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第7話 楽しい土曜日


 土曜朝、カナは早起きして支度している。


 (翔と出かけるのに、いい加減なカッコできない!)


女としての気合が入る。朝食とシャワーを済ませると、下着を選ぶ。


 (やっぱり…気合い入れなきゃね…)


そう思い選んだのは黒。


 (服は色々考えたけど…スカートにカットソーかな…)


服を着て姿見でチェック。


 (よしっ…それじゃいこっと!)


気合い充分で部屋を後にする。寮の玄関先には既に翔が待っていた。カジュアルなコーディネートで着こなしている翔を見て、


 (カッコいいな…)


少し頬を赤らめる。


 「おはよっ…♪ 翔っ」


 「おはよう、カナ。服似合ってるな、可愛いぞ」


翔としては、思った感想を素直に述べたまでだ。


 「ふにゃ…!?あ…ありがとっ…」


いきなり言われると嬉しいし恥ずかしい。猫耳と尻尾も反応してしまう。


 「じゃあ行くか。」


そう言って歩き出す。


 「う…うんっ…」


直ぐついていく。


 「あぁ、手でも繋ぐか?」


またしてもイキナリである。


 「え…えっと…繋ぎたい、にゃ…」


猫語が抑えられない。


 「わかった。ほれ。」


そう言って手を差し出す。


 「えへへっ」


笑顔で手を握る。翔も微笑みを見せた。駅で電車に乗り込む。


 「ねぇ…翔?」


上目遣い視線。


 「なんだ?カナ」


少し意識する翔。


 「どこ向かうの?」


 「アキバだけど?」


 「やっぱり、翔も男の子なんだねっ」


 「何か勘違いしているようだが、まあいい。着いたら分かる」


そんな会話をしている二人に贈られる視線は絶対零度と言ってもいい。そこそこのルックスの男子が可愛らしいアストレアを連れているのだ。無理もない。しばらくして、電車は秋葉原に到着する。


 「手、離すなよ?」


 「う…うんっ」


手を引いて電車を降りる。


 「さて、ここが俺の来たい場所だ。」


そう言って駅を出ると、目の前に広がるのはアニメ系の店ではなく電気屋。


 「え…?てっきりアニメ系の店行くかと思った…」


 「まぁ俺はオタクが嫌いな訳じゃないからな。ただ、俺が金を使うのはそっちじゃない。」


 「漫画とかラノベは読まない?」


 「電子版で済ませてるな。」


 「な…なるほど…」


 「さ、こっちだ。」


手を引いて電気街へ繰り出す。


 「なんか、アキバのイメージと違うなぁ…」


 「そう言うけど、アキバはもともと電気屋の聖地だぞ?」


 「そうなんだ…!?」


電気街を歩く二人連れはとにかく目立つ。傍目に見ればカップルな上に、カナの猫耳と尻尾が引き立たせている。


 「で、目的の店はここ」


 「何の店…?」


 「俺が取引で使うパソコンのパーツを揃えた店だよ」


 「パーツ…部品…?」


 「そうそう。」


二人は店に入る。CPU、マザーボード、メモリ、HDD、SSD、ドライブ、電源、グラフィックボードなど。パソコンに必要なパーツは何でも揃う。


 「もしかして…パソコンを自分で作ったとか…?」


 「そうだぞ?自作マシンの方が自分に合う性能のを手に入れられる。」


 「そうなんだ…」


 「いらっしゃいませ!って樟葉君じゃないか!!今日は何が要るんだい!」


慣れた風に店員が話しかけてくる。


 「いやーメインマシンのさらに拡張と予備パーツ確保したくてさー…」


 「ふむふむ。でもこのレベルまで強化するならいっそラックサーバでも良いんじゃないかい?」


 「さすがに寮の部屋にそれは無理だ…電源も今が限界だしなー…」


 「なるほど。で、パーツリストあるかい?」


 「もちろんだ。これ全部頼むよ」


 「了解っ!少々お待ちをー」


店員が奥に下がる。


 「なんか凄く慣れた風なんだね…」


一連のやりとりを見ていたカナが話しかける。


 「まぁなーここで必要なものは全部買ってるし、現金で。」


すると店員が戻ってくる。


 「お待たせっ。全部あったよ。すぐ会計しちゃう?」


 「いや、他にも見るからキープしといて」


 「了解っ。で、何を探すんだい?」


 「んーもう一台、組もうかと思ってな」


 「マジで!?あの怪物があるのに必要なのかい!?」


その店員の言葉が気になった。


 「えっと…私、パソコン詳しくないんですけど…怪物っていうのは…?」


 「あぁあれはね。樟葉君がうちで揃えた、現状一般人が買える最高性能のパーツだけで組み上げたマシンだよ。FXで使ってるやつだ。」


 「あぁ!あのパソコン…」


 「ほぅ…君は樟葉君のパソコンを見たことがあるんだね?もしや彼女とかかい?その猫耳も彼のストライクゾーン入ってるしねぇ!」


 「ち…違います!ってストライクゾーンってどういう意味ですかっ」


 「彼は、猫耳が大好きなんだよっ!」


 「な…なるほど…ちなみに翔はお得意様ですか…?」


 「何を言うんだい!お得意様中のお得意様だよ!彼の為ならどんな商品でも仕入れてみせるし、どんな要望でも聞く!100人客が来るよか、彼に来てもらうほうが儲かるくらいだよ!」

 

翔が知らないところで築いていた人間関係。それは決して悪いものではなく、ちゃんとした信頼関係だ。嫌われているわけじゃない。それを知ることができて安心する。


 「おーいカナ、ちょっと来い」

 

棚の向こうから翔が呼ぶ。


 「なぁにー?」


 「普段はパソコン、何に使ってる?」


 「えーと…専門科目で使う以外は…」


 「どこで買った?」


 「家電量販店で店の人が言ったやつ…」


 「なるほどな…やっぱり」


 「どういうこと…?」


 「家電量販店は客の都合でパソコンを売るんじゃない。店が売りたいモデルを買わせるんだ。」


 「うんうん」


 「だからカナの都合なんて無視したパソコンを買わされたんだよ。だから使いにくいし馴染まない。パソコンってのは使う人に合わせたカスタムが必須なんだ。」


 「な…なるほど…」


 「そこで、俺はカナに最適な一台を組み立ててプレゼントする事にした。」


突然の宣言に驚く。


 「ええええ!?」


 「嫌か?」


 「そんな事ないけど…でも高いだろうし…」


 「使いにくいパソコンで苦労してるカナをほっとけるかよ。俺が金出してパソコンをプレゼントすれば解決できるんだ。金で解決できるんだぞ?なら出すしかない。金で何でもどうにかなるわけじゃない分、出来る事はしたいんだよ。大切な人には特に。」


その言葉が嬉し過ぎて顔が紅潮する。


 「あ…ありがとにゃ…」


外なのに猫語を抑えられなかった。


 「で、パーツは俺が選んだから、後はカナに決めてほしい事がある」


 「な…なに?」


 「キーボードとマウスだ。ここに実機が並んでるから選んでくれ。」


 「翔がおすすめするのでいいよ?」


 「俺はカナの骨格まで知ってるわけじゃない。女性とアストレアは違うからな。実際に手に馴染むかどうか、見てほしいんだ」


 (そういう気配りが…うれしいんだって…)


カナは幾つか試して、選んだ。


 「なるほど。ゲーミングキーボードとマウスか。人間工学デザインはアストレアにも通用するんだな」


 「えっと…翔…いいの…?」


 「いいに決まってるだろ?それ以上言ったら猫耳に息吹きかけるぞ?」


ニヤッと笑いながら答える翔。


 「んじゃ、これ全部とキープ分まとめて会計で。あ、勉強してくれるとマジでうれしいな」


さり気なく値切り交渉もする。


 「もちろん!いつも現金でまとめ買いしてくれて助かるんだよ。今日も精一杯勉強しとくぜ!」


 「いやーマジ助かるわー」


 「お会計、リスト分が20万、こっちのパーツ分が60万の計80万ですっ」


 「マジ!?100切ったとか、もうこれ感謝しかねーぞ…」


そう言いながら万札を数えて渡す。


 「また来てくれよっ!」


 「もちろんだ!」


固い握手を交わして店を出る。


 「ほんっとに…ありがとう…」


 「いいって。それよか昼にしようか。腹減ったし」


 「そう言えばそうだね…」


 「リクエストがあれば何でもいいぜ?」


 「いや…これ以上お金使わせるの申し訳ないし…」


 「カナは金との付き合い方が分かってないようだな…いいだろう、教えてやる。だから、正直に…素直に今食いたいものを言え。」


少し怖い表情で言われると本音しか出せない。


 「…えっと…や…焼肉が食べたい…」


小声で本音を言ってしまった。


 (言っちゃった…どーしよ…女が焼肉とか笑われる…)


 「いいだろう。いい店あるから行こう。」


 「…笑ったり嫌ったりしないんだ…」


半泣きで尋ねる。


 「カナが食いたいなら俺は何だって構わない。むしろ尊重する。ていうかアストレアって猫なんだから肉食って当然だろ?消費カロリーも多いんだからもっと食っても太ったりしねーよ。カナもちゃんと肉食え。今日は腹いっぱい満足するまで帰らないからな。俺も腹減って仕方ないんだ」


 「あ…ありがとう…」


予想外でまたもや嬉しい事を言ってくれた。


 しばらく歩いて、


 「ここならいいだろう」


 「う…うんっ」


二人は焼肉屋に入る。席に着き、注文を済ませる。すぐに肉が出てくる。焼きながら翔が話を始める。


 「カナは俺に今日金を使わせた事に申し訳ないと思ったのか、額が大きいと思ったから申し訳ないと思ったのか。どっちだ?あ、これ焼けてるぞ」


肉をつつきながら聞く。


 「その二択なら額…。翔の大切な生活費だし…んっ…おいしいっ」


 「俺は、ちょっとやそっとで明日の飯に困るほど貯金カラでもない。大体、金を貯めるのは好きだが、使うのも好きなんだぞ。俺は。あ、次焼いてくんね?ちょっとライス食いたい。」


 「はいはいっ。でもさ、普段縁がないような高額だと…ほら…」


やはりカナは申し訳なさがぬぐえない。


 「金を使うって事は、何かを手に入れるって事だ。商品やサービスなどの。」


 「それ位は分かるよ…?あ、焼けた。」


 「あ、ありがと。金を使うかどうかの判断で大事なのは手に入れるモノの自分にとっての価値なんだよ。つか足りねー…追加オーダーするか」


 「自分にとっての価値…?あ、翔焼きお願い。」


 「任せな。そう、価値だ。それがどれくらいのものかで決まる。今回は、カナにパソコンを買ったが、それで得られるのは、カナの笑顔だ。」


 「え…笑顔…?あ、もうちょっと肉ほしい…」


 「おーけー、オーダーする。そそ、笑顔だ。パソコンが扱えるようになればきっとカナは喜ぶし、俺も嬉しい。それに使いやすいマシンなら上達も早いから時間の無駄も減る。カナの笑顔と貴重な時間を60万で買うと考えればやっすいもんだ」


 「翔…」


 「カナ言ってただろ?今しかない時間があるって、笑顔で一緒に過ごしたいって。本当は時間は金じゃ買えない。だが、カナを困らせるパソコンを変えて解決できるなら俺はいくらでも出す。」


 「ありがと…」


 「カナにパソコンを教える約束しただろ?その時に使いにくいパソコンで四苦八苦してつまらない思いするなら、俺がカスタムしたカナ専用機でやったほうが楽しいだろ?苦労する時間を減らした上に、勉強する時間を楽しくできるんだ。60万でそこまでできる。本当なら買えないものを買えるんだ。だから俺はちっとも高いなんて思わない。」


その言葉に感動して…惚れてしまった。


 「ありがとうね…それと…ごちそうさまっ…けふっ」


嬉しい気持ちでいっぱい。お腹もいっぱい。幸せだ。


 「気にするな。俺も腹いっぱいだ。んじゃ会計して出るかー」


2人は店を出る。


 「これからどうする?」


 「そーだな。パソコンのパーツは精密機器だから、あんまり持ち歩いてもいられない。寮に帰ろうか。ついでに組立もやってしまおう。パソコンの組み立てなんて、見るの初めてだろうしな」


 「わかったっ」


2人は幸せな雰囲気で学園に帰っていく。



 寮に着いて翔が話しかける。


 「とりあえず、荷物だけ先にカナの部屋に置いておくぞ。俺は着替えてくるから。」


 「う…うんっ」


カナの部屋の玄関に荷物を置いてすぐに部屋へ戻る。


 (やっぱ私服だるい…ジャージに限る。)


着替えて戻り、カナの部屋のインターホンを押す。


 「あいてるよー」


 「邪魔するぞ」


部屋に上がる。すると…


 「…カナ!?」


下着姿のカナがいる。


 「翔…私かわいい…?」


黒い下着姿にさすがの翔もたじろぐ。


 「かわいい…すごく…だがな、服着ろって!」


 「シャワーしてくる…ね?」


 「あ…ああ」


 (なんだカナのやつ…)


少し不審だったが、あまり気にせず、さっき置いた荷物を広げる。必要な準備をしてカナを待つ。しばらくして、カナがシャワーからあがってきた。ゆったりとしたハウスウェアに身を包んでいる。


 「お待たせっ」


 「ああ。じゃあ始めるか」


 「はーいっ」


それから小一時間、翔はパソコンを組み立てながら丁寧に説明する。


 「よし、これで完成だ。」


 「ありがとうーっ…うれしいよぅ」


 「これで色々できる。カナの事を最優先にしたマシンだからな」


その後も夜まで二人でパソコンを囲んで色々な勉強をした。


 「飲み込み早いな。さすがだ」


 「ありがとっ。翔の説明、専門科目の講師よかよっぽど分かりやすいよ!」


 「そうか?それはうれしいな。ていうかそろそろ夜だが、腹は平気か?」


 「軽く済ませちゃえば大丈夫かな?」


 「さすがに俺も疲れてるし、ここは3分でできるアイツに頼ろう。待ってな。」


そう言うなり、部屋を出ていった。3分少々してまた戻ってくる。


 「ほれ、カップ麺。」


 「あ、ありがとっ」


 「今日は楽しかったか?」


 「うんっ…とっても」


カップ麺をすする2人は笑顔だ。


 「さてと…パソコンは完成したし、腹も満たした。寝るか…」


 「そう言えばさ…今更だけど…取引は大丈夫だったの…?」


 「いや、土日は東京市場休みだから俺の稼ぎ柱がないんだ。だから気にするな。」


 「そ…そうなんだ…」


その言葉で安心し、カナの中で何かのタガが外れる。


 「ねぇ…翔…」


 「なんだ…?」


 「いっしょにねて…?」


 「カナ…大丈夫か…?自分が言ってる事認識してるのか…?」


とは確認してみるものの、カナの目は蕩けている。


 (ヤバイな…)


 「翔といっしょにねたい…ダメ…?」


蕩けた目で上目遣いなどされては断ろうにも断れない。第一、可愛すぎる。

 「わ…わかったよ…」


 「ありがと…にゃ…」


 「悪いが…ちょっと疲れてるから先に布団入らせてくれ…」


実際疲れていた。


 「いいよ…私の布団使っていいから…」


 「悪い…」


そう言って布団に入る。女子の香りがする布団は初めてだが気にならない位に疲れている。


 「翔…入るね…」


カナが布団に入ってくる。そして抱き着いてきた。


 「カナ…あったかいな…」


 「こっちむいてにゃ…」


言われるままにカナの方を向くと…カナは赤の下着姿だった。


 「服着て寝ろって…冷えるだろ…」


持ちこたえろ理性。それが翔の脳内を駆け巡る文字列だ。


 「じゃあ抱き合うにゃ…」


 「仕方ないな…」


優しく抱きしめる。


 (今まで猫耳や尻尾に気を取られていたが…カナのやつ、胸も結構あるじゃないか…)


胸が翔にあたる。柔らかく暖かい。


 「きもちいいにゃ…」


カナの猫声は可愛い。可愛いのだが…


 (さっきから思っていたが猫声丸出し…まさか…)


 「にゃぁ…」


頭や体や胸を擦りつけてくる。


 (発情期じゃね…カナ…マジで…)


若干冷や汗が出たが、そのまま抱きしめて眠りについた。カナの体は暖かく、翔もいつになく熟睡できた。



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