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66・応援予告を望まない。

『それでは只今より、本年の天下一大武道会開会式を始めます!司会進行は私、フォルクシア王国広報室室長、バッカスが務めさせて頂きます!』


 ワアアアアアアアアアアッ!!



 割れんばかりの歓声が闘技場に広がり、すごい声量となっている。闘技場は野球場の様になっていて観客が階段式の座席に座り試合を観戦する形だ。

 辺りをぐるっと見渡すが、かなりの人数だ、万単位じゃないだろうか。


 俺達参加者は、四角い闘技台の上で開会式の為に整列させられている。しかし整列している人数は7人しかいないんだが……もう1人はどうしたんだろうか?



 司会進行役の人、バッカスさんが壇上に立って、白い石の様なものに向かって声を発すると大きく声が聞こえる事から、アレはマイクなんだなと察する事が出来た。

 ちなみに広報室ってのは国民に向けての広報やイベントの取り纏めを行う部署なんだろう。




『本日は我がフォルクシア王国、王家の皆様方もこの栄誉ある武道会を観戦されます!では陛下よりお言葉を賜りたいと思います!全員静粛に!』


 しん……と静まり返る闘技場内、闘技場の観客席の中でも特段VIP席な場所には、王家の人々と思われる男女と数人の使用人等と思われる人達がいた。


 明らかに国王っぽい服装に威厳のある髭をしたダンディーなおじさんが立ち上がると、それに倣い他の人達も立ち上がり皆に顔を覗かせた。


 髭ダンディーは国王、その隣には一見若く見える美女……これは王妃だろう。で、その隣が子供たちという訳か。王妃の隣には年の頃女子大生位の王女、それから幼稚園位の小さな王女、最後に成人していると思われる王子。髭ダンディーと美女の間に生まれた子たちは、やはり美男美女であった。やっぱ美男美女のDNAが受け継がれるから王族ってこんな見た目麗しいのかねえ。




 国王が前に立ち話始めると、途端に威厳のある声に会場の空気が変わる。皆緊張して国王の言葉を待っているのだ。




『……皆、今日はこの天下一大武道会を無事に開催出来た事をまずは嬉しく思う。この大会の参加者諸君は、己が研鑽を積み、強さを求め続け、自らが真の強者であると信じる者達であると思う。だが、世界は広いのだ。真の強者を決めるという事は、敗者はその強者の背中を追い、勝者は敗者に追われる立場となり、強さに奢る者はいずれかつての敗者に抜き去られる事となろう。』


 おお、さすが国王、中々良い事言うじゃないか。


『いずれにしてもこの大会で得られる物は、勝者と敗者の両名にとって大きな糧となる事だろう!今日の経験を…』


『あっ!みて!まるいポヨポヨしてるのがいるよ!』


『あら?ほんとうね?テイムされた魔獣ね。』


『イリーナ、あれはスライムっていう魔獣なのよ。』


 ………おや?なんか国王のがっつり威厳のあるありがたいお言葉を遮って、女性陣が普通に話始めたぞ?あのマイク的役割を果たしている白い石、かなり広範囲の音声拾ってない?


 ……ざわ…ざわ……


 ちょっとしたアクシデントに観客も少しざわざわし出してしまっている。




『……………ええと…だから…今日の経験を糧にする事で、今後も…』


 おお……国王はどうやら今のを無かった事にして話を続ける気らしいぞ!がんばれ!



『クローディアおねえさま、すらいむさんはまじゅうなの?あんなにかわいいのに?』


『そうね、魔獣でもスライムは良い魔獣なのよ?森や大地を綺麗にお掃除してくれているのよ。』


『そうなんだ!いいまじゅうなのね!おかあさま、わたしすらいむさんをおうえんしたい!』


『ええ、そうね。イリーナが応援してくれたらスライムさんもがんばれると思うわ。』


『うん!すらいむさんがんばれぇ!』


 そう言って話題の主であるポヨに向けて手をブンブンと振る王女イリーナ。かわいい。けど国王かわいそう……割とまじで。ってゆーかお母様もお姉さまもこれ止める気さらさら無いよね。王子に至ってはどっか違う方向いちゃってるし。



 王女イリーナがポヨに向けて手を振っている事に気が付いたポヨは、饅頭型の体からニョッと手(?)を出して王女に向かってフリフリと手を振りかえす。


『きゃああ!みてみておかあさま!すらいむさんが手をふってくれたよ!かわいいっ!』


『あらまあ……随分賢い子なのねえ。スライムってあんな風にテイム出来たかしら……?』


『かわいい上に賢いなんてすごいわね!イリーナ、みんなでスライムさんを応援しましょうか!』


『うん!みんなでおうえんする!』


『……今日の戦いを糧に……ええと……そう……今後も…まあ……とにかくがんばる様に………。』


 こ、国王!がんばれ!なんとか立て直しを図るんだ!


『……あと…うん……まあ…そんな感じ………以上。』


 ご、ごめん国王!なんか…ちょっと責任を感じる……



『以上、陛下のお言葉を賜りました。参加者の皆さんは陛下のお言葉に則って正々堂々と誇りを持って戦い、観客の皆様も参加者の武勇を目に焼き付け、その全ての称える様に!』


 司会のバッカスさんが一番国王みたいな事言った。



 国王は不完全燃焼のスピーチの後力無く自分の席に戻って行くのが見えた。国王の立場って一体………




 そして俺はというと………完全に参加者全員から漏れなく殺気を向けられているのであった。

 そりゃそうだよ……もう開会式で王族からの公式の応援予告を貰っちゃってるんだもの。


「………や、やりずれぇ……」


 俺は1人小さく溜息を付くのであった。




『尚、今回は特別参加として、ここにいらっしゃいますラファエル王子が参戦されます!』


 おおおおおおおおおおっ!


 闘技場が歓声に沸く。すごい人気だな。


『皆様ご存じの通り、ラファエル王子はご自身の努力と天才的な才能から冒険者としても腕を磨く修行を行い、クラスSの称号を持ち、国内でも最強と名高い剣豪です!王子の活躍に皆様乞うご期待!』


 わあああああああああっ!


 成程、このラファエル王子もクラスSなのか。イケメンで強くて王子、凄い黄色い声………ふむ………。

 ……ちらっとポヨを見ると目が合う。


「ピッ?(やっちゃう?)」


「………やっちゃうか?」


 お互いにコクリと頷く。


『それでは開会式を閉幕致します。選手は控室へ。試合の組み合わせはこの後発表しますので、呼ばれた選手は会場へ向かう様に!』





 無事(?)開会式が閉幕すると、不意に横から声が掛かった。


「はははっ、ケイマよ!どうやら逃げずにここまで来た様だな。」


 金髪ロンゲのイケメン、アーレスが声を掛けてきた。


「ああ、どうも。逃げる理由が見当たらないからな。」


「はははっ!せいぜいどうやって無様な姿を晒さずに負けるかを考えておく事だね!」


「それはこっちの台詞だな。アンタこそここまで冒険者ギルドで啖呵を切ったんだ、負けた時の言い訳は相当凄いものを考えているんだろうな。」


「はははっ!この私に向かってそんな事を言ってくる人間は久しぶりだよ!だが敵は私だけじゃない、ここにいるヤツらは私でも油断しては勝てないヤツラばっかりさ。特にラファエル王子はね。」


 へえ、こいつでも油断は出来ないやつらばっかりなのか……


「君がペテン師だと証明して、君に騙されているプリティ達を救ってみせよう!それではケイマよ!願わくは決勝戦で会おう!はははっ!」


「望む所だ。お前こそ決勝までに敗退するなよ。その時は負けて泣きながら便所に引きこもらせてやるから。」


 そうして各々参加者は闘技台を後にし、控室へと向かった。




 ----------------




 その頃のウルフィアというと。


「さあさあ張った張った!天下一大武道会の優勝者は誰だ!もう直ぐ第1試合が始まっちまうぞぉ!そろそろ締切るから急いでくれよ!」


「………うーん……」


「1番人気はなんと言ってもラファエル王子だ!次はランクS冒険者アーレス!」


「……失礼、ケイマさんは何番人気ですの?」


「ん?ケイマ?……ああ、あのスライムで戦うっつー魔物使役者テイマーか?ああ、あいつに何人か賭けてはいるが、何故か全員冒険者だな、一般のヤツはケイマに賭けてるやつはいねえな。お嬢さんも冒険者かい?冒険者は何で皆ケイマに賭けるんだ?」


「うふふ…………内緒ですわ。では、私はケイマさんに金貨100枚を賭けますわ。」


『はああっ!?』


「お、おいおいおーい!お嬢さんよ!金貨100枚って……ええ!?ケイマってのはスライムが戦う魔物使役者テイマーだぞ!?王子に当たっちまったら瞬殺だぞ!?」


「ええ、構いませんわ。ケイマさんに金貨100枚はダメですの?」


「い、いや…ダメってわけじゃねえんだが………本当にいいんだな?」


「ええ、お願い致しますわ。」


「おお……ちょっと待ってな……………ほれ、これが金貨100枚をケイマに賭けたっている証明だ。万が一ケイマが優勝したら、これ持ってここに来な。引き換えてやる。」


「わかりました、ありがとうございます。ではまた後程…………ふふふっ。」


『……………』




「金貨100枚このケイマってやつに賭けるとは……余程のギャンブラーだなあのお嬢さんは…………確かに他の冒険者もケイマに結構な額賭けてたが………一体何者なんだケイマってのは………しかしまさか………なあ……」




 --------------




 そして天下一大武道会が始まった。


『第一試合ーー……………』



 わあああああああああああっ!!








「………………………」

「………………………」

「ピッ?」



 第一試合、俺はアーレスと向かい合っていた…………





お読み頂きありがとうございました。

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