5・ひとりぼっちを望まない。
「結局助けたな……」
豚顔を全滅させて周囲を見渡すが、原型のほぼ無い人と、豚顔4体の血で中々の惨事になっている。
その中で、最初に『ブリット』で倒した豚顔が、生きている女性の上に丸出しで倒れてしまっていた。
俺は駆け寄り、豚顔の死体を退かす。すると、女性は涙を流しブルブルと震えながら硬直していた。
「だ、大丈夫……ですか?」
俺は顔を除き込み声を掛けると、女性はハッと我を取り戻した様に起き上がった。
「ぁ…………あの…………」
「さっきの豚顔はやっつけましたので大丈夫ですよ。」
そう言うと、女性は安心したのか大きく息を吐き出した。しかし、直後に俺の後ろにいる3人の亡骸を見てまた硬直する。
「残念ながら、彼らは…………」
「…………」
「……では、俺はこれで。」
「え!?あの!」
変に絡まれない内に立ち去ろうかと思ったのに、女性の方から話し掛けてきた。
「あの、助けて頂いたのにお礼も言わずに失礼しました……」
俺は手を軽く振りながら答える。しかしこの人、涙とか血とかで汚れてるけど、良く見たら清楚な感じの美人だなー。長い髪が自然に綺麗な薄紫とか、異世界仕様ってことか。染めている感が無いもんな。
でも昔美人に痛い目見させられたからなあ。美人は大体の人が自分が美人の自覚があって色々仕掛けてくるからな……警戒しないと。
「いえ、気にしないでください。」
「そ、それで、その上で厚かましいお願いではあるのですが、私には戦う力がありません……街まで送って頂けないでしょうか?」
街までかー……ああそうか、とりあえず人里に行く今の目的と一致するし、案内をしてもらった方が間違いないかもしれない。
「街までですか?送りますよ。」
「あ、ありがとうございます……!」
「で、立ち上がる前にこれを羽織ってください……」
俺はマントを女性に渡すと、女性は「え?」という顔をしたが、半裸の自分の状態に気が付くと、顔を真っ赤にしながらいそいそとマントで体を包み込む。俺は落ちぶれても元リア充の端くれ、それ位の気遣いは出来る。
「じゃあ行きましょうか。道案内はお願いします。」
「はい。……あ、あら…………?」
「?どうしました?」
「…………すみません……立て……なくて……」
「そうですか、なら。」
俺が手を差し出すと、女性は手を掴み立ち上がろうとするが、すぐに足が震え、ペタン……と座ってしまった。3回やってみるが、「あら……?あら……?」と3回失敗した。
なるほど。さっきの恐怖で腰が抜けてしまっている状態か。 少し時間が経った位じゃ治らないのか。仕方ない……
俺は女性の側で背を向けしゃがむ。
「背中に乗ってください、とりあえずそれで移動しましょう。」
「え……?で、でも、それは……ちょっと……無理というか……」
「…………」
あー、なるほど理解したよ。確かに今の俺は汚いロン毛の無精髭不審者顔をしてるから、しかも汚れてるし。そんなやつの背中には乗れないと…………正面から言われると凹むぜ…………
「すみません……初対面の不審者にこんな事言われてもですよね。」
「え?あ!違います!そ、そうじゃなくて…………」
あれ?違った?汚い不審者認定では無いと。ならなんで…………
「あ…………」
俺はその時にようやく女性の足の付け根辺りを中心に、血以外の液体が染み込んだ後がある事に気が付いた。すると、女性は顔を真っ赤にしながら俯いた。なるほど…………
「わ、私が背中に乗ったら汚くなってしまうので…………」
「そんなのは気にしないでいいです。どーせ俺は元々汚れてますし。逆に我慢してくださいね、と言いたいところです。」
「あ…………ぅぅ…………」
「一時の恥と命、どっちが優先ですか?」
「お、お願いします……」
そう言うと女性は顔を真っ赤にしながらおずおずと俺の背中に乗る。乗ったのを確認すると、女性おぶさって立ち上がる。……結局最後まで助けてしまう形になったなあ……
ーーーーー
「あの……ここまでして頂いたのに、まだ名前も名乗っていませんでしたね。私はミレイユと申します。」
「ミレイユさんですか。俺は沖田 慶真です。」
「オキタケイマ……ケイマ様。この辺りでは聞かないお名前ですね。」
「様なんていりませんよ、そんな大した者じゃないので。」
「では……ケイマさんと。」
「ええ、それで。」
「本当にありがとうございました。もう駄目だと諦めていました……」
「他の3人は残念でしたが……ミレイユさんだけでも間に合って良かったと思いますよ。しかし何故あの場所に?」
「あそこには本来冒険者ギルドの討伐系クエスト、ゴブリンソルジャーの討伐で来たのです。」
「冒険者ギルド!」
おっと、思わず声が出てしまった。冒険者ギルドにクエスト、ゴブリンソルジャーとか、35才のおっさんの心に響く単語が出てきちゃったよ。
「冒険者ギルドに興味があるんですか?」
「ええ、まあ少し。」
「彼ら3人はパーティですが、私は本来冒険者ギルド医務室の治癒魔法士なんです。」
「彼らは仲間じゃなかったんですか?」
「冒険者ギルドでは、パーティメンバーの紹介等もしていますが、それでも集まらない場合、クエスト内容にも依りますが、ギルドに申請する事で足りない戦力をギルド職員から借りる事が出来るのです。」
「なるほど。それで今回は治癒魔法士ってのが足りないパーティにミレイユさんが貸し出しされたと。」
「そうなりますね。ギルドからの戦力の貸し出しはお金も掛かりますので、頻度はそうありませんが。」
戦力貸し出しの支払とクエストで得たお金を天秤にかけてみれば、頻度はあまり無いのかもしれないな。安い報酬だと赤字だろうし。けど、金で一時雇う関係は後腐れなくていいな。
「今回のゴブリンソルジャーは、討伐は既に終わってはいたのですが、3人は『まだ時間が早いから、もう少し稼ごう』と…………」
「そうしたら、あの豚顔の魔物が出てきたと……」
「豚顔……あれはオークですね。」
何?あれがオーク……?女騎士を凌辱するとかしないとか……のオーク?なんか只のやたらデカイ豚が2足歩行してるだけに見えたが……服とか何も着けてなかったし……
「一応さっきのはオークでも最下位のやつらです。オークソルジャー等からは、少し知性があり、軽装備をして武器を持って戦います。」
「ああ、ちゃんとしたオークもいるんですね。」
「最下位のオークは、知性がほぼ無く本能で生きています。男は殺して食べてしまい、女は………っ…」
「まあ今さっきのでオークがどういうヤツらか分かりました。」
先程の状況を思い出してしまったのか、ミレイユさんは少し言葉に詰まったので、言わなくて良いと諭す。
「彼らはDランクに成りたてのパーティでした。オークはCランク推奨なので……」
「実力が足りずに成す術も無かった……と。」
「はい…………そこにケイマさんが助けてくださったのです。本当にありがとうございました。」
「いえ、たまたまです。」
「ケイマさんはどこかに目的地が?」
「いや、目的地は特には。とりあえず次の人里で暫く過ごしてみようかと思ってはいますが。」
「まあ!そうなのですか!それならこのお礼は後日必ずさせて頂きます!」
「お礼なんて…………あ、そうだ。街に着いたら冒険者ギルドと宿を紹介して貰えませんか?お礼ならそれで結構ですよ。」
「そ、そんな事でいいんですか?」
「ええ、とりあえず仕事と泊まる場所を探さないといけないですから、俺にとっては大事な事ですよ。」
「分かりました。あ、見えて来ました。あれがフォルクシア王都です。」
ミレイユさんが指を差す方には、城壁の様な建物が……やたら横に広いなアレ。王都って言ってたよな。異世界素人がいきなり王都とか大丈夫か?
この異世界の常識とかマナーとか知らないんだけど…………なんかあったら「すいません、田舎者なので……」で済ます作戦で行こう。あまり悪い目立ち方はしたくないけど。
お読み頂きありがとうございました。