4・余計な事を望まない。
洞窟を出てから20日程経った。未だに森は抜けられない。
……単純に迷い続けているのか、中々広い森なのか。変な生き物がとにかく多くて、夜は地面に寝るのは何となく怖かった。だから低い木の枝を登り仮眠を取ったが、物音がすると直ぐに起きてしまってまともに眠れていない。日中は頭がボーっとしてしまう事が多い。
歩き続けるのは仕方ないが、途中見つけた小川で体を洗った位だから、風呂に入りたい……地球で落ちぶれてからですら一応2日に1度は夜中に公園の水道で体を洗えてはいたし。髭も髪も大分伸びてしまっているから、酷い顔になっていそうだ……
魔法に関しては歩きながら練習し、1日目は何をしたら出せるのかを考えて試した。2日目にはアイツらを殺した白く光る剣を自在に出せる様になった。3日目以降検証した結果、仮説ではあるが、白い光は恐らく身体から放出した魔力自体で、それを操作して形を創る事が出来ると分かった。
実際、魔力の放出量と念じるイメージで幾つかのバリエーションが増えた。そして年甲斐も無くそれに名前を付けたくなった。いや、名前を付けた方がイメージしやすいしね。
指先を伸ばし、その先から出る剣をイメージする『ソード』。長さと切れ味は魔力の放出量による。
掌を対象に向けて塊を放つ『ブリット』。大きさや威力は魔力の放出量による。
目的の場所に防御の壁を創る『シールド』。物理的な物は通さないし、『ブリット』も弾かれたので、他の魔法も大丈夫だろう。
更には身体の内部で魔力を巡らせ浸透させる事で、『身体強化』も出来た。
これらを使い、今まで何とか無事でいられた。熊や多分狼、大きな蛇や気性の荒い牛、軽自動車位デカイ蜘蛛等色々遭遇した。とにかく魔物なのか只の動物なのかは分からないが、初めて見た時にはかなりビビった。とにかく気が休まる時が無かった。まぁお陰で戦い慣れてはきたけど。
驚いたのは、地を歩く恐竜みたいなやつに遭遇した時。凄い力で周辺の木々や地面を破壊して攻撃をしてきた。ビビって過剰に魔力量を放出した『ソード』で首を落として倒したが、あれは異世界の代名詞ドラゴンの一種なんだろうか?『シールド』が使えなければ命は無かったかな。
『……##……!……###!』
と、歩く先で小さく声が聞こえたので顔を上げる。何かがいる……人だろうか?数人いるな……。
暫く歩いて徐々に近付いて行き、声のする場所を木の陰から除き込むと、茶色の体をしたデカイ豚顔の魔物が1体こちらからだと背を向けて膝立ちをしていて、その近くに座って何かをクチャクチャ食べているのが3体。「ブヒブヒ」では無くて「オオオオ」とか「ゴオオオ」とか言っているな。それに……
「あれは…………人だな……」
座っている茶色の豚顔の食べているのは、人だ。男が2人、もう1人は……もはや判らんな……男の様な感じもするけど。
地球であったらこんな場面は胃袋の中身を全部吐き出した上にトラウマになるけど、一番最初にこの手でヤツらをバラバラにしたのが幸い(?)だった、耐性は付いてる。
しかしどうするか……あの豚顔達は俺に気付いて無いみたいだし、スルーして先に向かうか。死体ではあったが人がいるから、町か何かが近いんだと思うし。
「…………ぃやぁ…………」
ん?今のは……明らかに豚顔達のものではない声がした?
静かに立ち去ろうとしたが良く見てみると、こっちからだと陰になってしまっていて見えなかったが、膝立ちをしている豚顔の正面にまだ生きている人がいた。
「や……めて…………」
白い服を着た女性のようだが、服は破られていて半裸の状態。もしかしてあの豚顔……女性をヤろうとしてんの?魔物もそういう感じなのかこの異世界?
豚顔がどの位強いかは不明だし、3人もあの豚顔達に殺されてる。初めて見る魔物だから警戒してスルーすべきだろうな、あの人には悪いが見ず知らずの人の為にそこまでする義理は無い……それは既に元の世界で学習してる事じゃないか。
「嫌だよぅ……」
女性は消え入りそうな小さな声で懇願しているのに、やけに大きく声が聞こえる気がする……俺はそっとその場を後にする。余計な事に首を突っ込むと平穏な生活に支障が出てしまう。
「誰か……お願い……」
~~~ッ!ああクソッ!
「『ブリット』!」
パァン!
「へ?」
思わず『ブリット』を放つと、女性を犯そうとしていた豚顔の胸から上が弾け飛んだ。俺は余りの呆気なさに変な声を出してしまった。でも呆けている場合じゃないぞ、次だ!
「『ソード』!」
俺は左手に『ソード』を展開し木の陰から飛び出す。まずは一番手前のオマエだ!
現状に理解が追い付いて無かったのか、弾け飛んだ仲間の方を黙って見ていた豚顔達は、俺の接近に気付いていなかった。
「らあああっ!」
俺は『ソード』で隙だらけの豚顔を後ろから袈裟切りに真っ二つにする。まずは1体!
敵の襲撃だと気付いた残りの2体は、慌てて立ち上がるが、近い1体が立ち上がろうとして足を縺れさせ転ぶ。俺はその転んだ豚顔を地面ごと斬るつもりで『ソード』を叩きつける。
豚顔の胴体は腹の辺りで真っ二つになり、そいつは「オオオ……!」と叫んでから動かなくなった。
よし!あと1体!……っヤバイ!?
「ッ!」
残りの豚顔は以外と素早く、転んだヤツを倒している間に接近してきていた。そして握った拳を繰り出してくる。が……
「……遅い……!?」
接近された事に一瞬焦るが、繰り出された攻撃は遅く、防御体制から転じて攻撃に踏み切る。ここに来るまでの魔物とか生き物に比べると、違いは明らかだった。
俺は豚顔の拳を避け、すれ違い様に『ソード』で首を跳ねる。
こいつら雰囲気は怖いけど、以外と弱かったな。でもこいつ、豚っぽいけど肉は食う気にはなれないなあ。何せ餌が人だもんなあ。
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