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23・偽りの自分を望まない。

 とりあえずトライ・サーペントを適当に切り分けてマジックバッグに詰め込んだ後は、4個のマジックバッグをティアと分けて肩に掛けてその場を出発した。


 ティアは体力的にはポーションで回復しているが、足が折れている為今は彼女をおぶって帰路に着いている。結果俺がマジックバッグ4個全部持ってる計算にはなるが……




 帰りに遭遇した魔物は全て倒しながら歩いたが、ティアはかなり驚いていた。この辺りの魔物には大分苦戦し、2人死んだらしい。



 1日程歩くと、遭遇する魔物も少なく弱くなっていった。大森林の出口が近くなっている証拠だ。そう思った辺りで、ティアが話をしてきた。



「……あのね、ケイマ。」


「どうした?」


「あたしね……トライ・サーペントの頭を落とした時、何でかな、そんなに感動がなかったんだ。」


「……」


「あれだけ家族の仇って、毎日倒す事を考えてたのに、実際に倒すとなんだか拍子抜けな感じだったんだよね……『ああ、これをする為に自分も他人も欺いて今まで生きてきたのか』って。」


「……」


「ケイマがあの夜に言ってた様に、それならもっと違う生き方……例えば結婚したりお店を始めたり、自分や他人の幸せの為に生きていた方が、死んだ家族も喜んでくれてたんじゃなかったかな、って思ったの。」


「そりゃそうだ。戦場で死ぬ事が誉れ~……なんて戦闘狂の家系ならまだしも、普通の家の親なら誰だって仇打ちで娘が危ない目に遭うなんて望んでないだろ。」


「そうだよね……あたし、どうかしてたんだなあ……」


「そうだな。さっきまではどうかしてたんだよ。」


「……酷いなあ……」


「でも、今は違うんだろ?取り返しのつく内にそれが分かって良かったじゃないか。」


「まあ、そうかな……」


「街に戻ったら自分の幸せの為に出来る事を探せばいい。」


「うん……」


 偉そうに言ってしまったが、本来は1度自殺しかけた俺が言えることじゃないよなー……これ。



「そういえばケイマ、なんで文字表なんて持ってたの?」


「ん?ああ、この大陸の文字が読めないんだよ。なぜか話は出来るんだけど……」


「変なの。……あたしも昔、お母さんにあれを貰って弟と一緒に勉強したの。だからギルドで拾った時にそれを思い出しちゃって、なんだか懐かしくて。」



「そっか……」


 それであんなに皆に踏まれて汚れた文字表を綺麗に拭いて返してくれたのか。根は良い娘なんだろうなあ……家族を殺されてしまった事で、捻れてしまったんだろうか。



 ティアはあの日がもし無かったら、どうなっていただろうか?王都で評判の娘さんになっていたかもしれない。




「まだ文字は読めないの?」


「うーん、表を見ながらならなんとか。まだまともには読めないな。急かされたりするとかなり間違って意味の分からない言葉が生まれる。」


「あはは、教えてあげよっか?」


「俺はこう見えて大卒だぞ。表があれば大丈夫だとも。」


「大卒が何か知らないけど、表に頼ってたら覚えが悪くなるよ?」


「うっ……大丈夫。」



 そんな会話をしていると、大森林を抜け王都が見える草原に出た。あと少しだ。





 ーーーーーーー





「お疲れ様です。」


「お疲れ様でーす。」


 王都に辿り着き守衛の若者に挨拶をすると、彼はこっちを凝視しながら暫く動きを停止させた。



 はっ!?そうか………いや、違うんだ。若い娘さんをおぶっているこの状態にはちゃんとした理由があるんだ……通報は止めてくれ……!



「ティ……ティアちゃん……だよね?」


『?』


 あれ?違った?なんだ?


「はい、ティアですけど……?」



 ティアは守衛の若者の発言を疑問に感じながらも、一応答える。



「ティアちゃんが生きてた……」


『え?』


 意図せずハモってしまったが、どういうことだ?




「ティアちゃんが生きてたぞ!!皆に教えなきゃ!!」


 守衛の若者は、大声を出しながらどこかへ走って行ってしまった……いいのか、守衛の仕事は……?



「ティア……お前……死んでたの?」


「そんな訳ないでしょ!あんたに助けて貰ってるんだから!」


「ですよねー。」


「まあ……よく分からないけど、とりあえず冒険者ギルドに向かおうよ。」


「そうするか。」


 俺はティアをおぶったまま冒険者ギルドに向かって再度歩きだした。




 ーーーー




 やっと冒険者ギルドの前に着いたが、ここに着くまでに皆に注目されまくったこの状態は前に経験した事があったな……ミレイユさんを同じ様におぶって来た時だな。歩く先で皆に注目されまくったパターン。でも、今回の皆の表情は驚いてた様な感じがしたけど……


 疑問に思いながらも冒険者ギルドのドアを開けた。


 建物の中に入って数秒、ギルド内は静まり返った。そして数秒後。




『ケイマさん!?』

『ティアちゃん!』



「ただいま戻りました。」


「あ、ただいま……」


 

 ばつが悪そうにティアが呟くと、リリアさんが受付から飛び出してきた。


「ティアさん!生きてたんですね!……良かった……」



 リリアさんもか……まるでティアが死んだと聞いたかの様に話を…………


 ん?ああ、そうか。そういう事か……まぁいいや、それは後で聞こう。それよりもティアだ。



「リリアさん、すみませんが医務室にミレイユさんはいますか?彼女、トライ・サーペントの攻撃を受けて怪我をしてしまっていて。」


「そうなんですか!?分かりました!ミレイユなら医務室にいます!すぐに呼んできます!」


「え?いや……」


 呼んで来なくていいのに。周りの視線が気になるから、とりあえずティアを医務室に運べれば良かったんだけど……





 ーーーーー





「……ふぅ……これで足の骨折も内臓のダメージも大丈夫だと思います。」


「うん……痛みも消えてます!ありがとうございました!」



 ティアは医務室から呼ばれてきたミレイユさんの治癒魔法を受けて身体のダメージを取り除いたお蔭で、自由に動ける様になった。その間にリリアさんがギルドマスターのライオスさんとエレオノーラさんを呼んできている。周囲には他の冒険者や受付嬢もいる。




「それで、説明はしてくれるな?」


 ライオスさんは今までの経緯の説明を求める。



「はい……」


 ティアは大森林へ行くまでから今までの経緯を、俺はティアを助けた辺りからの話を始めた。





 ーーーー





「……そうか。」


 ライオスさんは目を閉じて俺達の話を聞いていた。


「アスレックの言ってた事と最後が違う様だな。」


 違うも何も、あいつら最後までいなかったけど……




「エディオがやられた所までは大体一緒だな。まあ話を聞くとアスレック自身の活躍は大分盛られている様だが。」


「はあ……」


 当たり前だが、ティアはやはり釈然としない様だ。



「アスレックの話はこうだ。『エディオがやられた後、逃げようとしたティアが狙われてしまい、俺達はとっさに守ろうと身体を張ったが残念ながら間に合わなかった。ティアは最後に俺達に「逃げて」と言い残して死んでしまった。残った俺達はせめてやつを倒そうと奮闘したが、無理だと判断して撤退した。帰り道でも3人が力尽きてしまい、結果俺とシドだけが生き残った。』、だそうだが?」



「……」


 ティアをチラッと見ると、唖然としていた。守衛の若者や街の人達の反応は、アスレックにティアは死んだと言われていたから、そういう事だ。



「しかしアスレックの話は今となっては信じるやつはいないだろうな。」


「そりゃそうです。ティアがこうして生きて帰った事で、全てが嘘となりましたからね。」


「ティアの話が真実ならば、エレオノーラ、彼らの行動はギルドの決まりに違反してるか?」


 ライオスさんに話を振られたエレオノーラさんは、眼鏡を人指し指でクイッと上げる。



「ティアさんを囮として自分達は生き残ったパターンですが……彼らの報告から、自分達のした事を隠蔽しようとした事は明白です。」


 その通り。あいつらに何か罰でも与えてくれよ。


「強引に討伐に出た上で逃げ帰るとは、まったく酷いやつらだ。だが……」


「はい、ですがお二人もご存知の様に、冒険者にとって囮は作戦とする事もありますので、囮とした事に対しての罰則等は無いのです。ですからギルドとしては彼らに何らかの処分を下す事はありません。ですが……」


 いや、ご存知無いんですが……という事はあいつらあんな事しても普通の生活が出来るのか。納得出来ん……


「そうだ、彼らは普通の生活には戻れんだろう。嘘の報告をしてまで自分達の社会的信用と地位を守ろうとした事が仇になったな。」



「ああ……なるほど。社会的信用を守ろうとしてついた嘘で、逆に社会的信用を失って、結果ここにはいられなくなると……」


 エレオノーラさんとライオスさんの言葉に納得する。




『ティアちゃんを囮に使うなんて!』

『しかもティアちゃんを残して逃げるとは酷すぎる!』

『あいつら2度とこの王都にいられなくしてやる!』



 それを聞いて周囲が騒ぎ始めた。社会的信用はこういう事。これでアスレックとシドとかいうやつは、この王都には居場所が無くなるか。




 と、そこでティアが突然話を切り出した。



「あの……マスター、少しいいですか?皆に聞いて欲しい事があるんです。」


「なんだ?言ってみろ。」


「はい……実は……」




 ティアはトライ・サーペントを倒そうとした理由を話し出した。家族が殺された事から、目的を達成する為に自分を偽って強い冒険者に近付き利用したり皆に接していた事、貰ったアイテム等を換金して装備品等に変えていた事等だ。


『……』


「ケイマにトライ・サーペントの素材を譲って貰いました。今まで貰ったアイテムはもう無いので、素材を換金したお金で、今まで貰った分を返させてください。」



 すると、冒険者の1人が言う。


「ティアちゃんがそんな事しなくていいんだ。自分を偽ってたって言っても、俺達は貰って欲しいからあげたんだから。」


『そうだよ!』

『その通り!』



「それに、新しく親衛隊も入れ換えて……」


「ううん、親衛隊はもういいの。」


『え?』


「あたしは利用しようとして色々と人に頼り過ぎてたの。だからレベル35の割り弱いし、自分自身の心と身体が強くなれてなかった。今回の事でそう思ったんだ。」


『ティアちゃん……』


「完全に1人じゃ大変だから頼る時もあると思うけど、冒険者としてもう1度1人からやり直して、今度は本当に強くなろうって決めたの。」


 今回、仇のトライ・サーペントに一矢報いる事が出来なかった自分の弱さが悔しかったのか……けど、今まで利用されて貢がされて、それを金に換えられてたと知った皆は認めるか?





「……ティアちゃんがそう言うなら、俺達は応援するよ!いいか皆!ティアちゃんは、明日からは只のクラスC冒険者のティアちゃんだ!今まで通りに接するんじゃねぇぞ!」


『おお!』

『応援してるよ!』

『明日からお互いに磨きあっていこう!』



 ……あっさり認めたな……人気者はいいねえ。皆思う所はあったかもしれないけど。まぁいいやつらじゃないか。本当にティアの事が好きなんだな。てゆーかもう宗教に近いんじゃない?





 さて、ここはとりあえずなるようになった。後はアスレックとシドが出てきてどうなるか、楽しみだ。




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