61・結局失敗を望まない。
仕事が異常に忙しく、中々続きを書けない日々ですが、お読み頂いている方、見捨てずブックマークしてくださっている方、評価ポイントをくださった方々にお礼申し上げます。帰りの車の中等で話を考えていたりはするのですが、中々形に出来ず……ゆっくり更新させて頂きます。
家庭教師の仕事はマシュー君をケンシ○ウに育て上げ、謎の流派『鳳凰神拳』を習得させる事によって無事依頼完了となった。
いや、無事かどうかは……まあアレだけど。
「リリアさん、1件依頼完了となりましたので処理をお願いします。」
そして俺達一行は依頼完了の報告をする為にギルドを訪れていた。
「ケイマさんお久しぶりですね。依頼完了ですね、では書類をいただけますか?」
「はい、これです。」
俺は懐からジーナス家当主アルフレドさんの依頼完了のサインの入った書類を取り出すと、リリアさんへ手渡しする。
「あ、ジーナス家の家庭教師のお仕事だったんですね。……………………………ケイマさん達が受けてらしたんです…………ね……」
うん……今の間の意味はだいたい分かる、痛い程に。しかし俺は声を大にして言おう。
「ええ!無事に!魔術と近接戦闘と勉強と一般教養を教えて!ジーナス家のマシュー君を育てあげた上に!ご夫妻からお誉めの言葉と感謝の涙も頂いた程です!」
「えっ!?そ……それはすごい事ですね!大貴族ジーナス家とその様な縁が出来るのは凄い事ですよ!」
「フッ、でしょう?」
チラッと冒険者達を見てみる。
『おい、聞いたか?あの脳筋爆弾一派がジーナス家の家庭教師の仕事を完遂したってよ。』
『ジーナス家の息子ってアレだろ?他の貴族の家庭教師達が匙を投げ続けていたっていうマシューって少年だろ。確か線の細い美少年で女の子みたいなやつだろ?』
『おいおい、あいつら実は戦闘だけじゃなくて頭脳派でもあったのか?すげえな…』
『魔術も教えられるの?私も教えて貰おうかしら?凄そうじゃない?』
『魔術だけじゃないみたいだぜ。』
『ジーナス夫妻に認められるって事は相当だぞ。』
『俺達も教えて貰うか?』
『そうね…なんだか今までのイメージがあったから近寄り難かったけど、線の程い少年を教えられる位なら…』
『よし、ちょっと頼んでみようか、俺達も強く変われるかもしれない。』
『よし、そうと決まったら!』
超好感触。これだよ欲しかったのは。
周囲の冒険者達が俺の完了報告を聞いてザワザワし出している。フフフ…予定通りだ。これで俺達が今まで手の付けられない爆弾脳筋一派だという不名誉を払拭できる!
今日から恐怖の対象では無く尊敬の視線を集めるのだ!
と、その時、冒険者ギルドの扉が開いて1人の男が入ってきた。
「おお、やはりこちらにおられましたか兄者達。」
最近見慣れたケンシ〇ウが入ってきた。
相変わらず貴族の「き」の字が微塵も感じられない肩の辺りからビリビリに破けたジャケットを着た、1人だけ画質の違う顔をした筋肉隆々の大男が入ってきた。
こ、このタイミングで入ってくるとか!!
俺達が『ジーナス家の家庭教師の仕事を完遂した』その事実だけが必要なのであって……出来れば『その結果の実物』に来ては欲しくなかったんだけど……
『…………』
突然の歴戦の猛者の様な大男の乱入により一気に静まり返るギルド内。冒険者達だけでは無く、受付にいるリリアさんやエスティナさんも口を開けたまま動きが完全に止まってしまっている。
『……な…何者なんだ彼は……』
『なんという……強者の気配だ……』
「ど……どうした……?マシュー君?」
『マシュー!?』
室内で冒険者達の声が一斉にハモる。
「ぬ?私の名前を呼ぶのは誰だ?」
マシュー君が冒険者達の方を向くと、彼らは『バッ!』と音がする位一斉に目を逸らして下を向いた。
「ふむ。うぬ等、人の名を呼んでおきながら回答をせんとは……どういう了見か!………聞かせて貰おうか!?」
うぬ等とかもう!威圧感ハンパ無いなこの元少年!
「ま、まあいいだろマシュー君。」
「は、兄者がそう仰るのであれば。」
ここで変に絡んであの鳳凰神拳を披露されてはマジ困る。
『……お、おい、確かマシューって……線の細い美少年って話じゃなかったか…?』
『少年……?いや、あれはどうみても相当な世紀末を潜り抜けてきたおっさん……』
『い、いや、11才位……確かにそうだったはずだが…』
『アレ11才!?』
『もしかして…彼らに教えて貰うと…………あんな感じに変身しちゃうの……?』
『…………………』
『よし、教えて貰うのやめよう……』
……ですよねー……まあ実物見たらそうなりますよねー。
どうやら、家庭教師作戦は失敗になってしまったらしい…………いや、それどころか再起不能感すらある……ああ、もう……いいや……
「それで、今日はどうしたのだマシューよ?何か用があるのではないか?」
「そうなのですフェニの姉者。実は父上と母上より、これを預かって参りました。兄者、これをお納めください。」
そう言ってマシュー君は手に持っていたそこそこ大きな袋を俺に渡してきた。
「これは?……金貨?」
「はい、父上と母上は私をここまで育ててくださった兄者達に対して、ギルドの報酬だけでは足りないと仰っておりました。それゆえにこちらを追加で報酬として渡す様にと言われて参った次第です。」
袋の中には金貨が大量に入っており、ジャラジャラと良い音を立てている。か、かなりの大金だけど……
「てゆーかこんな大金………護衛も無く身一つで片手に持って歩いてたの……?」
「はっはっは、何を仰います。兄者も良くご存知でしょう?私から奪おうとするならばその者の首と胴体を即座におサラバさせればいいだけの事で、万事簡単です。露店で串焼きを買う方が手間が掛かる位ですよハッハッハ。」
『っ!?』
ハッハッハじゃねえ!やめろ!これ以上地雷を爆発させながら歩くな!
冒険者達が息を飲んだのは火を見るより明らかにだったし!
「それに『近づく者には死あるのみ』という闘気を撒き散らしながら歩いておりました故大丈夫でした。お陰で皆が道を譲ってくれましたな。」
「そ、そう……譲ったってゆーかソレ……いや、ああ、もう……いいや。」
「まあ途中から王国の兵士の様な輩どもが、随分と緊張した面持ちで後ろから付いてきてはおりましたので、鬱陶しいからいっその事蹴散らしてくれようかとも思いましたが、特に何もありませんでしたので放置しました。」
良かったぁ何も起こらないで!でも超不審人物で警戒されてんじゃん!
「そ、そうか。じゃあこれはありがたく頂いておくよ。アルフレドさんと奥さんにもお礼を言っておいてくれ。それと、何かあったら相談してくれ、とも。」
「はっ。確かにお伝え致します。では私はこれで…」
『……ふぅ……』
マシュー君の帰る発言により、ギルド内の何やら圧縮された様な空気が緩む。なんか、ごめんね、皆……
そして、マシュー君が扉から外へ出ていった直後だった。
扉からマシュー君と入れ違いにステラさんが入ってきた。恐らく依頼を受けに来たのだろう。
そしてステラさんは俺達を見つけると、意味深に「フッ…」と笑い、優しい笑顔になる。
「今の大男は……マシューだろう?」
一発で当てた!?ステラさんすげえ!
「いやマジで良く分かりましたねステラさん!?」
「フフ、良く分かった等当たり前だろう?…………兄弟なのだから。」
「今回に限っては兄弟だからっていう良い話は当てはまらないと思いますけど!?」
「それにやはりな…………どう成長してもマシューの面影は明らかに残っているよ。」
「どの辺に!?どの辺に残ってます!?俺が言うのもなんですけど微塵も残ってませんよ!?」
「兄弟だからな。」
兄弟だからってゆーか、もはや精神感応レベルじゃないの?エスパー兄弟なの?
「風の噂でケイマ達がマシューの家庭教師をしているという事は聞いていたが……フフフ、随分と成長したようだな。まるであの頃とは別人のようだ。私は嬉しいよ。」
「まあこの場合逆に『別人だよ』と言われた方が『なるほど』としっくりくるとは思いますが。」
てゆーかジーナス一家は本当におかしな位にマシュー君の変化に動じないよね。
「もうジーナスの姓は名乗れないが、姉として礼を言わせて欲しい。マシューをあれ程までの男に導いてくれて……この恩は、きっといつか返させてもらう。」
「そ、そうですか……あ、いや、なんか逆にすみませんというか……」
「さて!私もマシューに追い付かれない様に精進あるのみだ!今日もがんばるか!」
「ふむ、ならば我らがステラの事も鍛えてやろうか?」
止めろフェニ。割とマジで。
「フフフ、それは魅力的だが暫くは自分の力で頑張ってみるよ。」
「うむ!その心意気や良し!精進するのだぞ!」
そしてステラさんは揚々と依頼書のある掲示板へと歩いていった。マシュー君に負けない様に、ステラさんには頑張って欲しい。
ただ、願わくばステラさんが精進する方向を間違えてあんな風にはなりません様に。女ケンシ○ウの様に…………
お読み頂きありがとうございました。




