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第5話 生徒会長の忙しい一日


 シャ・ノワール学園生徒会。それは学園自治機関兼運営機関だ。学園内で発生する案件全てが、生徒会の管轄下に置かれる。分かりやすい例としては、教師の採用や給料まで全て生徒会が決める。その為、生徒会メンバーとは頭脳明晰であるか、ある分野における才能が突出しているなどの優秀な者でなければならない。当然ながら全生徒から敬意を払われる。そしてその長ともなれば、最早天に仰ぎ見るべき存在とまで言われる事もある。


 「お嬢様、起床の時間でございます。」


皇ハルカの朝は早い。執事の三条美鶴がハルカを起こす。


 「…んー…ありがとう…」


猫耳も眠気につられてへたっている。


 「今日の最初の連絡は…?」


 「はい。専務のレイカ様が早急にお会いして話し合いをされたいそうです。」


ハルカの予定や行動を決めるためにも執事は必須。情報を整理し、完璧なサポートで職務をこなせるようにしていく。


 「そう…お昼休みに時間空けるから、伝えておいてくれる?」


 「かしこまりました。」


美鶴が下がると、着替えを始める。ハルカほどの者ともなると通常はメイドをつけるのだが、敢えてそうしない。


 (ひとりになれる時間、作れるときに作らないと…息が詰まっちゃう…)


学園制服は有名デザイナーに依頼した、フォーマルで上品、かつ女の子らしさを体現するデザイン。ハルカは下手な私服よりも気に入っている。制服に身を通すと、朝食や身支度を済ませ、美鶴の運転する車に乗り込む。基本的には皇の邸宅から通学だが、必要があれば生徒会室へ泊まる事もある。

 

 「お嬢様、レイカ様から了承のお返事が届きました。」


 「ありがとう。そういえば…」


 「いかがされましたか?」


 「副会長、任命しないと私の身が持たないのよ…」


車中では美鶴と必要な連絡や情報交換。目下の悩みは副会長の不在だ。


 「私もお嬢様の右腕に相応しい方をお探ししているのですが…なかなか…」


 「…あまり贅沢を言えないのは分かっているの…でも、これ以上条件を妥協してしまうと仕事量についていけないだろうから」


事実、生徒会のメンバーは定数が5しかなく、副会長不在の為、現在4人で全ての職務を遂行している。5人全員居ても職務をこなすのは相当厳しいものを4人でなんとか回せているのはハルカの完璧超人っぷりとそれを支える美鶴の貢献が大きい。


 「心中はお察し致します…私も可能なお手伝いは全て承りますが、やはり学外の人間ですので…」


美鶴の言う事は正しい。運営機関でもある生徒会の職務情報を外部の人間に漏らすのはコンプライアンス違反になりかねない。しかし、あまりの激務でハルカの体が限界を超える事が多々あった為、生徒会役員全員が美鶴の関与を認めている。


 「ほんと…参ったわね…それと今日は車を校舎につけて頂戴。」


 「かしこまりました。」


学園に到着し、車を止める。すぐにドアを開け、ハルカの降車をサポート。


 「皆さん、おはようございます」


ハルカにはファンがあまりにも多い為、時折このようにファンサービスをしている。まるでVIPなのだが、皇家の娘なのだから紛れもなくVIPだ。皆に手を振りながら、校舎へ入り、教室を目指す。ハルカを見送った美鶴は車を出して、生徒会室のあるビルへ向かう。先に向かっておき仕事の準備をしておくのだ。


 「ハルカ様…お美しい…」


 「やはり…一般人とは格が違うわ…」


教室でもハルカは常に注目の的だ。純白のスーパーロングヘアに深紅の瞳という事もあり、容姿も雰囲気も一般人とは次元が異なる。それ故に、虜になる女生徒はとても多い。授業中でも視線は皆ハルカに向くのだが…


 「皆さん?授業中に見るべきは私ではなく、先生ですよ♪」


と、ミステリアスな声で注意するので皆がすぐ従う。これには教師陣も大助かりしている。授業がスムーズに進行し、お昼休みになると再び忙しくなる。


 (急いで生徒会室へ向かわないと…)


急いで移動する。


 「待たせたわね、レイカ」


生徒会室には既にレイカが待っていた。


 「気にしないで、ハルカ」


 「ありがとう、それで要件は…?」


 「えーと…その…」


 「三条さん、外して頂戴。」


美鶴は当然、生徒会室に待機していたのだがレイカには気になっていた模様だ。ハルカがきっぱりと言い放つ。


 「失礼致しました。それでは後程」


美鶴が退室する。


 「ごめんね…?」


 「いいのいいの。それで?」


 「1組での話なんだけど…カナがどうもイジメられてる兆候があるのよね…」


 「そう…樟葉君が来てからよね…?」


 「うん…クラス委員長兼寮長だから、どうしても接触する機会多いでしょ…?」


 「それで彼と仲良くなった事で、かえって軋轢が生じた。そんな感じよね…」


 ハルカの表情が曇る。嫌な予感が的中してしまった。


 「私もカナも事情聞いちゃったから…あまり樟葉君に注意できなくて…ね」


 「ちょうどいいわ、私にも聞かせて?知っておかないと判断を誤るし、まだ聞いていないから」


 「ん…分かったわ」


レイカは翔が何故FXトレーダーになったのか、などを中心に事のあらましを話した。


 「私も何も言えなくなるわね…最初に会った時は趣味って言っていたから深く考えなかったのだけれど…」


ハルカでさえ、翔の事情を知れば注意しづらい。


 「でもカナがイジメられているのなら放ってもおけないでしょう…?」


 「当然よ…まずは実態解明を急ぎたいわね。」


 「それはクラスメイトの私がやるわ。」


 「後は、樟葉君とも話さなきゃいけないし…」


 「肝心の彼は連絡取りづらいわよ…」


翔の行動を考えると、放送や告示、教師などを使っても全て無視されそうなのは目に見えている。


 「携帯の連絡先聞いておけばよかったわ…」


ハルカにしては迂闊だった。最初に会った時に聞いておくべきだった。最近の激務で判断が鈍ったのかもしれない。


 「それはカナに聞けば分かるわよ?」


 「じゃあ聞いておいてくれる?」


 「了解ね。悪質なイジメが発見できた場合は風紀委員への協力要請するけどいいわよね?」


 「当然。生徒会長として許可します。」


 「じゃあ、また何か進展があれば報告するわ」


 「お願いね」


2人の会談は終わったが、時計を見ると既に昼休み終了が近い。仕事が押して、昼を逃すなど日常茶飯事なので弁当などは持ってこない。


 「結局、今日も1本で満足できる栄養食になったわね…」


独り言を呟きながら齧る。名家の娘の昼食とは正反対だ。猫耳も尻尾も垂れ下がる。食べ終わると、


 「三条さん、書類の整理だけお願い。」


 「かしこまりました。」


外で待機していた美鶴に仕事を頼み、すぐに教室へ戻る。


 午後の授業が終わり、専門科目に移る。皇家は国政に影響を持っており、父親も国会議員である為、必然的にハルカが履修するのは政治だ。ただし、一般の高校で学ぶ政治とは別物である。政治に必要な法律は勿論、役所の組織構成や政府官僚や閣僚への道などを徹底的に学ぶ。現役の政治家を講師に招くことも多い。


 (急いで生徒会ビルにトンボガエリ…)


ハルカは生徒会長の仕事も多い為、専門科目の講義は生徒会ビルで受けている。既に1日の疲れで倒れそうな状態だがそうも言ってられない。講義中でも急を要する案件が来る日もある。


 専門科目が終わり、生徒会長室へ。ようやく一息できるが窓の外は夜だ。椅子に腰かけて全身の力を抜く。疲労で痛む部分も多い。それでも今日はマシな方だった。そしてこの時間に飲む紅茶が楽しみの1つでもある。


 (やっぱり、紅茶は落ち着くわ…緑茶より好きね)


ティータイムを楽しむハルカは非常に絵になる。ひと時の安らぎを満喫していると、ドアをノックする音が聞こえる。現実は非情だ。


 「どうぞ」


疲れた素振りは見せず、落ち着き払った声で返事する。


 「会長…」


 「あら…ルリちゃん、監査で何かあった?」


 「この書類を見てほしい…」


ルリと呼ばれた生徒が見せた書類は教師の経費会計についてのもの。


 「これは…先月分ね?教師の方は授業を行う上で必要な物の購入を経費で落とせる訳だけど…問題があった?」


 「この教師の請求額が平均と比べて2倍も高いから、不審に思って調べた…」

 

 「それでそれで?」


 「学園に来る宅配便を調べた所、その教師充ての荷物の中身がこれ…」


一枚の写真を見せる。写っているのは、アニメのグッズなど。明らかに私的流用である。


 「あらら…これは流石に看過できないわね」


 「監査警告書は私が出すから、会長は処分の決定をお願い…」


 「分かったわ。」


直ぐに書類の作成に取り掛かる。電子化したいのだが、取り掛かる暇がなく結局紙が増える。学園予算の内、紙代がバカになっていないのだ。


 「じゃあこれ、監査警告書ね?私のサインと判押したから、後はルリちゃんが出してね。」


この程度の案件処理は役員の裁量でもできるが、ハルカは全ての書類を確認している。


 「ありがと…会長。」


受け取った書類に自分もサインし判を押す。


 『生徒会監査 更科ルリ』


翡翠色のセミロングヘアが綺麗なルリのサインは達筆だ。出来上がった書類を持ってルリは生徒会長室を出て行った。


 「あの子、私の前と同じように振る舞えたら、友達増えるはずなのにね…」


独り言を呟きながら、手元の書類に目を落とす。先ほどの教師をどう処分するかを決めるものだ。


 (私より年上の人なのに私のほうが立場は上、か…ヒエラルキーって怖いわね…)


そんな事を考えながら、『減給30% 期間3か月』と記した。その他の必要事項を記入してペンを置くと、パソコンのメールボックスに新着が1通来ているのに気づく。送信元はレイカだ。


 (仕事速いわね…樟葉君の連絡先も書かれてる。善は急げって事かな…)


直ぐに電話を掛ける。


 『もしもし?』


 『知らない番号だから誰かと思ったら…生徒会長か…?』


翔が電話に出た。これだけでもハルカの中では期待が膨らむ。


 『ごめんね?レイカから聞いたの。今、お話しできるかしら…?』


 『電話だときつい。俺の部屋まで来てくれないか?』


 『分かったわ』


電話を切って直ぐに寮棟へ向かった。


  (よく考えたら…私、男の人の部屋なんて初めてかしらね…?)


少しドキドキしながらインターホンを鳴らす。


 「わざわざ悪いな、足運ばせて。」


翔が出てきた。制服姿とは印象が異なる。目つきもかなり真剣に見える。


 「結構、ラフな服装なのね?」


 「まあな。その方が疲れにくい。とりあえず上がってくれ」


部屋に通された。翔はそのままパソコンに向かった。10台もあるディスプレイにハルカは息を飲んだ。


 「本当にすごいわね…」


パソコン以外には最小限のものしか置かれてない。


 「これで飯食ってるわけだしな?命と等価だな。悪いが、今も取引してるから話はながらで聞かせてもらうぞ?」


 「ええ…分かってるわ…」


 「で、何の用だ?桜木から連絡先聞いたって言ってたけど、そこら辺と関係あるのか?」


マウスから手を、画面から目を離さずに話す翔。


 「実はね…カナちゃんがイジメられているみたいなの」


それを聞いて、翔は一瞬動きが止まる。


 「会長。3分だけ待ってくれ!」


翔がらしからぬ大声をあげる。


 「え…?いいけど…」


翔は猛烈な速度でマウスとキーボードを操作していく。修羅と化したかのようだ。ハルカも動揺を隠せない。


 「よし…これでいいだろう…」


3分後、翔は予想外の行動に出た。なんとパソコンの電源を切った。


 「樟葉君…一体どうしたの…?」


 「取引を中止した。さっきの3分で動かしてた金全部、安全な通貨に替えて損しないようにしたんだ。」


 「ど…どうして…?」


 「カナがイジメられてるんだろ?どう考えても俺の責任だからな。」


 「でもFXは貴方の生命線のはず…」


 「あいつ、俺に言ったんだ。金なんかいつでも稼げるけど、一緒に過ごす楽しい時間は今しかないってな。イジメられてんなら、一緒に過ごす楽しい時間が無くなるだろ?金で買えるなら稼げばいいだけが、そうはいかないからな」


 (そんな事が…やっぱり、樟葉君は…決して悪い人じゃない…)


ハルカは翔のその言葉が嬉しかった。問題解決に近づける。


 「なるほど…早速、本題なんだけど…レイカが調べてくれた情報によると、まだ初期段階なの。」


持ってきたタブレットに資料を映して見せる。


 「なるほど…物を隠したり、無視したり、か。ただし、桜木と行動していると同じ人物でも態度が変わると…カナは反撃などは行っていない、と」

 

 「レイカは生徒会役員だから、下手なことをすると返り討ちじゃすまないのよ。」


 「権力…か」


 「そういう事。生徒会役員に与えられる権限は大きいから…風紀委員会に協力要請して、問題生徒を拘束する事もできるの。」


 「おっかないな…」


 「とりあえず…まだ初期段階だし、早く手を打ちたいわ…カナちゃんもイジメられている事には自覚しているし…」


 「クラスで纏め役になる委員長かつ寮でも寮長だから、俺と仲良いのをいいことに、レジスタンスって感じだな。胸糞悪い。」


 「カナちゃんはあまり厳しいこと言わないし…明るく中心にいる優しい子なのに…なんで…」


 「会長、イジメる奴らってのは首謀者以外は大抵が面白そうとか暇つぶしとかノリでっていうクズみたいな理由で便乗する奴ばっかだ。だから、情けなんか要らない」


 「じゃあ首謀者は…?」


 「明確な意図を持ってる。特定を急ぐべきだが、こちらの動きを察知されるとまずい。」


 「生徒会の権限と風紀委員会を動員すれば…」


 「…権力で何でもかんでも捻じ伏せるのは良策じゃないな。確かに犯人は見つかるだろうけど、その後の生徒会運営に響くぞ。リコールなんてされたらどうする?」


リコール。それは生徒会役員以外すべての生徒と職員の8割以上の署名を提出する事で生徒会解散が可能な制度だ。


 「でも…リコールなんて…」


 「ネットや掲示板、SNSが発達してるんだぞ?デマ流して情報操作すれば一気に傾く。会長は容姿端麗だし人気もあるが、それと同じだけ嫉妬や恨みを買ってるんだよ」


容赦も情けもない言葉だ。でもそれが現実なのだ。


 「私が生徒会長を降りれば、カナちゃんを救えるかしら…」


 「アホか…会長らしくないぞ。冷静になれ。生徒1人の為に、学園の長が辞任とか洒落にならないからな。会長は大局的に物事を見なきゃいけない立場なんだ」


ハルカはこの学園を大切に思っているからこそ、生徒の悲しみを払いたいと考えている。しかし今はその想いが冷静さを失わせていた。


 「じゃあ…どうすれば…」


 「1つずつ話す。会長は人気だがその分嫌われていると言った。でもよく考えてみろ。それは当たり前なんだ。どんな人間も好き嫌いはある。100%好かれる人間は居ない。」


 「そう…かもね…」


 「会長は生徒を大切に思っている。これは生徒の長として重要な資質なんだ。大切なものを守る為なら人間は本気になれるからな。仮に嫌われていても、臆することなく行動できる。」


 「うん…」


 「そして長として大事なのは、堂々としている事。あらゆる問題に敏感になり過ぎてはいけない。落ち着いて対処を講じる事が重要だ。」


 「でも…今回の場合は…」


 「こういう時は、部下を使うという手があるだろ?何でもかんでも背負い込んだら、会長が潰れる。部下に背負わせることも重要だ。」


あまりにも的確に、しかも自信たっぷりに語る翔はハルカに


 (樟葉君、かっこいい…)


というシンプルな感想を抱かせた。そして冷静さを取り戻す。


 「なるべく早く解決したいわ。今なら騒ぎも小さく済むし、解決後も先生方に指導をお願いする程度で済ませられる。」


 「やっといつもの会長に戻ったな。まあ、俺も中学の時は散々イジメられたから、経験則でこうなる事は予想していた。だから予め手は打っておいたんだ。」


 「どういうこと?」


翔は普段使わないスマホを取り出す。ある人物に電話する為だ。


 『もしもし?』

 

 『あー例の件どうなった?』


 『ありがとな、恩に着るぜ』


何やら確認したようだ。


 「これで俺の準備はほぼできた。会長にも協力して欲しい。」


 「私にできる事なら…」


翔が何かを考えているようだが、ハルカには見当もつかない。


 「会長じゃないと無理だ。権限的にも。それに、会長ならこの手の計画実行は朝飯前だと確信している。」


やけにハルカを買っている。


 「なんでそんな確信を持てるの?私が皇の者だから?」


若干の不信感から聞き返す。


 「違う。家柄なんてどうでもいい。会長は職務に真面目だ。どんな仕事にも手を抜かない。」


 「じゃあどうして?」


 「学校のホームページから生徒用ページへログインできるだろ?そこに色々な告示が出ているけど、1人教師を減給にしてたよな?あの程度なら、担当に任せても誰も怒らない。なのにちゃんと会長のサインが入っていた。そんな真面目で可愛い会長を信じれないはずないだろ?」


あまりにも予想外にド直球だった。確かに告示する書類はオンライン公開するが、そこまで見る生徒がいるのも、それを見てこんな率直に評価してくるのも、さらに可愛いとさり気なく嬉しい言葉を織り交ぜてくるのも予想外だった。ハルカの心が大きく揺さぶられる。ハルカは紅潮してしまう。


 「あ…ありがとう…でもなんでそんな告示見ていたの…?」


本当に聞きたい事と別の事を聞いてしまう。


 「ここの学生である以上は、知る権利がある情報は全て仕入れる。まあ、FXやってると癖で収集しちゃうんだよな。職業病ってやつ」


 「なるほど…ね…それと…私、かわいい…?」


モジモジしながら尋ねる。これが本当に聞きたかった事だ。猫耳も尻尾も忙しなくピコピコする。


 「最初に会った時も聞いてきたよな。言ってるだろ?可愛いって」


 「そうじゃなくて…女の子として…聞いてるの…」


普段の人前じゃ絶対に見せないハルカの年相応の女の子らしい素顔。翔も少し意識してしまう。


 「ああ…魅力的だよ…会長は。」


さすがの翔も少し目を逸らす。


 「ねえ…」


ハルカが頬を赤くしながら見つめる。

 「なんだ…?会長…?」


(さすがに…可愛すぎるだろ…これは)


翔も恥ずかしいものは恥ずかしい。


 「2人の時は翔って呼んでいい…?」


上目遣いで、瞳は仄かに蕩けている。


 「まぁ…構わないが…?」


 「ありがとう…翔」


最早、妖艶さをも醸し出している。翔は持ち前の冷静さで持ちこたえているが、ギリギリである。


 「で…会長、これが頼みたい内容なんだが…」


引き出しからファイルを取り出して差し出す。


 「会長…?」


ハルカが横を向いて受け取ってくれない。これをやって貰わないと計画が破綻する。


 「受け取ってあげなーい…」


お子様みたいな口調。

 

 「いや、会長さっき言ってただろ!?できる事なら、って!」


流石に慌てる翔。


 「翔…?」


 「会長…?いやマジで受け取ってくれないと困るんだが…」


 「今2人きり…」


それだけ言うと、またそっぽを向く。


 (なるほど…)


ようやく翔も合点がいったが、


 (妙に恥ずかしいが…仕方ないな)


 「ハ…ハルカ…?受け取ってくれ…?」


 「うん…分かった…」

ようやくファイルを受け取ったハルカは中身を見る。


 「え…」


それは、今までの雰囲気を吹き飛ばす程のとんでもない内容だった。


 「翔…これ本気でやるの…?」


 「もちろん。ハルカの協力があれば後は俺がやる」


お互い冷静さを取り戻したが、前よりずっと近しい。


 「分かった…明日からこの案件を最優先するわね…」


 「助かる。俺も調整する事はあるから、明日は公欠くれないか?」


 「許可するわ…ふわぁ…」


そう言ったきり、ハルカは寝てしまった。


 (よほど疲れてたんだな…顔色も良くなかったし寝かせてやるか…)


翔はそのままハルカを布団に運ぶ。


 (にしても…会長、いやハルカってホント猫だな…いや猫なんだが…)


布団をかけてやろうとすると、


 「…しょう…にゃ…」


寝言を言いながら、翔に抱き着いてきた。そのまま布団に引きずり込まれる。


 (ちょっとこの展開はヤバイだろ!?ハルカと同じ布団で寝るとか…俺明日死ぬんじゃないのか…!?にしても…髪は綺麗だし、いい香りがするんだが……)


翔はハルカ体重の軽さで不安になっていたが、体に少し触れた事で確信に変わった。


 (ちゃんと飯食ってないんだな…執事が居て飯食えてないって…どんだけハードスケジュールなんだ…ブラックどころじゃないぞ…全く…頑張り過ぎだろ…)


頭を撫でると猫耳が少し反応する。


 (俺も大変だったけど、ハルカも大変なんだな…)


翔はそのまま、布団をしっかりとかぶり、ハルカを抱きしめた。暖かい布団は2人を優しく包む。



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