43・悪いイメージを望まない。
「獣人族の人が捕まっていたんですね。」
「その様だな。我も獣人族と直接会うのは久々だ。」
討伐対象だった青龍団を全滅させた俺達が助けたのは、頭から獣耳の生えている獣人族の女の子だった。肩まで伸びた茶色の髪の可愛い子だ。耳の以外は俺達と一緒じゃないか?てるてる坊主みたいな服を着させられているから、何処かへ売られそうになっていたのか。
俺はこの異世界に来て初めてリアルガチの獣耳っ子を目撃している。地球ではテレビで見たコスプレ以外に見た事が無かったが……本家は結構自然に頭から獣耳が生えているもんなんだなー。
その筋の人が遭遇したら多分「猫耳フォォォーッ!!」とかなるんだろうか。
獣人族がいるってのは知ってたけど見た事無かったし、普通の犬とかが立っている様なリアル獣系かもしれないと思っていたから、親しみやすい方でマジ良かった。
「エスターニアってこの国の北だっけ?」
「そうだ。北の大森林からエルドラ山を越えて直ぐだ。」
「そっか、ちょっと遠いけど……君はやっぱり家に帰りたいだろうし……」
俺が改めて女の子に目線を合わせると、ビクッっとされた。何で……?そんなに俺怖い?
子供に怯えられる事に少しショックを受けるが、ここで捨てて行ける人で無しにはなりたくない。
「送るにしても旅の準備が必要だし、1度この子を連れて街に戻るか。討伐完了の報告もしなきゃだ。」
「いや……街にこの子供を連れて行くのはあまり良くない。」
とりあえずの方針を話したら、フェニに反対された。
「え?なんで?」
「いや、何でと言われてもな……フォルクシアとエスターニアは仲が良くないのは知ってるだろう。」
「え?そうなの?」
「フォルクシアには獣人族とか他の種族は居なかっただろ?国交が無いからだ。」
そ、そうだったのか…… そう言われるとそうか、街に獣人族は居ないな。
「なんで仲悪いんだ?」
「む?ケイマは本当に何も知らんのか?」
すみません、でもこの異世界の歴史なんて知ってる訳無いでしょ……
「ふん、理由等は下らんものさ。人間というのは、自分達と違う見た目なだけで他を直ぐ否定したがる。そして自分達が他種族よりも優秀な種族であると誇示したがる。」
「ああ~……そういう事……」
「特に他の種族はフォルクシアの民等、お前達の様な種族を普人族と呼んでいるが、獣人族の様な自力の戦闘力も無く、翼人族の様に空を飛べるでも無く、精霊族の様に魔法に長けている訳でも無い。他種族はその為に普人族を見下していた所はあったな。だから昔から普人族は他種族に対し一線を引いていたのだ。」
特に特徴の無い自分達が見下されて、そのコンプレックスが原因で、他種族に対して壁を造っていたという感じか?
「その代わり普人族はその劣等感から武器や戦法を発展させてきた。そして、それが他種族のそれに匹敵すると気付いた時、愚かにも普人族は他種族に対して戦いを仕掛けたのさ。彼らよりも自分達が優秀な種族であると誇示したいが為にな。」
「ふーん、劣等感から一転『俺ら行けるんじゃね?』と。」
「まあそんな感じだな。その後は何度も戦争をしたが決着は着かず。お互いに疲弊した為に、二百年程前だったか?休戦がされたのだ。」
「休戦なのか?仲直りはしてない?」
「和平は結ばれていないな。しかも昔のわだかまりが未だに何かある度に語られるから、尾を引き摺って今現在でも双方に悪いイメージが残ってしまっている訳だ。」
「なるほど。丁寧に説明ありがとう。詳しいね?」
「なに、我が実際に見てきた歴史だ、間違い無いぞ。」
しかしそれでさっきからこの子に怯えられているのも納得がいったよ。
多分俺ら普人族がさっきの盗賊団みたいな野蛮なイメージで語られているんだろうな。国交も無いから人の往き来も無いし、情報の更新がされてないんだ。
「そっかそっか、それは確かに何の考えも無しに街に戻るのは考えものだな……」
しかしギルドに報告しないと金が貰えないし、森に来る準備で少し使ったからな……今の全財産銀貨2枚はマズイ……
何とか『羊の寝床亭』に帰れれば宿と飯には困らないか。エミリアさんに事情を話してみよう。
「とりあえず君の名前を教えてくれるかな?あと何歳?」
女の子は目線をさまよわせながら弱々しく声にする。
「ぁ…………ピノ……私はピノです……今は15才になります……」
「ピノちゃんね。俺はケイマ、冒険者だよ。で、こっちの皆は俺の従魔の…… 」
ちらっと皆を見て自己紹介を促す。
「はい!氷女のレインです!」
「我はフェニックス、名はフェニだ。」
『ピッ』
「このスライムの子はポヨっていうんだ。賢いから皆の言う事も分かるよ。俺と従魔契約しないと言葉は分からないけどね。今は『ポヨです宜しく』だって。」
ピノちゃんは唖然と自己紹介を聞いていた。
「どうした?何か質問?」
「い、いえ……変わったパーティですね……しかも、あの……フェニさんは……」
ああ、言いたい事は分かる。
「我は正真正銘の聖獣フェニックスだ。街で暮らす為にこの姿をしているがな。信じられぬなら火の鳥の姿になってやろうか?」
「あ!い、いえ!大丈夫です……本当にフェニックス様なんですね……」
「フェニでいい。それから、汝……いや、ピノはまだ普人族のケイマに不信感や怯えがある様だが……」
「…………ぁ」
フェニはピノちゃんに近付くと、普段の勝ち気な雰囲気では無く聖女の様な穏やかな笑顔で頭を優しく撫でる。
「この我が従魔となっている人間だ。信じられる者で間違い無い、フェニックスの名に賭けよう。ケイマはピノに危害を加えはしないしエスターニアにも帰してくれる。だから安心するがいい。」
「あ…………」
フェニはピノの心中を敏感に感じ取ってフォローしてくれたのか、やるじゃん。ご長寿は伊達じゃないな。
「ぅ…………ぅぅっ………怖かった……怖かったよぅ……」
すると、ピノちゃんはようやく安心した為か、ポロポロと涙を流し始めた。
「そうか……怖かったな……ピノは頑張った。」
フェニは変わらず穏やかな笑顔でピノの頭を優しく撫で続けた。
こりゃ、何とかピノちゃんをエスターニアに帰してあげないとだな。
「あの、すみませんでした……もう大丈夫です。」
「何、構わんよ。」
少し泣いた事で、ピノちゃんが少し落ち着いた様だ。そろそろ話を切り出すか。
「とりあえずこの後だが、ピノちゃんをエスターニアに帰してあげる方向ではあるけど、何にしても1度街に戻らなくちゃ旅支度が出来ないんだが……」
「はい!」
「はい、レインさん。」
「フードを被って謎の人として街に入れば良いと思います!」
「謎の人では速効怪しまれるのでちょっとダメですが……半分正解です。フードはさっき盗賊団の家の中にあるのを見てますので、耳を隠して宿まで到着すれば万事解決です。」
「ピノは尻尾もあるぞ。」
「え?そうなの?あら、本当だ。」
フェニが指摘すると、ピノちゃんがピョコりと隠れていた尻尾を揺らして見せた。なら猫系の尻尾と言う事は、ピノちゃんは猫系の獣人族でこれは猫耳と。
「心配無用の代案無用。フード付きのマントだったので体も隠せます。」
「解決したも同然ですね!」
「じゃあそれを取ってくるから、その間にポヨ、ピノちゃんの体にに異常がないか見てあげてくれ。」
『ピッ!(まかせて)』
「頼んだよ。」
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俺がマントを取ってくると、皆立ち上がって出発の準備をしていた。
「お待たせ。」
『ピッ(ピノちゃんの体に異常は無かったよ)』
「そうか、ありがとうポヨ。で、これなんだけど意外と綺麗な物があったよ。」
ピノちゃんにマントを渡す。
「ありがとうございます。」
ピノちゃんは俺が渡したマントをいそいそと身に付けてフードを被る。
「ああ、完璧。後はバレそうになったら力技を使うから心配しないで。」
「本当にありがとうございます……宜しくお願いします。」
「まぁ任せなって。必ず家に帰してあげるから。」
しかし隣の国まで人を送ってあげるとか、元の世界じゃ有り得ない話だよな。なんだかこの異世界に来たばかりの時から、大分変わってきたな、俺も。
こうして、ただの盗賊団討伐の仕事から、獣耳少女を家に帰してあげるエクストラミッションが追加となったのだった。




