32・命懸けを望まない。
「それで、俺と一緒に冒険をしたいというのは?」
休憩所でルノーさんに頼んで持ってきて貰ったお茶を飲みながら話を聞いてみる。
「依頼って言ってもオラ個人からの頼みなんだ。」
「個人の?」
「そうなんだ。実は、オラと一緒に『星露の花』を取りに行って欲しいんだ。」
星露の花?初めて聞くな。花を採りに?
「星露の花……ですか。」
「星露の花……」
ミレイユさんとレインが心当たりがあるように呟く。2人共知ってるのか?
「レッカさん。すみませんが、俺は星露の花を知らないのですが……」
「『さん』なんていらねぇ!レッカでいいぜ!それにもっと砕けて話そうぜ!オラもケイマって呼ばせてもらうぜ!」
ああ、いや、 別にそこは大事じゃないんだけど……
「……レッカ、俺は星露の花って初めて聞くし、どこにあるかも知らない。役に立てるとは思えないんだけど。ミレイユさんとレインは知ってそうだけど。」
「私も実物を見た事はありませんよ?王立の図書館等で資料を見た事があるだけです。でも、大昔に確認された物が最後の様で、近年は誰か見たという話は聞きませんが……」
「私は知り合いの魔物から噂は聞いた事があります!」
え、何?エリクサー的な伝説レベルの草なの?この世界の伝説なんて全然知らないから、益々役に立て無いぞ?
「『星露の花』ってどんな草なんですか?取って来る事に何の意味が?」
俺の質問にミレイユさんが答えてくれた。
「『星露の花』は星に似た形の花を夜にだけ咲かせます。そして、日の出の前にだけその花から朝露として滴り落ちる露には、あらゆる病を治すことが出来る効果があると言われています。その後、花は朝から夕方まで再び閉じるらしいです。」
すげえ、万能薬じゃん。やっぱエリクサー的なものじゃん。それを採集するだけなのか、楽勝だなー……って顔は皆してないのはなぜだ?
「星露の花は、ここから西にあるアライア山の頂上付近にしか生息していないとか。」
「アライア山?遠いのが問題とかですか?」
「確かにここからは歩いて3日程の距離にはなります。」
「結構ありますね……ですが採りに行けない距離じゃないのでは?」
万能薬を回収して凄い商売が出来そうだな。あの無免許の天才外科医の先生も商売上がったりだな。これは1枚噛んだ方がいいか?
「ええ、そうなんですが、その場所が……」
「場所?」
皆が難しい問題を考える様な顔になる。
「フェニックスの縄張りなのです。」
……フェニックス?鳳凰?俺のイメージの鳥であってるのか?
「フェニックスって、火の鳥ですか?不死身の?」
「ケイマさん、ご存知でしたか。」
「いや、ご存知という程では無いんですが……」
「聖獣と呼ばれる高位の魔物です。炎の魔法を操り、死しても燃え尽きても灰の中から甦る不死の鳥と言われています。」
ああ、やっぱり俺の知ってるやつだ。伝説上だけど。
「近年星露の花を採りに行って帰ってきた者はいません。皆星露の花を採る前にフェニックスに焼き付くされてしまっている様です。死体すらも残らないとか。星露の花も本当にそこにあるかどうか……何せ大昔の文献からの情報ですので。」
Oh……生還者ゼロとかマジか……
『……』
それでも手に入れようとする人がいるのは、万能薬がそれ程の価値があるものだからか。ある者はその価値による金の為、またある者は万能薬その効果を求めて……って所か。
「それほどの危険があるのに、どうしてレッカは星露の花を手に入れたいんだ?」
ミレイユさんの話をレッカは目を閉じて聞いていた。
「ケイマ、オラは星露の花の露を飲ませたい人がいるんだ。」
「飲ませたい人?命を賭けてでも?」
「ああ、命を賭けてもだ!」
命を賭けてもか……
「レッカはクラスとレベルは?」
「……クラスCでレベル41だ。」
「フェニックスは?」
俺はミレイユさんに問う。
「討伐推奨はありません。なにせ聖獣と呼ばれていますから、クラスの付けようがありません。人が戦ってはいけない魔物です。」
ちょいちょい……無理だろそれ……そんなやつの魔法を『シールド』で防げるのかよ……
「無理を承知で頼んでいるのはオラも分かってる。だけど……どうしても必要なんだ!」
レッカの事情は知らない。こちらもそれを採るには命を賭ける必要がある。今回これはさすがに……
「何でそこまで……」
「……オラに付いてきてくれねぇか?」
レッカはおもむろに切り出す。俺は皆をチラッと見る。皆、俺に任せると言った顔だ。
「ああ、構わないけど、どこに行くんだ?」
「命を賭けても採りに行かなければならない理由を話すぜ。」
ほう……見せられるものなのか。ならとりあえず付いて行ってみるか。
「分かった。ミレイユさんはどうします?」
「私も差し支えなければご一緒しても?」
ミレイユさんはレッカに聞いてみる。
「構わねえ。ミレイユさんがいた方が話が早いかもしれねぇ。」
立ち上がりギルドから出て行くレッカを俺達は追って行った。
ーーーーー
レッカに付いて暫く街の中を歩くと、住宅街に辿り着いた。その中でも特に派手でも無くボロくも無い普通の集合住宅街の一室の前で、レッカは立ち止まる。
「ここはオラの家だ。」
「レッカの家?」
「そうだ、遠慮しねぇで入ってくれ!オラてとケイマの仲だ!……ルカ!帰ってきたぞ!」
どんな仲だ。そんな仲じゃないだろ。
レッカは扉を開けてルカという名を呼びながら部屋に入って行った。
「……とりあえず、入りますか。」
俺は2人と1匹を連れて部屋にお邪魔する事にした。
ーーーー
「お父ちゃん?今日は随分早いんだね。」
家の中に入ると、女の子がベッドから上半身だけ起こしていた。
「おう!今日はオラの仲間を連れてきたぞ!」
「え?お客さん?」
レッカの娘さんだろう。彼と同じ茶色の髪色って事以外は似ても似つかないかわいらしい女の子がいた。
……いや、正確には「かわいらしかっただろう」が正しいか。
信じられない程痩せ細ってしまっていて、年寄りの様になってしまっている女の子がベッドにはいた。




