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11・危険な依頼は望まない。


 結果的に言えば、風呂は綺麗だったし、晩飯もやはり旨かった。


 次の日の朝、朝飯を食べながらとりあえずここに暫く泊まろうと思った。




「出掛けてきますので、戻りは夕方になるかと思います。」


「わかりました。お部屋のシーツだけ替えに入らせて頂きますので。」



「わかりました。」


 こういう宿屋ってもっと雑なイメージだったけど、シーツまで毎日替えてくれるのか。やっぱり良いじゃないかここ。





 ーーーーーーー




「おはようございます。」


『おはようございます!』



 冒険者ギルドに入り挨拶をすると、カウンターの受付嬢達が気付いて挨拶を返してくれた。さすがはギルドの顔だな。それに比べて他のやつらは「急に何コイツ?」みたいな顔してやがる。まったく、社会人の基本が出来てないぜ。




 クエストの掲示板を見てみると、所狭しとクエストの紙が貼ってある。文字と簡単な絵が書いてある……いや、ちょっと待てよ。


 文字が読めないから何のクエストか分からないな。やべえ、致命的過ぎるだろ……


 とりあえず左の括りは、魔物の絵がかいてあるから『討伐』だろ?真ん中が草とかの絵だから『採集』か?となると右が『その他』か。いかん、これは早く文字を覚えなければ!


 うーん、文字が読めない以上は絵の雰囲気から察するしかないか。報酬額はもはや気にしない事にする。




 よし、この家と庭みたいな絵にしよう。受付に持って行くか。


 受付を見ると、リリアさんは他の冒険者の対応をしているな……ん?


 手を振ってくれてる受付嬢がいる。あの人に頼むか。


 手を振ってくれた受付嬢の所に行くと笑顔で対応してくれた。営業スマイルでも何かこの感じ嬉しい。


「おはようございますケイマさん、クエストですね?」


「はい、お願いします。」


 この人、昨日ギルドで素材を買い取りますよって言ってくれた茶髪の人だ。



「私はエスティナと言います。以後よろしくお願いしますね。」


「いえ、こちらこそ。で、これを受けたいんですが。」


「はい。……『その他』のクエストで、これは『庭の草刈りをして欲しい』…………ですか?」


「え?あ、そうなの?いや、ですね。それで大丈夫です。」


 そんな内容だったのか。まあいいや、草刈りならどこの世界も一緒だろ。



「?ケイマさん、クラスの特別昇格申請というのがありまして、昨日拝見させて頂いた討伐リストとレベルがあれば、登録した時期や規定昇格ポイントに関係なく、クラスC位なら余裕で一気に行けると思います。そうすればもっと上位の『討伐』クエストが受注可能ですが……」



 そんなのがあるのか?やっぱ森の奥地にいた魔物や動物は強いやつらだったんだな。オークとかクラスC推奨だったっけ?そいつらも雑魚になる位にレベルが上がってた訳だし。特別昇格申請かあ、どーするかなあ?



 待てよ、確か『指名』とかいうクエストがあったな。クラスが上がれば有名になる、するとそういうのも巻き込まれそうだ。いや面倒が増えそうだ、暫くは止めておこう。


「いや、止めておきます。」


「え!?そんな強いのにですか!?低難度のクエストでは報酬額も少ないですし、何よりもケイマさんの実力が発揮出来ないんじゃ……」



「『討伐』とか難度の高いクエストはやりたい人にやらせればいいんです。見たところ広間の人は全員武器を持っているから、『討伐』はほっといても誰かやるでしょう?」



 『その他』クエストの掲示板には誰もいなかったし、競争率が無くて良いし。新参者はあまり目立たずに、明日もそっちにしよう。



「で、ですがこのクエストは高レベルのケイマさんがやるにはあまりにも報酬額が……銀貨3枚ですし。」


 うわマジか、そんなに安かったのか……



「皆困っているから依頼してきているんでしょ?困っている依頼主に俺のレベルは関係ありませんし、出来る人がいるのに無視され続けると、街の人からの冒険者ギルドの評判も落ちてしまいますよ。」


「そ、それは確かに今ギルドが抱えている課題ではあります。」



「それに報酬額は問題ではありません。安くて足りないなら2つ受注するまでです。それで依頼も捌けて、報酬額もそこそこ貰えて解決ですね。」


「……」



 おや?エスティナさん、黙っちゃったぞ。『討伐』したくないから適当に言った事に呆れてしまったか?



「……さすがですね、リリアとミレイユがあれだけ誉める訳です。実際にお話しをしてそれが分かりました。」


「はあ……」


「こちら承認しました。今後もぜひよろしくお願いします。」 


「ええ、もちろんです。では行ってきます。」


 よし、なぜか信じられていく俺のそれっぽい話。まぁこれからはとやかく言われずに『その他』クエストを受けられる訳だ。




 ーーーーーー




「エスティナ、どうだった?」


「リリア……ケイマさんは話以上の人だったわ。あの人は恐らく……聖人よ。」


「せ、聖人?まあ、いいけど。今回は受付譲ったけど、次回は譲らないよ?」


「けど、もしかしたらケイマさん、この国の文字が読めてないかも。」


「え!?そうなの?」


「多分だけど、私がクエスト内容を読み上げた時、『そんな内容だったんだ』みたいな顔をしてたから。」


「明日聞いてみようかな。もし読めないんだったら一緒にクエストを選んであげようかな。」


「なっ!?リリア、なら私は文字を教えてあげるわ!」


「一緒に勉強ですって……!?それは許さないわ!」


「2人共……仕事しなさいよ!」


『あっ……はい。』



 またしても、俺が去った後の一幕だった。




 ーーーーーー



「ごめんくださーい。」


 その辺の人に依頼主の家の場所を聞きながら、俺はその家に辿り着いた。草刈りの依頼で来てはいるが、玄関から既に見えている小さな庭は、緑の葉っぱの雑草が腰位まで伸びているのが見える。思っていた3倍位伸びてる……



「はいはい、今行きますよ。」


 扉が開くと、背の低いお婆ちゃんだった。



「あら?どちら様ですか?」


「ケイマと申します。ギルドから草刈りの依頼を受けてきました。」


 怪しまれない様にギルドカードを見せながら名乗る。



「あら、今回は随分早く来てくれたのねぇ。おじーさん!ギルドの方が草刈りに来てくれましたよー!」


 老夫婦の家だったか。なんだ、お爺さんいるならやればいいのに。



「おお、すみませんなあ。草刈りなど本来冒険者の方に依頼する程のものではないというのに。」


「……!」


 お爺さんを見て俺は、申し訳なかったが一瞬「あっ」と思ってしまった。



「何しろワシはこんな状態でしてなあ。婆さんも足が悪くて何とも出来んのです。」


 お爺さんは両腕が肩から無かったからだ。


「いえ、そんな事は。草刈りはそっちの庭ですね?早速始めますので、終わったら確認の為に呼びに行きますね。」


「よろしくお願いします。」




 なるほど、これは草刈りでも依頼するよな。ひょっとしたら『その他』クエストはこういう人の依頼が多いのかもな。さて、『ソード』を使ってさっさと片付けるか。




 ーーーー




 およそ1時間後、刈った草を端に寄せて完了した。元の世界ならまだ終わってない上に疲れが限界だろうけど、今は疲れないし体が動く。これもレベルのお陰かな。




「お爺さんお婆さん、終わりましたよ。」



「あらま、本当。もう終わったのねえ。」


「凄いですな、お茶でも飲んで少し休んでくだされ。」


「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えて。」


 俺は老夫婦と共に椅子に座りながらお茶を飲み一休みする。これは紅茶か?この世界のお茶は紅茶を指すのか。




「ワシは昔、王都から少し離れた鉱山で働いていましてな。その時に事故で両腕を失いまして。草刈りなど録に仕事が出来んのですよ。」


「そうでしたか。両腕が無いのは生きていく上では大変ですね……」


「ええ、その通りです。飯も婆さんに食べさせて貰わんといかんのでね、余り婆さんに迷惑を掛けん内にあの世へ行こうとも思っとったんですが……ワシが死んだら自分も死ぬ、と言い出しましてな。」


「若い頃『あなたを一生支える』って言ったもの。当然ですよ。」


「とても仲がいいんですね、羨ましいですよ。」



 本当、羨ましい。この2人は一生信じられる人と、信じてくれる人に巡り会えたんだ。


 この異世界の人は、案外優しいのかもしれない。



「ですが、今日来て貰えたのがアナタで良かったですな。」


「?それはどういう……」


「実は……半年前に来た方は、来るなり直ぐに短剣を抜いてワシらを脅してきましてな、完了のサインをしろと……」


「え!?」


「ワシらもこんなですから、抵抗等は出来ずに言われるままサインをしました。」


「今回頼むのも迷ったんですけど、私たちは体が不便ですので、やはりギルドに頼むしかなくて……あなたが来てくれて本当に助かったわ。」


「いえ……また何かあったら依頼してください。いつでもどうぞ。それと、またそんな目に会う様なら、俺に話してください。2度とそんな目には会わせません。」




 そう言って俺はギルドカードを見せる。すると、老夫婦はそれを見て驚く。




「レベル115……!」





 やはりこの異世界もクズが得をして、いい人が泣く世界か。どこの世界でも変わらずこういう事があるんだろう。


 今度はこの異世界で、他の人が少しでも他人を信じられる様に、俺にしか出来ない事を考えて生きてみようかな。


 難しそうだけど、せっかく来た異世界だし、今までの事からただ逃げながら生きていくよりは良いかもな。




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