47・入場拒否を望まない。
「……さん……! 」
……ん……?
「ケイマさん!」
……ん~……誰だ……俺の眠りを妨げるのは……何人たりとも俺の眠りを妨げる事は許さんぞこらぁ……
「ケイマさん!起きてくださーい!」
「……起きます……起きますから耳元で大声は止めて……」
レインめ……耳元で大声を出すという、休日に疲れきったお父さんを子供が無理矢理起こす為の残酷な方法を使いやがって……
「ケイマさん!朝ですよ!いつまでも寝てないで起きてくださーい!」
「……なぁ、何で俺がその朝なのに寝てるか知ってる?」
「私達の代わりに夜の見張りで起きてたからですかね?」
「満点の解答かよ!?分かってんじゃん!」
「そんな事よりも見てください!」
「そんな事……」
俺の睡眠、そんな事扱いなのか……
「森を抜けてから、ついに人の創造せし道に出ましたよ!」
何その言い回し!?街道って言えよ!
「人の……間違えた、街道に出たのか?ならもうエスターニアなのか?」
「はい、森を抜けて暫く来た所で街道にぶつかったので、そこから街を目指しています。」
ピノちゃんがちゃんとした説明をしてくれる。
「さっきピノさんから聞いたんですけど、ここからシルバーが頑張ってダーッと走り続けていけば、あとちょっと時間以内でその先にに着くみたいですよ!」
レインがちゃんとしてない説明をしてくれる。
「ええと……この街道を、このペースだと夕方位でしょうか?それ位でエスターニア王都に着くと思います。」
重要な補足をありがとうピノちゃん。あー、ヤバイ。もう後半日で貴重な常識人が居なくなっちゃうのかー……あー、ヤバイしか言えない。
まあ、とりあえず俺が馬車の中で寝て移動している内にエスターニアには入れたんだな。今はまだ昼前だから、結局少ししか眠れていないが……いいや、折角エスターニアに来たんだからもう起きてよう。俺は眠気覚ましついでに外を見ようと、御者席に座るのだった。
ーーーーー
そして暫く進んで行くに連れて、他の馬車や人とすれ違う様になってきた。
すれ違う人達は全て獣人族で、犬っぽい耳や猫っぽい耳や兎や狐っぽい耳の人達だった。彼らは俺達を見ると、驚いた顔をしながらすれ違って行く。
むぅ……やはり普人族がエスターニアに来た事が原因か……皆が一様にああいう感じだと、種族間の確執を解消するのは骨が折れそうだな。
「やっぱり獣人族の人達は皆驚いた顔をするね。やっぱり俺が普……」
「ふふふっ、皆シルバーを見てビックリしてますね。」
「え?ああ、うん、だよねピノちゃん。皆シルバーを見てる……ね。」
「一角獣が馬車を引くなんて有り得ない光景ですものね。」
そっちかー……確かに良く見りゃ皆シルバー見てビックリしてるし……誰も馬車の中の俺を見てないわ。だって誰とも視線が合わないもの。まあ馬車の中の主人なんて興味無いですよね。
目立つ従魔しかいないから、最近本当に主人の俺の存在感が薄い……
俺がそんな風にシルバーを見ていると、視線に気付いたのかシルバーが首だけ軽く動かす。
『主殿、何かありましたか?』
「ん?ああ、いや?お前はすれ違う人達が凝視する位格好良くなったなあって思ってさ。」
『勿体無いお言葉です。』
「ずっと凛々しい感じでいるもんな。」
『従魔の見た目や行動は、主殿の主人としての品格に影響しますので。主殿が素晴らしい主人だと周囲に認識させる為に、従魔として当然の振舞いをしているだけです。』
これだよ!!
「そうかー……シルバーは偉いなあ。」
『そうでしょうか?主殿の従魔としては当然だと思いますが。』
「当然の事をするのは確かに大切。けどね、以外と当然の事程継続させるのは難しいものさ。誰もが長くやっていく程惰性的になってしまい、その大切な事を段々忘れていく。初心忘るべからずってね。」
『おお……流石は主殿!何と言う深いお言葉……!それが誰もが逆らえぬ世界の法則だと仰るのですね。主殿の従魔であるならば、その法則に飲み込まれ無い様にしろと……。分かりました、このシルバー主殿の名を決して汚さぬ様に日々精進して参ります!』
重い。
「お、おう。その通りさシルバー。期待してるよ。」
『お任せください!』
世界の法則とかそんな規模の話のつもりじゃなかったんだけど……それ世界の法則なの?シルバーもちょっとヤバイかな……
一番聞かせたかったやつら(レインとフェニ)にも今の話をさりげなく……
「ちょっと、レインにフェニ。今の話聞いてた?」
レインとフェニもシルバーの声は聞こえていただろ。2人をチラリと見る。
すると、食糧として買っていたお菓子をリスの様に頬張って食べている従魔2人がいた。
「ほへ?はひはへふは?(え?何がですか?)」
「へひはほはふぇふぁふぃほは?(ケイマも食べたいのか?)」
これだよ……
改めて分かった。多分本当に普通なのはポヨだけだ。せめてポヨだけは普通でいてくれと祈るばかりだ。
「ポヨ、頼むな?」
『ピッ……(なんとなくお察しします…… )』
そして俺は再び御者席から流れて行く景色を眺めるのだった。
ーーーーーー
「あっ、あれです!あの城が見える場所がエスターニア王都です!」
エスターニア王都へは夕方位になるかと思われたが、シルバーの頑張りで少しばかり早く到着しそうだった。
「あれがそうか。ついに到着だな。そういやピノちゃん、街に入るのにお金とかいるの?」
「そういうのは必要ありません。身分証は国外の方には提示を求めますけど。身分証が無い場合は、10日分の滞在許可証を銀貨5枚で発行します。」
「銀貨5枚ね、了解。」
「街の周囲は堀に囲まれています。なので通行用の橋がありますのでそこから門を通って街に入ってください。」
「ほほう、戦いに備えた堀かな。シルバー、聞いてた?」
『はい、承知しました。橋を目指します。』
ーーーー
そしてついに街に到着して、ピノちゃんの言っていた橋を通って街に入ろうとした時だった。
「と、止まれ!」
橋から門を抜けようとした時に、衛兵4人に止められた。犬耳や猫耳が頭についているおっさんの衛兵だ。鎧を身に付けたおっさん衛兵は、警戒心丸出しで槍をこちらに向けている。
くっ……完全に失念していた……なぜ気が付かなかった……!?
需要があるはずの無いおっさん達の猫耳犬耳が存在する可能性に…!
そうだ、獣人族の国なんだから男も女もおっさんも獣耳なんだよな……美少女だけ獣耳なんて都合の良い国なんて存在しなかったのに……!
「貴様、普人族だな!ここは獣人族の国エスターニアの王都だと分かって来たのか!?」
「なんだこの馬は……一角獣……?」
うーむ、やっぱこうなるか。
「エスターニアの女の子を送り届けに来たんですが……街に入れて貰えませんか?」
「なんだと?」
衛兵達は顔を見合わせる。槍はこちらに向けたままだ。
「ならん!普人族等が王都に入る等は認められん!何をするか分かったものでは無い!」
あら?お宅の国の人を送り届けに来たって言ってんのに、なんてムカつく言い方。やっちゃおうかな?
「ええ?でもですね……」
「ならばそのエスターニアの民だけを置いてさっさと立ち去れ!」
うわー何こいつらの言い方、腹立つわ~。やっちゃうぞ?やっちゃおうかな?
「………………テメェらいい加減に……」
「待ってください!」
するとピノちゃんが慌てて馬車から降りてきた。帽子は被ったままなので、衛兵はまだ馬車から今降りてきた女の子が獣人族だとは気が付いていない。
「ピノちゃん?」
フォローは助かるけど、君が獣人族って分かる様に帽子を取ってから出てきて欲しかったー……
「待ってください衛兵の方、この方を城まで通してください。」
「なに?城までだと?一体何の権限があって……」
「もちろん、私の権限です。」
そう言ってピノちゃんが被っていた帽子を取って、猫耳と素顔を晒す。
「私、ピノレア=エスターニアの権限で、命の恩人を自宅に招待するのです。」
『……え…… 』
ピノレア?ピノちゃんのフルネームか?なんかピノちゃんが名乗ったら衛兵達が固まったぞ?
『姫様!?』
『ピノレア姫様!!』
突然衛兵達がピノちゃんを見て叫び出した。
「え?ピノレア姫様?」
俺が聞き返すと、ピノちゃんは少し申し訳無さそうな苦笑いで俺に語り掛ける。
「黙っていてすみません、ケイマさん、皆さん。実は私……このエスターニアの国王の娘なんです……」
あらまぁ……どーりで常識のある人だと思ったら…………姫様でしたか。




