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46・時代の停滞を望まない。

 フォルクシア王都の街を出てから2日程経った。フェニの話だと普通に歩けばここまで来るのにもう2日は掛かるとの事。


 平地はともかく、森に入るとやはり魔物が色々襲ってきた。


 ただ、一角獣のシルバーは角で魔力を感知出来るらしく、俺達が見張りをする必要は無かった。感知したらシルバーが教えてくれるし、それが動きの遅いザコ魔物ならばシルバーが蹴り殺したり、ちょっと強ければフェニとレインのオーバーキルが発生したりで特に魔物は問題無かった。


 まともに国交の無いフォルクシアとエスターニアの間の道は整備がされていないので、一般人や商人が抜けるには相当の覚悟が必要だろうなあ。




 そして今はエルドラ山を抜け、明日の昼にはエスターニアに到着出来るだろうと言うフェニの話を信じて夜も早めに休みを取っている。



 夜営の時までシルバーに見張りを任せっきりにする訳にはいかないので俺とポヨが見張りをする事になった。


 不本意ながら。



『ケイマは女性に夜の見張りをさせる気か?不規則な生活は肌荒れに繋がるのだぞ?従魔の肌が荒れてもいいのか?』


 「どうでもいいよ」と正直思ってしまった。しかし訳の分からない理由を曲げないフェニとレインによってそれは強引に押し通された。よって今俺は昼間寝て夜起きる生活だ。3人娘は馬車の中で、シルバーはその隣で休んでいる。



 今はポヨと一緒に焚き火を前にボケッと空を見つめている状態。ポヨに任せて眠ってしまおうかという精神状態でもある。



「……明日やっとエスターニアだなあ、ポヨ?」


『ピッ(そうですね)』


「このライフスタイルとも…………おさらばだ。」


『ピッ……(お察しします……)』



 ライフスタイルと言うのは、昼夜逆転の生活と食生活。フォルクシアで金貨30枚を渡して用意させた旅セットだったが、まぁ水は良い、絶対必要だし。しかしヤツら(フェニ・レイン)が買ってきた食糧が問題だった。


 何せリュックの中身は全てお菓子。完全にその時の勢いで買ったクッキーやら、スコーンやら、甘いパンみたいなのやら、ケーキの劣化版みたいなのやらエトセトラ……。しかもほぼ全て粉系。昼夜逆転に加えてこの食生活じゃ体がおかしくなる。マジ後1日が個人的に限界だった所だわ……。


 しかも腹立つのが、自分達で買ってきた癖に「飽きました」とか文句を言う始末。


 マジでどーしようもない従魔達だ……ポヨとシルバーは今の所マトモっぽいが。




「ケイマさん?あの……」


 どーしようもない従魔達の事を考えていたら、ピノちゃんに声を掛けられた。



「ん?どうした?眠れないとか?」


 ピノちゃんは焚き火を前に俺の向かいに座った。


「はい、実は……明日エスターニアに帰れると思うと……」


 嬉しくて興奮気味になっちゃって眠れないのか。いわゆる『遠足前の小学生症候群』だな。


「そっか……やっと家族の所に帰れるんだから仕方ないさ。」


 しかし困った……眠れなくて俺の所に来るという事は、眠くなるまで話相手になれという事だよな……


 元の世界でリア充だった頃は気の効いた話も出来たろうが、なにせブランクがありすぎる……なんというプレッシャー……いや、ここは逆転の発想だ。ピノちゃんの微塵も興味の無い話で逆につまらなさで眠くさせるというのはどうだろうか?



「……ケイマさん、本当にありがとうございます。」


 俺が微妙に悩んでいると、ピノちゃんにお礼を言われた。


「え?」


「エスターニアへ帰れる様にしてくれて。」


「ああ……まぁ成り行きの要素が大きいかもしれないけど…………多分俺が帰してあげるって言わなくても、あの状況だったらレインかフェニが同じ事を言ってたんじゃないかな?お礼ならありがとうの言葉だけで十分だよ。」


「いえ……エスターニアから誘拐されてあの盗賊達に捕まった時には、私は最早生きる事を諦めてさえいました……例え生きていても奴隷にされて酷い目に遭っていたと思います。」


 まぁ……だろうね。


「ですから、ケイマさん……いえ、ケイマさんだけでは無く皆さんには一生賭けて返すべき恩を受けました。このご恩はエスターニアに帰ったら必ず……ピノの名に賭けて 必ず返させて頂きます。」


「ピノの名に賭けてって……いや、そう大層に考える必要無いって。」


「そうはいきません……!」



 んー……ピノちゃんに会ってからはこの異世界の他の国とか種族を見る旅をするのもいいなぁ、とか思ってた位だし、本当に大層に考えて貰う必要は無いんだけど……あー、それなら。



「それならこういうのはどうだろう?フォルクシアとエスターニアは仲悪いんだよね?それだとピノちゃんをエスターニアに送ったら、後は会うことも無くなっちゃうよね?」


「はい……今のままでは……」


「折角知り合いになれたのにそれじゃあ寂しいから、ピノちゃんが一生賭けて恩を返したいなら、その内また俺達が会える様に何か考えてみてよ。」


 ピノちゃんが驚いた眼差しで俺を見る。


「エスターニアの……普人族に対する見方やイメージを払拭しろと……?」


「んー……まあそうかな。俺達がピノちゃんに気軽に会いに、ピノちゃんが俺達に気軽に会いに来れる様な国にね。それにはフォルクシアの方の理解も必要なんだけどさ。まぁ今は大昔の話に振り回される様な時代ではないんじゃ無いかと思うんだ。それにエスターニアが切っ掛けで、フォルクシアが他の国とも国交が出来るかもしれないし。」


「……」


「もうさ、お互い何百年前だっけ?とにかくそれ位昔の話でいがみ合うのは無駄だと思うんだよね。普人族にも確かに盗賊みたいなクズはいるけど、それの何倍も良い人がいるからさ。」


「……エスターニアには、そういう考えの人は多分1人もいません。」


「なら君が最初の1人になれば良いんだ。」


「……私に出来るでしょうか?私には皆の心を変える様な力は……ありません……」


「ピノちゃん1人だと難しいかもしれない。だから1人から2人、2人から10人、10人から100人てな感じで時間を掛けてやってみてよ。まぁ偉い人に話が出来たら一番良いんだけどね。解決が早そうだ。」



 俺の話を聞いて暫くして目線を下げていたピノちゃんは、今度は真っ直ぐに俺の目を見る。



「私もそう思います……!時代じゃないですか……そうですね、分かりました!私に出来る事を考えてやってみます。私も皆さんと2度と会えないなんて言うのは……寂しいですから。」


 そう言って微笑む。



「ぜひ頼むよ?さて明日も早いから、もう寝た方がいいよ?」


「はい、そろそろ寝ますね。すみません、お話に付き合って貰って……」


「暇だから平気平気。じゃあおやすみ。」


「はい、おやすみなさい。それと、ケイマさんの考えに感動しました。エスターニアに戻ってからの私のやるべき事が、今はっきりと分かりました。本当にありがとうございます!」



 そう言ってピノちゃんは馬車に戻って行った。なにやら晴れやかな顔をしていたみたいだ、今度は良く眠れるだろう。



 フォルクシアが他の国と敵で国交が無いと、他の種族も見れないしな。実現すればフォルクシアとエスターニアが始まりになって、他の国にも旅が出来る様になるだろう。それは喜ばしい事だ。



 ふふ、それにしても『ケイマさんの考えに感動しました』……か……。俺の考えに感動したのなら、本当に頼むぜピノちゃん?




 猫耳美少女は見れたから、次はエルフ女子が見たいんだ!その切っ掛けは君に掛かっている!


 だからすみまっせん、それ程考えて発言してないッス!なんかごめんね!




 この日の夜はそれだけで、後は何事も無く過ぎていった。さて、明日はいよいよエスターニアだな。どんな所か楽しみだ。







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