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28・貴族の横暴をうちの子は望まない。

「さ、どうぞキース様!」


「うむ。」


 また初めて見るやつらだな。あのキース様って呼ばれた、ひょろい金髪野郎は凄いやつなのか?



「あれはキース=エンブリオ様です。」


「凄い冒険者なんですか?」


「キース様は伯爵家であるエンブリオ家の長男のお方です。最近クラスDの剣士ソードマンになったとお伺いしていますが。」


「あの取り巻き達もですか?」


「彼らは2人がクラスCで、今喋っていた方がキース様の従者でクラスBの双剣士デュアルケイロッド様ですね。」



 貴族とその仲間達って事ね。皆が関わりたくない空気感をガンガン出してる、本人達は気付いて無いみたいだけど……



「貴族ですか……近付かない様にしよう。」


「あまり良い噂は聞きませんね、それが賢明かと。最近は長男として父親の仕事に付いていたとかで、顔を出してはいなかったのですが。」


 そうなのか。そのまま貴族の仕事してりゃいいのに。



「しかし、あの後ろにいるのは……」


「彼の従魔達ですね。」


「え?」


 んん……?まぁ1匹は従魔と分かる。全身が黒い虎だ、確かウォータイガーだっけ?しかも大人が3人位乗れそうなデカさだ。



 ただ、残りのアレは……


「アレは……人じゃないんですか?」


 そう、人なんだよね。従魔「達」の括りに人がいるのだ。


「アレは氷女コールドフェアリーですな。氷属性の高位の魔物です。」


「氷女?雪女スノーフェアリーじゃなくて?」


「はい、雪女……と言うのは存じませんが、あれは人ではありません。人型の魔物です。」


「……」


 信じられない、アレが魔物?魔族って種族とかじゃないの?魔族だったら人権侵害だろ。


「魔族じゃないんですか?」


「魔族……ですか?獣人族等はおりますが、その様な種族は聞いたことがありませんな。」


「ヴァンパイアとかラミアとか、サキュパスっています?」


「あれは魔物ですよ。ただ、人と同じく意思疏通が出来ますので、氷女同様高位の魔物ですね。」


 魔族ってこの世界にはいないのか。しかし魔物の括りでいいのかこの世界の人達……?あれだよ?


 氷女は白く長い髪で、肌も透ける様に白く美しい。唇は紫色だが、魔物というには美しすぎる。知的でクールな雰囲気は正に氷女と言えるな。



「女性型の高位の魔物は多くが美しいと聞きます。人を誘き寄せる為とも言われておりますがね。」


 氷女は右腕に従魔のリング、白く綺麗な首に見た事の無い銀色の刻印の入ったリング。多分アレが隷属れいぞくのリングだろう。


「氷女を隷属のリングで従魔とするには、かなり魔力の込められたリングを使わなければならなかったでしょうね。」


 金のある貴族だから出来た事か。



「ウォータイガーもそれなりの強さの魔物ですし、あの従魔もいるならば上位クラスのパーティと同様の戦力でしょう。」


「ふーむ、そうなんですね……」





「お疲れ様です、キース様。」



 エスティナさんが対応をする。


「おい!ミレイユを呼んで来い!」


 お?なんかミレイユさんを名指ししたぞ?



「申し訳ございませんキース様、ミレイユは、本日お休みを頂いておりまして。」


「なに?休みだと?ちっ……折角ブラックベアーを倒した勇姿を自慢したかったのに。」


 ミレイユさんに自慢したかったのか……大きなバッタを捕まえた事を自慢する小学生みたいだな。しかしブラックベアーってそんな強いやつなの?




「ブラックベアーはクラスC推奨ですな。まぁケイマさんからすればゴブリンもブラックベアーも大差無いザコでしょうが。」


 ルノーさんが解説してくれた。ありがとうございます。でも俺今声に出してた?





「ちっ、ならば仕方ない。今日はこれで帰るとするか。おい女、依頼の完了処理をしろ。」


「畏まりました、ギルドカードを拝借致します。」


「この戦力ならば、ブラックベアー等いつでも狩れる。強い魔物を倒す程、ミレイユは俺に惚れてゆくだろう。」


 キースは金髪の前髪を手でさっと撫でながら、そんな事を言う。あ、わかった、こいつキモいやつだ。


 ミレイユさんは普段あんまりこっちのフロアに出てこないと思ってたけど、なんか分かった気がする。




「処理の方は完了です。ギルドカードをお返しします。お疲れ様でした。」


 エスティナさん、多分ムカついてるだろうけど、大人だからあくまで業務的に対応してるなあ。面倒だから余計な事はしない様にしてる対応だな。



「ふん、おい、お前ら帰るぞ。」


「キース様のお帰りだ!道を開けろ!」


 いちいちうぜえ……そんなの言わなくていいから早く帰れよ……



 一団がゾロゾロとギルドを後にすると、ギルド内にはホッとしたような空気が流れた。


 エスティナさんも「ふぅ」と息を吐いている。俺と目が合うと、肩を竦めて苦笑いした。



「なるほど、面倒なやつみたいですね。」


「こう言ってはなんですが、貴族の肩書きを使って、自分のやりたい事をなんでもやる方ですな。あの氷女も、逆らえないのを良い事に酷い目に遭わされているとか。」



「酷い主人の従魔になってしまったんですね。まああの氷女の意思では無いんでしょうが……」



 そう考えると、ポヨは楽しく暮らしてる方か?ポヨがそう思ってくれてるなら良いんだけどな。隷属のリングで従魔になった魔物は主人に逆らえないらしいし、主人次第では相当可哀想な生活になってしまうかもしれない。


 俺は冷めかけてきたバルカノを飲みながら再びポヨが来るのをゆっくり待つ事にした。




 が、あいつらがギルドを出て直ぐに事が起きた。



『このガキが!』

『貴様、キース様になんて事を!』


『きゃあ!』

『うわーん!』

『申し訳ございません!』



 キースとケイロッドとか言うやつの怒声が聞こえたと思ったら、子供達の声等が聞こえた。なんだ……?




 冒険者達とエスティナさんを含む受付嬢は何事かと揃ってギルドから外に出る。ギルドの窓や入り口付近から見ている人もいる。



「……ケイマさんは行かないのですか?」


 ルノーさんがカップを拭きながら聞いてくる。


「まあ……他の冒険者があれだけ行きましたし、何かあっても対応出来るでしょう。」


「キース様が何かやらかしたかも知れませんよ?」


「……それなら尚更面倒ですね。」


 俺は貴族が平伏ひれふす様な印籠の持ち主じゃないしな。レベル131でもなんでも解決出来る訳じゃないし。



 再びバルカノを一口飲むと、視線を感じた。


「ん……?」


 なんか……皆、俺を見てる……?え?何? 


「え……?え?何?俺?」


「……の様ですな。」



 そこで、ステラさんが俺の所に来る。え?俺、あの貴族と何の関係も無いんだけど……



「……ケイマ、今さっき冒険者ギルドに来ようとした子供達がキース様にぶつかってしまってな……一緒に来ていたその母親が謝ってはいるのだが……」


「え?俺関係ありま……」


「ポヨが一緒にいる。」


「……すね。俺か……」


 何したんだポヨ……




 ーーーー



 外に出てみると、ポヨと子供達4人が固まっている。その前では、子供達の誰かの母親だろう女性が土下座をしている。


 そして、その母親の頭をキースが踏みつけている。いきなりなんだ、この胸糞悪くなる光景は?



「キース様にぶつかるとは無礼者めが!」


「俺の服にそのガキの汚れが付いてしまったぞ。どうしてくれるのだ女。」


 キースは母親の頭を足でグリグリと押し付ける。母親は顔を地面に擦り付けられて、頬に擦り傷が出来ている。




「ステラさん、何なんですかこれ?」


「あの子供達が先程から泣きながら話していたのを聞くと、どうやら子供達がポヨと遊んでる内に、従魔登録のリボンが取れてしまったらしい。そのリボンを無くしてはいけないと、ケイマに着けて貰うためギルドに入ろうとした所で、キース様とぶつかったらしい。」


「リボンを?」


「先頭を歩いていた男の子が後ろから付いてくるポヨを見ていて、前をよく見ていなかったみたいだな。」


 な、なんて明確に心が狭いやつなんだ……あの貴族。



「だからケイマ、何とか……」



 ステラさんが話終わる前に、キースが口を開く。


「このガキ共は恐ろしい目に遭わせなければ気が済まんな。おいウォータイガー。」



『グルルルル……』


『ヒッ……』


 指示をされたウォータイガーは、子供達の側に歩み寄る。


『ガアアアアッ!!』


「キャアッ!?」

「うわあ!」


「お許しを!子供達だけはどうか!」


 母親が必死に懇願するが、キース達はニヤニヤとそれを眺めている。


 胸糞悪いな、そろそろ止めさせて……あれ?



『ピッ!』


『グルル……?』


 ポヨが子供達と母親の前にピョコンと出てきた。


 お?ポヨがなんかする気だな……様子を見てみるか。


「ポヨのやつ、何を?」


 ステラさんも隣で不思議そうに見ている。




「なんだ?白いスライム?」


「おいガキ、そのリボンは従魔登録のやつだな?お前の従魔か?」


 キースに問われた子供はフルフルと首を振る。


「スライムごときが何をする気だ?」


「まさかこいつらを守ろうとしてるってのか!?こいつはお笑いだ!!」


「ハッハッハ!本当ですな!」


 キースと仲間達は爆笑すると、ウォータイガーに指示を出す。


「ウォータイガー!そのスライムを粉々にしてやれ!」



『ガアッ!』


「おいケイマ!ポヨがやられてしまうぞ!」


 ステラさんが慌てて俺の肩を掴んで揺らす。他の冒険者達も同じ事を思っているのか、俺を見てる。


「うーん、まあ、大丈夫じゃないですか?ウォータイガー位なら。ほら。」


『え?』



 ウォータイガーとポヨが向かい合う。ポヨはあの円らな目でじーっとウォータイガーを見ている。



『ガアアアアッ!!』


 じーっ。


 ウォータイガーの威嚇にも動じない。肝が座ってる、流石うちの子。



『ガオオオオッ!!』


 じーっ。


『グルルルル……!』


 じーっ。


『ウウウウ……!』


 じーっ。


『ウウ……』


 じーっ。


『……』



 ウォータイガーが目を逸らした、はいポヨの勝ち~。多分本能がポヨの強さを感じたのだろう。



『はあ?』


 一方で彼らは気の抜けた声を出した。




「ちっ、何をしているウォータイガー!スライムごとき踏み潰してしまえ!」



『ガオオオオオッ!!』



  ズンッ!


 隷属のリングには強制力があるのか、ウォータイガーは大きく吠えると、前足でポヨを踏み潰した。


「ふん、他愛の無い。」


「ああっ……ポヨが……!」


 ステラさんが泣きそうな声を出す。



「だから大丈夫ですってば。」


「え?」



『グルルルル……ウ?』


 ウォータイガーが違和感に気付き、踏みつけた足を退かす。


『なっ!?』


 そこにはまったく無傷のポヨが普通にいた。


「な、なんだと!?一体なんだこのスライムは!?」


 驚愕するキース。とその時、いつもの饅頭型のポヨの身体がグッと潰れた形になる。そして……


『ピッ!』


  ドンッ!


 潰れた形になったと思ったら、凄い勢いで斜め上にポヨが射出され、ウォータイガーの顎に直撃した。


『ギャン!?』



  ズシン……



 ポヨが顎に直撃したウォータイガーは、一呼吸後にズシンと倒れる。そしてポヨはポスッと地面に着地した。



 流石うちの子!強い!



「ね?ステラさん、大丈夫って言ったでしょう?俺の従魔ですよ?」


「あ、ああ……良く考えてみればレベル131の君の従魔だったな……」


「あれが噂のポヨアタックです。」


「あれが噂の……いやポヨアタックは初めて聞いたが。」


「今のがファイナルポヨアタックだったらあのウォータイガーの顔から上は吹き飛んでますね。」


「そうか……ファイナルもあるのか……」


「ファイナルもあります。」




『……』


『おおー!』



 唖然とするキース一同と、感嘆の声を上げる見物人。嫌われてるな、キース様は。





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