39・ちっぽけなプライドを望まない。
「ケイマが街に来いと言うのでな、来てみたぞ!」
人の姿になっているフェニックスは、執務室に入ってくるなり自己紹介も特にする事無く、「我が来たぞ!」とばかりにフンスと胸を張って皆の前に立っている。
…………胸を張るフェニックスさんは中々良い物をお持ちの様で。
『ゴホン!』
……一瞬目線がそっちに向いただけで、女性組(レインを含む)から険しい目を向けられた。だって目線が行っちゃう、男の子だもの。
「ふむ……ケイマ、説明というのはどういうことだ?お前とこの人の関係という事か?」
「ええ、まあそうなんですが……」
とりあえず俺はレッカとアライア山に行った時のフェニックスとの話をしてみた。
ーーー
「……なるほど、それでフェニックス殿はこのフォルクシア王都に来たと……」
「うむ、そうだ。街に来たらケイマが面倒を見てくれると言うのでな!我も独りぼっちはつまらないし飽きたのでな。」
「まあ……言いましたね……」
実はあの場で綺麗に終わろうと思って言った社交辞令的な発言だったとは、もはや言えまい……
「しかし、聖獣フェニックスが王都で暮らすというのは……街の人に知られた場合は大変な騒ぎになってしまうかと思いますが……」
エレオノーラさんが心配そうに言うが、それは最もだろうな。だけど、フェニックスを今更帰すのも可哀想だしなあ……
「俺はケイマが全て面倒を見るのなら良いと思うが。」
悩み始めた時に、ギルドマスターライオスさんはあっさりフェニックスの滞在を認めた。
「マスター!?ですが……!」
あっさり認めたライオスさんに、エレオノーラさんは少し抗議めいた言い方をする。
「ただし、取り決めをしよう。」
「取り決めだと?」
眉を潜めるフェニックスにライオスさんは続ける。
「この街で暮らす為の簡単なものだよ。山で1人暮らすのとは訳が違うからな。ここは人間の街だ、だから人間のルールに従って貰いたい。」
「ふむ……それは最もだな。ルールとはなんだ?」
「一つ、無意味に人に危害を加えない事。フェニックス殿の力では、人を簡単に殺せてしまう。少し気分を損なった位で人を殺されては堪らん。」
「うむ、分かった。それは約束しよう。」
「本当かよ……?さっき若い冒険者をやっつけたとか何とか。」
俺は疑いの眼差しを向ける。
「う……さ、さっきのはあれだ!身の程も弁えずに我の体に触ろうとしたからだ!我の体に触るならば、灰になる覚悟があるという事だろう!?」
そんな訳あるか。ただの軽いノリのナンパで灰にされてたまるか。
「いきなり約束出来ないのか……」
「だ、大丈夫だ!約束ならば別だ!絶対に守ると誓おう!」
「なら良いんだけど……」
「二つ、街ではケイマの言う事を聞く事。」
「うむ、我よりも強い者の言う事だ、聞こう。」
「三つ、人間と仲良くする事。」
「うむ、もちろん大丈夫だ。それが目的だからな。」
「基本的にはこの三つを約束してくれ。」
「それだけで良いのか?もちろんだ!ケイマの顔に泥を塗る様な真似はせぬよ!」
「あとは、フェニックスとバレないように極力だな……」
「あ、あのー……」
会話の途中でリリアさんが割って入ってきた。珍しいな、空気を読むリリアさんが会話を割って入るなんて。
「フェニックスさんが、さっきから下の階で『我はフェニックスだ』と連呼して炎を出したり、両腕を炎の翼に変化させて若い冒険者の方をやっつけてましたので、皆『フェニックス怖い』という感じになっていますので、もう遅いかと……」
……皆この人の事を、自分をフェニックスって呼んでる中二的な痛い人と思ってくれないかな……もう無理か。
「む……そ、そうなのか?……ならば仕方ないな……しかしフェニックス殿、そうなるとこの王都ではな、魔獣は従魔登録しなければ滞在出来んのだよ。」
「ふむ……ケイマの従魔になれと言う事か?聖獣たる我がか?……ケイマがいかに我よりも強き者とは言え、我が人間の従魔になるなど聖獣たるフェニックスのプライドが……」
だよな。誇り高き聖獣たるフェニックスが俺の従魔になるなんて無いだろう。これで体よく帰ってくれ。
「この王都のルールなのだ。無理だと言うならばここには居られなくなってしまうのだが。」
「!?よし、分かった!人間との契約など些細な事だ!従魔になろうではないか!」
聖獣のプライドは!?折れるの早いな!そんなに街で暮らしたいのか!
「決め事はそれだけか?それならばケイマよ、早く契約をするのだ!それで我はこの街に居ても良い存在になれる!」
フェニックスは早くしろとばかりに手をブンブン振りながら差し出してくる。ワクワクし過ぎだろ。なんかレインに似てないか?主に残念な所が。
しかしフェニックスは街にいる為にやけに積極的だな。……まぁ……何百年も独りぼっちじゃ寂しかったのかもな。仕方ないか、面倒を見るって言った手前……
「ほら、しっかり手を繋げよ?」
フェニックスの手を取り、レインの時同様心の中で「契約」と念じる。
契約の時に放たれる白い光がフェニックスを包む。
「!……これは……魔力が……そうかこれが……」
フェニックスは一瞬驚きの表情を見せるが、直ぐに今度は納得したという様な表情に変わる。
「なるほど、氷女の強さに納得がいった。契約を交わした途端に我の魔力が強まった。魔力お化けのケイマとの契約の恩恵か……」
「フェニックスさんもこれでポヨとお話が出来ますね!」
「なに?」
『ピッ!』
「おお……!『これから宜しく』か!うむ、宜しくされようか!」
「私はレインです!」
「うむ!レインも宜しく頼むぞ!汝の方が従魔として先達だからな、色々教えてくれ。」
「はい!」
「さて、リリアさん、後で従魔登録と従魔の証のリボンをください。」
「あ、やっぱりリボンなんですね。分かりました、後程受付へお願いします。」
「さて、フェニックスさんは晴れて俺の従魔になった訳ですが、フェニックスさんは…………てゆーかフェニックスさんって言い方長くない?」
「そうでしょうか?そんな事は無いと思いますが……」
ああ、良かった……俺の戯れ言にミレイユさんが真面目に答えてくれた。
「我の名前か?フェニックスの名前には特に愛着がある訳ではないが……それなら汝が決めれば良かろう?」
『えっ……?』
ふふふ、皆俺のネーミングセンスに期待している目をしているな?そうだな……
「フェニックスだから『フェニ』と。」
『フェニ……』
おや?皆の反応が微妙だな。
「割りとそのままじゃないですか……ポヨの名前の付け方と大差ないんじゃ……」
む?リリアさんにはポヨの名前も否定されていた気がする……
「じゃあ『ニックス』の方が良かったですか?」
「あぁ……もはやそんな感じでしたか。もうそういう選択肢しかないんですね……」
「『フェニ』か。いいではないか、我は気に入ったぞ?」
ふ、さすが聖獣は分かっている様だ。
「ならば今から我はフェニと名乗ろう。宜しく頼むぞケイマよ。」
「ああ、宜しくな、フェニ。」
こうして、寂しがり屋の聖獣が俺の仲間になった。
しかし、また美女の仲間が出来るのは視覚的には実にありがたい事だ。まぁ……人じゃない仲間ばっかり出来ていくけど……




