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10・汚い宿屋は望まない。

 受付嬢3人が持ち場に戻ったところで、改めてリリアさんが説明をしてくれる。



「素材や魔石はあちら奥のカウンターで査定と買い取りをしています。」



 リリアさんが奥に手を向けると、ガタイの良い兄ちゃんが目を閉じて座っていた。



「素材の解体で売れる部分を持って帰ってもいいですし、丸々持って帰れるなら買い取りカウンターで解体してもらえます。解体費用はかかりますが。」



 解体とか出来ないな、費用かかってもいいから丸ごといくか。


「説明は以上になります。何かご不明な点はありますか?」


「いや、今の所は無いですね。ありがとうございました。明日からよろしくお願いします。」


 

「え?い、いえ!こちらこそよろしくお願いします!」



 俺はお辞儀をしてカウンターを後し、ギルドを出る。さて、クエストは明日でいいとして、まずは宿屋を探さなければ!




 ーーーーー




 俺が去った後の受付カウンターで。




「いやー、びっくりしたねー。まさかのレベル115とか。」


「本当よね、うちの最高はマスターのレベル65でしょ?軽く越えてるわよ。」


「でも討伐リスト3枚で内容も濃いし、納得かな。討伐リスト1枚越えてる人自体見た事なんて無いよ。」


「その割りに礼儀正しいし、顔もいいし、性格も良さそうだし、優良物件来たね。」


「そうだね、冒険者の男ってみんな俺様的な感じなのにね。ケイマさんは旅してたみたいだけど、この街に長くいてくれないかなー?」


「そうね、どんな人か明日から注目ね。」




 等の話があった事を、俺は知らない。




 ーーーーーーーー




 


 太陽がまだ真上に来ていない昼前、俺はキョロキョロと宿屋を探しながら歩いている。昨日初めて来た時にはミレイユさんを背負いながら見たけど、王都というだけあって色んな建物や店が並んでるな。人もかなりのもんだ。冒険者ギルドの前の通りで、道幅もかなり広あるから、ここはメインストリートなんだろうな。


 道幅の広さがあるから、人が多くてもごちゃごちゃした感じはしないな。



 建物に入ってる店以外にも、屋台も沢山ある。あの屋台……良い匂いだ。何かの肉類にタレをつけて串焼きにしているのか。明日食べてみよう。お、あの剣と盾の看板は武器防具屋か、分かりやすい看板だな。これも明日か明後日辺りに覗いてみるか。



 お、なんかベッドっぽい看板の店が。宿屋だろう。





 ーーーーー




 「済まないが、暫く部屋は空かなくてね。この先にもう1件ある。そっちを当たってみてくれ。」



「はあ、わかりました。」




 ーーーーー




「申し訳ないねぇ、うちは今一杯なんだよ。斜め向かいの宿屋にはもう行ったかい?」


「いや、まだです。」


「悪いけどそっちも行ってみておくれよ。」



 な、なんだなんだ?宿屋ってそんな人気なのか?仕方ない斜め向かいの宿屋に行くか。




 ーーーーーー




「申し訳ありません。只今お部屋は満員となっておりまして……」


「まじか……後、この辺りに宿屋はありますか?」


「はい、あるにはあるのですが……」


「汚い宿屋とか?」


「いえ、部屋は綺麗ですし、料理も美味しいと評判でしたが……他の宿屋が満員になっているのもそれが一端ではあるのですが……」


「そこ以外だと?」


「色々と我慢出来るか気にしない方なら平気な宿屋でよろしければ。」


 はい、決まり。汚い宿屋は無理だ。汚い車生活はしてたけど、ベッドとかシーツが汚いのはダメだな。



「そーですか、じゃあその綺麗な店を教えて貰えますか?」


「ええ、はい……この先に目を閉じた羊の看板の店があります。そこがそうです。」


「ありがとうございます、とりあえず行ってみます。」




 ーーーーーー




 何かよく分からないが、俺だから拒否されてる訳ではないらしい。王都だから冒険者とか商人とか観光客とかで人も多いから、宿屋は常に人気なんだろうなあ。





 暫く歩いてみると、目を閉じた羊の看板を見つけた。ここか。メインストリート沿いにあるから立地は悪くないが……さっきの宿屋の人が言ってたのはこれか。


【#####!】

【##!】

【##############】

【######】


 この世界の文字が読めないので、何が書いてあるかは具体的には分からないが、乱雑に力強く文字が書き殴られた紙が壁やドアに何枚も貼ってある。


 元の世界の経験が教えてくれる。この紙に書かれている文章は読めなくても、見たら分かる、あかんやつや……。こういう紙を貼られてる家の人、大体犯罪者か借金だもの。


……確かにこれじゃ客は来ないな。



 ま、とりあえず入ってみてから考えよう。



 


 訪れた宿屋は、1階は食事等ができる広いスペースと、奥には厨房がある。2階と3階が寝室になっているようだ。見た目は随分と綺麗な雰囲気だけど……こっから何か問題があるのか?ぼったくりか?さっきの宿屋は一応泊まるだけなら銀貨5枚と言ってたが。




「……あ!いらっしゃいませ!お泊まりですか?」


 宿屋の受付には、金髪ロングの髪を後ろで結わえた美人女将が対応してくれた。なんか異世界って美人多くない?



「1泊銀貨3枚になります。お食事は1食銅貨3枚で朝昼夜お出し出来ます。」


 あれ?安い?



「宿泊予定とお名前を教えて頂けますか?」



「ええと……ではとりあえず2日でお願いします。食事は今日の昼夜と明日の朝夜でお願いします。あ、名前はケイマです。」



「2日ですか!?ありがとうございます!では、銀貨7枚と銅貨2枚の先払いになります。」


 スゲー喜ばれたな。よっぽど客が来てないのか。




「はい。…………ではこれで。」


「丁度ですね、ありがとうございます。」


 今のやりとりで、お金の基準をなんとなく理解する。


 銅貨10枚で銀貨1枚か。となると、銀貨10枚で金貨1枚かな。金貨の上はあるのかな、わからん。機会があれば確認しよう。


 と、一人考えていると、女性は宿帳だろう冊子に何か書いた後に鍵を渡してくる。


「お部屋は2階の1番になります。お風呂場は1階のあちらの角になります。時間は17時から21時です。何かをありましたら、1階にお越しください。私はエミリアと申します。下に私の部屋がありますので、なんなりと。」


 この世界も24時間制だったのか、初めて知ったよ。



 しかし風呂があるのは良い、この世界の宿屋では普通なのかな?



「お食事はお昼の分は直ぐにお作りしますね。夜は18時位に予定させて頂いてもいいですか?」


「はい、大丈夫です。」


「分かりました。それではごゆっくりお休みください。」




 エミリアと別れて指定された部屋に行くと、ベッドと小さなテーブルがある簡素な部屋ではあったが、掃除などが行き届いており、かなり清潔に保たれていた。



 綺麗じゃん……シーツも布団も特に汚いとか臭う訳でも無いし。あの嫌がらせの張り紙程度で客が居なくなるか?それか飯が不味いか風呂が汚いとか?


 ベッドに横になり、目を閉じながら考え事をしていると、ドアがノックされた。


「ケイマ様、お食事の用意が出来ましたので。」


「あ、はい。今行きますね。」



 早いな、どんな食事かな。それによっては外食も考えよう。




 ーーーーーー




「旨い……」


 食事はパンと野菜の入ったスープ、それから何かの肉を焼いてソースをかけたものだ。料理としては簡素だが、朝昼はこんなもんだろ。


 簡素にしても旨いな。スープも旨いがこの肉は米が欲しくなる。そういや他の宿屋の人も、料理は評判だったって言ってたな。



 部屋は綺麗……料理も旨い……女将は美人……これなら多分風呂も綺麗だろう。それなのにこの宿屋は俺1人しかいないとは一体……



  バァン!



 いきなり入口のドアが乱暴に開かれた。



「オラア!エミリアァ!支払いはどーなってやがんだ!アア!?」


 なんかチンピラ4人が……あー、なるほど。これがあるから客が居ないのか。厨房で片付けをしていたエミリアさんが慌てて出てきた。


「す、すみません、今はお客様がいらっしゃいますので、どうか奥に……」


 すると、チンピラ3人は何がおかしいのか笑い始めた。


「ギャハハハハハ!おい!客がいるぜ!こんな紙が貼ってある店に良く入れたもんだ!


「お願いします……どうか奥に……」


「ヒヒヒヒ、まあ仕方ねえ、いくぞ。」


 エミリアさんとチンピラ4人は奥の部屋に入って行った。



 うーん、そういう事ね。借金の方だったか。時間構わず客がいようと構わず借金を取り立てにくるみたいだ、そりゃ客は寄り付かなくなるよな。



 なーんだ、それだけだったか。それだけの理由ならいいや、この宿屋に暫く泊まる事にしよう。前の世界で借金取りには見慣れてるし。てゆーかもっと酷かったし。



 お客がいない理由に納得しながら食事を続けると、食べ終わる頃にエミリアさんとチンピラ4人が出てきた。



「いいか、用意が出来なきゃわかってんな?」


「は、はい……」


「恨むならバカな旦那を恨むんだな。」


 そう言ってチンピラ4人は出て行った。




「ケイマ様、お見苦しいものをお見せしてしまって申し訳ありません。」


「いや、別に大丈夫です。それよりご馳走さまでした。美味しかったです。」


「え?」


「夜は18時でしたね。それまで部屋にいますので。」


「は、はい、わかりました。」



 さて、部屋に戻って休むか。



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