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15・口だけなのは望まない。


「あ?なんだテメーは?」


「こいつ、宿の客じゃん。」


「ああ、どーりで見たことあると思ったぜ。」


「で?客が何だ?この宿屋は閉店で、この女は奴隷堕ちなんだよ。」




「エミリアさんを離して貰えるか?」


 そう言って持っていた袋をチンピラに投げつける。


  ブォンッ!


「オフッ!?」


 袋はチンピラAの腹に当たり、軽く吹き飛ぶ。


 ……あっ、しまった……加減って難しいな……なんか急に喧嘩売ったみたいになっちゃったんじゃないのコレ?


「テメー!何しやがる!」


 ああ、やっぱり。チンピラBとCはナイフを抜き警戒してしまった。でも曲げずに行くまでだ。



「それでエミリアさんは自由だろ。」


「なに?」



 チンピラBが倒れているチンピラAの腹の上に乗っている袋の中身を見る。


「こ、こいつは……!ハインドンさん!」


 ハインドン?あ、あのオールバックか。


「……金貨か?」


「は、はい!500枚は間違いなくあります!」


「500枚じゃないぞ。利子を付けて600枚だ。それ持って帰りな。そんで2度とここに来るな。」



「……貴様はこいつのなんだ?」


「宿の客だ。」


「……宿の客がなぜ金貨600枚もの大金でこいつを助ける?宿にもこの女にもそんな価値はないだろ。」


 理由こそお前に関係ないだろ。俺が汚い宿屋に泊まりたくないんだよ。今後生活していくのにせっかく見つけた良い宿屋、手放す訳にはいかないんだよ。



「宿屋の価値はあんたが決める事じゃない。俺にはエミリアさんが宿屋を続ける事にその価値があるんだ。」


「……分からんな。だがな、こっちにもメンツってもんがあってな。しかもこの宿屋は既に潰して商会を入れる予定がある。」


「期限っていう3日はまだだろ。ならあんたらがその金貨を持って帰って話は終わりだ。あんたのメンツなんて知らん。」


「……ならば貴様には痛い目を見て引き下がって貰わなければならなくなる。俺も鬼じゃない、金貨は貰わなかった事にしてやろう。」


 そう言いながら、ハインドンは腰に差していた剣を抜いた。でたよ、こういうやからのこのパターン。



「待て!ハインドン!」


 ハインドンが剣を抜くと、人だかりを掻き分けて知った人が出てきた。



「ハインドンさん!ちょっと待ってくださいよ!こんな所で剣を抜くなんて!」


「ケイマさんも、どうか落ち着いてください……」


 おや?ステラさんにリリアさん、ミレイユさんまで?


「皆さん、どうしました?」



「う……ケイマが金貨600枚を何に使うかが知りたくてな……その……後を……な。」


「リリアさんとミレイユさんもですか?」


「あ、あはは、仕方ないじゃないですか~、誰だって気になりますよ~。」


「私はギルドの外で2人を見かけて……付いてきただけで……」


「そうですか……」


 これであの後色街に入って行ってたら、どうなってたか……



「……ステラにギルドのお嬢さん方か。お前らには関係ない事だ。口を挟むな。」


「しかし、あなたは元クラスAの冒険者だ。いくらなんでもクラスFの彼に剣を抜くなど誇りは無いのか……!」


「誇りなどそれこそ最早関係ない。俺は冒険者では無いんだからな。相手がクラスFだろうが、仕事をするだけだ。」


 だろうな。弱い者には容赦をしないのはチンピラのやり方だ。それを皆が見てイメージが刷り込まれてしまうから、実際は大して強くないチンピラであろうとも怖れられるんだ。


 ただ、こいつは実際に強いらしいけど。



「大丈夫ですよ、俺が言ってる事は間違ってないし、それが理解出来る位の頭はあるみたいです。あの仕事、バカしかいないかと思ってましたから意外ですよね。」


『ケイマ(さん)!?』


「……貴様は死にたいらしいな。腕の1本でも無くなれば黙るか?……フッ!」



 ハインドンは地を蹴ると、一瞬で俺に接近し剣を一閃する。




 さすがは元クラスA冒険者。素人には一瞬消えたかの様にも映ったかもしれない。剣閃などはステラさんにも見えなかっただろうな。けど……




「なっ……貴様……!?」



 俺は魔力を右手に纏いながら、ハインドンの剣の刀身を掴んだ。ガッと握る感じで。



 周囲がシンとなる。


「き……貴様……俺の剣を素手で……だと……!?」


 驚愕の表情のハインドン。驚愕ついでに剣も折るか。


「ソイヤ!」


  パキンッ!


『は?』


 とりあえず握っていた刀身を半分に折ると、周囲から間抜けな声が聞こえた。剣を折られたハインドンは、ふらふらと後ろに下がる。



「き、貴様……クラスFではなかったのか!?」


「Fだよ。関係あんのそれ?」


「クラスFにこんな事が出来るか!」


 出来ます。レベル115だから。



「それより、もういいだろ?金貨持って帰ってくれよ。」


 もういい加減しつこい。仕方ないから一撃喰らわせて思い知ってもらおう。



「いや、今のは偶然に決まってる!」


「どんな偶然で今のが起きるんだよ。さすがは元クラスA冒険者の考察は違いますなあ。」


「貴様ァ!ぶっ殺すぞァァ!」


 おっ、こいつ折れた剣で突っ込んできた。もういいだろ。



「ラァッッ!!」


 殺すつもりで胸を狙って突きを繰り出してきたハインドンの剣を、スイッとかわして、カウンターで右ストレートを腹に打ち込む。


「グフッ……!……オ……あ……」


「!?」


 俺はハインドンの異変に気が付き、直ぐ様距離を取る。すると……




「ゲハァッ!」


 胃の中身を吐き出し、キラキラを地面にぶちまけるのだった。


「危なかった……もう少しでキラキラが服に掛かるところだった。」



 ハインドンはまたふらふらと後退した後、地面のキラキラを上手いこと避け、前屈みに崩れ落ちた。



『…………』



 見ていた人達は黙り込んでしまっている。ステラさんも、リリアさんも、ミレイユさんも。当然エミリアさんは未だに何が起きてるか頭が追い付いていない感じだ。


 まぁ街で怖れられている元クラスA冒険者のチンピラが、まるで小さな子供を相手にするように軽く捻られたんだから、こうなるわな。


 ハインドンも元クラスAとか言ってたから、かなり強いはずだ。レベル100を超えてたら話は別だったけど。





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