22・未練を望まない。
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「間に合ってよかったが……酷い怪我だな。」
ティアはボロボロだ。吐血もしているし、腕も足も多分折れてるな。鼻血も出てるし…………うん、美人が鼻血を出してると色々台無しになることが今日分かった。
「俺を見て泣き出すとか失礼なやつだな。」
俺は冗談混じりに言うが、そう言ったらティアは今度は嗚咽混じりに泣き出してしまった
「……ひっく……ぅぇ……違……そうじゃ……無くて……うぇぇ……」
「いや、失礼なやつってのは冗談で……」
やべ、本気泣きされた。ここで冗談とか流石に空気が読めなさすぎたか……?
『ギャャァァァァッ!』
おっと、蛇の存在を忘れてた。
最悪通じなくても頭を弾いて注意をこっちに逸らせるかと思って放った『ブリット』だったけど……破裂したな。でもこれで結論が出た。
『ブリット』が通じるなら当然『ソード』も通じる。この蛇……トライ・サーペントだっけ?結局タイラントとかと同じく俺なら普通に倒せるということだ。
『シャァッ!』
残りのトライ・サーペントの左側の首が吠えると魔方陣が現れる。本当に魔物も魔法を使うんだ。
「ケイマ!『ソニックスラスト』が来るわ!」
「なにっ!?『ソニックスラスト』だと!?」
『ソニックスラスト』って何だ!?強力な魔法か!?避けたらティアに当たってしまうかもしれない……
シャン!という音と共に、見えない何かがこっちへ放たれた事は分かる。威力が分からない以上、多めの魔力で!
「『シールド』!」
白く光る壁を創り出す。
パシィッ!
『シャァッ!?』
トライ・サーペントの攻撃魔法は、『シールド』であっさり防ぐ事が出来た。
「……『ソニックスラスト』って、風の刃みたいな魔法か?」
「そ、そうだけど……『それ』、何?」
ティアは白く光る壁を指差す。ああ、そういや街の人に見せるのは初めてだ。
「俺の魔法。物理攻撃も防げる。」
「物理攻撃も?『マジックバリア』って魔法防御ならあるけど……物理攻撃を防げる魔法は無いわよ。両方防げるのは聞いた事ないわ……」
む?そうなのか。じゃあ『これ』は何?魔法じゃないの?
「とりあえずこれは残しておく、これに隠れてろ。俺はあいつを倒してくる。」
「えっ!?ちょっと!」
ティアに背を向け、トライ・サーペントに向き直る。先程魔法を防がれた事で、警戒している様にユラユラと2つの首が動いている。
「『身体強化』。」
回避目的で身体中に魔力を巡らせるイメージの身体強化を図る。
「来ないなら、こっちから行くぞ!」
俺は警戒しているトライ・サーペントに突っ込んで行く。
「『ブリット』!」
走りながら手をトライ・サーペントの首の1つへ向け放つ。白い光の塊が真っ直ぐに向かっていくが……
『シャッ!』
「何!?避けた!?」
避けれんのかよ!大人しくやられれば良いものを……意外と機敏な動きの首だな……
……ん?もしかして首で避けられんなら、胴体狙えば全部解決なんじゃ?
「最初からそうすりゃよかった。」
狙いを変更し胴体に手を向けると、俺の狙いが分かったのか、トライ・サーペントは急に身体をうねらせながら移動を始めた。
しかも結構速い!そういや蛇って結構動き速いよな……
「くそ……狙いが定まんね……『ソード』で斬るしかないか……って……」
接近戦の為に近付こうとすると、片方の首から風の魔法が次々に放たれて来る。
「『シールド』!あぶねぇ……!」
最初に防いだ時にも思ったが、どうやら風の魔法は不可視らしい。風が目に見えないのは当たり前なんだけど。『身体強化』で速い動きが出来るとはいえ、当たってしまったら大変だ。なら……
「『シールド』!」
俺は『シールド』を片手で前に展開しながら向かって行く。
パシィッ!パシィッ!パシィッ!
風の魔法を防ぎながら徐々に接近すると、今度はもう片方の首が横から俺を食い千切ろうとしてきた。
「!っと!」
ここだ!俺はあえて前に転がって、トライ・サーペントの魔法を使う方の首へと接近し、その勢いのまま斬撃を放つ。
「『ソード』っ!」
ザンッ!!
『シャァァァァッ……!?』
ズンッ! ズシャアッ……
重量物が地面に落ちる音がして、頭を無くした首も地面に倒れる。
厄介な魔法を使う方の首を落とした、あとは……
「残りはおまえだけだな。このまま斬り落としてやる。」
『シャァッ……!』
「えっ……」
トライ・サーペントは短く吠えると、勝てないと悟ったのか頭を無くした首2つを引き摺りながら、踵を翻し逃げようとした。
「逃がすか……あ、そうだ……!」
俺は逃げようとするトライ・サーペントを見て思い付いた。俺が使う魔法がイメージと魔力量なら、こんな事も出来るんじゃないか?
イメージは『地面から出てきて、対象を縛り地面に縫い付けて身動きを取れなくする鎖』だ。その名も……
「『バインド』!」
イメージを創り魔力を放出すると、逃げようとするトライ・サーペントの下の地面から魔力の鎖が出てきてやつを縛り、そのまま地面に縫い付けた。
『シャァァァァッ!?』
「よっしゃ成功。」
トライ・サーペントは逃れようと暴れるが、魔力の鎖はびくともしない様だ。結構魔力を注ぎ込んだからな、あっさり脱出されちゃ困る。
「ふう……良し。ティア!」
ティアを呼ぶと、最初に展開した『シールド』の陰から恐る恐る顔を出す。
「とりあえず終わったけど……さっきまでに、やつに一矢報いる事は出来たのか?」
「……!」
顔を出したティアが現状を見て無言で驚いている。驚くのは良いけど、質問は聞いてたのか……?
「やつに一矢報いる事は出来たのか?」
「え?……ああ……何も出来なかった……」
「なら、今やるか?ティアが止めを……家族の仇を打つんだ。俺が止めを刺しちゃったら、未練が残るかもだろ。」
「え……?」
ティアは足の痛みを堪えながら、フラフラとこっちへ歩いて来る。
「あたし……武器が……それに、止めを刺す程力が残って無いし……」
そうか、手ぶらって事は武器がどっかに、吹っ飛んじゃったのか。なら……
俺は左手に『ソード』を、展開する。
「俺の腕を握って。今、この左手がティアの剣だ。」
「あ……」
ティアは俺の左腕に両手を添えると、ぎゅっと握りしめる。そしてキュッと唇を噛み締めると……
「わああああああっ!!」
叫び声と共に俺の左腕を、トライ・サーペントの首へと降り下ろした。
ーーーーーーー
「親衛隊が置いて逃げてった荷物の中に水があったぞ。」
ティアの話だと親衛隊は5人が死に、5人はティアを置いて逃げたとか。
今は死んだやつの分も含めて、そいつらが置いていった荷物の中に使える物が無いか探している所だ。ちなみに、彼らの置いていった鞄があるのだが、マジックバッグと言う鞄で、魔法だろうけどこの中には500キロまでの物を入れられるらしい。便利すぎるだろ。
鞄の中は真っ暗になっていて、取り出し方があるらしいが、分からなかったので逆さにしながら「全部出ろ」と言ったら、ゴシャッと全部出てきた。
差し出された水をティアが受け取る。
「ありがと……」
落ち着くと喉が乾いてきたのか、木の入れ物の蓋を開け、入っていた水を一気に飲み干した。
「ふぅ……」
「ほら、もう1本。これで顔洗いなよ。」
「え?」
「酷い顔だぞ、鼻血出てるし。美人が台無しだ。」
俺が指摘すると、少し呆けてこちらを見ていたティアだが、急に顔を真っ赤にして水を奪い取る。
「そ、それ早く言ってよね!?」
慌てて俺に見えない様にティアは顔を洗う。
ーーーー
「とりあえず使えそうな物は無いな……というかどれが何かよく分からないな。」
顔を洗い終えたティアが覗き込んできた。
「あ、それポーション。1本頂戴。」
「ポーション?」
小瓶に入っている緑の液体。RPGに出てくるアレか?でもこの世界ってHPとか数値じゃないよな……?
「体力が回復するっていうか、疲れが取れるの。怪我は時間を掛けるか治癒魔法士に頼むしかないけど。」
ああ、尋常じゃない効果のリ○Dって感じか。
ティアはポーションを飲み干すと、ふいに後ろを振り返る。
「あれ……あたしが貰ってもいい?」
あれとは、トライ・サーペントの死骸だ。冒険者に懲りて、この素材を売った金で生活するのか……まあそれも良しだ。
「いいけど、金に変えるのか?」
「うん。でも……使い道は、多分ケイマが思ってるのとは違うと思うな。」
ほほう。募金でもするのかな?まぁいいや、考えがあるなら好きにさせてあげよう。
「じゃあ鞄の中身を全部捨てて、あれを刻んで入れるか。」
「……ありがとう……」
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