26・無視して帰る事を望まない。
ああ……ついに街に着いてしまった……
あの助けたスライムは、結局最後まで付いてきてしまった。どうする?どうしよう……?てゆーかどう対応すればいいの?
ついになぜか俺が気まずくなってしまい、振り返ってスライムに話し掛ける。
「……なあお前、いつまで付いてくるつもりなんだ?」
俺が振り返ると、スライムはピタッと止まる。
『ピッ!』
「いや、そう言われてもね……ん?」
あれ……?今何やらおかしかったぞ……スライムは「ピッ」しか言ってないのに、「お供させてください」と言われた様な気がした。
「……ついて来たいのか?」
『ピッ!』
まただ……今の「ピッ」には「はい」の意味があると、何となく理解出来た。
なぜかは分からないけどもしかして俺、いつの間にやらスライム語を習得してた?
いや、なんだスライム語って。
まあ、ペット的な感じなら有りか?でも街に入るのに、魔物はダメですって言われたらどうしよう。それにエミリアさんとこの宿屋ではペットお断りかもしれん……「ちゃんと世話するから!」とか恥を覚悟で本気でゴネればエミリアさんは折れるかもしれない。ただ俺の心も折れるかもしれない……
いや待て、確か街中にも魔物はいたな。どっかであれは従魔とか言ってた気がする。という事は、こいつも従魔として扱って貰えれば解決するな。よし、ならそうしよう。
てゆーかあの円らな目でじっと見られると、追い返すのにもの凄い罪悪感が発生するだろ……絶対。
でもなぁ、もしこいつと仲良くなって、その内死んでしまったらなあ……15年いた実家の犬が死んだ時は泣いたもんなあ。
『ピッ……』
スライムはじっと俺の答えを待っている。あの円らな目で。
「……一緒に来るか?」
『ピッ!』
思わず俺がそう言うと、スライムはピョンピョンと跳ねながら俺の足元に来た。
「まあ……いいか。」
俺は街に向かって再び歩き出した。
ーーーー
「やあケイマさん、今お帰りですか……おや? 」
「ああ、どうもお疲れ様です。」
この人は、名前は知らないが今更聞けない感じの微妙な関係の守衛さんだ。
「そのスライムは従魔にするんですか?ふむ……なるほど白いスライムか。ケイマさんの従魔ならただのスライムじゃなさそうですね。街中ですと、魔物が迷い混んだと勘違いされて退治されてしまうかもしれません。冒険者ギルドで従魔登録をした方がいいですよ。」
「なるほど白いスライムか」?どういう意味だ?
「従魔登録ですか……分かりました、ギルドで早速やってみます。」
とりあえずありがとう名前の分からない人。
ーーーー
「只今戻りましたー。」
冒険者ギルドに戻ったので、とりあえず先に薬草採集の依頼完了をしよう。
お、丁度ティアがリリアさんと話をしてるな、リリアさんに頼むか。
「あ、お疲れ様ですケイマさん。」
「お疲れ~ケイマ。」
「どうも、薬草採集の完了報告いいですか?」
「はい、わかりました。」
リリアさんは薬草の重さを計測すると、銀貨をカウンターに置く。
「薬草3キロ分、こちらが報酬になります。……で?」
なんかこのくだり前にも似たようなのがあったな……
「ケイマこれは?」
リリアさんとティアの目線の先は、俺の足元にいる白いスライム。
「スライムですね。」
「いや、それは分かるんですが、なぜここに?」
「従魔登録をしようと思いまして。」
『従魔登録?スライムの?』
リリアさんとティアがハモる。
「え?なんか不味いですか?」
俺が聞き返すと2人は顔を見合わせ、ティアが、答えてくれた。
「今朝丁度スライムの話はしたと思うけど、スライムには核があって、魔力で身体を繋ぎ止めてるってやつ。」
「もちろん覚えてるよ。」
「スライムは掃除屋の本能しか行動基準が無いのよ?」
「……?つまり?」
「知能が無いから、誰かに従うとか従魔になるとかは出来ないわ。スライムが従魔って聞いたことがないわよ。弱いからしようとも思わないし。」
……そうなの?
「お前知能が無いの?」
『ピッピッ』
「ふむ、なるほど。そうなんだ?」
『何が!?』
2人に揃って突っ込まれた。
「ああ、こいつがね、『自分もさっきまではそうでした、他のスライムは基本そうです。』だって。」
「……ケイマ、頭大丈夫?」
ティアが俺の額に掌を当ててくる。
「熱は無いし大丈夫だ!こいつの『ピッ』の意味が何となく分かるんだよ!」
まったく失礼な!
「もしかして、ケイマさんはもう従魔契約をしたんですか?」
「従魔契約?なんですかそれ?どうやるんですか?」
『……』
「……それ、冒険者の常識ですか?」
「まあ、大体の人は知ってますかね。いいですか、従魔契約の方法は、2つあります。1つは、意思を持った魔物と意思疏通をして契約をします。これは、魔物が従魔になっても良いよ、と言ってる時です。」
意思疏通が出来る魔物なんているのか。話が出来るとかかな?それだとかなり高位の魔物なんじゃないか?
「もう1つは、『隷属のリング』と呼ばれるアイテムを魔物に付ける事です。『隷属のリング』に込められた魔力が多い程、強い魔物を従える事が出来ます。ただ、リングは凄く高額です。」
これは無理矢理パターンか。失敗したら付けようとしたそいつがヤバそうだな。
「基本この2つです。スライムを従魔にするのに『隷属のリング』を付けられない事はないでしょうけど……高価なリングをわざわざスライムに付ける人はいませんね。そもそも知能が無いと従えられませんし。」
「て事は、俺はこいつと意思疏通して了解を得たと?」
「まあ……それしか無いんですが、先程も言いましたがスライムには基本的には知能が無いので……」
「普通は意思疏通も従う事も出来ないと。」
「従魔契約をした位では、魔物に知能が宿る事はありませんし、魔物の言ってる事が分かる様にはならないとは思いますが……ケイマさん何かしました?」
うーん……何か……従魔契約か……
「いや……分かりませんね……あ、そういえば……」
俺はゴブリンに痛めつけられて、身体が欠損していたのを治した事を話した。
「多分それかな……『隷属のリング』も、捕まえた時に使用者の魔力を流して主従関係を、登録するしね。」
「そうですね。大部分が欠損していてたのであれば、修復した際にケイマさんの魔力が身体の大半を占めた為に知能が生まれたのではないかと。初めてのケースなので詳しくは分かりませんが、恐らくその段階で既に従魔契約は成り立っていたと思います。」
あの時は、「治れ治れ」と元に戻るまで魔力を与え続けてしまった様な……それが原因とは。
「スライムにしか当てはまらないやり方なのか、ケイマさんにしか当てはまらないやり方なのかは判別が難しい所ですが。ただ1つ心配なのが……」
「ええ…………従魔としての能力ね。」
「え?スライムだから弱くて当然なんじゃないの?」
「違うわよ……隷属のリングは違うけど、意思疏通して契約した場合の従魔としての能力は元々の強さと、契約者の力によるから……ねえ?」
「ええ……化け物のケイマさんが魔力を分け与えた上に従魔契約したとなれば、多分そのスライムも外見がスライムなだけの化け物だと思います。そもそも、白いスライムはいません。新種ですよその子、何スライムなんですか。」
んまあ、人を化け物呼ばわりするなんて失礼な子。
「そんなバカな……こいつは癒し担当のつもりで連れて来たんですよ?このすべすべさとか、プニプニさとか、ポヨポヨさとか!まあ、元は確かに緑でしたけど。」
そう言って俺はスライムを撫でたりつついたりした。あれ?助ける前はプルプルしてゼリーみたいな感じだったのに、今はグミみたいに弾力性があるな。色と一緒にちょっと変化してる、これは俺のせいか?
「契約者の力次第では、従魔は大きく成長する事もあります。」
そうか、じゃあ俺のせいか。
「従魔の力は教会で確認出来ますよ。行ってみては?」
「そうですね……行ってみます。」
「君は名前は何て言うのかな~?」
ティアがしゃがんでスライムをプニプニとつついている。
「……ムフ……」
変な声が出てるぞティア。プニプニ感がそんなに良かったのか?
「名前はまだだな。そうだな、どんなのがいいかな?」
「スライム……かわいい……」
聞いてないし。スライムをプニプニするのに夢中過ぎるだろ。
「名前は必要ですね。まあ極端な話、ペットに付けるのと同じ様な感じで。呼ぶのにも必要ですよ。」
リリアさんが代わりに答えてくれる。
「名前か……」
見た目で決めるか。
「……プニかポヨかシロだな。」
『は?』
「いや、見た目で……プニプニかポヨポヨで白い感じだから。」
「ケイマはセンスがヤバイね。」
「う、うるさい!」
「まあ……その中ならポヨですかね……」
「じゃあ今日から君はポヨだ。よろしくなポヨ。」
『ピッ!』
「今のはなんと?」
「名前位もうちょっと考えろとかじゃない?」
「ティアお前は……いや、『名前を付けてくれてありがとう。』だって。」
「そうですか、じゃあ従魔登録をしますね。」
しかし従魔とはまさに異世界じゃないか。しかも癒し系だ、仲良くやっていこう。




