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2・厳しい現実を望まない。




 「……ぁ…………ぉ!…ゅ……ぇ…!」




 …………声がする…………何人かの話し声だ。



「…………う…………」


 人の声で俺は目を醒ました。




 どの位寝ていたんだ?……いや、そうじゃないな。


「俺は死ぬ事に失敗したのか……はぁ……覚悟が無駄になっちまったか。…………あれ?」



 瞼を開けて周りを見ると、薄暗い岩場に囲まれた場所……いや、洞窟っぽい場所にいた。


「あれ……?俺……車の中に居なかったっけ……?」


 いや、確かに車の中に居た。睡眠薬の効果で眠ったまま逝けるはずだったんだけど……誰かが発見して救出した?いや、そしたら病院とかに連れて行くはずだよな……となるとここは?




「頭が働かないな、とりあえず移動するか。」


  ジャラリ……


 ん?ジャラリ?……これは……


 立ち上がろうと足を動かすと、『ジャラリ』と鎖の音がして俺は初めて気が付いた。


 両手足に昔の奴隷や罪人が付けている様な鉄の重りと繋がった鎖が付けられている事に。



「…………。なにこれ…………」


 俺は外そうと引っ張ったりしてみていたが、鎖自体を外す事は出来なかった。かなり重量のある重りの様で、まともに動く事も無理だ。しかもその度に鳴った鎖の音を聞き付けて、話し声のする方向から人がこちらへ来る足音が聞こえる。




 足音を聞いた瞬間、ふいに頭が冷やされた感じがして、もしかして俺は今結構厄介な状況では?と思い始めた。




「やっと起きやがったか。」


 そう言いながらこちらを覗き込んできたのは、丸刈りの小太りの男の…………外国人だった。



 ……え?外国人?ここ外国なの?いや外国系組織の日本の拠点?てゆーか今日本語じゃなかった?


かしらァ!コイツやっと起きましたぜぇ!!」


 小太りの男が叫ぶと、少しして5人の外国人がやってきた。全員汚い格好で、物語の中の盗賊を連想させる。その中でスキンヘッドで無精髭のマッチョなおっさんが一歩出てきて話し掛けてきた。見るからにヤバそうだ。



「オゥ、オメエ大陸共通語は話せんのか?」



 は?大陸共通語?何それ……英語の事か?いや、コイツ今日本語話してたよな……


「に、日本語しか……」


「はぁ?日本語?なんだそりゃ?」


 えぇ?日本語で話し掛けてきてんのに日本語って何?とか意味が分からん……


「まぁとりあえず話は出来るみてぇだな。これなら森で拾ってきた甲斐があったってもんだぜ。」



 森で拾ってきたって……車の中じゃないのか?




「あの……あなた方が助けてくれたんですか?」


 俺がそう言うと、男はいきなり笑いだした。


「ゲハハハハ!助けたってか!おい、サナト!」


「へい!」



 サナトと呼ばれた男は、俺に向けて手を翳すと、てのひらがぼんやりと光って……



「『トーチ』」


 ボッ!


 なんだ?何したんだ?……??右手が何か……



「え?」


 右手に火が……燃えて……る?…………ッ!?


「ああああああッ!?手が!?燃えて!?」


 熱い熱い熱い!!なんだこれ!熱い痛ェ!!何故か燃えてる手を振り回したり地面に擦ったりしながら火を消そうとするが、まったく消えない!




「おい、レド。」


「うす。せーのっ!」



 バシャッ


 レドと呼ばれた男は、近くにあった木桶に入っていた水を俺の右手に掛けた。


 ジュッという音と共に火は消えたが、凄まじい痛みが右手に残っている。



「ゥゥゥッ…………!」


 痛い!これは夢でもイリュージョンでも無い!本物の痛みだ……なんだ今のは……!?




「オメエは助けられてなんかいねぇんだよ。ここらにゃ居ねぇ顔つきだしな。珍しいから奴隷として売る為に拾ってきたに過ぎねえんだよ。」


 奴隷として売るって……どこの国にだよ…………本当にクズな世界だな……死に損なってこの様か。まだ俺に苦しめっていうのかよ…



「ちょっと傷物になっちまったが、今の魔法はオメエの立場を分からせる為にやったのよ。ここにゃ魔法士がいんだ、抵抗したり逃げ出すようなら魔法でもう一回痛い目みてもらうぜ?」


「ま、魔法……?今のは魔法……?」



 痛みでうずくまりながら呟く。


「オメエ魔法も知らねえのか?とんだ田舎から出てきたもんだ。まあいい、サナト、痛みだけ取ってやれ。」


「へい。」



 先程右手に火を着けた俺が再び俺に向かい手を翳す。



「『ヒール』」


「ゥゥ………………え?」


 俺の右手がぼんやりと光ると、先程までの火傷の激痛がまるで無かったかの様に消えた。


 

「オメエは今晩奴隷商人に売り渡しに行くからよ。大人しくしとけや。」


「ざけんなこのハゲ野郎!鎖を解きやがれ!」


「……アア?」


 俺はしまった、と後悔した。今の一言で頭は機嫌が一気に悪くなったのが理解出来たからだ。




「テメェはどうやら……ここで死にてぇみてぇだなあオイ!」


 そう言って頭は手に持っていたロングソードを鞘から抜いた。スキンヘッドには血管が浮き出てるし、ヤバい空気だ……




「な、何をする気だ……!」


「どーせ拾いもんだ。この俺に生意気な口をきく野郎は殺す!テメェは金になりそうだから生かしてやってるだけだったが、そもそも拾いもんだから殺しても元手は痛まねぇ。」


 そう言って頭はロングソードを鞘から抜くと、大きく振りかぶった。



「ッ!ま、待ってくれ!今のは謝る!だから止めてくれ!」


 俺は嫌な汗をかきながら必死になって謝ろうとしたが、頭はロングソードを握る力を込めた。





 でも、さっきまで死のうとしていたヤツが、何を今更生きる為に命乞いをしてるんだ?笑えるな俺。けど今は違う、こんな死に方したくない。


 殺されようとしている今分かった。後半はあんな人生だったけど、きっかけがあれば底から這い上がれると思っていた。そのきっかけが欲しかった。ひょっとしたら今はそのきっかけなんじゃないのか?俺は本当はもっと生きていたかったんだ。だから…………死にたくない!生きて行きたい!






 そう思った時、身体中を血液では無い何かが瞬時に駆け巡るのが分かった。そして、次の瞬間左手が勝手に動いた。それは本能的なものかもしれなかったが、左手を左から右へ横薙ぎに振るった。すると……



  ドサッ



 ロングソードを降り上げたままかしらの身体は、腹の辺りから上下に割れた。




『……?』


 一同は理解が何が起きたか理解が出来ていない様子だったが、俺は無我夢中で立て続けに左手を振り回した。



「アアアアアアアッ!!」




 そして、彼らは一声もあげられぬまま刻まれて身体を崩壊させていった。



お読み頂きありがとうございました。

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