42・蹂躙を望まない。
南の森に入ってから2日目。
盗賊団『青龍団』を討伐する為に街道沿いにうろついたが、接触は出来なかった。今は街道沿いでは無く、昼間だというのに若干薄暗くなるような森の中程をうろついていた。
いや、正確には森の中程かすら分からない。ぶっちゃけ迷った。
途中魔物と遭遇して討伐したりした事もあるが、青龍団を探す事に夢中になりすぎて何処から来たか誰も覚えていなかった。
全員役立たず……
今はブラックベアの肉を、フェニが出した火で焼いて食事をしている。
「ブラックベアの肉は美味しいですけど、青龍団みたいな人に会いませんね。」
「この森にいるのは間違いないんだ。それに、ここまで来たらもはやヤツラを討伐するまで帰れないだろ。」
「うむ。このままではお菓子も食べられないのだ。やるしかあるまい。」
『ピッ!』
「ただ、一体どこにいるのか…………あ、すまんがちょっと外す。」
「どうしたケイマ?」
「ちょっとお花を摘みに。」
「お花ですか!私も行きます!」
「む?花か?ならば我も行こう。」
なんでだよ!?
『ピッピッ(違うよ、お小水だよ。)』
「な、なに!?意味が分からん事を言うなケイマ!」
「ケイマさん!変な言い方しないでください!」
なんでポヨが知っててお前ら知らないんだよ!?
「……なんか、ごめん。まぁ、とりあえず行ってくるから。」
ーーーー
「ふー……」
あ~……スッキリしていくこの感じたまらん。けど我慢し過ぎは体に悪いらしい。
しかし、青龍団に会えなかったらマジどうしよう。こういうパターンは会いたくない時に出てきて会いたい時に出てこないというあるあるパターンかもしれん……
と、その時。
ドォンッ!!
皆から少し離れて出すものを放出している俺の正面、今も皆が火を囲んでいるであろう場所から、突如火柱が立ち上った。
「…………あれー?」
俺はまだ全部出し切れていない為、放出しながら唖然と火柱を眺めていた。
ちょっとマジ?こちとらまだ準備出来ていないんですけど……あー、もうちょいなんだけど。
「青龍団が出たのか?…………っと、よし。」
待ってろ皆!助太刀するぜ!
ーーーー
「大丈夫か皆!青龍団か!!」
俺が皆の所に戻ってくると、辺りは火の海となり、その中で佇む美女2人とスライム。なにこの光景……?
そして合計20人程の倒れている人、氷付けにされている人、炭になっている人等……炭はエグいな……。
そして生き残りの1人がレインに氷で足を凍らされて逃げられない様にされている。ブルブルと怯えながら失禁してしまっていた。
「……こいつらどうしたの?青龍団?」
「あ!ケイマさん!この人達青龍団です!」
「本当に青龍団?普通の人じゃないよね?」
「確かに青龍団だぞ。ケイマが離れた後直ぐにこいつらが現れて、『ヒャッハー!女がいるぜぇ!』『見ろよ信じられねえくれぇ上玉だ!』『俺たちゃ青龍団だ!大人しくしてな!こんな場所じゃ助けも来ねぇぜ!』などと言っていたからな。ふふふ……我は上玉らしいぞケイマ?」
ニヤニヤするなよ……盗賊のセリフでそこ拾うとか余裕過ぎるだろ。
まぁこれだけの美女が2人いりゃ普通の盗賊は見逃さないか。助けが来なくて困るのはコイツらだったみたいだな。
「全滅だと拠点が分からなくなると思って1人生け捕りにしました!偉いですか!?」
「レインが?」
『ピッ!』
「ああ、だよね。」
今自分の手柄にしようとしたレインの言葉に、ポヨがすかさず『ボクの提案です』と言ってきた。
さて……まぁ従魔のファインプレーが出た所で、待ちに待った青龍団。アジトの場所を聞き出すか。けど、マトモに喋れるかコイツ?
「おい、あんた。喋れるか?」
「ひっ……」
俺が近付いて話し掛けると、やはり怯えている。こりゃ聞き出すのは時間が掛かるか?
「貴様早く言うのだ!さもなければあいつらみたいに、お前も炭人形にしてやろうか!」
なんで世紀末的閣下の台詞みたいな脅し文句なの?蝋人形はあるけど炭人形って一体……
「ヒイィィッ……!す、炭人形だけはどうか!拠点を話しやすので命だけは……!」
炭人形通じてるんだ……しかも何これ、凄い効果的。
「うむ、最初からそうしていれば良かったのだ。」
「レイン、足の氷を消してやれ。あと、フェニも火を消すように。このままだと大火災だぞ。」
「はい!」
「そうだな。」
フェニが指をパチンと鳴らすと、燃えていた火はフッと消えた。
「さて、じゃあ案内してもらうか。」
「へ、へい……」
「おかしな真似をした場合、速攻で見事な炭人形が1つ出来上がるから覚えておくように。」
「わ、わかりやした……!」
盗賊団員はブルッと震えると、先頭を歩き出した。
ーーーーーー
盗賊団員の先導で30分程歩く。すると、一層木々が生い茂った一帯に辿り着いた。一見行き止まりに見えるレベルだ。
「こ、この先にアジトがありやす……」
「本当か?ちょっとそんな雰囲気じゃないような気がするが……」
「青龍団以外に見つからない様にしてあるんです……あの……本当にこれからアジトに攻め込むんで?」
「もちろんではないか、我が全員炭人形にしてやろう。」
「お、俺はここまででいいですか?」
盗賊団員は恐る恐る聞いてくる。
「ああ、この先ならもういい。アジトには行くなよ?戻ってマトモな生き方をしろよ?」
「へ、へい!で、では俺はこれで……!」
盗賊団員は逃げる様に走って行った。
ボウッ!!
「ギャアアアアアァァァッ……!」
ええ!?燃えた!?
隣を見ると、フェニが盗賊団員に向かい手を翳して魔法を使っていた。
「逃がしてあげるんじゃなかったの?」
「甘いなケイマは。あの様な輩は同じ事を繰り返すに決まっている。今まで他人を不幸にする事が仕事だった様な輩の一味だ。世の中のゴミはゴミらしく焼却処分するのが一番だ。」
き、厳しい!
「しかしなあ……」
「先に言っておくが、アジトのやつらに慈悲の心など見せるではないぞ?これでこの盗賊団のせいで不幸になる人がいなくなるのだ。ヤツラをゴミだと認識しておくべきだろう。」
まー、正論……なんだよな。
「分かった、フェニの言う事も最もだ。これから突撃するけど、レインもポヨも容赦しなくていいぞ。」
「分かりました!容赦しません!」
『ピッ!』
「そうと決まれば……お、青龍団のやつらが出てきたぞ?今の悲鳴を聞いて出てきたか。」
生い茂った木々の向こうから声が聞こえてきた。
そっと木々を掻き分けて見てみると、見るからに輩っぽいヤツラが武器を持って「今の悲鳴はなんだ!?」とか叫んでる。これはタイミングを見て出ていった方が……
「いくぞー!」
「おー!容赦しないぞー!」
『ピッ!』
ちょっと!タイミングとか考えようよ!人質とか居たらどうすんの!?
その思いも虚しくうちの従魔達が木々を掻き分けて突撃して行った。
『な、なんだ!?』
『敵だ敵だ!』
『たった2人だ!さっさと殺しギャアアアアアッ!?』
『うおあっ!?火が!?』
『氷魔法が!』
『氷の槍だとっ!?』
『な、なんだ!?このスライムつええ……!ゴフッ!?』
『アジトに燃え移った火なんていい!こいつらを始末しろ!うわあああ!』
一見して長閑に見える森の中のアジトは突如一転、叫び声と悲鳴しか聞こえない修羅場と化した。原因はうちの従魔の突然の乱入。
俺との契約によって増強された有り余る魔力を使い、魔法を撃ちまくっている。これは凄い……凄い酷い。もはや蹂躙と呼べる状態だな。本当はやりすぎは良くないと思うんだが。
ちなみに俺は一応その場に出てきてはいるが、従魔達のお陰でやる事が特に無いので見物状態だ。
「なんだ青龍団!手応えが無いぞ!」
「どうしたこりゃ!!なんだ!?何が起きてやがる!」
「デ、デミスさん!敵です!」
「何ィ!?敵だとぉ!?ここがバレたってのか!」
ついにリーダーのお出ましみたいだな。デミスって呼ばれたあの金髪坊主のマッチョがそうだろう。しかしこの世界の盗賊団のリーダーはみんなマッチョなのか……?
デミスは暴れまくる従魔達と、次々と殺られていく手下達を見て怒りに震え始めた。
「て、テメエら……!よくもやりやがったなァ!!」
「ふん!貴様がこのゴミ共の親玉か!」
「女2人とスライムごときが舐めやがって!全員でかかれ!!突っ込んで一気に殺れ!」
『へ、へい!』
『オラアァ!』
「何人来ても無駄です!『氷柱の棺!!』」
空中に無数の氷柱が出現し、突撃してきた青龍団員に襲いかかる。青龍団員はその魔法名の通り無数の氷柱に串刺しにされ、氷柱の棺に埋もれ倒れていった。
『グッ……』
『ぎゃあっ!?』
『グハッ……!』
『うああああっ!?』
氷柱は次々に青龍団員を串刺しにしていき、やがて向かってきた全員が倒れ氷のオブジェクトと化した。
「ば、ばかな……!青龍団員は皆最低でも冒険者のクラスC位の強さがあるんだぞ!?しかもこの人数を相手にこんな簡単に!俺は夢でも見ているのか!?」
残り僅かとなってしまった手下と共に驚愕の表情を浮かべるデミス。
「せっかくデカイ金の種を手に入れたってのに……!あの小娘を使って……」
「凄いなレイン!格好いいではないかそれ!我も負けてられないな!えーと……そうだ!いくぞ!」
フェニが手を上に掲げると、上空に炎が渦巻き始め、やがての巨大な炎の渦が巻き起こる。
「フェニ!何する気かは知らないが、やり過ぎるなよ!?」
「分かっているともケイマ!」
本当かなあ!?
「ゆ、夢だ……俺の青龍団が……女2人とスライムなんかに全滅させられるなんてある訳が無い……あの小娘を使って俺はこれから成り上がる……だからこれは……」
「『地獄の業火』!」
そしてフェニは掲げていた手をバッと下に降り下ろすと、上空に渦巻いていた巨大な炎がデミスと付近にいる残り少なくなった手下達に向かい、轟音を立てて降り注いだ。
「これは……悪い夢だ……」
ゴオオオオオオオオッ!!
『ャ……!……!?』
『!?ッ……?』
やっぱりね!やり過ぎると思ったよ!
ーーーー
「ケイマさん!この建物には誰もいません!」
「こっちは食物と酒の様だな。人はおらん。」
俺達は今青龍団のアジトの中を、捕らえられた人等がいないか一応探している。
フェニの放った降り注ぐ炎に、デミス達青龍団の残党は声も上げる事が出来ずに焼き付くされた。
俺とポヨは『シールド』、レインは『氷の壁』で炎による巻き添えを喰らわない様に防御した。焼き付くされた後は、建物に燃え移った炎をフェニが消す事で収まった。
青龍団がザコだったんじゃないな、うちの従魔達が強すぎるんだろうなあ。なんか青龍団員は最低でも冒険者のクラスC位はあるって言ってたもんなあ……
そして、今は帰る前に捕らえられた人等が居ないか一応確認している所だ。考えてみたら、最初にやるべき事だったんじゃねえのコレ?もし捕らえられてる人に被害が及んでいたらどうしよう……
しかし良かった、今の所一般人は居ない様だな。
『ピッ!ピッ!』
「ん?どうしたポヨ?」
ポヨが急に騒ぎ出したので、そっちへ行ってみる。
『ピッ(人がいます)』
「な、何?ここか?」
建物自体は軽微な損傷だったので、この中にいるなら人的被害は無いとは思うんだけど……
俺はポヨに言われた建物の中を覗いてみた。
すると、確かに人が1人いた。部屋の隅っこで頭を抱えて震えている。
「君、大丈夫?怪我とかしてない?」
俺が声を掛けるとビクッとして益々小さく頭を抱えてしまう。
「……ひっ……た……助けて……ください……」
すると、震える声で答えが返ってきた。肩まで伸びた茶色い髪色の女の子らしい。やつらめ、こんな女の子を誘拐しているとは……全滅させて正解だったぜ。
「ああ、大丈夫。青龍団……盗賊団はさっき全滅させたから安心してくれ。」
「……え……?」
「俺は冒険者ギルドの仕事で来た冒険者なんだ。君、盗賊団に捕まっていたんだろ?」
「……はい……」
「そうか。なら俺達と一緒にここを出よう。街に帰してあげるよ。」
女の子はピクっと反応する。
「……本当……ですか……?」
「ああ、本当だとも。どこの街から来たの?」
すると、女の子は頭を抱えていた腕をゆっくり下ろす。
「!」
すると、頭の上から猫か犬の様な耳がピョコンと出てきた。
「……私は……獣人族の国……エスターニアから連れて来られました……それでも……帰してくれますか……?」




