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第11話 風紀委員会VS樟葉翔


 マキとの一件が解決してから、クラス生活自体が楽しい。そう思えるようになった翔は新聞を読みながら教室で過ごしていた。


 「翔?」


 「なんだカナ?」


 「えーとさ…新聞に引きこもらないで、皆と話してみたら…?」


 「面倒。無駄。」


一刀両断である。


 「そうは言うけど、せっかく翔がここまでクラスを良くしたんだよ…?それにさ…」


 「それになんだ?」


 「皆も翔と話してみたいって言うし…」


翔はそうそう他人と話さない。そのせいか、カナはクラス中からどうすれば翔と話せるのかという相談をよく受けていた。自力で億まで稼げ、ルックスはそこそこ、おまけに普段は喋らない所がクール。これが最近のクラスや学園における翔への評判である。


 「別に俺は必要としてないからな。」


 「身も蓋もない…じゃあなんで私とは話してくれるのさ?」


 「そりゃカナは可愛いからだ。可愛いは正義。プライスレス。」


相変わらず持論を展開する翔。


 「それさ…クラスのほかの子は可愛くないって言ってるよね…?」


 「それが何か?猫耳と尻尾は全員にあるわけだから平等なんだ。だからそれ以外で評価している。」


 「翔らしいなぁ…ほんとに…」


カナは苦笑する。


 「ま、でも楽しいよ。こういう雰囲気は。」


 「それが聞けるだけでも今は進歩と言うべきかなっ」


あくまで前向きに捉える。


 その日の昼休み、校内放送が鳴る。


 『風紀委員長の有栖シオリです。2年1組の樟葉翔君、至急風紀委員会室へ来て下さい。』


まさかの呼び出しだった。


 「翔…今度は何したの…?」


カナが半分呆れ顔で問いかける。


 「今度とか言うけど、俺は最初から何もしてないぞ?」


 「いやいや…でも風紀委員会の呼び出しじゃ行かないとマズイよ」


学園における風紀や治安の維持は風紀委員会の仕事だ。下手に目をつけられると何をされるか分からない。


 「面倒。それに俺は忙しい。」


 「いやいや!?ダメだってば!」


カナも黙って見過ごすわけにはいかない。クラス中の皆も騒がしくなる。


 「ったく…カナも他の奴らもうるさいから言っておいてやる。風紀委員会なんてたかが学園内の組織だ。所詮は警察ごっこだ。ちょっと他の奴らよか権限あるからって浮かれてる奴らに俺を止める事なんかできないからな。分かったらもう少し静かにしてくれ。」


クラスが一瞬で沈黙する。


 「よし。んじゃ午後の取引に集中するか」


そう言いながらスマホに目を落とす。クラスの皆は内心では翔をカッコイイと思っていた。


 (あの風紀委員会を警察ごっこって言い切っちゃったよ…)


 (怖いもの知らずなのかな…)


 (樟葉君の事だし、もしかしたら風紀委員会を黙らせられるのかも!?)


 (超カッコイイじゃん!)


要するに風紀委員会は生徒から物凄く嫌われている。仕方ないと言えば仕方ない。その日、翔は結局呼び出しに応じず自室へ帰った。


 (また面倒な事になりそうだな…)


スマホを取り出す。


 『あ、もしもし天満さん?』


 『やあ樟葉君。どうしたんだい?』


 『例の件、実行するよ。』


 『いよいよ必要になったんだね?』


 『ああ。風紀委員会に目をつけられたしな』


 『それ位なら言いくるめられる気もするけど』


 『向こうはルールだからって言ってくるに決まってる。だったらこっちも正々堂々と日本国法を味方にしてやろうと思ってさ』


 『なるほどね。分かった。こちらとしても進めてくれる方がメリットがあるからね。手続きはこっちでも進めるけど、書類提出とかは頼むよ』


 『分かってる。』


宮日と打ち合わせを済ませると、取引をしつつ重要書類作成に取り掛かる。


 (集中しなきゃいけないな…久々にアレ使うか)


引き出しから猫耳ヘッドホンを取り出す。


 (そう言えば、これのお陰で俺はここにいるんだな…)


少し感慨深いものがあった。猫耳ヘッドホンを装着して作業に集中する。結局、徹夜になってしまった。


 (ねみー…こりゃ狂凶撃破飲むしかないな…)


激烈な味のするエナジードリンクで目を覚ます。朝支度を済ませて部屋を出るといつものごとくカナが待っていた。


 「おはよう…ってまた徹夜したんだ…」


 「まぁな…超速でやらなきゃならん事があったんだ」


 「大変ね…ってそれ何!?」


カナは翔の首に掛けられたものに気づいた。


 「あー…置いてくるの忘れてたな…これはな、猫耳ヘッドホンだ」


 「猫耳ヘッドホンって…ネットでなんか話題になってたやつでしょ?!」


 「そうそう。このヘッドホン買ったおかげでこの学園に来る事になったんだ」


 「そ…そうなんだ?!」


2人はいつも通り、教室へ入る。相変わらず賑やかだが、翔はヘッドホンをしながら朝の情報確認と取引に向かっていた。しかしこれがまたクラス中の注目を集める。猫耳ヘッドホンのおかげで翔に猫耳があるように見えるのだ。


 (樟葉君の頭、猫耳ついてる!)


 (あれヘッドホンらしいけど…なんか似合ってるよね!)


 (男性でも猫耳ってイケるじゃん!)


朝から翔の猫耳騒動でクラスの話題は持ちきりとなった。


 その日の放課後、翔の携帯が鳴る。


 (なんだ…?ってハルカか…)


 『もしもし?』


 『あ、翔?ちょっと生徒会室来てくれる?』


 『わかった…直ぐ行く』


ハルカの呼び出しには直ぐ応じる。生徒会室へ入るとハルカが待ちわびていた。


 「あ、来てくれて良かったぁ…ってその首に掛けてるの何…?」


安堵しながらも翔の首に掛かっているモノを見逃さなかった。


 「そのリアクション、カナに続き二度目だな…これは猫耳ヘッドホンだよ」


 「それ確かインターネットで話題になってたわよね!」


 「そのリアクションも二度目だな…」


 「なんか翔冷たいよぉ…でも翔が来るきっかけになったものじゃないの♪」


 「まぁな…」


 「ちょっとつけてみてよっ」


 「別にいいけど…」


そう言って翔はヘッドホンを装着する。


 「っ…可愛さとカッコよさが両立してる…!?萌えながら惚れちゃう…!」


ハルカが顔を赤くしながら身悶えしそうな状態になっていた。猫耳と尻尾もフニャフニャになっている。


 「いやまぁ…俺の猫耳ヘッドホンは置いといて…何の用事なんだ?」


話題を本筋に戻す。


 「そうだったそうだった…風紀委員会に呼び出されてるのは気づいてた…?」


 「気づいていたけど無視した。」


堂々と答える。何の迷う余地もないという感じが滲み出ていた。


 「えーと…なんで…?」


 「面倒だし、俺は忙しいし、たかが警察ごっこに付き合うのもバカらしい」


またもや堂々と答える。澱みはない。


 「あのね…?翔…流石に委員長の呼び出しを無視されると困っちゃうのよね…」


 「別にどうでもいいだろ…たかが風紀委員会なんて」


 「学園の治安維持組織だからさ…平和の為にもね…?」


 「ていうか呼び出される理由に覚えがないんだが」


 「それは本人に聞いてみて。入っていいわよ」


ハルカが呼び掛けると、一人の生徒が入ってきた。赤紫色のベリーショートヘアに猫耳と尻尾。華奢で見た目は可愛い。


 「風紀委員長の有栖シオリです。樟葉君、呼び出しを無視するとはいい度胸ね?」


 「度胸もクソもねーよ。いちいち子供の遊びに付き合うほど暇じゃない」


 「言ってくれるわね…大体私は子供でもないから。貴方と同学年よ」


 「そうかよ。で?なんで呼び出したんだ?」


 「貴方は編入して以来、重大な校則違反をしているからよ!」


 「FXの事なら、俺は校則に外れた行為とは認識していないが」


 「…正直そっちも問題よ。でも校則上、授業中に電子機器を触ってはいけないと書いていないから取り締まっていないだけ。当然、校則改正を提案するつもりよ。でも今回はそっちじゃないわ。貴方は専門科目を受講していない。これは明確な校則違反よ!!」


勝ち誇ったような口調で話すシオリ。


「なるほど…学園生徒は通常授業の他に専門科目を受講しなければならない。か」


 「その通り。貴方は編入だけど特例なんてないわよ!編入生徒がいる場合でも専門科目は必須とするって書いてるんだから!」


 「確かにそうだな。だが、止むを得ない事情がある場合は免除するとも書いているが?」


 「貴方に免除相当の事情なんてないでしょう!」


 「全く…これだから困る。お前、同学年ならこの前の校外学習で俺の話聞いてるだろ。それでも言うのか?」


 「言うわよ!貴方の事情なんて聞いてないの。ここは学園。生徒である以上は校則に従ってもらう!」


 「なるほど。風紀委員長は校則にそわないなら生徒がどうなろうと関係ないという訳だな。」


 「文句があるなら退学すればいいわ」


 「上等だ。確か、免除の条件は風紀委員長が生徒会長へ申請するだったな」


 「それが何よ。貴方がFXで生計立てているのは知ってるけどそれを止むを得ない事情とは認めないわ!」


 「有栖シオリだったな。金を稼いだ事もないようなガキには直々に世の厳しさと残酷さを教えてやる。ていうわけでハルカ。明日公欠くれ。」


 「あらどうして?」


 「風紀委員長に指摘された事項の改善の為、じゃ不服か?」


 「…分かったわ。認めます」


 「ちょっと会長!?」


 「シオリちゃん?生徒会長の決定に逆らう気?」


ハルカの目は普段より冷たい。


 「いえ…そんな事は…では私は職務に戻ります」


そう言ってシオリは退室した。


 「翔…なんて言ったらいいのかな…ごめんなさい…」


 「いやそこ謝る事じゃない。有栖シオリ、か。中々骨のある奴じゃないか」


 「え…?」


 「自分の職務に忠実だからな。それに己が守らなければならない規則を絶対順守する姿勢。あれは警察や軍みたいな組織にピッタリの素質だと思うぜ」


 「あの子は飛び級でね…まだ16なんだけど、すごくしっかりしてると思うの。」


 「なるほど…頭脳派か。まぁあそこまで遵法精神見せられちゃ、俺も同じ土俵で勝負するしかないな」


 「でも校則違反なのは事実なのよ…?それを伝えなかった私も悪いんだけど…」


 「ハルカは気にしなくていいぞ?編入初日にもらった書類に専門科目についてのものがあったけど即行でシュレッダーにぶち込んだから」


 「まさか…こうなる事分かってたの?」


 「勿論。だから対策も考えてある。だから公欠を頼んだんだ」


 「ホント…翔って何でもお見通しなのね…」


 「短期的ビジョンと中長期的ビジョンはトレーダーなら必須だしな。何も考えずに学生生活するほど俺は莫迦でもないぞ?」


 「なんていうか…曲がった真面目さんね♪」


 「俺は俺のやり方してるだけだよ…任せときなって。あんな奴には負けないからな」


 「う…うん。でもシオリちゃん、いい子なのよ?」


 「いい子であっても金の力を知らないようだな」


 「…えーと、あまりお金で買収とかそういう方面には行ってほしくない…」


 「いや俺そこまで下衆じゃないからな!?金の力ってのは色々あるんだよ」


 「分かった…私はとりあえず、待っておくわ」


 「任せな」


翔は部屋に戻る。


 (風紀委員長をやるだけあって、根性あるなアイツ)


パソコンのキーを叩いて、有栖シオリについて調べていた。


 (おいおい…マジかよ…)


衝撃的な事が判明した。


 (この学園、ただのアストレアの為の学園じゃないかもしれねーな…)


懸念が頭をよぎる。


 (ま、おいおい調べを進めるとして…明日は出かけるし、取引に集中するか)


猫耳ヘッドホンを装着して取引に集中する。


 翌朝、カナから電話が掛かってきた。


 『もしもし?会長に聞いたんだけど今日は公欠だって?』


 『ああ、そうだけど?』


 『用事?』


 『ああ。ちょっと法務局行ってくる。』

 

 『へ…!?』


思わず素っ頓狂な声を上げるカナ。予想外どころじゃない。


 『ま、そういう訳だから。じゃあな』


電話を切ってスーツに着替え、すぐ出発する。


  「樟葉君どこ行くって?」


レイカが気になって尋ねる。


 「いやそれがね…法務局行くって…」


 「CTF銀行といい、法務局といい…ほんと樟葉君って普通の高校生じゃないわよね…」


 (法務局ってまさか…)


内心ではある答えが導けていたが、高校生にしてはあまりにも常識から外れているせいか大企業の娘であるレイカでさえ、感嘆するしかなかった。


 「ホント…樟葉君って何者なんだろうね…」


マキも素直に驚く。


 「まぁ…翔の考える事やる事には無駄がないし心配ないよ」


カナはあくまで翔を信じている。


 「カナはそう言うけど…私からすれば心配なんだよねー」


マキが懸念を示した。


 「どういう事かしら?」


レイカが聞き返す。


 「身体だよ。樟葉君って運動不足だから多分、体力的にはかなりギリギリなはず…」


 「でも部屋に篭ってるし…体力そこまで使うのかなぁ…?」


カナは素直な疑問を口にする。


 「確かに運動はしないけどね?あれだけの思考力といい洞察力といい…脳がとてつもないエネルギーを消費してるはずなの」


マキは自分をカナいじめの犯人だと看破してみせた翔の身体を直感的に危険だと思っていた。それだけの脳内演算を支えるエネルギーをきちんと摂っているようには思えないのだ。


 「まさか…脳が運動と同等のエネルギーを消費していると…?」


レイカが焦って尋ねる。


 「脳は臓器の中で最もエネルギー消費が大きいの…普通の人でも基礎代謝の2割は脳が使うのよ…?加えてあれだけの思考回路を支えるとなると…」


 「それって…翔の身体がすごく危険ってことじゃ…」


カナが慌てる。


 「脳は基本、ブドウ糖を消費するから糖分をちゃんと摂ってるかどうかだけど…樟葉君って多分食生活が壊滅的だと思うの…」


制服をちゃんと着こなしているからか、レイカやカナは見抜けなかったが、保健委員長たるマキには見抜けていた。この歳の男子にしては華奢すぎると。


 「…多分碌に食べてないんじゃないかな…食費をもったいぶってる訳じゃないだろうけど…時間を作ろうとしていないっていうか…」


カナは今にも泣き出しそうだ。


 「やっぱり…樟葉君、ちゃんと食事してないだろうから何とかしないと倒れちゃうよ…せめて自炊できれば良いんだろうけど…男子だしなぁ…」


高校生男子で料理ができる、とはマキは思えなかった。特に翔なら尚更だ。


 「翔、料理自体はすごく上手だよ?」


キョトンとした顔でカナが答える。


 「それどういう事かしらー?」


ニッコリ笑顔で聞き返すレイカ。


 「いや…翔が最初の日登校しなかったから部屋に様子見に行った時にちょっとご馳走になっちゃって…えへへ…」


 「なるほどぉー?私が帰った後ねー?そんな話初耳だけどぉ?」


レイカが笑っていない笑顔でカナに迫る。


 「と…とにかく!翔の料理の腕は間違いないよ!」


 「だったら後はちゃんと食べるように言わないとね…」


マキが考え込む。


 「そうだね…ホント心配…」


 「私、体弱いから樟葉君の事とても心配よ…」


カナもレイカも同じ想いだ。


 「会長にも相談してみない?」


マキが持ちかける。


 「「賛成!」」


 その日の放課後、3人はハルカの元を訪ねた。


 「会長。」


マキが切り出す。


 「翔の猫耳ヘッドホン見た?何て言ったらいいのかな…カッコ可愛いって言うのかな…?」


ハルカには昨日の翔のヘッドホン姿があまりにも鮮烈過ぎたようだ。


 「それには同意しますよ!はい!ってそうじゃなくて!」


思わず乗せられそうになる。


 「あら…ごめんなさい…で、なんだっけ?」


ハルカも我に返る。


 「樟葉君の健康状態についてです。現状の食生活では、体がもたないはずです。倒れてからでは遅いですよ…」


保健委員長の生徒への健康指摘は下手な医者より余程、信憑性が高い。ハルカもマキを信頼しているからこそ、彼女の言葉に重みを感じる。


 「実はね…校外学習の前日、日曜日に翔と会ったんだけど…生徒会室で倒れちゃって…」


そのセリフにレイカとカナは二重に驚く。


 「え…会長なんで…翔と…?」


 「ハルカ…なんで日曜に樟葉君と?」


2人は同時に指摘する。


 「いいじゃない…会いたかったんだし…」


目を逸らすハルカは子供っぽい。普段まず見られない表情にマキは少し驚く。


 (樟葉君って…こんなにも人を変えるんだ…凄いな…)


 「言いたいことは山ほどありますけど…とりあえずは翔の身体が…」


カナは今目を向けるべき問題を見据える。


 「それがね…風紀委員会のシオリちゃんがね…」


ハルカはシオリと翔の確執を話した。


 「まずはそれが解決しないと…どうにもできないわね」


レイカが頭を抱える。


 「翔は何でもかんでも自分だけで解決しようとする…でも、私に何が出来たかな…」


頼ってほしかったが、何もできない自分が悔しいカナ。


 「正直、樟葉君がどう自覚しているかは別にして危険です…」


マキは訴える目つきでハルカに進言した。


 「とりあえず、風紀委員会との問題が解決するまでは待つしかないわ…もし緊急事態になったら私の裁量で収拾するわね」


長はあらゆる問題に敏感になり過ぎてはいけない。落ち着いて対処せよ。翔に言われた事を思い出すハルカ。


 「…心配」


カナの表情は暗然としていた。


 

 その頃、翔は法務局を出てCTF銀行に到着する頃だった。


 「いらっしゃいませ。樟葉様。」


 「ありがとな。天満さんとこへ通してくれ」


 「かしこまりました。どうぞこちらへ」


最上階の会議室へ通される。


 「待っていたよ。樟葉君」


 「時間かかったぞ…どんだけ待たせるやら」


 「いやいや、異例とも言える早さだよ?」


 「流石役所…効率の二文字は無いんだな…公立なのに」


 「あまり上手じゃないね…」


 「うるせー…疲れてんだよ」


 「電話でも疲れ気味な声だったけど、大丈夫かい?」


 「まぁなんとかな。それに休んでたら稼げないしな」


 「身体は資本だよ?」


 「ああ…分かってる…」

 

 (仁科も同じ事言ってたな…)


翔は実際疲れていた。取引自体は持ち前の集中力で稼げていたが、それ以外の日常生活に影響が出るレベルになっていたのだ。


 「まぁ…とりあえず、これで樟葉君の立場は様変わりしたわけだね。銀行側としても嬉しいよ。あ、これが当座預金口座の通帳ね。それと小切手帳。」


 「ああ、ありがとう。」


 「これで必要な準備は済んだけど、他にやることはあるかな?」


 「いや、特にないな」


 「分かった。また何かあったら言ってくれていいから。とりあえず、今は休息が必要だと思うよ」


天満も翔の身体を心配する。部下でさえこんな疲労はしない。


 「ああ…ありがとな。んじゃ俺は帰る…」


翔は学園に帰った。


 (…マジでしんどいな…今日はもう寝るか…)


その日の夜は初めて取引額0円になった。



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