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67・前評判だけを望まない。

『決勝で会おう!』

『お前こそ決勝までに負けるなよ!』


 ………みたいな事をお互いに言ってしまった為、俺とアーレスは少し気恥ずかしい雰囲気になってしまっていた。


「………………」

「………………」

「ピ?」



「はははっ!うむ……まあ……あれだとも…これは事実上の決勝戦的な感じだろう!」


「そ、そうだな、そんな感じにしとくか。」


 この決勝の下り、知ってる人が少なくて良かった……




『この天下一大武道会、司会進行は変わらず私王国広報室室長のバッカスが務めさせて頂きます!そして解説は、王国騎士団近衛隊ロイヤルガード隊長のヴォルフ殿です!ヴォルフ殿、本日は宜しくお願い致します!』


『うむ。しっかり解説。』


『しっかり解説お願いします。』


 大丈夫か解説?



『それでは第1試合ーーーーっ!!「職は剣士ソードマン!クラスS冒険者!王国が生んだ至高パーフェクトヒューマン」!前回優勝者アーーーレスゥゥゥゥッ!!』


 わああああああああああああああっ!


 二つ名言ったあぁぁぁ!!至高と書いてパーフェクトヒューマンとか!これ自分で考えてたら凄いよ!?でも凄い盛り上がってる!!


「はははっ!」


 そしてこんなハズい二つ名大声で叫ばれてんのにこのドヤ顔で手を振ってる!!こいつやっぱ大物なんだ!


『そして対するは「職は魔物使役者テイマー!クラスG冒険者!爆弾脳筋一派の頭!ケイマとその従魔のポヨーーーーッ!!』


 わああぁぁぁ……ぁ?ざわ……ざわ……


 受付票に書いたやつとちが---う!?

 意味不明な二つ名に観客もどう受け取っていいか分かんなくなっちゃってんじゃん!!


 お、おのれあの受付の文官め……!

 やばい、一つも俺のせいじゃないのに、なんか折角アーレスで盛り上がってた所を一気に盛り下げてしまった……………と、思った矢先。


「ポヨちゃんがんばれえ!」

「ポヨちゃんファイトー!」


 VIP席にいる王女2人からポヨに対して応援の声が届けられた。


「ピッ!」


 ポヨは2人の声援に応えて、VIP席に向かって体からニュッと手(?)を出してフリフリと振った。

 すると客席でも…


『よく見たらスライムかわいいね。』

『スライムってあんな人の言う事聞ける程賢かったんだ。』

『ポヨがんばれよー!』

『カッコいい所見せてくれよポヨー!』


 わあああああああああああああっ!!


 王女2人のお陰で、アウェイになる事は避けられた様だ。

 助かった……マジでありがとう王女様方!


 それと後で受付の文官殴る!




 しかし……まあ………なんというか、俺、完全にオマケ扱いじゃない?いやオマケですら……ん?


 観客からの声援を受け、キョロキョロと辺りを見回していたポヨだったが、ふと見ると……饅頭型の体をブルブルと震わせていた。なんだ?この反応は………緊張してしまったのだろうか?


「………どうした?ポヨ?」


「ピッ!!(やってやりますよ!!)」


 こ、興奮しとる……いつも冷静沈着なポヨが、凄く興奮してる!は、初めてみたこんなポヨ!


 シュ!シュ!シュ!シュッ!

 

 おお、や、やる気だなポヨ!


 初めてのこの状況で気分が最高にハイになってしまっているのか、ポヨポヨと体を跳ねさせながら手(?)を出してシャドーボクシングを始めるポヨ。鼻があったら「フンス」と鳴らしているに違いない状態だ。


 ただ、ポヨポヨしながらシャドーボクシングをする姿は好印象の様だ。


『かわいー!』

『おおお!あんなにやる気のあるスライム初めてみたぜ!』

『いけるんじゃないか!?』

『でも戦わせるのかわいそう!』




「………ケイマよ、一応聞くが………君が戦うんじゃないのか?」


「ん?ああ、俺は今日は一応魔物使役者テイマーで参加だからな。まあポヨが負けたら戦うしかないけど。」


「ははは………そうか……私も随分と舐められたものだ………。」


「いや、舐めてる訳じゃないんだよ。ポヨも十分強いし。」


「そのスライムを一瞬で叩き切って、君はボロ雑巾の様にして観客に恥を晒してやろう!」


 アーレスは凄い怒りの形相でこちらに剣を向けてきた。あ、怒っちゃったかな……でも俺が戦うなんて当時一言も言ってないし。




『それでは第1試合始めェッ!!』


 司会のバッカスさんの声で第1試合の火蓋が切って落とされた!


「さて、がんばろうかポヨ。」


 シュシュシュ!


「ピッ!ピッ!(打つべし!打つべし!)」




『さて、解説のヴォルフ殿、この試合をどう見ますか?』


『うむ、普通に考えるならばクラスSのアーレスの圧勝だろう。』


『やはりそうですか。』


『だが、あのポヨというスライム、どうも気になる………』


『と、いいますと?』


『白いスライムというのを私は見た事が無い、新種のスライムなのかもしれん。それに、魔物使役者テイマーとの契約とはいえ、ここまで意思疎通が出来るスライムを私は知らない。』


『な、なるほど、ではこの大会に出るに値する未知数のスライムだと………』


『私はそう見ている。それにだ……』


『それに……?』


『いや、なんでもない。』


 ヴォルフはケイマの事はあえて言及をさけた。


 おおおおおおおおおっ!


『そ、そうなのか!』

『やっぱりすごいスライムなんだ!』

『かわいいだけじゃない!』


 あーあ、解説のヴォルフさん、余計な事を……いっそこのままポヨを舐めてかかってくれたら楽だったのに……



「……ヴォルフ殿はああ言ってはいるがな、私のやる事は変わらん!ケイマよ!この王国の至高である私を舐めて掛かった事、私の人生で最大の屈辱!観客には申し訳無いが君には私の全力を持って瞬殺する事にしよう!」


「ポヨ!来るぞ!」


「ピッ!」


 ポヨが饅頭型の体を少し潰して構える。

 これが構えかどうかは分からないが。 



「見よ!これが私が王国の至高と呼ばれる所以ゆえん!アーレス流剣技!『岩砕剣』!!」


 アーレス流剣技!自分の名前を付けるなよ!要は我流だろ!


『あああっとぉ!アーレス選手いきなり大技を繰り出すのかあっ!!しかしヴォルフ殿、『岩砕剣』とはどういった技なんでしょうか!?』


 知らん技なら大技とか言うなよ………


『アーレス流剣技『岩砕剣』は………………そうだな、なんかとにかく岩とか砕きそうな雰囲気、そんな感じだ。これをスライムに使うとは!』


 解説いらねえ!大体どんな技か分かるだろ!


『岩をも砕く一撃をスライムに使った場合、やはりスライムは……!』


『うむ、どんなに強いスライムでも所詮はスライム………残念ながら跡形も無くバーンとなるだろう』


 きゃあああああああ!?


 ヴォルフさんの解説に会場から悲鳴が聞こえる。ポヨに声援を送ってくれている王女2人も悲痛な表情を浮かべている。



「いくぞスライム!」


 アーレスは片手剣を下段に構え腰を落とし………地面を蹴った。


『おおおお!』


 地面を蹴ったアーレスは超スピードでポヨに肉薄する!流石はクラスS冒険者、普通の冒険者じゃ反応できない速さだろう。仮に反応しても防御や回避まで出来るかは疑問の速さだ。


 そしてアーレスはポヨの直ぐ正面まで接近すると、移動中に上段に切り替えていた構えから剣技を繰り出す。


「きょぉおええぇぇぇぇいぃっ!!」


 嘘だろ!?掛け声ダサすぎない!?


「『岩砕剣ッッ!!』」


 アーレスは渾身の力でポヨの上から岩砕剣を叩き込む。その瞬間会場内では皆が息を飲む声が聞こえた気がした。





 ぐにっ…………………ぽよん……………どさっ…………



 一瞬で静まった後に聞こえてきた音は3つ。


 アーレスの剣はポヨの体に「ぐにっ」とめり込み、剣技岩砕剣によって切断も破裂もする事無くアーレスの剣を「ぽよん」と弾き返し、こうなると思っていなかったであろうアーレスが弾き返された勢いで尻餅をついた「どさっ」。




『ええ??』

「は?」


 会場とアーレスからそんな声が零れる。


 当の岩砕剣を喰らったポヨは「どうだ」とばかりに胸(?)を張りフンスと鼻息を鳴らすような表情をしている。そして……


 おおおおおおおおおおおおおっ!!


『な、なんという事でしょう!なんとスライムのポヨが王国の至高であるアーレスの剣技を弾き返したあっ!!』


『やはりただのスライムでは無かったようだな。アーレスの岩砕剣は並みの剣や防具では、受けた際に剣ごと切られてしまう威力だと聞いた事がある。それを受けてなお無傷とは………』





「おねえさまみた!?ポヨちゃんすごいよ!!」


「ほ、ほんとね……正直やられちゃったかと思ったわ……思わず目を瞑っちゃったわ……」


「従魔は契約であれば主である魔物使役者テイマーの力によって力が変わってくると聞いた事があるわ。と、いう事は………」


「ふむ……あれがくだんのケイマ殿か………」

 

 国王はダンディの象徴である髭を軽く撫でながら小さく呟く。


「……エスターニアの姫の話、早急に取り決めをせねばならんようだな。」




 


お読み頂きありがとうございました。

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