3・前の世界を望まない。
「ハァっ……ハァ……ハァ……」
息を切らしながら我に返る。辺りを見渡すと、先程までニヤニヤと俺を囲っていた男達が、四肢を落とされ血溜まりに沈んでいた。
頭の中が真っ白…という表現では説明が出来ない。やった行為自体は覚えているが体が勝手に動いたとしか言いようが無い…
夢……じゃないよな。俺が……やった?何が起きた?いや、確かに俺が左手でやった。でもどうやって?
そう思いながら左手を見ると、白く光るものが左手を覆い、そしてそこから4メートルはあるだろうか、長い剣の様に白い光が伸びていた。
「これで、アイツらをやったのか……」
そういえば頭はさっきの火や痛みを止めたのは魔法だと言っていた。なら、これも魔法なのか?夢中でハッキリどうやったかは思い出せないが、何かが身体中を駆け巡った初めての感覚があった。漫画やゲームみたいな魔力ってやつなんだろうか。
「そっか……これは魔法なんだ。俺も使えるんだな……この鎖切れるか?」
俺は光の剣を鎖に近付けると、鎖はケーキにナイフを入れるかの様にあっさり切れた。これでとりあえず身動きはとれるか。右手の火傷は痛みは無いけど突っ張っている感じがある……これはもう仕方ない、命があるだけ良しとしよう。
しかし、これは何て魔法なんだ?さっきの魔導師とかいうやつは、『トーチ』とか『ヒール』とか言ってたな。あと、どうやったら消えるんだこれ?
俺は心の中で「消えろ」と念じると、白い光はスッと消えていった。
「おお、消えた。とりあえず使い方は検証が必要かもだけど、まずはここから脱出するか……」
出口を探す事にするが、その前にこの施設で使えそうな物を回収して行く事にする。
幾つかの部屋を探してみると、使えそうな物があった。地味だが割りと綺麗なシンプルな服に着替え、外は寒いかもしれないのでマント。それからお金らしい物を一応小さめの袋に入った金貨30枚程と銀貨も同じ位、食べ物や木製の水筒、ナイフ等々を、簡易だが少し大きめのバックを見つけてそれに入れた。もっと財産が隠してあるかもしれないが、まあいいか。さて、ここから出よう。
ーーーーーー
岩のトンネルの出口から外に出ると、森の中だった。アイツらは洞窟を改造してアジトとして使っていたみたいだ。
「しかしここは俺の知ってる世界じゃなさそうだし、人のいる町か村みたいな所に行かないと生きて行くのが厳しいかもしれないな……」
さっきのヤツらの発言や、使える物の捜索をしていて、気が付いた。多分ここは地球じゃない。地球では全く見たことが無い文字の本やメモ書きがあるし、お金は札や外国硬貨が無く、多分持ってきた金貨と銀貨なんだろう。今更金貨銀貨を使ってる所は無いだろうし、魔法も現実にあった事から確信した。異世界転移したんだ。あの頭が大陸共通語とか言ってたから、どっかの大陸なんだろう。
異世界に飛ばされた理由は分からない。神様の気まぐれかもしれない。けど、1度死にかけた事が契機なら、生き延びられた事に感謝して、この世界で第2の人生を生きてみようかとも思う。今度こそ調子に乗らず、平穏に。
「異世界……となると魔物とかも居そうだな……魔法の使い方を練習しながら、とりあえず人里を目指そう。」
ただ、何処に向かえば良いか分からないため、落ちていた木の棒を立てて、倒れた方向に行くことにした。
カランカラン……
あっちか。太陽が今まだ真上じゃないから…………地球知識だと西の方向だな。
「よし、行くか。」
俺はとりあえず西に向かって歩き出した。
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