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第8話 まったり?する日曜日


 日曜朝。カナは翔と寝ていたが、先に目が覚める。


 (先に目が覚めちゃったなぁ…でも、翔…あったかかった…)


お互い抱き合っていた温もりがまだ残っている。


 (翔、起きないけど…キスしちゃおうかな…)


ちょうど、翔は仰向けに寝ている。カナは上に乗っかる。


 「ん…カナ…?何してるんだ…?」


不意に目を覚ました翔が問いかける。


 (…最悪…どーしよ…もうこうなったら…)


 「えいっ…」


 ちゅっ…


カナが翔にキスした。


 「んっ…」


流石の翔も反応しきれなかった。


 「えへへ…キスしちゃった…」


 「カナ…お前…ほんとに大丈夫か…?」


やはり発情したままなのか…


 「翔…」


 「なんだ…?」


 「好き…」


 「あ…ああ」


 「…私と付き合って…?」


カナが告白した。猫耳と尻尾が激しく揺れる。


 「カナ…俺は…付き合えない…」


 「ど…どうして…?」


 「カナは可愛いし…魅力的だ…俺も好きだ…でも、付き合えない…」


 「一緒に出かけたり…寝たりしたのに…?」


 「付き合うって事は…お互い愛してるって事だ」


 「う…うん…」


 「俺はカナを大好きとは言えても…愛してるとは言えない。今までの付き合いは続けられるが、愛してはやれないんだ…」


そう答える翔の目はうっすらと涙が浮かんでいた。


 「ごめんね…でも…好きになっちゃったから…私は諦めないよ…」


 「…そうか…もし、カナが俺の答えを変えられるなら、そいつは楽しみだな…」


 「うんっ…だからこれからもそばにいるから…何かあったら、私じゃ頼りないかもしれないけど…頼って…?」


 「ああ…ありがとう…」


 「朝だし…軽く何か作るよ…」


そう言ってキッチンに立つカナ。


 (フラれたとは…思わない。翔には何かあるんだ…だから諦めない。きっとそれを理解できれば…)


このポジティブさこそカナの真骨頂とも言える。


 「できたよーお茶漬け。」


 「おお、旨そうだ。」


さっきのシリアスな空気が一転。


 「あー旨い…いいなぁこの味」


翔は大満足。


 「ありがとねっ」


猫耳と尻尾がピコピコ反応する。自分の味を美味しいと言ってもらえるのは嬉しいものだ。


 「じゃあ俺、部屋戻るから。何かあったら何時でも呼んでくれ」


 「わかったっ」

 (今は一緒に居れなくてもいつか…恋仲になるんだっ)


むしろカナのやる気に点火していた。


 部屋に戻った翔はパソコンに向かう。


 (今日開いてる市場だけで使った分くらいは稼ぐか)


お金を使ったらそれを補填すべく稼ぐ。これが翔のやり方だ。昼過ぎ、カップ麺を食べて、また稼ぎに集中する。


 (大体、取り返したが…もうちょっと稼ぐか)


時間がゆったりと流れる。パソコンの音とテレビの声だけが響く部屋。


 (昨日は楽しかったが、こうやって1人で過ごすのもいい。むしろ俺は今まで、1人だったからこっちが普通。でもカナと過ごす時間も楽しいのは事実。)


多少の物思いにふけりながら、黙々とチャートに目を通しながら、取引を約定させる。


 (FXは俺の生きる手段だし、楽しい。けどカナといる時間は違った楽しさなんだ。アストレアだからか?確かに猫耳と尻尾は可愛い。でも、カナ自身が本当に可愛いんだ…そして俺にキスして告ってきた。嬉しかったな…それでも俺は付き合えない…人生で二度と告白なんてされないと思ってたから焦ったが…)


今朝の出来事はそう簡単に意識の外に置けそうもない。なので、敢えて考えながら取引を続けている。意識の外へ置こうと躍起になって大損するよかよっぽどマシだ。


 (あー…なんかこう…昨日と今朝の記憶が鮮やか過ぎて、ひとりだと空白感半端じゃないな…俺も思い切りだらけてるし…)


取引にも普段ほどの集中力が発揮できていない。というよりしていない。翔は新聞をとって読み始める。


 (なんか…眠いな…)


新聞を持ちながら舟をこぎ始めた。


 「ん…?」


携帯の着信音で目が覚める。


 (ハルカか…)


 『もしもし…?』


 『樟葉君、今から生徒会室へ来てくれる?』


 『…分かった』


ハルカの呼び出しとあれば断るわけにもいかない。制服に着替えて、生徒会室へ向かう。ドアをノックすると、


 「どうぞー」


直ぐに返事が聞こえた。


 「日曜に呼び出しとはな…」


眠く怠そうな声でぼやく。


 「ごめんね…?でも翔と話しがしたくて」


そう言うハルカの声は少し暗い。


 「何かあったのか?ハルカ」


 「皇の本家での用事で疲れちゃって…」


 「まぁ…名家の用事ともなりゃ…仕方ないだろうな」


 「少し…抱きしめて…?」


そういう気分でもないが、ハルカの疲れた表情や、垂れ下がった猫耳と尻尾を見ると放っておけない。


 「わかった」


優しく抱きしめる。改めてハルカの体の細さを実感する。


 「あたたかい…でも、翔も何かあった…?」


少し浮かない顔をしていたのをハルカは見逃さなかった。


 「…なんでもない」


 「そういうの…翔らしくない」


 「ハルカには関係ない…」


 「…いいからお姉さんに話して…?」


優しい声で促す。


 「お姉さんってなんだ…」


 「だって私、18。翔の1つ上だもの」


 「…普通に同学年かと思ってたぞ」


他人と関わりを持たなかった翔は、年齢など別段気にしていなかった。初めて会ったハルカも同い年だろうと高を括っていた。


 「だから、ね…?話してよ」


 「…わかった。昨日、カナとアキバ行ったんだ。それで、カナの部屋に泊めてもらって、今朝、カナに告られた。」


 「え…」


流石に狼狽する。2人が仲良くなっているのは知っていたが、まさかそこまで進展しているとは。


 「まあ…焦ったけどな。」


 「そ…そうよね…で、返事は…?」


 「断ったよ。付き合えないってな」


ある意味安心に似た感情が湧いてくる。


 「そうなんだ…でもどうして…?」


 「俺には付き合えない理由があるからな。だから誰とも付き合うつもりはない」


 「私とでも…?」


少し潤んだ目で問う。


 「例外はない…」


 「そっか…私ね、生徒会長やっててずっと寂しかった。」


 「そうなのか?会長って言う位なら人脈とかありそうだが」


 「確かにね…レイカや他の子とは仲良いんだけど、お互い仕事ばっかりで…」


 「なるほど?友達と言えるような付き合いができていないと」


 「うん…でも翔は、私に今までと違う何かをもたらした…」


 「なんだそりゃ…」


 「上手く言えない…でも、何か変わった気がするの…」


抱きしめるハルカは、皇の娘というイメージとは異なるまさに年相応の女の子らしいハルカだ。


 「俺は、特に何かしたつもりもないんだが」


 「私のこと大切にしてくれてる…」


 「ハルカがそう思うならそうなんだろうな…」


 「ホントはね、カナちゃんが心配だから何とかしてあげたいっていう話をするつもりだったの…」


 「ああ…」


 「でも…翔に会いたくて…話したくて…私酷い女…」


 「カナは結果的に俺が何とかしたんだからいいだろ。ハルカも自分責めてる暇あるなら前見ろ」


 「…翔」


 「この後の展開が見えてるから先に言っておく。俺はカナもハルカも大好きだ。でも告白された所で付き合うことは出来ない。でもカナは諦めないって言いきった。ハルカが俺をどう思ってるかは知らないが、せめてはっきりして道筋を決めろ。迷ってたらジリ貧だぞ」


はっきり言った。ウジウジさせておくのもかえって辛くさせるだけだ。


 「…バカ。大好きに決まってるじゃない…カナちゃんがそこまで言ってて私が引き下がると思う…?」


 「ま、その方がハルカらしいって事だ」


 「意地悪…」


目を逸らす。猫耳と尻尾がユラユラしているハルカは紅潮していた。やはり可愛い。


 「正直、俺も…色々困惑はしてるんだぞ?」


 「というと…?」


 「ついこの前までロクに学校行ってなかったのに、急に猫少女の学園に放り込まれるわ、告白さられるわで…」


 「…アストレアって心に決めたら即刻実行する子多いのよね…」


 「そう言ってるハルカもそうだろ…正直、女子に好かれるなんて二度とないと思ってたし、いきなり編入した学園でまだ日も浅いのにカナとハルカから告られた。…嬉しいけど、複雑なんだ」


 「好きな人が居たの…?」


 「…ああ。深くは聞かないでくれ…」


そう答える翔の表情は、哀愁漂うものだった。


 「分かった…翔もいろいろあるみたいだし…悩みとかあったら相談してね…?」


 「カナにも似た事言われたな…ほんとどっちも頑張り過ぎて優しすぎる猫だ」


そう言う翔は微笑む。


 「だってカナちゃんに負けたくない。年上として」


 「ああ…これが女の意地ってやつなのか…いよいよ俺どうなるんだ…」


 「それと翔…明日の校外学習のしおりとかできたわ」


お互い言いたい事を言った後は、事務的な話に移る。仕事は仕事だ。


 「ありがとな。こっちも行く先との調整は済んでるし、後は行くだけってところだ」


 「でも、どこ行くの…?2年生全員で行くって言うからには…それに、教育意義がある場所でないとダメだし…」


 「問題ない。それに、一生のうちで絶対行く必要がある場所だ。」


 「…それなら良いんだけど、なんで翔はそんなところとコネクションが?」


 「俺をニートと一緒にするな…確かに人間関係は面倒だから知人は少ない。だがな…」


 「でも…?」

 

 「俺の知人は、即ち恩人なんだ。どんな対価でも例え切れない、大切な恩人だ。平たく言えば薄っぺらく多数と付き合うんじゃなく、深く少数と付き合うって感じか」


 「なるほど…」


 「にしても…この学園来てからまだそんなに経ってないのに、なんかだいぶ時間経った気がするな…」


 「…これからよ?」


 「ま、そうなんだけど…」


 「アストレアの未来の為にも翔は必要な存在…」


 「…言いたい事は分かるんだけど、俺はそういう正義のヒーロー的キャラは性に合わないんだよな」


 「じゃあさ…この学園で、翔もどうなりたいか探してみたらどう?」


 「そうだな…そうするか…」


 「この学園を通して、翔にもアストレアにも良い事が起きる事を願うわ…♪」


 「ハルカらしい…な……って…な…んか…ハ…ルカがふたり…?」


そう言うと翔は倒れた。


 「ちょっと…翔!?大丈夫!?しっかりしてっ…!」


体を揺らすが全く反応がない。猫耳を当てると心音は聴こえる。


 「翔…?」


よく見ると、寝息を立てていた。余程の疲れが祟ったようだ。


 (普段のFXに加えて、学園での事にも疲れてるんだ…)


翔をなんとかソファに運び、ハルカも座る。


 (私の膝枕…気持ちいいと良いんだけど…)


翔は爆睡している。そのうち、ハルカも眠りに落ちて行った。2人は静かな生徒会室で、緩やかな時を眠りながら過ごした。



 日が落ちて、暗くなった頃、


 「…あれ…俺寝てたのか…」


翔が目を覚ます。


 「…すごく寝心地よかったが…」


見上げると寝息を立てるハルカ。


 「…ん…」


ハルカも目が覚めたようだ。


 「ハルカ…?」


 「翔が寝ちゃったから心配してたんだけど…私も寝ちゃった…」


 「膝枕…気持ちよかった。ありがとな?」

 

 「それならよかった…またいつでもしてあげる…にゃ」


このタイミングでの猫声は反則である。


 「かわいいな…」


 「あ…ありがとう」


 「なあハルカ」


 「なあに…?」


 「俺はこの学園でやりたいことを探す。」


 「うん…♪」


 「その第一歩が明日の校外学習だな」


 「必ず成功させようね」


 「ああ。」


 「それとさ…」


 「ん…?」


 「カナちゃんとお出かけしたなら…私ともしてくれるよね…?」


 「なぜそうなる…」


 「だって…恋人じゃないなら私とカナちゃんの立場はイーブンでしょ?」


 「分かった…また時間出来たら一緒にどっか行こう。」


 「やったぁ♪」


こうして話していると、生徒会長 皇ハルカの素顔は年相応の女の子であることがよく分かる。その中に少し子供っぽい所がある。


 (やっぱハルカは、放っておけないな…)


心の中で苦笑する翔。


 「じゃあ俺は部屋戻る。」


 「うん、じゃあ…明日ね」


 「ああ」


そう言って生徒会室を後にする。


 「樟葉翔さん。」


翔を呼び止めたのは、皇家執事の美鶴だ。


 「なんだよ、三条さん」


 「明日の校外学習、一体どこへ行くつもりですか?」


 「学園に関係ない人間に情報漏らす程、俺は莫迦じゃない。」


 「そうですか」


 「俺はあんたが好きでも嫌いでもない。正直、興味などない。だが、邪魔してくるなら覚悟しとけ。」


 「随分と自信があるようですね?」


 「金持ちの家でぬくぬく育ってるような人間に舐められたくないだけだ」


 「私は執事。そんな大層な出自ではありませんよ?」


 「とぼけんな。三条家の人間が執事だなんて、裏があるとしか思えねーよ。俺をニート高校生だって思ってんなら、痛い目見るぜ?」


 「なるほど。気をつけておきましょう」


 「ふん、じゃあな」


そう言って翔は立ち去った。


 (樟葉翔、これは少々厄介ですね…)


美鶴はスマホを取り出してメールを打つ。



 部屋に戻った翔は、パソコンを叩きながら、スマホである人物に電話する。


 『ああ、俺だけど。妙な動きがあるかもしれないから、警戒だけは頼む。連れていく生徒に皇の人間いるから情報漏れないようにだけ気を付けてくれ。バレたら面倒だ』


 (やれやれ、俺にあんま手を取らすなよな。つーか俺の事舐め過ぎだろ)


その後も、パソコンであれこれ調べる。布団に入ったのは、夜明け少し前だった。

 

 (いよいよ、だな…)


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