27・従魔の人気を望まない。
「まあ従魔登録と言っても、従魔登録番号の書いてある物を付けてもらうだけなんですけどね。とりあえずポヨは……従魔登録番号『102』です。書類は私の方でやっておきますね。」
102って、従魔を連れてる人が意外と多いんだな。確かに犬みたいな魔物をペットみたいにして連れてるのも良く見るし、そういう人もいるんだろう。
「すみません、よろしくお願いします。」
「で、です。登録した従魔に付ける物が……足腕兼用リング……首用リング……リボン等ですが……」
「リボンしか無理でしょ。」
ティアの言う通りだ。リング系は付ける所が無い。リボンも怪しいが……
「そうですね……ケイマさん、どう付けます?」
「うーむ……」
「こうしかないんじゃない?」
ティアがリボンの上にポヨを乗せ、プレゼントの箱にする様にポヨの頭の上でリボンを蝶結びにする。
「か~わ~い~い~!」
贈答用の高級なメロンみたいだが、まあこれしかないだろうな。
「これは確かにかわいいですよ。ケイマさん、これでいいのでは?」
「ギルドの方でこんなんで良ければ。」
「もちろん大丈夫ですよ。」
「ケイマ!あたしもスライム欲しい!」
ティアがポヨを抱き締めながらスライムを要求してきた。
「機会があったらな。それより服汚れるぞ?」
ポヨはずっと地面を摺りながら移動しているから、下は汚れてるだろ。
「大丈夫だよ、スライムは身体に付いた汚れとか土とかは、瞬時に身体に取り込んで消化しちゃうから。スライムは男の冒険者よりも清潔なんだよ。スライムの常識だよ。」
男の冒険者舐めんな!いつも清潔にしてるっての!俺はだけど。
「そうなのか、凄いな。洗う必要が無いのは、便利だな。」
「エミリアさんの宿も、汚さないし騒がないスライムなら大丈夫ですよ。」
ああそうか、それなら安心。
でも、スライムは街に馴染めるだろうか?それだけが心配だな……
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結果、スゲー馴染んだ。
ポヨが来てから10日程経ったが、俺よりも馴染んでしまった。
「あー!ポヨちゃんだ!」
「ポヨちゃん遊ぼう!」
「ケイマおじちゃん、ポヨちゃんと遊んでいい?」
『ピ?』
「ああ、いいよ。ポヨ、俺はギルドに依頼完了報告に行ってるから。」
『ピッ!』
この愛らしい丸さと円らな目で、ポヨは子供達に大人気になっていた。子供達はポヨと遊びたがるので、午後からならある程度はポヨを貸してあげている。
ポヨは従魔契約のお蔭か、俺の居場所は離れていてもある程度分かるらしいから、遊び終わったら勝手に帰ってくる。まったくお利口さんだよ。
子供達の絡みがあって、その親や周囲の人々もポヨを可愛がってくれている。
何にしても、知能によって人の言葉が理解出来るのが大きかった様だ。しかも素直で良い子。今じゃ一緒にいても、大体俺は要らない子……いいんだ、俺は1人には慣れてるさ。
冒険者ギルド内でも、その愛らしさから女性冒険者に好評で、彼女達に「キャッキャ」言われながら触られていた。俺自身も知らない冒険者に声を掛けられ続けたので、女性冒険者の知り合いもかなり増えた。ポヨ、ありがとう。
意外な所でエレオノーラさんはそういうのが大好きらしく、ポヨを「ハァハァ」言いながら抱き締めていた。ちょっと引いた。
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「お疲れ様です。完了報告をお願いします。」
「お疲れ様です、ケイマさん。」
エスティナさんに完了報告の処理をしてもらう。 今日は『その他』クエストで、前に草刈りをしたおじいさんとおばあさんの所で、再び草刈りをしてきた。
前と違う事は、刈った草を集めて置くとポヨが食べていくので、捨てに行く手間が無くなった事だ。そう考えると、ポヨを生かして依頼を処理していくのも有りだなと思った。
「はい、完了を確認しました。こちら、銀貨5枚になります。」
「ありがとうございます。」
「やあケイマ、君も今終わりか?」
と、知った人に声を掛けられた。クラスBの長い銀髪美人のステラさんだ。
「ああステラさん、お疲れ様です。そうなんですよ、ポヨのお蔭で早く終わったんですけどね、ちょっと話込んでしまってこの時間ですよ。」
「はは、そうか、ポヨはどうしたんだ?」
「子供達と遊んでます。」
「そうか、人気者だなポヨは。」
「俺よりもね……。あ、俺は報告終わりましたのでどうぞ。」
「あ、ちょっと待ってください。」
下がろうとすると、エスティナさんに止められた。
「ケイマさんは最近レベルの更新はしてますか?」
「ああ、そういや最近してませんね。」
「更新していきませんか?」
そういや、最初に更新してから1度もやってないな。
「なんだ、更新はマメにしておいた方がいいぞ。スキルレベルの把握も常にしておくべきだし。」
そういうものか?ああ、そういやギルドカードの裏でスキルレベルとか分かるんだっけ。一個も確認してないや。
「そうですか、じゃあお願いします。」
ギルドカードをエスティナさんに渡す。
「ではこちらに手を。」
俺はカウンターにある水晶に手を乗せて魔力を送る。
「……はい、これで完了です。カードをご確認ください。」
カードを受け取る。
「レベル131か。」
『え?』
トライ・サーペントの件で大分戦闘したからなあ、16は上がってもおかしくないか。と、思いながらカードをポケットにしまう。
「……相変わらず凄いレベルだな……私はレベル48で、ギルド内ではそこそこ高い方なのだが……自信無くすな……」
「ステラさん、この方は比較対象してはいけないお方です。今のは『へぇ、そうなんだ』位に思うしかないのですよ。ほら、また討伐リストが2枚も……しかもこの討伐内容。」
「うん……そうだな。」
「それに、ステラさんは他のパーティメンバー2人よりも早くクラスAになれますし。あと少しですよ。」
へえ、ステラさんは地道な努力で頑張ってるんだな。それに比べて他の2人は……確か前は色街に行ってるとかどうとか。
「そうだな。……しかしあいつらには困ったものだ……まぁ人の金の使い方に口を出すつもりはないが……」
「今日も色街ですか?」
「そうなんだよまったく……パーティ解散しようかな。」
「それは……まあ……ステラさんにお任せします。」
他の2人はどうやらクズらしいな……
「そういえば、ケイマはまだクラスFなのか?」
「ですね。」
「ケイマさんは仕方が無いんですよ。クラスが上がり難いクエストしかしませんし、マスターやエレオノーラさんにアレだけ言われても、クラスアップの特別申請もしませんし。大物は討伐していても、クエスト外ですので。クラス詐欺ですね。」
「本当にな。」
「う……まあ、その内に。あ、そうだ、ステラさんも完了報告どうぞ、では俺はルノーさんのとこでポヨを待ってますのでー……」
何となく空気がアレだったので、ススッとその場を抜けてルノーさんの所に向かった。ポヨもまだまだ帰って来ないだろうし、一息つこう。
「いらっしゃいませ、ケイマさん。」
「どうも、ルノーさん。バルカノを貰えます?」
「ええ、畏まりました。」
今日も紳士なおじさんだぜ。年を取ったらああなりたいもんだ。
「お待たせ致しました。」
「ありがとうございます。」
ルノーさんはバルカノの入ったカップをスッと置く。置いてもカチャりと音もしないとは……紳士を極めるとこんな事も出来るのか。
「……ふぅ……」
バルカノを一口飲み、息をつく。
「……少し浮かない顔ですな?」
カップを拭きながらルノーさんが話し掛けてくる。
「え?」
「またレベルが上がってしまいましたか?」
「ええ、まあ。ライオスさんに会う度にクラスアップの特別申請の話をされるので、今回またその話されるなー、と思いましてね。」
「クラスアップに興味はありませんか?」
「ありませんねぇ……なんで皆クラスに拘るんでしょう?」
会社で偉くなっても、給料は上がるけど責任が増えるだけだ。特に俺が会社にいた時には、真面目な上司程過労だった。世間では過労死はともかく、中間管理職の過労での精神疾患はザラだったし。
「そうですね……冒険者という仕事は魔物を倒したり、時には悪さをする盗賊等を成敗したりする事もあります。」
「ええ……」
「ここの冒険者は快楽でそれを行うのでは無く、皆の生活を守る為にとやっているのです。この仕事は、クラスが上がるほど様々なクエストをする事が出来るので、活動の幅が拡がります。そうすれば様々な事に踏み込んで行く事が可能となり、皆の為に街の為に活躍が出来るのです。」
「なるほど……」
「皆、この王都の街が好きですので、その為に活躍したいと思いクラスアップやレベルアップに励んでいるのですよ。」
「……そうですか。」
俺は会社を守る為に頑張るサラリーマンと、この王都を守る為に頑張る冒険者を経験してるのか。
しかし俺にはどうも、この王都を守りたいという意識はあまり無い。だからこう温度差が出来るのかも。まあサラリーマンの時は会社の為にってのが当たり前の風潮だったからな。まだこの世界に染まり切っていない俺はこんなものだろう。
俺もこの王都にもう少し住めば、ここを守りたいと、そうなるかな?
バルカノをまた一口飲む。ルノーさんは再び黙ってカップを拭いている。
と、ここでギルドの扉から入ってくる冒険者の一団がいた。
「どけ!お前ら!キース様のお帰りだぞ!」
4人の冒険者が入ってくると、ギルド内がざわつき始めた。
ただ、そのざわつきは4人の冒険者に対してでは無い。一緒に入って来たその後ろに対してだった。




