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18・親衛隊入隊を望まない。

 依頼者の家の塀を直して帰ってくると、あの一団はまだいた。冒険者ギルド内の休憩スペースでティアさんを囲んで酒等を飲んでいる。



 俺はリリアさんに依頼完了の報告書を出しながら聞いてみた。


「あの人達って何なんですか?」


「ああ……クラスC冒険者のティアさんと、その親衛隊ですよ。」


「親衛隊?」


「はい、私がギルド職員になってから1年位ですけど、既にあの状態でしたね。まるでアイドルです。親衛隊の10人の方々は全員クラスB以上の高クラス冒険者ですよ。」



 高クラスなんだな、あの人達。まあ生き方は人それぞれだしな……一流企業の管理者でもアイドルにお熱の人達もいるし、俺が口を出すことじゃないな。


「清楚系しとやか美人のミレイユさんや私と違って、親しみやすい可愛い系のティアさんは男心を掴むのが上手いようですね。」


 あれ、今さりげなく清楚系しとやか美人枠に自分を入れなかった?まあいいか、スルーだ。



「ちなみに、朝ケイマさんも少しやり取りがありましたよね?……何か感じませんでしたか?」


「ん?ああ、あの時か……」


 文字表を受け取ろうとした時の事だろう。


「あの時の笑顔は、完全にケイマさんの意識を持っていこうとしてましたよ。現に見てくださいアレ。」


 リリアさんが手を向けた方向には、朝ティアさんにぶつかられたあのゴツい冒険者のおっさんが、輪の中でデレデレの笑顔を見せていた。


 マジかおっさん……


「耐性のまったく無い方は、たった2往復の会話でアレです。ましてや笑顔など向けられたら……」



「なるほど、確かに良い笑顔でしたね。」


 それを聞いたリリアさんは少し眉をよせる。



「笑顔で『金か金目の物を出せ』っていう感じでしたね。ほら、アレそうじゃないですか?」



 俺の目線の先には、依頼を終えて帰ってきた若い冒険者3人がいる。




「ティアちゃん!君の為に『虹色オウム』の虹色魔石を取ってきたよ!」


「え!?『虹色魔石』ですかぁ!?すごぉい!」


「10匹狩ってやっと手に入れたんだ、貰ってくれるかな?」


「え~?いいんですかあ?本当に~?」


「もちろん!君に受け取って欲しいんだ。」


「うれしいです~!ありがとうございます、大切にしますね~!」



 とびきりの笑顔で返すティアさん、あれは彼らは完全にやられたな。


「あの笑顔を自分に向けて欲しいが為に、彼らは次々とあの娘さんに貢ぎ物をしていくのです。」



 リリアさんは驚いた顔で彼らのやり取りを見ていた。


「『虹色オウム』の魔石は、全てではありませんが、虹色の魔石が取れる為、宝石と同等に扱われますので、かなりの売値になるはずなんですが……それをあんな簡単に……」


「まあ何の興味も無い人達からすれば、『何してんのあいつら?』って感じでしょうが、今の彼らはあの行動に何の疑問も迷いも無いでしょうね。あの娘さんの術中にいる様ではまだまだ若いですね。」



 俺は昔、落ちぶれ前期にキャバクラに通ってしまっていたが、その時にはまっていた女性と俺を見ている様だ……あんな感じだっただろうな。羽振りが悪くなると、席にも着いて貰えなくなってたなあ。


 俺は少し遠い目をして昔を思い出していた。


「あはは、ケイマさんはやはり只者ではありませんね、達観してらっしゃいます。これは誰が相手でも中々落ちそうにはありませんねぇ。」


 リリアさんは営業スマイルでは無い、良い笑顔で俺を誉めてくれた。




 ーーーーーーー


 次の日も同じ様に『その他』クエストを終えて帰ろうとしたが、話題の人物に声を掛けられた。


「あのぉ……」


「ん?ああ、ティアさん……でしたか?」


「あっ、はい!名前、知っていてくれたんですね!」


 上目遣いで俺を見てくるが、それは俺には通じない。冒険者に同じ技は2度通じぬ。これはもはや常識。


「ええ、まあ……何かご用……」


 「ご用ですか?」と言おうとした時に、例の親衛隊10人に取り囲まれた。そしてその中のリーダーっぽい騎士の男が一歩出てくる。


「待て!ティアちゃんと会話する前には、我々親衛隊の許可を取って貰おう!」


 許可も何も、そっちから会話仕掛けてきたんですけども。この人頭おかしいんじゃないの?


「……あ~……じゃあ許可いらないので帰りますので。」


「えっ……!?ちょっとぉ……!?」


「まあ待て。君が噂のレベル115のケイマだろう?」


「ええ、そうですが……」


「私は親衛隊リーダー、騎士ナイトのアスレックだ。君には我々親衛隊に入る事を許可しようじゃないか。君程のレベルならば問題無かろう。」


 意味分かんないんですけど。何で俺が入りたがっていた感じでいきなり話を切り出してんの?


「いや……大丈夫、間に合ってます。」


 俺の言葉にアスレックと親衛隊は驚愕の表情を浮かべる。


「ば、ばかな……ティアちゃんを命を賭けて守れるんだぞ!この王都でミレイユさんと人気を2分するティアちゃんに最も近い男の1人になれるんだぞ!?それでもいいのか!?」


「あ、大丈夫です。」


『……』


 アスレックは一歩後退あとずさりすると、更に何かを言おうとしている。  


「あ、もうこんな時間だ。すみません、急ぎの用事があるんで帰りますね。」



 もう面倒が目に見えてるので、巻き込まれない様に無理矢理その場を後にした。



「はぁ……」


 後ろでティアさんの溜め息が聞こえた様な気がした。



 ーーーーーー


 その日の夜自室にて、そろそろ寝るかと思っていたら、ドアがノックされた。こんな時間に訪ねてくる知り合いはいないと思ったが……


「はい、どちら様ですか?」


「あ、エミリアです。」


 エミリアさんか。何だろうか?と思いながらドアを開ける。


「はい、どうさしました?」


「ケイマさんの知り合いの方が来られてますけど……」


「俺の知り合いですか?誰だろうか……まあとりあえず行きます。」


「では待って頂く様に伝えておきますね。」


 ーーーーーー


 時間は既に22時を回っているので、1階のフロアには宿泊客は誰もいない。


 その替わり、フードとマントで全身を覆った人が1人椅子に座っている。まったく心当たりは無いな。


「お待たせしました。ええと……?」


「こんな時間に悪いわね。」


 俺が正面の椅子に座ると、その人がフードを取る。


 青髪のツインテール娘、ティアさんだった。何か面倒事な予感がするな…… 





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