14・安値は望まない。
帰り道で歩く事1日、中々の距離を移動するものではあったが、ようやく王都に辿り着いた。太陽は真上から少し傾いている。
最初の洞窟で何かに使えるかと持ってきた大きな袋にタイラントの素材を入れたが、持ち運び上、爪と牙と魔石しか無理だった。
しかも魔石が何処にあるか知らなかったので、取るのにタイラントの身体をバラバラにした結果、心臓部にあった。
魔物は心臓の代わりに魔石で動いていると初めて知ったよ。
「やっと着いたな……長かった。」
途中でかなりの魔物や動物を倒したが、持ち運びが出来ないので全て放置してきたのは勿体なかった……まあ仕方ない、タイラントの素材が優先だからな。
俺は冒険者ギルドの扉を開け中に入る。
冒険者はこの時間はクエスト中の人が多いからか、割りと閑散としていた。受付のカウンターはエスティナだけが対応していた。昼過ぎだとこんなもんなのか。
「あ、ケイマさん!」
「こんにちわ、リリアさん。クエスト完了の報告いいですか?」
「え?あ、はい。」
薬草の入った小袋とギルドカードを提出すると、リリアさんカウンターの後ろにある重量計に乗せる。
「薬草1kgですね。クエストの方は完了です。こちら報酬の銀貨1枚です。」
「ありがとうございます。」
「……で?」
「……で?とは?」
「その大きな袋ですよ……」
「ああ、これですか。これは……」
「あっ!君!」
と、中身を見せようとした所で声を掛けられた。
俺が振り向くと、この前クエストの依頼書を読んでくれた銀髪の女性がいた。
「無事だったのか!リリアから聞いて、あれから北の村に行ってしまったと思ったら、3日目も帰って来てないというから、やられてしまったかと思っていたぞ。」
「あ~、でも北の村に行くとは言ってなかったと思いますが……」
「まあいずれにしても無事で良かったな、ああ、そういえばまだ名乗ってなかったが、私はステラと言う、クラスBだ。」
「俺はケイマです。クラスFです。よろしくお願いします。」
「よろしく。ああ、済まない、何か話の途中だったか?」
「そうです、で?ケイマさん、その袋は?」
「えーと、これです。たまたま薬草の採集をしてたら、いつの間にか遠くに行ってしまってたみたいで、たまたま出くわしたやつをたまたまやっつけたんです。」
ゴト……
俺は袋からカウンターにサッカーボール位の茶色の光る魔石を乗せる。タイラントは地属性だから魔石は茶色なんだと思う。
『……』
「これは…………?」
「あれ?これ魔石じゃないんですか?タイラントの心臓部分にあったから、てっきり魔石かと……」
皆の反応が薄い!まさか間違えたか!?
「いえ、魔石ですね……凄い魔力量を感じます……」
「ですか、良かった。」
あぶね、3日掛けて違ったとか話にならん。
「とりあえず買い取りして貰いますね。これと爪と牙しか持って来れなかったのは残念ですが。」
そう言って俺は買い取りカウンターへと向かう。
ーーーー
「……君が言ってたのはこういう事か。信じられないな……」
「ええまぁ。討伐リストはお見せ出来ませんが、冗談みたいなリストですよ。また冗談みたいなのが更新されているでしょうね。」
「……レベルはいくつなんだ?」
「個人情報なのでお教え出来ませんが……3桁とだけ言っておきます。」
「な……!?」
「またちょっと上がってるんでしょうね。更新が楽しみです。」
「……」
絶句したままステラはケイマの後ろ姿を目で追うのだった。
ーーーー
「すみません、買い取りをお願いします。あの?」
目を閉じてカウンターに座っている男に声を掛ける。起きてるよな……?
「……分かっている。この上に乗せてくれ。」
「あ、はい。」
目が細いだけで、閉じてる訳じゃなかったのか……とりあえず全部出すか。
ゴトゴトゴト……
「……『鑑定』を始める。少し待て。」
男は物を見詰めながら時折紙にサラサラとメモをしている。鑑定ってこんなさらっといっちゃうもんなのか?大丈夫だろうな……
「……心配するな新顔。俺は『鑑定』スキルレベル7がある。」
「あ、そうでしたか、すみません。俺はケイマと言います。」
「……これは、良い物だ。」
無視か。名乗ったんだから名乗れ!なんか嫌われたか?
そして少しすると、男はメモをしていた紙を渡してくる。
「……それが買い取り金額だ。受付嬢に渡せ。それから俺はラシールだ。何かあるなら俺に言え。」
「ああ、はい……ありがとうございました。」
嫌われたんじゃなくて、単に職人的無口だったか。しかしラシールさん、なんのリアクションも無かったから、高値かどうか分からなかったな……紙を見ても金額読めないし。
とりあえず受付に行き、リリアにラシールから貰った紙を渡す。
「えっ……?これ、ラシールさん、何も言ってませんでしたか……?」
「いや、何も。ああ、でも何か途中で『これは、良い物だ』とか。何て書いてあるんですか?」
「私も聞いていていいか?」
「構いませんよ。」
ステラさんも興味があるのか、ずっと横に立っている。
「えーとですね……『タイラント大型種。魔石品質(高)、金貨600枚。牙品質(中)、1本金貨5枚の32本で金貨160枚。爪品質(中)1本金貨20枚の8本で金貨160枚。』合計金貨920枚になります……」
すげえ!あれだけで920万円位の稼ぎか!
「す、凄いな……」
ステラさんも絶句してる。クラスBを絶句させるなら、やはり相当の金額なんだろうな。
「こちら、ギルドに預けで宜しいですか?」
「いや、金貨600枚はすぐに使う用事があるので貰えますか?」
「大丈夫ですが、金貨600枚をすぐに使うってまさか……」
「まさか色街じゃないだろうな?」
リリアさんとステラさんは半眼で見て来る。
色街?ああ~、この金額使うならデカイ買い物か女だと思われるか。そして俺は女だと思われたのか……心外だ。
「違いますよ。これは俺の生活がかかってるんです。」
『生活が?』
「はい、とりあえずお願いします。」
リリアはバックヤードに入り、暫くすると袋を持って出てきた。
「こちら金額600枚です。残りは預りで宜しかったですね?」
「はい、ありがとうございました。急ぎの用事なのでこれで失礼しますね。」
俺は2人にお辞儀をして冒険者ギルドを後にした。
ーーーーーー
確か今日が3日目のはずだから、今日なんとかすれば大丈夫だろ。これで明日からの宿屋に悩む事は無くなるな。……ん?
『羊の寝床亭』に近付くと、人だかりが出来ているのが見えた。
「あれは……」
人だかりで見えない為、「すいません、すみません」と言いながら人だかりを分けて前に出ると、『羊の寝床亭』からオールバックの男とチンピラ4人に腕を鎖で繋がれたエミリアさんが馬車に乗せられる所だった。
「……皆さん今までありがとうございました。」
『エミリア……』
『エミリアさん……!』
『なんて事に…… 』
エミリアさんが近所の人々にお別れの挨拶をしている。近所の人々も何とも言えない表情をしている。エミリアさんは良い人だが、何の助けにもなれないのが悔しい……といった表情だ。……てゆーか不味い!
「ちょっと待った!!」
俺は慌てて叫び前に出る。ギルドでのんびりし過ぎた。結構ギリギリのタイミングになっちゃったよ。