60・試されるのを望まない。
「………とまぁ、こんな感じの様々な教育指導を行わせて頂きまして。」
とりあえずここにいる一人だけ異常な程にキャラが濃い男がマシュー君だと説明した後に、行った修行の内容を一部両親に報告する事にした。
報告したらダメそうな物(フェニとウルフィアの修行の一部)は心にしまっておいた。
「……やってくれたな……」
ヒィっ!?やっぱり!?
「すすすすすみませー…」
俺は即レベル131の敏捷性を稼働させて土下座をしようと試みた…が。
「…良く……やってくれたなケイマ殿……!アルフレド感動!」
アルフレドさんは涙を流しながら喜んでいた。
「……え?これで良いんですか?」
「良いも何もあるまい。佇まいを見るだけで、マシューが既に只者で無い事は分かる。」
でしょうね。胸に7つの傷がありそうですしね。
奥さんのロザリアさんの目にも、アルフレドさん程では無いがうっすらと涙を滲ませていた。
このビジュアルの変化、そんなに嬉しい……?
「分かるわアルフレド。マシューから素晴らしい色の闘気が滲み出ています。…良くがんばったわね、マシュー。」
闘気と書いてオーラと読んだよこの奥さん!完全に知ってる人の発言でしょソレ!
「ありがとうございます、父上、母上。俺は兄者と姉者達のお陰で無事、伝説の流派『鳳凰神拳』を習得するに至りました。」
「『鳳凰神拳』!?何それ今初めて聞いたんだけど!?あの修行ってそんな流派の内容だったの!?でも似たような流派は知ってる!」
「その通りだケイマ。鳳凰神拳は我が考えた流派だ。」
どや顔で胸を張るフェニ。
「お前が開祖かよ!変な流派継承させんな!」
インチキ臭い流派なのでアルフレドさんに弁解しておこうか……
『な……なんと……あの伝説の『鳳凰神拳』をマシューが!?』
「知ってんの!?本当に伝説の流派なのそれ!?」
両親が揃ってビックリしているのに俺はビックリして思わず聞き返す。
「マシューよ……!私はお前を誇りに思う。あの伝説の流派を継承するとは……」
そして人の話を聞いてないとか!
「ケイマ殿、私達はあなた方に感謝します。マシューを立派な漢に成長させてくれて。」
漢って…この奥さんさっきからちょいちょい挟んでくるなあ…
しかし、この盛り上がっている場面で異議を唱えてくる者がいた。
「私は認めませんぞ旦那様!奥様!」
「何?なぜだカイン?」
「確かにマシュー様はこの3ヶ月で見た目こそ漢となりましたが、肝心なのは礼儀作法や教養、実技等の中身でございます!」
「ふん、我の指導だぞ?そこは抜かり無いに決まっているだろう。」
何で一番礼儀作法も教養も無いお前が偉そうにそれを言う。
「マシュー様には失礼ながら、試験をさせて頂きたい!お前達冒険者の指導がマシュー様の全てを成長させたのかを見せて貰おう!」
「望む所だ!我らの最高傑作であるマシューに死角等ありはしない!万能である鳳凰神拳の力を見せてやれマシューよ!」
「分かりましたフェニの姉者、俺の命に代えても完璧な礼儀作法、教養、力をお見せしましょう!」
礼儀作法に命懸ける必要ある?
あと、礼儀作法や教養は教えたの俺とフォクシーだから。フェニの胡散臭い流派は関係ないから。
「分かった。マシューの覚悟見せてもらったぞ。ならばカインよ、当主の私が許す。全力でマシューを試すがいい。」
「畏まりました、旦那様。」
カインはアルフレドさんに深々と一礼をした後に、こちらを向き直す。
「ならば私が即興で作る問題に答えて頂きます。まず、学園ではマシュー様は算学が苦手でいらっしゃいました。故にまずは算学からです。」
「望む所。鳳凰神拳を極めた今の俺に……死角無し。」
だから算学にも鳳凰神拳関係ないって…
「ほう…随分と余裕ですなマシュー様……ならば第1問、『45258引く25126は?』。」
引き算かよ……5桁ってそこそこ優秀な人でも厳しくない? と、思っていると……
「10245。」
『え?』
ノータイムで回答をしたマシュー君に、俺とカインさんが同時に声を上げてしまった。
「な……そ、即答ですと……!?まさか本当に算学までもを極めてきたというのか!」
「10245。正解か否か!」
マシューは自信しか無い顔で答える。
「(即興だからまだ頭の中で私の計算が終わっていないというのに……!く、即答されたからと言って焦るな……)」
「10245!正解か否か!?」
即答したマシューが押しまくる。
「(く…落ち着いて頭の中で計算……)」
「10245ォ!正解か否かァっ!!」
「さすがマシュー様、正解です。」
違う。
正解は10132だろ。
『おお……!あんなに速く計算が出来る様になっているとは…』
ギャラリー(親)は感嘆の声を上げているが………
答え違う。
押されたな、カインさん……完全にマシューに押されて正解って言っちゃったよ……
「驚いたかケイマよ。あれは我が教えた鳳凰神拳の奥義の1つ、『とりあえず即答して後は雰囲気のゴリ押しで正解を勝ち取る』技だな。」
「いやちゃんと教えろよ。奥義じゃねーよ。」
「く、ならば次は……」
その後、算学以外に魔法や戦術、果てはテーブルマナーや女性のエスコート仕方等もカインから出題されたが、最初のインチキ回答以外、マシュー君は全てマトモに正解してみせた。
「……いいでしょう合格です。ならば次は実技です、修練場へ参りましょう。強さが見た目だけでは無いと証明して頂きたい。」
「望む所だ。闘いこそ俺のフィールド。」
「頼もしい漢になってくれたものだ。なぁロザリア?」
「ええ、本当に。」
……あんたら、こんな息子で本当に良いの?
とりあえず俺達は修練場に移動する事にした。
ーーーー
全員で修練場に着くと、地面に立てた藁人形があった。
「さて、ここに藁で出来た人形があります。これを一撃で真っ二つにして頂きます。」
あ、これは知ってる。すんなり切れそうだけど、鋭い一撃じゃないと案外切れないんだよな。
「ほう、そんな事で良いのか?」
「自信がお有りの様ですなマシュー様。」
「是非も無し!」
「ではやって頂きましょうか。剣はこちらを……」
「笑止、剣等は無用。」
「え?」
「鳳凰神拳に死角無し。漢ならば…………素手で十分。」
マシューが目を閉じユラリと構える。
そして……カッ!と目を見開く。
てゆーか、さっきからちょいちょい気になってるけど、子供って是非も無しとか笑止とか日常で使う?
「アタァッッ!!」
何処かで聞いた気がする掛け声と共に横凪ぎに手刀を放つマシュー君。
『……』
しかし何も起こらない。
「……は……ははは、掛け声の割には失敗ですな、マシュー様……え?」
カインが失敗と判断しようとした時、マシュー君がスッと人差し指を藁人形に向ける。
「切れていない藁人形を指差してどうかしましたかマシュー様……」
「お前はもう…………………………切れている。」
ズッ……ズルッ…ドサッ。
マシューがこれまた何処かで聞いたセリフを言い終わった瞬間、藁人形の上半身は真っ二つになって地面に滑り落ちた。
「なっ……!なん……ですと……!?」
見事藁人形を真っ二つにしたマシュー君は、カインさんに向き直る。
「これで満足か?」
「なんと…………」
カインさんは今のマシュー君の実技に納得してないのか混乱しているのか、とにかく驚愕しているのは確かだった。
「……い、いやあんな事で藁が……たまたまに決まっています!次は…」
「カイン、お前は良く見ると藁人形に似ているな。次はお前に当てない様に注意せねばな。」
「はい合格ですー!マシュー様合格でございまーす!」
……弱いなーカインさん……
「ふ、当たり前だ。我が弟子マシューの実力はこれ以上は見る必要は無いだろう。」
「しかし残念ですフェニの姉者。奥義『鳳凰百烈拳』位は披露したかったのですが。」
「似たようなのを聞いた事があるんだけど……一応聞くけど、どんな奥義?」
「3分間に100発のパンチを相手に打ち込む奥義です兄者。」
へぇ、3分間に100発か、すごいな…………3分間に100発…………180秒で100発……………………
「それちょっと頑張れば結構な人達が出来るんじゃない!?」
「まさか、ご冗談を兄者。108ある鳳凰神拳の奥義のうちの1つですよ?常人に真似等は出来ますまい。」
「奥義108もあんの!?もはや奥義の数じゃないだろ!絶対忘れ去られるやつあるだろ!」
「む?なんだ。先程からケイマは我が鳳凰神拳をバカにしているのか?」
「バカにはしてない。インチキだとは思っているけど。」
「変わらないだろ!」
「じゃあ、さっきの藁人形を切ったのは何て奥義なんだ?」
「ははは、あれは只の手刀ですよ兄者。」
「只の手刀の方が凄くない!?」
この流派もうインチキにしか見えない…………




