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49・詐欺師のレッテルを望まない。

 謁見の間に通された俺は辺りを見渡した。石造りの広い部屋には左右に近衛騎士団と思われる武装した兵士達がズラリと並んでいる。


 そして丁度正面最奥には、王族と思われる4人が立っている。ピノちゃんの両親と姉ちゃんと弟っぽいな。その両端にも人が居るな、フォクシーさんと同じ格好をしたメイドさん的な人達だ。


 ピノちゃんを先頭に部屋に入ると、部屋にざわめきが起こる。


『おお……本当にピノレア姫様だ……』

『ご無事で本当に良かった。』

『お変わりなさそうで何よりだ……!』


 等の声が聞こえてくる。



 ピノちゃんは歩みをピタリと止めると、一点を見つめて呟く。


「お父様……お母様……姉様……レオン……!」


 やっと会えた家族を見つめそう呟いたピノちゃんの瞳からは、次第に涙が溢れてくる。そして家族の元へ駆け出した。


 成程、やっぱりあれが父、母、姉、弟で合ってたみたいだな。


「ピノレアッ !」


 エスターニア王であろう男性が両手を広げてピノちゃんを受け入れ、そして抱き締める。


「ピノレア……!本当に良かった……!」


 エスターニア王もまた、娘が無事に戻った事に男泣きしていた。


「ピノレア……もう会えないかと……」


 王妃と姉弟も、2度と会えないかもしれなかった家族との再開に涙しながら喜んでいる。


 

「ぐすっ……ピノさん……本当に良かったですね……ひっく……」


「うむ、ここまで来て良かった。……なんだ?ああ、違うぞ?我は泣いて等はいない。これはアレだ……目から汗が……いや、心の汗がだな……」


 うちの従魔も貰い泣きしている。しかしフェニは何でそんな男らしい涙の言い訳を……


『ピッ(良かった、良い事しましたね。)』


「そうだな、本当にそう思うよ……」


 俺は目の前の家族が再開出来た喜びに浸っている時間に水を刺す気になれずに、落ち着くまで黙っている事にした。 



 周囲の兵士やメイドさん達も、誰1人言葉を発さず優しい笑顔でそっと彼らを見つめている。



 ……ただ1人を覗いてだが。


 一番王族に近い所に立っているガタイの取り分け良い兵士、歴戦の猛者を思わせる強面のおっさんは多分件の近衛隊長だろ。明らかに1人だけ真顔で唇を噛み締めている。


 他の人達は王族の方々を見ていて気付いていないみたいだが……露骨すぎる……これはもう確定だろ、パチンコで言えばレインボー柄で大当 りだろ。獣人族は態度にもあからさまに出るのか……?駆引きが苦手そうだ。あぁ、いや、そういうのは出来ないんだっけ?


 まぁ、これがちょっと落ち着いたらどう話を切り出すか考えるか。それよりも先に向こうが切り出してくるとは思うけどな……




 ーーー




 しばらくして再開の感動がピークを過ぎた頃、俺達の存在に気付いたエスターニア王により改めて仕切り直された。


「普人族の方々、先程はお恥ずかしい所を見せてしまった様で申し訳ない。」


「いえ、そんな事はありませんよ。家族と再会出来たんですから当然です。」


「そう言ってくれると助かる。そうだ、自己紹介がまだだったな。俺はエスターニアの王、ガオレア=エスターニアだ。で、こっちが妻のフェリナ、長女のウルフィア、長男のレオンだ。ピノレアを連れて来てくれた事、心から感謝する。」


 王族の人々は、名前を呼ばれるとそれぞれ頭を下げて紹介に応じていく。


「いえ、成り行きではあったんですが……あ、俺はフォルクシアで冒険者をしているケイマです。で、隣の女性が氷女コールドフェアリーのレイン、その隣がフェニックスのフェニ、このスライムがポヨと言います。あと外に一角獣のシルバーがいます。」


『え?』


「え?」


 こっちの面子を紹介すると、にわかにざわつく。


『氷女を従魔にしているとは……』

『あのスライムは従魔なのか?白いスライムは初めて見た……知性があるのか?』

『いや、それよりもあの赤い髪の美女、今フェニックスって言わなかったか?』


 あー、うちの従魔への反応か。まぁ普通に紹介しちゃったけど、そういう反応になるよね。


「ケイマ殿は……随分と個性的な従魔を連れている様だが……フェニ殿はまさか……」


「お父様、フェニさんはアライア山にいた聖獣のフェニックス様が人化しているのですよ。」


「うむ、いかにも我はフェニックスだ。今は深い事情があってケイマの従魔となっているがな。」


 その理由大した深さ無いだろ。街で暮らしたいだけじゃなかったっけ?


「ま、まさか……」


「元の姿に戻って見せようか?部屋を燃やしてしまうかもしれないが。」


 そう言いながらフェニは両手を炎の羽に変化させ始める。


「!いや!大丈夫です!そこまで見ればあなたが本当にフェニックス様だと分かります。」


「そうか?残念だな。」 


「両手を炎の羽に変化させるだけでも人には出来ますまい。」


「なるほど、それもそうだ。」


 驚きの表情でフェニを見ていた王族の人々だったが、長女のウルフィア姫はポヨに視線を向けていた。


「あの、ケイマ様……そちらのスライム、ポヨさんは知性があるんですの?」


 ウルフィア姫はピノちゃんのお姉ちゃんだったか。ピノちゃんよりも大人っぽくゆるふわの長い金髪の、見た目ほわっとした感じのこれまた上品な感じの美少女だ。耳は……多分犬?いや、狼か?


「ええ、俺と契約したら何かこうなりました。なんでも『ホーリースライム』だとか。」


「ホーリースライムですの!?」


『ピッ』


「『ホーリースライムですが?』だそうです。」


「あの神の僕として人々を救っていたという伝説のスライムですのね!」


「まあ、この子は最近こうなったのでそんな深い歴史は無いでしょうけど……」


「ケイマ殿……伝説の存在を従魔としているあなたは一体……」


「ケイマさんはレベル131の冒険者なんですよ。どんな魔物も人も瞬殺ですよ!凄いでしょう?」


『えっ?』


 ピノちゃんが皆に向かってニコニコしながら言うが、皆その瞬間に俺に目を向けたまま固まる。


 あー……ここでばらしちゃうかピノちゃん……。ピノちゃんは慣れたから分かんないかもだけど、皆最初はヤバイ化物に遭遇した時の様な……あぁ、それ。今の皆の引き吊った驚愕の顔……化物扱いが始まるだろうなあ。



「はい!ケイマさん!」


「うぉ!?いきなり何?」


 突然レインが大きな声と共に勢い良く手を挙げた。


「私も伝説が欲しいです!フェニさんとポヨだけズルいです!買ってください!」


「伝説って買える物じゃないんだけど!?お菓子か何かと勘違いしてない!?」


「ぶー!でもー!」


「ちょっと黙って!ほらー……アレだ!分かった!フォルクシアに帰ったら伝説買ってあげるから!」


「本当ですか!やったー!」


『……』


 しまった、王族の人々も周囲の人々も驚愕の表情から一転、ポカンとしてこっちを見ている。



「ああ、すみません。レインはちょっと……アレなんです。あのー……まぁアレなんです、とにかく急にすみませんでした。」


「いや……構わないが……」


「お母様、伝説って買えるんですか?」


 おっといかん、王子のレオン君はまだ小さいから今のアホなやり取りを信じそうになってしまっている。うちのアホは放って置いて、伝説について訂正せねば。王妃様、訂正お願いします。



「そうねー、多分フォルクシアには売ってるんじゃないかしら?いいレオン?世の中は広いから、エスターニアには無くてもフォルクシアには普通に売ってる物もあるのよ?伝説もまたそうなのよ。」


 うぉい!?王妃様なぜそんな嘘を!?


「いいなぁ、僕も欲しいなあ……伝説。」


「大丈夫!レオン君の分も買ってくるから!」


 黙れレイン!!


「本当ですかレインさん!」


「もちろん!良いですよねケイマさん!?」


 2人がキラキラした目で俺を見てくる。


「あ……あぁ……もちろん……今度お土産に……買って……来ようか……」


 俺は一体何を言ってるんだ……?俺はなぜ謎のお土産を買って来る約束を……ん?



「プククク……」


 王妃様が頬を膨らませて必死に笑いを堪えている。あれ?王妃様そんな感じ?お茶目な人だったの?



「ま、まぁその話は置いておこう。しかし納得した。ケイマ殿一行であればこそ少数でピノレアを救い、強力な魔物のいる森を抜けこのエスターニアに何の危険も無く連れ帰って来れたのだろう。」


 ガオレア王が王妃様を苦笑いで見ながら話を戻してくれた。



「うむ、その通りだな。我がいる時点で十分安全だったが、途中でバハムートかリヴァイアサンに遭遇したらケイマの出番だったのだがな。」


「そんなもんに簡単に遭遇してたまるか。」


「ケイマ様はそんなにお強いのですか!?」


 今度はウルフィア姫がキラキラした目で食いついてきた。



「ああ、強いぞ!唯一我が勝てない6体の中の1体だな。」


「唯一の使い方ちょっと違くね……?あと俺の単位『1体』なの?俺、人扱いされてなくね?」


「残念だが汝は……」


「この空気でそういう冗談止めろよ!」


「すまないがケイマ殿……話を進めても良いだろうか?」


「本当にすみません……もうお前ら喋るなよ!」


『えー?』


「『えー?』じゃありません!」


 従魔達に釘を刺す。



「えーと、何を話すんだったか……ああそうだ、君達にピノレアを救ってくれた報酬を渡したいと思う。俺達獣人族は何せ不器用でな……物等でしか恩を返す方法を知らないのでな……なんでも言ってくれ。今思い付かないのなら暫くエスターニアに滞在して……」


「お待ちくださいガオレア様!」


 報酬の話に急に割って入る声。その声は近衛隊長の発したものだった。



「どうしたドーベン近衛隊長?」


 む?ここで割って入るか、えぇとドーベン近衛隊長とやら。


「はっ!畏れながら申し上げます!その普人族への扱いに一言申し上げます!」


「というと?」


「ピノレア様誘拐の一件、恐らくその普人族の仕組んだ事かと!」


 俺は何となく予想はしていたが、周囲の人々はその発言で一気に静まり返った。



「なに?どういう事だドーベン近衛隊長。」


「なんて事を言うのですかドーベン近衛隊長!ケイマさん達は私を助けてくれたんですよ!」


「それです。その者は普人族の盗賊団にピノレア様を誘拐する様依頼し、そしてさもピノレア様を助けた様にしてエスターニアに連れ帰って来たのです!」


 まぁ、こいつはそう言ってくると思ったよ。



「嘘です!ケイマさん達がなぜその様な事をしなければならないのですか!それにあの時ケイマさん達は盗賊団を全滅させて私を助けてくれたんですよ!」


「用済みになった盗賊団を消しただけでしょう。ピノレア様を連れ帰ってエスターニア王家に恩を売り、報酬をせしめようという魂胆です。」


「俺にはケイマ殿達がそんな事をする人間には見えないが。」


「ガオレア様、お忘れですか?普人族は狡猾で汚い手段を平気で行う種族です!貴様達の考える事位俺はお見通しだ、今すぐここから出ていけ!」


『な、なんだって……?』

『そうなのか?だとしたら何てやつらだ……』

『ピノレア様を誘拐した黒幕か!』

『やはり普人族は汚い手を使う!』


 ピノちゃんの言葉も虚しく、ドーベン近衛隊長の発言に一気に周囲がざわつき始めた。


 元々フォルクシアと国交も無く普人族に対して大昔のイメージしか持っていない獣人族の人々の意思は、あっと言う間にドーベン近衛隊長の言葉に飲まれた。


 まあ元々直感で生きている深くは考えられない種族なんだろうけど。



「お待ちなさいドーベン近衛隊長!ケイマ様達がその様な事をする人族とは私は思いません。」


「そうですわ、私もそう思います!」


 王族サイドは味方してくれるみたいだが……



「フェリナ様、ウルフィア様、ピノレア様を連れ帰ってきたあの者達を信じたいお気持ちは分かりますが、残念ながら私の言っている事が普人族の真実なのです!」


「ふん、馬鹿馬鹿しいな。ケイマは面倒臭がりだ。そんな欲の為にわざわざ動くやつでは無いよ。」


「そうです!ケイマさんは良い人です!」


『ピッ!!』


「黙れ!お前達!こいつらを引っ捕らえろ!縛り上げて拷問すれば直ぐに本当の事を吐く!」


『はっ!』


 剣や槍を構えた兵士達が俺達の周りを囲む。


「待ってください皆さん!ケイマさんはレベル131です!皆さんが敵う相手では……」


『!』


 ピノちゃんの言葉に武器を構えたまま少したじろぐ兵士達。



「それも偽りだ!レベル131等聞いた事も無い!ガオレア様がレベル65だぞ!ハッタリに決まっているだろう!この詐欺師め!やはり普人族は狡猾で汚いやり方をするものだ!」


『ハッタリ……』

『そうだ、レベル131なんている訳がない!』

『危うく騙される所だった!この詐欺師め!』

『詐欺師!』

『詐欺師を捕らえろ!』



 うーん……ギルドカードでも見せた方が良いかコレ?


「落ち着くのだ皆!」


『詐欺師を捕らえろ!』

『エスターニアに牙を向く普人族め!』


 ガオレア王が叫ぶが兵士達の声に掻き消される。王族の人々は皆どうしていいか分からなくなって身動きが取れていない様だ。


「犬の隊長さん!ケイマさんを悪く言うのは止めてください!」


「ほう、我とやる気か?フェニックスである我に刃を向けるなら怪我では済まんぞ?」


『ピッ!』


 従魔達もやる気になっちゃってるなー、どうするか?兵士達に怪我させる前にとにかく彼らが落ち着く様に何か話してみるか?


「あのー、皆さんちょっと……」


「抜かせ!その従魔と言われているやつら、氷女とフェニックス、ホーリースライム等と言っているが嘘だろう。そんな者達がいる訳が無い!」


「いや、本物なんですが……」


「大方どこぞの娼館で拾った娼婦か奴隷でそいつの女だろう!それに只のザコモンスターだ!恐れる事は無……」



  ズガァァァアン!!


『!!?』


 突然の何かを爆発させた様な破壊音に、その場が一瞬で静まり返る。


 従魔達も王族も、兵士達もドーベン近衛隊長も、今まで騒いでいた者達全てが一点を凝視して黙り混んだ。


 その一点とは俺と……


 俺が今魔力を纏って叩き付けた拳の下にある……破壊された石造りの床だ。俺を中心に謁見の間の床に小さなクレーターが出来上がっている。



 俺のすぐ近くにいた従魔達と兵士達は小さなクレーターに足を取られて転んでしまってはいるが、それでも皆俺から目を離さないでいた。ちなみに王族の人々は無事だ。


 従魔達がバカにされた瞬間、思わず体が動いてしまった。まぁこれで静かになっただろ。


 さてと……



「ガオレア王、頂く報酬の内容が決まりました。」


 ガオレア王は他の人々同様に放心していたが、俺に呼ばれて我に返る。


「は……え?ああ、な、何を望むんだ……?」



「報酬は……今壊した床の修理代でお願いします。」



 咄嗟とはいえ、壊したら弁償しなきゃだからね。




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