41・初体験を望まない。
さて俺は今、人生で初めての場所に来ています。それは一体どこでしょうか?
正解は、牢屋です。
俺は今人生で初めて牢屋に入るという事を体験しています。
元の世界のコンクリートに囲まれた物では無く、レンガ造りの中世ヨーロッパを彷彿とさせる情緒ある造りになっていて、これは平成の世を生きてきた現代人にとっては中々貴重な経験なんじゃないだろうか。
……いや違う違うそうじゃない。余りにも現実味が無くて、異国情緒に浸ってしまった。元の世界では一生関係無いと思っていた場所に来る事になるとは……人生何が待っているか分からないもんだ。
そもそもの原因は、先日新しく従魔となった、聖獣フェニックスのフェニだ。
フェニはレイン、ポヨと共に子供達と遊んでいたが、子供達から「フェニお姉ちゃんは本当にフェニックスなの?」と言われ、「ならば我の勇姿を目に焼き付けるがいい!」とか言って、街のど真ん中で火の鳥モードになってしまった。
子供達からは「凄い!」「カッコいい!」と、すこぶる評判が良かった。ただ、その言葉に気分を良くしたフェニがそこで羽ばたいたり炎を上空に吐き出したりした為、事情を知らない人々はパニックになった。
人々は直ちに避難、王国の警護をする騎士団まで出動する始末。
その後ライオスさんやエレオノーラさん等の冒険者ギルドの面々の協力も有り、事態は怪我人も出ずに無事集束した。
そして事態の集束と共に、騎士団に従魔の契約者として呼び出され取り調べを受けさせられた。今はそれに対してのペナルティを決めているらしく、拘束されてから3日目に入っている。
いやー、ペナルティって何だろ、怖っ。フェニのやつも街中で火の鳥モードになったらどうなるか位、常識的に考えたら分かる…………あぁダメだ……あいつら常識無いから分からないわ。じゃあ俺の保護者責任だわ……
等と考えていると、牢屋の扉がカチャリと開いた。
「冒険者ケイマ、結果が出たぞ。」
文官ぽいお爺さんが、3人の騎士団員を連れて入ってきた。どうやらペナルティの内容が決まったらしい。
「今回の件はギルドマスターライオスや、その他証言から判断するに、国家及び王都を脅かすものとは判断されないとした。故に死罪や懲役等とはされない。だが一時的とはいえ、王都に混乱を招いた罪として、冒険者ケイマにはペナルティとして金300枚の罰金を処す。」
痛っ!まじか!金貨300枚は痛いな……
けどフェニにも悪気があった訳じゃ無し、まぁ国外追放とかじゃなくて良かったわ。前にタイラントレックスの素材を換金した貯金があるから、それを全部吐き出せば何とかなりそうだ。今回は素直に応じるとするか。
「わかりました。慎んでお受け致します……」
「期限は10日後までだ。それまでに支払わなければ、冒険者資格を剥奪の上国外追放となる。」
「ギルドにある貯金から払いますので、直ぐに対応します。」
「うむ。従魔の管理は契約者の責任、以後気を付けるように。」
「はい……申し訳ありませんでした。」
罰金の金貨300枚を言い渡され、俺はとりあえず釈放された。
牢屋は王城の一角にあったので、王城の門から兵士に見送られて出所する。
門から出た所には、レイン・ポヨ・フェニが待っていた。
「あ!ケイマさん!お務めご苦労様でした!」
その言い方やめて……
『ピッ』
「ケイマ……」
フェニがシュンとした顔をしながら俺の肩にポンと手を置く。お?反省してるみたいだな。
「まあ誰でも過ちを犯す事はある。以後精進する事だ。」
「その過ち全部お前なんだよ!俺に謝れ!」
「なに?我は間違いを犯した事は無い。自分が過ちを犯していない時は堂々としているべきだ。」
「お前堂々と過ちを犯してるんだよ!」
「子供達があんなに喜んでいたのだ、それが全てだろう。」
「……はぁ……もういい……」
聖獣さんは思っていた3倍位常識がありませんでした。疲れるからもう止めよう……
「とりあえず、罰金払わなくちゃだからギルドに行って金をおろしに行くよ。」
「罰金ですか?いくらなんですか?」
「金貨300枚。」
「さん……!?冗談ですよね?」
「そんな冗談を言ってくれる文官だったら良かったんだけどな。」
「……頑張ってお仕事しましょうね!」
『ピッ!』
「我も頑張るぞ!楽しくなりそうだな!」
「楽しくねーよ!」
とりあえず嫌な事は先に済ます為に、ギルドへと向かうのだった。
ーーーーーー
翌日。
「はい皆さん、今日は貯金残高が銀貨8枚になってしまった為に、少し大きな仕事をします!」
前日にギルドでエスティナさんに対応してもらって金をおろしたら、
『残高は銀貨8枚になります。まぁでもケイマさんなら直ぐに元の金額に戻せますよ。』
『あ、そうです。良いクエストがあるんですよ。クラス不問のクラスフリークエストなんですが。やりますか?』
『1年前から出たクエストで高額の報酬なんですが、まだ誰も完了出来ていません。半年前位からは誰もやらなくなってしまいまして。今の所浮いているものなのでケイマさんが完了させても誰も文句は言わないですよ。』
と、いう事があった。
「はい!ケイマさん!」
ビッと手を挙げるレイン。
「なんでしょうレインさん?」
「大きな仕事ってなんですか!」
「大きな仕事とはズバリ、『南の森に出没する盗賊団、青龍団の討伐』です!」
「青龍団ってなんですか!」
「青龍団とは、南にあるミスラという海辺の町とこの王都を繋ぐ街道の途中にある森に出現する怖くて悪いおじさん達です。ここ1年程に森に住み着いた様で、みなさんが泣かされています。」
「うむ、怖くて悪いやつらはこの街の為にも放って置けんな!皆を泣かすヤツラは皆殺しだな!」
「皆殺しですね!」
『ピッ!(皆殺しだね!)』
……あれ?皆こんな戦闘民族みたいな感じだったっけ……?
「君ら物騒だな。まぁ……最終的にそうなるんだろうけど。ただ、王都の騎士団や冒険者が出向いても、地の利がある為にヤツラに被害を与えられていないとか。それどころか過去には最悪全滅してしまったパーティもあるらしい。リーダーも強い槍術士で、他にも魔法士がいたりするらしいので、油断しては行けません。」
「はい!」
「はい、レインさん。」
「報酬は!報酬はどうなんですか!」
「良い質問です。王国からの依頼の為に高額です。なんと金貨200枚、ブラックベアの討伐が1体金貨1枚ですから、破格ですね。」
「しかし、そうなるとクラスの指定があるのでは無かったのか?よく受けられたな。」
「これは、クラスフリーのクエストです。高クラス冒険者も危険なので受けたがらないみたいです。今まで知らなかったけど、エスティナさんが親切に教えてくれた。」
「なるほどな。高クラス冒険者でも相手に地の利があれば命の危険があるのか。と、なると少し面倒な仕事になりそうだな?」
「ただ、これを完遂した場合……暫く贅沢が出来ます!」
「やりましょう!」
「うむ!我らにしか出来んクエストだな!直ぐに出発だ!」
『ピッ!』
「銀貨8枚しかないので、水だけ買って食料は現地調達です。南の森は歩いて半日も掛からないとはいえ、青龍団をやっつけるまで森をうろつくのでちょっと過酷になりますが、皆で頑張りましょう!」
『おー!(ピッ!)』
こうして俺達一向は金の為に南の森へ向かう事になった。
森で初めての出会いが待ち受けている事等は、もちろん知らない。




