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31・社会的抹殺を望まない。


 世間では高位の魔物と位置付けられている氷女コールドフェアリーであるレインが俺の従魔となってから10日程経過した。


 彼女はポヨ同様に素直で良い子だった。けど、クールな美女の見た目とは性格や発言が離れている様だ。



 宿泊している『羊の寝床亭』では、初日からレインのお蔭で誤解を生みそうになった。




 ーーーーーーー




「……という訳で、今日から従魔となったレインです。」


「ケイマさんの従魔になりましたレインです!よろしくお願いします!」


 レインは最初、俺をご主人様と呼ぼうとしたので、それは止めさせた。なんかご主人様って呼ばれるのは無理……元地球人のおっさん恥ずかしいよ。



「まぁ、レインさんも大変だったんですね……こちらは構いませんよ。」


 エミリアさんに事情を話し、一緒にここでお世話になる旨を伝える。



「で、部屋はもう1つ用意してもらう事は出来ますか?」


「もう1部屋ですね?ケイマさんのお隣は大丈夫ですよ。」


「なら……」


「ええ!?一緒のお部屋じゃないんですか!?」


 レインが部屋割りの抗議をしてきた。



「常識的に見て、従魔とはいえ年頃の娘さんと同じ部屋は不味いと思うんだけど?」


「私は一緒がいいです!」


「あのなあ、レインは魔物って言われてるけど、俺から見たら女の子なんだよ。レインは良くても俺が気にするんだ。あと世の中が。ねえエミリアさん?」


「えーと、まあ、人によりますかね……」


 エミリアさんに振ったら微妙な回答が返ってきた。



「ポヨは一緒じゃないですか!同じ従魔なのに!」


『ピ?』


 食い下がるなレイン……1人部屋の方が良くないのかね?



「いや、ポヨはほら……従魔って言ってもこう、癒し系のペット的な位置付けだから。」


「じゃあ私もペットにしてください!」


 うぉい!?


 食堂にいた宿泊客が、ざわつきだす。



「ペットで良いので一緒の部屋にしてください!」



『今あの女の子をペットって……』

『あれ、噂のレベル131のケイマさんでしょ?』

『そんな趣向が……』



 お前は俺を社会的に抹殺するつもりか……


「オーケーわかった落ち着いて、オーケー。エミリアさん、1部屋で。でもベッドは2つの部屋へ移動させてください……」


「そ、そうですね、従魔ですしね。では1部屋のままで、晩のお食事は3人分作りますね。」


「よろしくお願いします……」


「やったー!私も一緒でいいってポヨ!」


『ピ!』


 子供みたいに喜ぶレインを見ると苦笑いしか出ないな。ちなみに今のポヨの『ピ!』には、「よかったねレイン」の意味があった。


 


 ……ということがあってからは、レイン絡みの件については一旦考える間を設けて、社会的にリスクが発生しないか考える事にした。




 ーーーーーーーー




 レインはポヨ同様に街の人達からは魔物の認識ではあったが、キースに隷属させられていた無表情の人形のイメージから一転、本来の明るい性格と並外れた社交性(天然)から、直ぐに皆に受け入れられた。ポヨと一緒に子供達と遊んだりしているので、子供達からは「レインお姉ちゃん」と呼ばれていて、大分仲良しみたいだ。



 そして、ポヨとレインが人気の今日この頃、人気の従魔達の主であるが人気の無い俺は、ルノーさんの入れたバルカノでモーニングタイムを満喫した後、従魔達と共に『その他』クエストの依頼書とにらめっこしていた。



「うーん……やっぱり最近は大したものが中々無い……」




 そして、そんな中彼はやってきた。




「オッス!オラはレッカ!オラといっちょ冒険しねえか?」



『……』


 何かどこかで聞いた事がある様なニュアンスの台詞が……なんか変なキャラっぽい人に声を掛けられてしまった……あー、絡まれたくないなあ。


 俺はチラッと声の主を見ると、再び依頼書に目を向ける。


 茶色の坊主頭に赤い布を巻いた20代半ば位の青年が、ニカッと笑いながら片手を上げている。


 ポヨとレインはそんな彼を不思議そうにポカンとして見ている。



「オッス!オラはレッカ!オラといっちょ冒険しねえか?」


 この変なキャラっぽい人が話し掛けているのが、実は俺じゃありませんように……



「ねえねえ……ケイマさん。」


「どうしたレイン?」


 レインが俺の服の袖をクイクイと引っ張る。


「あの人、多分ケイマさんに話し掛けてるんじゃないかなあ?同じ事2回も言いましたよ?」


『ピ』


 ちくしょー!やっぱ俺だったか!分かってはいたけれども!



 ようやく彼の方を向くと、彼は片手を上げニカッと爽やかに笑う。


「オッス!オラはレッカ!オラといっちょ冒険しねえか?」


「3回目です……」


 3回も言わせてしまった……なんかごめん。でも心が全然折れてなさそうだからいいか。



「あの、俺に何か用ですか?」



「オッス!オラはレッカ!オラといっちょ冒険しねえか?」


 4回目!?あれ今俺返事したよね!?この人同じ事しか喋れない壊れかけのレィディオなの!?



「ど、どうも……ケイマです……」


「ケイマさん!オラと一緒に冒険しねぇか?」



「え?冒険?」


 ふむ……この人は俺がパーティを組む事を断り続けているのを知らないのか?



「すみませんが、俺はパーティは組ま…」


「1回だけでいいんだ!頼む!この通りだ!」


 シュバッっと空を切る音がする勢いで、レッカは頭を下げてきた。



 うーん……ただパーティに誘うだけの人は頭を下げる事まではしないし、何か事情がありそうだな……


「とりあえず……どんな物か話を聞かせて貰えますか?それを聞いて決めさせてください。」


「わかった!」


「そっちの休憩所で座ってからにしましょうか。」




 ーーーーー




「あら?ケイマさん、お久しぶりですね。」


 休憩所では、ミレイユさんが珍しく座ってお茶を飲んでいた。



「どうも、ミレイユさん。今日は珍しいですね、ここにいるなんて。」


「ええ、先日まではキースさんがちょくちょく来ては話し掛けられるので、基本的には治療室から出ない様にしていたんです。」


 あいつ、凄いうざがられてたんだな……



「ですが、マスターが陛下にキースさんのやってきた事を報告しましたら、彼は暫く謹慎処分となったんです。」


「そうでしたか、それは良かった。あいつはずっと謹慎してれば良いんですよ。」


「ふふ、まあ実はそう願ってはいます。内緒ですよ?」


 ミレイユさんは可愛く唇の前で人差し指を立てる。可愛い自分を演出する為に狙ってやっている訳では無さそうな所がポイント高い。これが『嫁にしたいランキング』上位者の力か。



「ミレイユさんおはようございます!」


『ピッ!』


「レインさんもポヨもおはよう。今日も元気ね?」


「はい!ケイマさんのお蔭で元気です!」


『ピ!』


「それは良い事ね。しかし珍しいですね、ケイマさん達とレッカさんの組み合わせは。」



「ミレイユさんオッス!ちょっとケイマさんに頼みがあるんだ!」


「あら、そうなんですか?なら私は席を移動しましょう。」


「良かったらミレイユさんも聞いてくれねぇか?オラの話だけじゃケイマさんが判断に困るかもしれねぇ。」


 そうか、俺はまだこの世界の知識が浅いから、レッカさんの話をミレイユさんが聞いて、不自然な点や違和感が無い話なら受けてもいいか。



「そうですね、時間が大丈夫ならですけどね。」


「時間なら大丈夫ですよ。まだ治療室には誰も来ない時間帯ですし。」


「そうですか、なら良かった。」




 ミレイユさんを含めてレッカさんの話を聞いてみる事にした。



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