57・捻れ切ったやつらを望まない。
アルフレドさんの家で話をした翌日。
冒険者ギルドのクエスト範疇ではあった為、一時的なものではあるが家庭教師として今日から仕事を行う事となった。
「ケイマ様、私は旦那様付での他の仕事がありますので、今日からはこちらの者を付かせますのでなんなりとお申し付けください。」
メイドのサラさんから紹介されたのは、金髪の長い髪のメイドさんだった。
「は、はじめまして。アリアと申します。よ、宜しくお願いします。」
うむ、少し緊張した感じがなんとなく可愛くて良し。
「こちらこそ宜しくお願いします。平民の冒険者なのでもっと気楽に接してくれて構いませんよ。」
「は、はい!わかりました!」
「ではアリア、後はお願いしますね。私はこれで失礼致します。」
サラさんはぺこりと頭を下げると、次の仕事へ行ってしまった。
「で、ではマシュー様のお部屋にご案内しますね。」
「そうですね、お願いします。」
さて、マシュー君か。どんな子やら。
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「こちらがマシュー様のお部屋になります。」
「ありがとうございます、じゃあ…」
「ちょっと待つのだケイマ。」
部屋に入ろうと扉に手を掛けた所でフェニに止められる。
「なんだよ?」
「聞けばマシューという子供は相当捻くれてしまっている様子ではないか。ならば我らが最初にやるべき事はなんだ?」
「いや、なんだ?って……とりあえずやんわり挨拶とかして徐々に心を開いて貰って…」
「甘い!!」
「何が!?」
「こういった場合は初手で我らが上だという事を分からせなければならないのだ。」
「果たしてそうかな!?決闘しに来た訳じゃないんだけれども!?」
「さすがフェニさんですね!なるほど!」
「何がなるほどなの!?」
「確かにフェニさんのいう事にも一理ありますわね。」
「一理どころか微塵も無いと思ってんのは俺だけか!?」
「ケイマさん、フェニさんのいう事はもっともです。私達はアルフレド様に雇われた者……言わば傭兵と同じ。ならば私達がただの傭兵では無いと…舐めて掛かると命を落とす事になるぞ…と初手で叩き込むべきです。そうすればその後も優位に戦いを進められるでしょう。」
「俺達勉強を教えに来ただけなんだけど!?皆家庭教師って何する仕事か知ってる!?てゆーかお前らの勉強方法って命を落とす可能性があるの!?」
「ケイマさん、私は命のやりとりもまた……人生の勉強だと思いますの。」
「『思いますの』じゃねえよ。」
「み、皆さん…あの……」
アリアさんが青褪めた顔でドン引きしている。それと、フォクシーは常に冷静だけど常識が無い事は分かった。そして多分こいつらに家庭教師は無理だということも分かった。今日は勉強になったな、俺も。
「あ、アリアさん大丈夫ですよ?実際はこんな事は……」
「たのもう!」
バァン!
「おぉぃ!?」
俺が喋ってる途中でフェニが勢い良く部屋のドアを開けてしまった。「たのもう!」とか道場破りか!?お前はジーナス家の看板を奪い取りに来たの!?
そしてフェニがづかづかと室内に入った瞬間……
ぐいっ
『!?』
バタンッ!
入口入ってすぐの足元にロープが張られており、まったく予期せぬ状況にフェニが何の受け身も取れずに顔面から盛大に床に倒れてしまった。
『…………』
暫く訪れる静寂。そして…
「お父様へのコネと金目当ての愚か者め!家庭教師は必要無い!今すぐ帰れ!じゃないともっと酷い目に遭わせてやるぞ!」
そこには中学生位の銀髪の少年が椅子に座りながらこちらを険しい顔をして見ていた。よく見れば男だというのにステラさんに似た雰囲気のある、線の細い美少年だった。
「……フェ、フェニ?大丈夫か?」
「………」
俺が声を掛けると、フェニは何事も無かったかの様にスッと立ち上がりマシュー君の元へと歩いて行った。
「フェニ、彼はまだ子供だぞ…わかってるか?」
「何、もちろん分かってるとも。我が普人族の子供ごときのする悪戯くらいで本気で怒るとでも?これでも長い時を生きる聖獣フェニックスだぞ?」
フェニは珍しくにっこりとほほ笑みで返してきた。
「そ、そうか。」
そしてフェニはマシュー君のすぐ傍でほほ笑みながら止まる。
「な、なんだよ?怒ってるのか?ぼ、僕に手を出したらどうなるかわかってるんだろうな…僕はジーナス家の息子なん…!?」
マシュー君はその憎らしいセリフを最後まで言えなかった。なぜなら、フェニが片手で彼の顔を掴んでしまったからだ。あれはアイアンクローだ。
「黙れクソガキ。ジーナス家の息子だなどは我の知る所ではない。」
そう言うフェニの顔からはいつの間にかほほ笑みは完全に消失しており、逆に目が座っている……フェニの背後に怒れる火の鳥のオーラが見える様だ……しっかり怒ってるじゃねえかフェニ……
「な、何をする!お父様は貴族の中でも偉いんだぞ!僕が一言言えばオマエなんかすぐに牢屋に入れて…」
「そんなのは知るか。偉いのは汝の父親であって汝では無い。だから2回も言うが、そんなのは知るか。」
「え、ええ!?」
「我に恥をかかせた報いをその身を持って受けるがいい。我の炎に焼かれる等滅多にあるものではない。人生は何事も経験だぞ?」
お前の炎に焼かれたら普通に死ぬだろ。何事も経験ってその後の人生そのものが無くなる経験は経験とは言わないのでは……?
フェニはアイアンクローをしている反対の手のひらの上で炎を作り出す。
「あぁぁうぅ……」
そして、常識がまったく通用しない理不尽な女の前に、涙目でガクガクと震えるマシュー君……
「そうだ、我は勉強を教えにきたのだったな。良かったなクソガキ、我に喧嘩を売るとこうなるという事が分かっていい勉強になったな。これで1つ賢くなった訳だ。」
「訳だじゃねえよこのバカ!!」
ズビシ!
「痛っ!?な、何をするのだケイマ!?」
俺は何やら不穏な話をするフェニを止める為、彼女の頭にチョップをお見舞いする。
「お前何しにきたんだよ!?」
「な、何って、このクソガキに、フェニックスに喧嘩を売るとこうなるという人生の勉強をだな…」
「その知識が人生でどの位の頻度で役に立つと思ってんだ!?」
いきなりこれかー……何故俺はこいつらを連れてきてしまったんだ…!
あ、そうか、マシュー君が捻くれてるのは些事だったんだなあ。何せそれ以上にうちのやつらは思考が捻れ切ってるんだから、捻くれてるのはかわいいもんだったわ。
よし!もういきなり駄目だコレ!




