6・不審者の認識を望まない。
フォルクシア王都に着いた。ここはフォルクシア王国の中心地であり、商業・学問・武術等の中心地でもある……とミレイユさんが言っていた。
王都を囲う城壁は、人々がどの位の時間をかけて造ったかは知らないが、なにより横にデカイ……王都を全て囲っていると言われると納得出来るな。間近に見ると高さもビルの3階位はあるか?
「この城壁はこの王都が出来た700年程前に当時の魔導師達が数百人規模で土魔法を使って造ったそうです。」
感心して見上げていると、ミレイユさんから解説が入った。
「あの守衛のいる所が入り口です。」
俺はミレイユさんを背中に乗せたまま、入り口に辿り着くと、守衛の1人がミレイユさんに話し掛けてきた。
「ミレイユさんじゃないですか!どうしたんですか!?」
「どうも。実は色々ありましてこんな状態に…………」
ミレイユさんは今までの経緯を守衛に説明すると、守衛は俺に何やら紙を渡してきた。
「入門証だ。本来なら銀貨2枚かかるところだが、我らのミレイユさんの命を救ってくれたのだ。金など取れん。」
「我らの……?いや、とりあえずありがとうございます。」
「これは今日から7日しか効力は無い。冒険者ギルドに入るのならば、ギルドカードが入門証になるから、今後は不要だ。」
「なるほど。わかりました。」
「早くミレイユさんを休ませてやってくれ。」
入門証を貰った俺は、ミレイユさんと共に王都の中へと入っていく。守衛は俺をなぜか敬礼をしながら見送っていた。
王都内部は中世ヨーロッパの様なデザインや作りの建物がひしめいていて、多くの人々が行き交い、馬車が走り、冒険者だろうか?ファンタジーな武器や防具を着けた人も歩いてる。
うぉ!魔物もいる!でも誰も気にしてない?もしかしたらペット的なものか?しかしなんかワクワクして不思議と勝手に気分が盛上がってきた!
にしてもさっきから道行く人にチラチラ見られてるな……キョロキョロと辺りを見てる自覚はあるけど、田舎者感が出すぎているのか?それとも不審者に見えるか?見えるだろうな……美女を背中に乗せた不審者か……ハハハ、警察が来ないか心配だな……
「ケイマさん、そこが冒険者ギルドです。剣の看板の冒険者ギルドって文字が書いてある大きな建物です。」
お、剣の看板の建物がそうなのか。しかし文字は読めないな……最初の1文字すら何語か分からん。
「かなり広い敷地ですね。2階建てだし。冒険者ギルドって大きな組織なんですね。」
「はい、魔物から街を守る役割ですので。騎士団とは違う役目ですが、国内ではそれなりに優遇されてはいるんです。あ、そこが入り口ですね。」
なるほど、冒険者ギルドは一流企業なのか。そしてミレイユさんは一流企業の社員という事になるんだなあ。一流企業は色々大変ですよ?
冒険者ギルドの入り口は、西部劇の酒場に出てくる様な扉で、少しワクワクしながら中に入る。
中に入ると、広いロビーの様なスペースがあり、正面に女性が4人座っている長いカウンターがある。4人の内2人は探索者の対応をしているようだな。しかし受付嬢は異世界でも美人が定番なのか?全員美人だよ、数年コミュニケーション放棄してきた俺にはきついな。
その右側には探索者らしき何人かが掲示板の様なものを熱心に見ていた。もしやあれがクエストの掲示板か?
そして左側にはレストランの配置の様に椅子とテーブルがあり、更に奥には食べ物や飲み物を売っている場所があった。そこにいる人達のテーブルに酒や食べ物が並んでいることから、やはりそうなのだろう。
もちろんテーブルに紙を広げて何やら真剣に話をしているグループもいるので、休憩や談話をする場所扱いなのは間違いなさそうだな。
中に入ると、知らない不審者が入ってきたせいか一瞬静かになった。ああ、この空気やだなー。皆すげー見てるよ……
「どこに行けばいいですか?ミレイユさん。」
「はい、とりあえず受付カウンターの右にある通路……はい、階段の左の。」
俺はミレイユさんに言われた場所に向かおうとする。
『ミレイユ!?』
『ミレイユさん!?』
びっくりした……受付嬢を含めた様々な場所からほぼ同時にミレイユさんが、呼ばれたよ。やっぱ人気あるんだなミレイユさん。さっきの守衛も「我らのミレイユさん」とか言ってたし。
「ミレイユ!どうしたのよそれ!?」
受付嬢の1人が慌ててカウンターから出てくる。肩までの長さの金髪の娘さんだ。
「ケイマさん、ありがとうございました。多分もう大丈夫です。」
「そうですか?わかりました。」
ミレイユさんを降ろすと、出てきた金髪の受付嬢がミレイユさんの両肩を掴み揺さぶっていたが、ちょっと興奮しすぎだろ。ミレイユさんの状態を考えたらどうなの?
「何があったの!?」
「色々と大変な事があったのよ。でも……」
「大変な事……!?」
ミレイユさんがそう言うと、金髪の受付嬢はキッと俺を睨み、そして……
「お前か不審者め!!」
いや、凄い油断してたのが原因だけど、まさか攻撃される可能性は考えないよな……だって今俺は感謝される側だと思ってたから無防備に棒立ちだもんな……そりゃ防御も出来ないよ。
そういやミレイユさん、ギルド職員も戦力として貸し出ししてるって言ってたっけ。この受付嬢もどーりで強い訳だよ。
そして金髪の受付嬢の放つ側頭部への鋭い蹴りに、俺の意識は刈り取られた。
ーーーーーー
俺が金髪の受付嬢に倒された時、ギルド内は静まり返っていた。ミレイユさんは真っ青になる。
「…………リリア……何を……」
「何をって、最近ミレイユに付きまとってくる不審者がいるって言ってたやつでしょ?」
「私は付きまとってくる不審者に進んで背負われる程無警戒じゃないわよ!」
「……へ?……よく考えたら……そうね。じゃあ……誰?」
「この人は森でオークから助けてくれた命の恩人よ!」
「え?でも……その割りには一撃で……」
「武闘士のあなたの蹴りなら誰でもああなるわよ!」
すると、金髪の受付嬢リリアは、恐る恐る倒れている俺の方を見る。
「…………ど、どどどどどうしよう!?やっちゃった!?」
「とにかく医務室へ運んで!」
そして俺は医務室へ運ばれたのだった。