「でもやりすぎて事件になっちゃわないかだけ凄く心配。」
「……ですね……」
はぁ~……と2人して同時に溜息を吐いた時。
「フッフッフ……ケイマよ。我らの心配とは随分と優しくなったではないか。」
「ケイマさんはいつでも優しいですよ!」
心配のタネであった2人が控室のドアから入ってきた。
「まったく……オマエら心配させやがって。」
「フフフ……我らの強さでは心配等は無用……」
「他の人に迷惑掛けてないか心配だったんだよ。」
「何の心配をしているのだ!我は子供か!」
「子供よりタチが悪いと思ってはいる。」
「なぜだ!?」
「それよりも、お二人共どこへ何処へ行っていたのですか?あとその両手一杯に持っている食べ物と飲み物は一体………」
フェニとレインの両手には串焼きやら揚げ物やらビールやらと、これから家飲みでもするのかな?という位食べ物と飲み物があった。
今回はそんなにお小遣いを渡している訳ではなかったハズだけどな?
「これか?これはな、フォクシーがビールを買いに行っている間に若い輩数人が我らを取り囲んで、『ねーちゃん達、俺らと遊ぼうぜヘッヘッヘ。』と言うのでな。折角の誘いでもあったしケイマからのお小遣いもそんなに多くは無かったのでな、路地裏へ行って遊んで(暴力)やっていたのだ。」
……お小遣いが多く無かったって言っちゃってる段階で、既にここぞとばかりにカツアゲする気満々だったんじゃねーの?……まあ相手は変なヤツラだったみたいだからまだ良かったけど。
「そしたらですね!『調子に乗ってすいませんでした……これでもう勘弁して下さい……このお金で屋台を楽しんで下さい………もう俺らには構わないでください……』って言ってお小遣いをくれたんです!なのでフェニさんと沢山お買いものしてきました!」
「………な?心配するだけ無駄だったろ?」
「ええ本当に。一生懸命お二人を捜してしまった私の労力を何かの形で返して頂きたい位です。例えば串焼きとビール等で。」
あ、フォクシーがちょっとむくれている。酒を飲んだからか、珍しい反応だ。
「お、おお!勿論フォクシーの分も買って来ているとも!な、なあレイン!」
「もももももちろんですよフォクシーさん!全部自分で食べようとは微塵も思っていませんよ!」
「さ、さあ、観客席へ戻りケイマとポヨの活躍を見ながら食べようではないか!」
「そうでしたか、ではお言葉に甘える事に致しましょう。ではケイマさんにポヨ、試合の方頑張って下さい。」
そうして控室を去る3人。
控室に来る人って、選手を労わる為に来るんじゃないの?なんでアイツら一々俺の精神力を削りにくるの?
と、3人が去った後直ぐ、入れ替わりで係りの人が入って来る。
「あ、ケイマさんと従魔のポヨですね?そろそろ会場の方へ移動お願いします。」
「あ、はい。」
「ピ…(あの3人、観客席で大人しく観戦してくれればいいですね……)」
「だな……酒持ってたのが怖いわ……」
若干の心配事を抱えながら、俺とポヨは試合会場へと向かうのだった。
------- 試合会場 ------------
『皆様お待たせ致しました!準決勝出場選手の入場です!』
わああああああああああああっ!!
バッカスさんのアナウンスに沸き上がる会場。
それもそうだ。何せ次に出て来る選手はイケメン実力派王子という噂のラファエル王子と、初戦で下馬評を覆したポヨの試合なのだから。
『初戦で優勝候補であるクラスS冒険者であるアーレスを倒した「爆弾脳筋一派の頭」!!魔物使役者のケイマと従魔のポヨーーーッ!!次の試合でもスライムの常識を覆す戦いが見られるのかあ!?』
わあああああああっ!!
ああ……全試合で二つ名言うんだ………止めてって言ったら止めてくれんのかなコレ?
『ポヨがんばれよ!』
『只のスライムじゃない所また見せてくれー!』
『イケメンをボコボコにしてくれえ!』
『ポヨちゃーんかわいい!』
……なんかポヨの人気が凄い事になってきてるぞ?ポヨの応援しかないけど、もしかしたら観客の皆さん、俺の存在忘れてないよね?
「ピッ!!」
会場の声援に再びポヨの闘志に火が付いたようだ。
『そして!!迎え撃つのは、我がフォルクシア王国の王子でありクラスS冒険者としての称号を持ち、女性からの求婚が倒した魔獣の数よりも多いという!ルックスも実力も王国最強の男!!「世界の王子」ラファエル王子だああっ!!』
きゃああああああああああっ!!
わあああああああああああっ!!
世界の王子とか!!なんでそんな痛い事平気で言わせられるのこの世界の住人!?
『きゃああ!!ラファエル様あ!!』
『王子様結婚してぇ!』
『そんなスライムやっつけちゃって!』
今回はポヨの時とは違い、通常の歓声と黄色い歓声が合わさり大歓声となっていた。
………いや今の紹介なんかちょっとおかしな文章なかった!?求婚した女性の方が倒した魔獣の数より多いとか!!もしかしたら倒した魔獣の数、少なすぎるんじゃないの!?
「……ピ……」
ポヨも先程の闘志はどこへやら。ラファエル王子への歓声の大きさに意気消沈してしまっていた。
まあ、ポヨには悪いが俺はここで適当に負けてしまうのがいいと思っている。王子に勝っても面倒な事になりそうだし……ポヨも会場の空気に飲まれている様だし……ここは……
「なあ、ポヨ……」
適当に負けようぜ?と、俺がポヨに向けて言葉を発しようとした時、一際響く声が俺とポヨに届いた。
「お兄様ー!がんばれぇ!!」
「お兄様かっこいいー!!ファイト!」
幼王女イリーナと王女クローディアの声援だった。
「ピッ!?(ガーン!?)」
まぁ……普通そうだよな。ポヨはショックを受けているけど、普通は身内を応援するよな。
ポヨはショックの余りプルプルと震えているが………そ、そんなショックだった?
どうやら先程まで応援すると言われていた王女達が一転、ラファエル王子を応援した為、ポヨのやる気指数は大暴落してしまっている様だ。
「ケイマ殿。」
ラファエル王子が優雅で余裕のあるイケメンスマイルで近寄って来る。
「ど、どうも。ラファエル王子、お手柔らかにお願いしますよ。」
「フ……お手柔らかに出来る程余裕があればいいのですが。あなたとポヨ殿の人魔一体の戦い、私が打ち破ってみせましょう。」
まあ、人魔一体の戦いになる前にポヨに適当な所で動かなくなってもらい、ギブアップするつもりだけどな……
『それでは準決勝始めェッ!!』
そして試合は始まった。
お読み頂きありがとうございました。




