64・目立つのを望まない。
「で、結局天下一大武道会に参加する事になったんですね?」
「ええ、実はそんな感じで………まあちょっと勢いというか、あのままではアレで………アレが……ソレだったんです。」
「どれなんですか。」
アーレス一団が去り、天下一大武道会の出場をする事となったが、俺達はなんとなくその日はクエストを受ける気にはなれず、ギルドに併設されている休憩スペースでぐたっと座っていた。
しばらくするとティアとミレイユさんに「どうしたんですか?」と声を掛けられた為、先程の一連の流れを説明する事となった。
「うーん、でもそんなに深く考える事ないんじゃない?もう圧倒的に優勝しちゃえば?アーレスってあたしも苦手なんだよねー。その鼻へし折っちゃえば?もしくはあの金髪根元から千切ってマフラーでも作ってやったら?」
「その豊かな発想の怖いよ。誰得なんだよそのマフラー。呪いのアイテムじゃねーか。」
本当怖い事いうなこの子……
「私もそう思いますけど…………でもケイマさんが優勝する事に何か問題があるんですか?」
ティアとミレイユさんは簡単に言うが……
「……優勝しちゃったら、なんか面倒な事とか増えないかな?国王からなんか任命されちゃったりとか…………そういうのがあったら正直凄く面倒なんだよねえ……」
「あー……確かにね。なんか優勝者には国からあった様な気がするけど……」
「え?やっぱり何かあんの?」
「ご褒美ですか!沢山のお菓子を要求しましょう!」
「はい、レインは向こうでお菓子食べてようね。」
「わーい!」
「あ、その前にこの袋をルノーさんに渡してからね。」
レインは袋に金貨が10枚ちょっと入った袋を受け取ると、うきうきしながら軽食が食べられる場所へと走って行った。とりあえずツケは払っておかなければ。
『………』
「ん?どうした?」
「いや、レインちゃんの扱いってあんな感じでいいんだ?」
「ああ、アレはあんな感じ。本人が嬉しそうだからいいんじゃない?」
「あはは……と、話を戻しますけど、天下一大武道会の優勝者には褒賞が与えられます。」
「ほう?褒賞とな?王国が用意するものだ、くだらんものではあるまい?」
フェニがそう言うと、ミレイユさんは少し苦笑いをしながら答える。
「ケイマさん達にはくだらないものかもしれませんよ?一応毎年多少の変更はありますが、だいたい優勝者には騎士爵、この国の騎士として認められたという証である爵位とお金、それから住居だったと思います。ここ数年は変わっていないかと。」
うーん……爵位かー、しかも騎士爵って爵位の底辺だよな………戦争の時とかに率先して出ていかなきゃいけないヤツ……マジで要らねえな………
「ケイマ、今マジで要らねえな…って顔してたね。」
「えっ、そんな顔に出てた?確かに凄く要らないとは思ったけど。」
「望む方は望んでいるのですよ?一応貴族になれば、毎月決まったお金が入ってきますし、他の貴族や王家との婚姻等も権利として付いてくるんですよ?」
「なんだ、ミレイユは随分と詳しいではないか?国の回し者か?」
「なんでだよ。ミレイユさんは伯爵家の娘さんだから知ってるんだよ。お前らと違って常識の塊の人なんだよ。」
「常識位我にもあるわ!燃やしてやろうか!?」
「ひどいです!私もですわ!」
「私はエスターニア王家のメイドとして常識しかむしろありません。」
「自覚が無い所が酷いと俺は思うんだ。」
『なぜ!?』
「………まあ、爵位があると良い事もありますよ?」
ミレイユさんは流れのまま会話を進める。
「うーん、良い事ですか?」
「例えば………伯爵家の娘である私と結婚出来る様になる……とか?」
そう言ってミレイユさんはちらっと上目遣いに俺を見る。まあ、なんて凄い破壊力の上目遣いなんでしょう……そりゃ『嫁にしたいランキング1位』にもなるわコレ。
『!!』
その時一瞬張り詰めた空気になった。
「うむ!爵位は不要だな!」
「で、ですわね!それならばお金を要求致しましょう!」
いや、言い方。身代金か。
「その通りです。爵位は減りませんがお金は減っていくものです。いくらあってもいいかと。」
「そ、そうね!皆の言う通りよ!」
満場一致で爵位は要らないという結論の様だが、ミレイユさんは「むぅ」と少し残念そうだ。そんな顔もかわいい。美人はどんな顔をしてもかわいい。
「そういえば、エスターニアにはそういった武道会みたいなものは無いのか?」
俺は参考までにウルフィアとフォクシーに聞いてみる。
「そうですわね……武道会は1年に1度エスターニアでも行われておりますわ。やはり強さこそエスターニア国民が信じるものですから。」
「へえ、ちなみに何か褒賞は出るのか?」
「ええ、もちろん出ます。昨年は希少である『イエローオーク』と『ブラッドチキン』の生肉詰め合わせセット2週間分が優勝者に与えられました。」
「また肉とか!!」
しかもまた出たよ生肉!!
「2週間分て半端過ぎない!?2週間分て人それぞれで曖昧すぎるでしょ!!参加者それで満足するの!?暴動とか起きない!?」
「何を仰います。あの『イエローオーク』と『ブラッドチキン』ですよ?」
「ごめん『あの』とか言われても分かんないし俺の質問に答えてないし。」
「うふふふ、皆これを目指して血眼血みどろになって殴り合っておりますわよ?」
うふふじゃない。微笑ましく笑う表現一つも無かっただろ……
「まあ褒賞はともかくとして、アーレスよりも下位になるのは色々面倒な事になるしなあ。どしたもんか。」
「あっ!そうだ!」
ティアが何か思いついたようだ。
「ケイマ自身がが目立たない様に優勝すればいいのよ!」
『?というと?』
皆の頭に?が浮かぶ。
「ケイマが直接戦わずに勝てば、ケイマの注目は最小限に収まるはずよ!」
な、なるほど……そういう事か…!
「い~い案だ……ティアにしてはやるじゃないか、見直したぞ。」
「一言余計。でも良い案でしょ?ケイマ自身が目立つのを最小限にするならコレしかないわ。」
「すみません、どういう事でしょうか?」
ミレイユさんが質問するが、ミレイユさんだけでは無くて俺以外の皆は未だ少し理解が出来ていないようだ。
「つまりね、ケイマ自身が戦って強さをみせるんじゃなくて………テイマーとして出場して従魔に戦ってもらうのよ!」
「な、なるほど、でも従魔というのは……」
「うむ、我とレイン、それからポヨとシルバーだな。」
「シルバーって?」
「ああ、ティアとミレイユさんは見た事なかったか。『羊の寝床亭』で預かって貰ってるんだが、この前出来た従魔だよ。一角獣の。」
『一角獣!?』
「まあシルバーも我ほどでは無いがそこそこの実力はあるな、まぁ間違い無く相手が何人か死人になるだろうが。となると優勝するには当然我が…」
「却下に決まってるだろ……むしろお前が出た方が死人が出るだろうが!」
「大丈夫だ、頭と心臓が残っていれば我の血で容易に治せる。」
「それは大丈夫とは言わない。俺が大丈夫じゃない。却下。」
「むう………つまらん………」
「ま、まあフェニさんとレインちゃんはちょっと強さがアレみたいだし、一角獣のシルバー?はちょっと目立ちすぎるし……やっぱり色んな意味でポヨが良いと思うのよね。」
「ピ?」
ポヨンと体を揺らすポヨ。
「うーん、そうだな。ポヨなら俺も手加減具合に信用が置けるし、何よりやりすぎても回復が出来る点が大きいな。よーしポヨ!君に決めた!」
「ピッ!」
「わかりました!がんばります!」とばかりにポヨポヨとジャンプするポヨは、どうやらやる気らしい。
「ですが、ポヨちゃんは回復は出来るのでしょうけど……攻撃はどうなんでしょうか?こう言っては何ですが……」
「あーそっかあ……そういえばそうよね……」
あーそうか、ポヨの攻撃力を見た事がある人は、うちの連中の他だとステラさん位か。ミレイユさんとティアは知らなかったか。
「お二人とも、大丈夫ですよ。こう見えてポヨは強いんですよ。」
「え?そうなんですか?どうやって攻撃を……」
「体当たりですね。基本はポヨアタックという体当たりです。」
「ポ、ポヨアタックですか……」
「なんか弱そうね……あとは?」
「ファイナルポヨアタックという体当たりがある。」
「また体当たり!?名前以外の違いは!?」
名前以外の違いか………
「なんていうかこう……………ポヨアタックが『ドン!』だったら、ファイナルポヨアタックは『スドン!』って感じかな?」
「名前変える必要あんのそれ?」
「あとは最近覚えた『エターナルディスティネイションポヨアタック』があるかな。」
「なんかとりあえず………すごそうね……いや、名前位しか何がすごいかは分からないけど……」
「音的には『ドバン!』て感じの強さかな。」
「成程『ドバン』ね………うん、とりあえず結果ポヨで大丈夫なのよね?」
「ピッ!!」
「ああ、問題ないってさ。」
「方針は決まりましたね!参加登録は当日朝になりますので、がんばってくださいね。」
最後にミレイユさんが一連の流れを締め、いつの間にか始まっていた作戦会議は終了した。
なるべく俺自身が力を発揮せずにアーレスにも勝つ、ベストアンサーが出来たのではないだろうか。テイマーとして参加するなら目立つのはどうしても従魔になるからな。後はやはり国中の猛者が集まる武道会だ、ポヨで手に負えない場合の方が多いだろう。けどそこはちょっと手を出せば片が付くだろ。
そう思っていた時期が俺にもありました……と思う事になるのはまた1か月後だった。
お読み頂きありがとうございました。




