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第1話 アストレア

 

 突然だが、高校生のお小遣いと言えば幾ら位を想像するだろうか?大体、5000~10000円辺りが相場だろう。また、親に小遣いは貰っていなくともアルバイトをしている学生も多い。樟葉翔はどちらかと言えば後者なのだが、少し状況が異なっていた。


 「よっし!今日だけで100万稼げたぞ!」


嬉しそうな声を上げる翔がやっているのはパソコンに張り付いて、チャートを見ながら取引。そう、FXである。両親が他界してから生活費を自力で稼いでいるのだ。当然ながら、学校はほとんど行っていない。

 「明日は学校行かないとマズイな…試験返却だし」


カレンダーを見てぼやきながら、制服を準備しておく。


 (スマホとタブレットも充電しておかなきゃな…)


通学途中や学校でも時間さえあれば取引に使う。レートは常に変動し続けているので、チャンスがいつ来るかは分からない。その後も、家を出るまで一睡もせず取引を続けた。


 (もう7時過ぎか…NY市場クローズしたし、そろそろ行くか。)


翔は目を擦りながら、身支度し家を出る。電車の中ではスマホに夢中になる。当然、ゲームでもSNSでもない。画面に並ぶ数字はレートだ。


 (ちっ…スマホでやるとすべりやがる…)


通信が不安定だと自分が画面で見ているレートと実際のレートに差ができてしまう。そのせいで損することがある。


 (やめとこう…寝るか)


きっぱり諦め、学校最寄り駅まで爆睡を決め込んだ。しばらくして目的駅に到着した。

 

 出席日数の確保という理由だけで来ているので、教室でもやることは取引か睡眠だ。授業中でもこっそりスマホを見ている。それでいて試験となると今回もだが1位をとったりするものだから、教師たちは何も言えない。滅多に来ないくせに成績だけは良いとあって、他生徒からの心象は非常に悪い。しかし、本人は全く気にしていなかった。その日も、孤独に時間が過ぎ終業チャイムが鳴る。

 

 (久々にアキバ行くか)


せっかく外に出たついでと思い、秋葉原に足を延ばす。FXにしか目がない翔でも、ここには面白いと思うものやそそられるものがある。そういう事もあり、時々来ていた。


 (何かあるかな?)


電気屋をメインに見て回る。持っていても役に立つのか分からないシロモノや、合法なのか怪しいものなど見ているだけでも楽しい。今や秋葉原はオタクの聖地とも言われているが、翔はむしろ電気街の方に惹かれていた。FXで役立つものが見つかる事も。適当に店を回っていると…


 (アレはまさか!?)


気になるものを見つけ、ある店に入る。どうやら音響関連を扱っているらしい。


 「すみません!!これって…」


すかさず店員に声を掛ける。


 「いらっしゃいませ!それに目をつけるとは、お客さん分かってますねぇ!」


 「そりゃ勿論…!アメリカのクラウドファンディングで資金を集めてたヤツだ!」


 「そうなんですよ!で、やっと日本上陸です!」


 「幾らですか!?」


ここで値段を確認。普段、簡単に使わないお金を使うのだ。重要な情報である。


 「5万ですけど、サービス!4万5千で!」


こんな風に勉強してくれるのも秋葉原ならではの良き文化と翔は思っている。FX用のパソコンも全てここで揃えた。


 「安い!買います!!」


即、購入。こんなに即決で財布を開くのは珍しい。


 「ありがとうございました!!」


笑顔で挨拶する店員を後に、翔は近所の喫茶店に入る。一番安いコーヒーを頼んで席についた。


 (いやぁ…これが買えるとは…さすがアキバ!)


普段滅多に見せないような笑顔で早速買ったものを拝む。それは…


 『猫耳ヘッドホン』


だ。


 (ただのヘッドホンならどうでもいいが、これはヘッドバンドに三角形のスピーカーがついている!まさに猫耳!!実用性を確保しつつ、かわいい!)


翔は満足げに眺める。


 (ただ、これ女向けに見えるな…しかし、敢えて…)


自分でつけてみた。スタイリッシュなデザインで意外と男性でもイケる。


 (これをデザインした人は素晴らしい仕事をしている!猫好きな俺にドストライクだ!)


改めて満足する翔。その日はヘッドホンをしたまま取引をしたが、存外儲かった。


 

 翌日もまたパソコンに張り付くのだが…


 「あー…ねみー…」


てんで気合が入らない。というのも祝日だからだ。


 (東京市場休みだもんなぁ…)


他の市場は開いているが、翔が得意とする市場が休みとなると士気も下がる。気づけばもうお昼だ。


 (なんか作るか…ふわぁ…)


欠伸しながら、冷蔵庫を覗くと…ものの見事に空だった。最近、稼ぎに集中しすぎて買い出しを忘れていたのだ。


 (買い出しいかなきゃな…)


ちなみに翔は外出が嫌いな訳ではない。単に、取引が忙しく暇がないだけである。といってもぼさぼさの髪に眠そうな目、ジャージという出で立ちはニートにしか見えなくもない。


 (今日は…特売あったような…)


そんな事を考えつつ、近所のスーパーに足を運ぶ。思った通り特売日だ。かなり混んでいる。



 (さて…戦だ…!)


スーパーに入った瞬間、一気に気合いを入れる。相手は手練れのおばちゃん達。お金を稼ぐにも必死だが、安くていいものを手に入れるのも同じく必死になる翔。


 「行くぜ!!!」


叫びながら、売り場へ突入して行く。


30分程して…


 「…5・10日の仲値決定後のマーケットの激しさ以上にヤバイ…さすが、おばちゃん達…マジこえぇ…」


改めておばちゃん達の実力を思い知ったが、必要なものは買えたので帰路につく。帰るアパートに近づくと、そこに黒塗りの高級車が止まっているのが見える。


 (なんだ…あの車)


不審に思いつつも通り過ぎようとすると、ドアが開いた。そして、黒いスーツに身を包んだ屈強そうな男が降りてくる。


 「なんだ、お前ら」


ウザそうな声で話しかける翔。


 「樟葉翔か?」

 

 「ああ、そうだけど」


 「同行願おうか」


どう見ても警察ではない。ヤクザにしては、チンピラっぽさがない。考えられうる可能性を手持ちの情報から推察する。


 「あんた達、公安か?」


それが翔の結論だ。


 「ふっ…いい勘をしているな」


男が少しだけ口元で笑う。


 「仕方ねーな…分かったよ。」


男は肯定も否定もしていない。つまり公安かもしれない。そんなものに目をつけられてしまったら従うしかない。同行することにした。


 一行を乗せた黒塗りの車はそのままどこかへ向かう。翔は何を聞いても無駄だろうと思い、眠りこけていた。


 「起きろ、着いたぞ。」


起こされて目を開けると、窓の外に映る建物に驚いた。


 (なんだ…この豪華な建物。まさか…)


嫌な予感がしたので、


 「ここ…学校なのか?」


思わず尋ねてしまった。

 

 「そうだ」


男はあっさり肯定する。


 「とりあえずついて来い。」


そう言われついて行く。建物の中も外見と違わぬ豪華さ。そのまま中庭へ出る。噴水を備えた立派なものだ。


 (ヨーロッパの宮殿かよ…どんだけ金あるんだ…)


翔は呆れ半分、興味半分といった感じであたりに目をやる。しばらく歩くと、他の建物とは異なる近代的なビルが見えてきた。


 (なんだアレ…?)


すると入口に立っている男が見える。こちらを見ると、丁寧なお辞儀をした。


 「お連れしました。」


黒いスーツの男はそれだけ言うと、下がった。


 「えーと…あんた誰…?」


とりあえず尋ねる翔。


 「ご無礼をお許し下さい。私は、三条美鶴。皇家の執事でございます。」


そう名乗った男は上品な佇まいだ。執事服に白い手袋。まさにバトラー。


 「え…皇…!?」


皇家とは、日本政府に影響力がある名家である。日々、FXのために情報集めする翔ならばその名前の意味する所など考えるまでもない。


 (いや待てマテ…なんでそんな名家の名前が出てくる!?おかしいだろ!)


 「どうぞこちらへ。」


そう言われ、ついて行く。小部屋に通された。


 「こちらにお着替え下さい。」


そう言われ渡されたのは如何にも制服である。紺色を基調にした 上品なブレザー。とりあえず言われた通り着替える。


 「着替えたぞ。」


そう言いながら翔は部屋を出る。


 「ではこちらへ。」


美鶴に案内され、エレベーターで最上階へ向かう。ドアが開いた先には、大き目の重厚な扉がある。

 

 「どうぞ、お入り下さい。お嬢様がお待ちです。」


美鶴が扉を開ける。


 (マテ…今この人、お嬢様って言ったぞ!?皇家のお嬢様とか俺絶対一生縁がないタイプの人だろ!?何だこの、王道アニメ的展開!)


冷静さをギリギリ保てるかどうかというレベルだったが、次の瞬間色々な意味で吹き飛んだ。


 「急に連れて来てしまいごめんなさい。私は、皇ハルカと言います。」


そう名乗った微笑む少女はとても美しく可憐だ。純白の髪は床まで届こうかという程長い。また、深紅の瞳がミステリアスさをも醸し出す。まさに日本屈指の名家に相応しい、お嬢様オブお嬢様。だが問題はそこじゃなかった。というより、それらの特徴がぶっ飛んでしまうようなものが目に飛び込んできたのだ。


 「え…えぇえええええ!?ね…猫耳!?…それに、尻尾!?」


皇ハルカと名乗った少女には、かわいらしい猫耳と尻尾がついていたのだ。


 「あなたは樟葉翔さん、ですね…?」


 「そうだけど…そうだけどちょっと待て…3秒くれ」


 「は…はい?」


翔は冷静さというものについて考える。普段自分が取引する時、どうしていたか?それのみに集中…できなかった。


 「その猫耳と尻尾は…本物なのか…!?」


最大限、落ち着いていないが落ち着いたつもりで問いかける。


 「ええ。本物ですよ?触ってみますか?」


 「良いのかよ…!?じゃあ…失礼…」


ハルカの猫耳に触れる。カチューシャなどとは違う、本物だ。触り心地も素晴らしいの一言。


 (猫耳ってこんな触り心地いいのか…)

 

 「あの…くすぐったいです…」


 「あ…悪い悪い。触り心地が良すぎて…」


つい触り過ぎたが、相手は女子だ。


 「あの…そんなにアストレアが珍しいですか…?」


 (アストレア…それは猫耳と尻尾を持って生まれる女性の事だ。普通の女性との外見的違いはそれだけだが、何故生まれるのかは不明。遺伝するわけでもないらしい。突然変異と考えられている。男性の例はない。)


 「知ってはいるさ…情報としてな。けど実際見るのは初めてだし、こんなに可愛いとは予想の斜め上過ぎた。」


 「か…可愛いですか?」


 「ああ。可愛い。これだけで今夜は勝てる気がする。」


可愛いと素直に言われ少し恥ずかしがるハルカも目の保養になる。


 「…?それにしても、アストレアを見たことがないとは…テレビでも町中でも見かけませんか…?」


 「俺はテレビといっても経済番組かアニメしか見ないし、外出もスーパーかアキバしか基本行かないんでね。」


 「秋葉原なら…猫メイドカフェとか男性には人気ですが…」


 「あぁ俺はいわゆるオタクが行く方じゃなくて、電気屋街にしか行かないから見かけないんだよ。普通の人間が入らないようなマニアックな店とかしか見てないから」


 「えーと…オタクがお嫌いなのですか?」


 「オタクが嫌いなんじゃない。むしろオタクがいるからこそ、この業界の金が回って経済が動く。アニメやBD、フィギュアや各種グッズ。これらに投資するオタクにはむしろ敬意を抱くぞ」


 「では…どうして…?」


 「俺はオタク文化が好きだが、もっと好きな趣味があるんだよ」


 「それは…?」


 「金稼ぎ。」

 

これにはハルカも驚いた。皇家はお金に困るような家ではないし、ハルカも困っていない。しかし、お金を稼ぐこと自体が趣味というのはあまりにも予想外だ。


 「でも…お金を稼ぐならむしろアルバイトなどを…」


ハルカは納得できないでいる。翔はアストレアを見たことがないと言うほどに外に出ていないのならどうやって稼ぐのかが気になる。


 「アルバイトなんか効率悪い。おまけに最近はブラックバイトが増えて問題になってるんだ。頼まれてもやらねーよ」


 「では…どうやって…?」


 「FX。」


 「な…なるほど…」


ハルカも知ってはいたが、FXは儲けにくいとよく耳にする。


 「じゃあ今度はこっちの番。ここはどうやら学校だが、何故俺を連れてきた?」


 「ご説明しますね。ここはシャ・ノワール学園といい、私はここの生徒会長です。今回、樟葉さんに編入して頂くためにお連れしました。」


 「シャ・ノワール学園って…女子高だろ?アストレアの為の学校だし。」


翔もそれくらいは知っていた。FXで稼ぐ上で無駄な情報などないのだ。


 「そうですよ?」


 「なるほど…女子高に男一人放り込んで、お嬢様方に世俗を教えたり、ラブコメ的展開させたりのいわゆる、王道を行けと…そういう事か。」


 「勘違いなさっているようですが…この学園はアストレアならば誰でも入学資格があります。学園設立にあたっては、政府も出資したので学費も格段に安いのです。ですから、お金持ちの令嬢しかいない、などということはありませんよ?」


 「三セクかよ…にしても理解できないな。」


 「アストレアが差別を受けている、といった事を聞いたことがありませんか?」


 「あー…どっかで聞いたかもしれない、程度には」


 「アストレアの見た目は、今では国民的アイドルが誕生する位に受け入れられてはいます。ですが、未だに差別などは残っているのです。そこで、アストレアの未来のために学生の内からアストレアではない方に学園に通って頂こうと思っています。その第一号とお考え下さい。」


 「なるほど…アストレア専用の学園を開放し、若い内から共に過ごさせれば差別も無くせると。言いたい事は分かる。だが俺を選んだ理由は?」


 「さすがに第一号の方をアストレアに対して差別意識を持っている方にするには抵抗がありましたので…男性かつ猫が好きそうな、差別などしないであろう方を探していたら貴方になった、というわけです。」


 「基本外出しない俺のどこを見てそれを判断したんだ…」


 「昨日、秋葉原で猫耳をつけた楽しそうな男性がいると聞いてですね。」

 

 (アレかぁああああ!!!まさか過ぎるだろぉおおお!!!)


 「なるほど…情報力は凄まじいようだな…」


 「猫はお好きですか?」


 「当然だ。かわいいは正義!」


堂々と胸を張る。


 「そのような方に来て頂けて嬉しいです!」


ハルカも嬉しそうに話す。


 「でも女子高に入れるなら、猫好き女子高生の方が良くないか?」


 「そうなのですが…女子はアストレアに嫉妬しやすいと言われていて、実例も多いんです…普通の高校ではイジメられているケースも…かと言って男子を沢山招こうにも施設整備が追い付かないので、思い切って御一人にしたんです。」


 (なるほど…こんなけ可愛いと嫉妬もするか。女ってコワイ)


合点がいく。


 「事情は分かった。でも、いきなり男を入れたらマズくないか?」


 「ご安心下さい。生徒総会において決めた事ですから。」


 「それなら良い。編入する。」


 「ありがとうございます!」


 「可愛いは正義って言っただろ?プライスレスだからな。」


 「嬉しい言葉です…では、編入についてですが…」


ハルカが書類を用意する。


 「通学はどうされますか?ご自宅からでは少々、距離がありますが…」


 「寮があるなら頼みたいな」


 「問題ありません。部屋に関しては何かご要望は?」


 「そうだな…電気面で、100A契約と200Vコンセントをエアコン用以外に増設して欲しい。」


 「わ…分かりました。対応しますね。」


普通の男子が言いそうな事ではなかった為、少し驚く。


 「引っ越しはどうすればいいんだ?」


 「これから自宅へ業者を向かわせて、本日中に行いますが…?」


 「それは構わないが、精密機器に対応できる業者にしてくれ。絶対に!」


翔のあまりの真剣な言葉にたじろぐハルカ。


 「は…はいっ…」


 「良かった…」


翔は一安心する。


 (FX用のPCが壊れでもしたら死活問題だぞ…)


 「学費の方は、今回は特別な事情での編入ですので学園で負担いたしますね。」


 「それは助かるよ。ありがとう。」


 「あとはご両親に連絡なのですが…」


 「それは要らない。親は他界してるからな」


 「あっ…すみません…」


 「気にしなくていいぞ」


 「ありがとうございます…」


その後も、書類を書いたり、説明を受けたりと事務的な事を済ませた。その日の夕方には引っ越しも終了した。


 「お部屋に案内しますね。」


ハルカが翔を連れて行ったのは寮棟だ。とても綺麗でシックなデザインはさながらホテルのよう。


 「鍵はこれです。後の説明は寮長にお願いしてあるので、私は戻りますね。」


 「分かった。ありがとうな、生徒会長。」


ハルカが帰るのを見送って、翔は寮の玄関に入る。


 (三ツ星ホテルかよ…)


 「あなたが、編入する樟葉君?」


豪華さに呆けていると、ピンクのショートヘアに…猫耳と尻尾の女子が話しかけてきた。


 「ああ、そうだけど…君は…?」


 「私は寮長の橘カナ。ん…?どうしたの?」


翔の顔が今一つ硬い。


 「いや…この学校の女子は全員アストレアだっていう現実に慣れ切ってないだけだ…」


 「そんな、かしこまらなくてもいいよっ。私、クラスも樟葉君と同じだしさっ」


 「そうか?まぁ…慣れるようにする」


 「ついでにクラス委員長もやってるから、困ったことあったら言ってね?」


 「わかった。助かるよ」


 「でも、ホントにアストレアに抵抗とかないのね。嬉しい限りだわっ」


カナは本当に嬉しそうだ。感情が素直に表情に出る。


 「可愛いは正義だからな。プライスレスだ」


 「そっかそっか!じゃあ部屋に案内するねっ」


さながらはしゃぐ猫だ。いや猫だが。


 「そういえば、今日は橘しか居ないのか?やけに人気がないが…」


 「今日は祝日だからねー皆遊びに行ってるんだよね」


 「意外とアクティブなんだな。」


 「んーそれもあるけど、積極的に外に出る姿勢を身に付けなきゃって思ってるのもあるかなぁ」


 「良い事じゃないか」


そうこう言っていると、


 「あ、ここが樟葉君の部屋ね。荷物はもう届いてるし、なんか工事も頼んだって聞いたけど…?」


 「ああ。俺にとっては必須の重要な事だ。」


部屋に入ると『精密機器注意』と書かれた箱が積まれている。


 「これ…何…?」


寮長なので生徒の引越しを見るのは慣れているが、精密機器注意などと書かれるような箱は見た事がない。


 「ん?パソコンだよ。」

 

 「パソコンってそんな仰々しく扱うものだっけ…」


 「まぁ、普通はないけど、こいつが200万以上するシロモノだって言ったらどうする?」


 「え…パソコンで…200万!?」


あまりの額に驚愕した。そこまで高いものがあるのか…


 「こいつを動かすために工事してもらったんだ。家庭用コンセントじゃ電圧足りないしな」


そう言いながら翔は慎重にパソコンを設置する。


 「えーっと…じゃあ、寮則や書類はここに置いとくから、また明日ね?」


邪魔になってはいけないと思い、退散する。


 「ありがとうな。」


 「おやすみっ!」


カナが帰った後も翔は作業を続ける。


 日もどっぷり暮れた頃、ようやくパソコンの電源を入れることができた。


 (このパソコンじゃなきゃ、やっぱダメだな!とりあえず寮則や学園規則とやらは目を通すとして…)


 『トレード・スタート!』


NY市場がオープンして翔は画面に集中した。勿論、猫耳ヘッドホン装着済み。


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